第二話「異世界」その5
「マルティナさん、いませんね」
マルティナの家までやってきたアキラとキミコは、マルティナの家の戸をノックしたが返事はない。
中から人の気配もないので、留守のようだ。
「そうみたいね。出かけてるのかな」
アキラたちがこの村にやってきて二日が経った。
服も食料もマルティナから頂いてしまった。
このままこの村のお世話になるわけにもいかないし、住みつくつもりもない。
元の世界に戻る手掛かりはクロを家に帰すことだが、クロの家を探すにも情報が必要だ。
クロの話では人間と、魔族であるクロとでは敵対関係。
土地も離れた場所にあるという。
簡単にわかるものでもない気がするが少しでも情報を得るためには少しでも人の多い街にいく必要がありそうだ。
ただ、街がどこにあるかすらこの三人は知らない。
なのでマルティナにそれを聞きにきたのだった。
それに村を出る前に、さんざんお世話になったマルティナにはお礼の言葉くらいはかけていきたい。
「ここにマルティナがいないとなると、、、」
「村長さんのお手伝いをしているとおっしゃっていましたね」
「確かに。村長に聞けば何かわかるかな。何してるの、クロ? いくよ」
「おう、わかった」
アキラは道の脇に座り込んでいたクロを呼ぶ。
クロは駆け足でアキラのほうへとやってきた。
クロの服も用意できた。
子供用の服があって良かった。
はじめクロは着るのを嫌がっていたが、怒るとしぶしぶ着てくれた。
魔族ってのはキッチリとした衣服を身に着けることがないそうだ。
理由はわからないが魔族なりの感覚があるのだろう。
クロもかなり理論より感覚で動いている節があるので、聞くだけ無駄だとしてあまり聞いていない。
クロがアキラの言うことを素直に聞くのも、本人曰く魔力が完全に戻っていない、敵対している人間の土地にいるということで、もしかしたらクロ自身、今の状況に無意識に不安を抱いていてアキラに頼ろうとしているのかもしれない。
アキラやキミコも人間ではあるのだが、別の世界の住人ということで、クロ的にはここの人間たちとは別で考えているらしい。
アキラも、はじめは可愛い黒猫の世話をしていたつもりが急に出来た姪っ子の面倒を見させられてるという感覚で、面倒ではあるがイヤな気分ではなかった。
「何してたの?」
「なんかちっこい生き物がいた。モンスターでも動物でもなかった」
「虫じゃないの?」
「虫? あんなちっこいのに?」
「虫なんてだいたいあんなもんでしょ?」
「そうなのか。もう少し大きいかと思った。今のワシよりでかいのもいたしな。家のそばには」
「ごめん、クロの家を探すのやめていい?」
「なんでじゃ急に。元の世界に帰りたいんじゃないのか?」
「うん。そうね。そうだよね」
「アキラさんは虫が苦手なんですね」
「キミコは大丈夫なの?」
「大きいのはちょっとイヤかもしれませんが。でもあまりにも大きいと違った印象になるかもしれませんね」
どうやら魔族の住む場所では人並みにデカい虫がいるようだ。
それはモンスターではないのか?
アキラはその話を聞きながらクロの家探しに億劫になっていると、前から誰かがやってきた。
「ベラさん。どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたもないわい。あんたら探したぞ。家におらんからどこにいったのかと」
「落ち着いてください。何があったのですか?」
キミコがイザベラの背中をさすりながら落ち着かせる。
相当慌てていたのかイザベラはかなり息を切らしていた。
「モンスターが出たんじゃよ。村の近くに」
「モンスター?」
「そう。それも見たことない凶暴で獰猛な奴じゃ。ここのところモンスターの活動も落ち着いていたんじゃが、いったいどうして」
「クロ、なんか知ってる?」
イザベラに聞こえないようにアキラは小声でクロに話しかける。
「知らんぞ。ワシがお前たちの世界に行く前も、そこまで激しい侵攻はしとらんかったし、ワシがお前たちの世界に行ってからは、どうなったのかすら知らんからの」
「もしかしたらアレは最近街で噂になっている新手のモンスターやもしれん」
「新手のモンスター?」
「そうじゃ。なんでも魔王軍の侵攻が落ち着いた辺りから現れ始めた凶暴なモンスターがおるらしいんじゃ。かなり固い鎧のようなものを身にまとっておるそうで、剣や弓なんかでは刃が立たんらしくてな。行商人たちにも遭遇したら逃げるようにと伝えているらしい。ものすごい速さで走るらしいが急いで逃げれば追いかけてこんらしい」
「ずいぶん詳しいですね」
「この村を出て街で兵士をやっとる奴がわざわざ村まで知らせに来てくれたのよ」
「なるほど。それで私たちに、あまり出歩かないように注意を?」
「いや違う。実は村にやってこんように村長が追っ払いに行ったんじゃが帰ってこなくての。心配したマルティナが探しにいったのじゃ。しかしそのマルティナも帰ってこない。なのでお前たちに二人を探してきてもらいたいのじゃ」
「いやいやいや。そんな凶暴なモンスターの相手を私たちが出来るわけないでしょ」
「じゃが今、この村に若いもんはお前たちしかおらん。それに倒してこいとは言わん。この村に武器もないしな。村長とマルティナを探してきてほしいだけじゃ。危なくなったら逃げればいい」
「そんなこと言われても、、、二人はどう?」
アキラはキミコとクロの方を見る。
クロはまっすぐな目でアキラを見る。
「ワシがいない間に現れ人間を襲うモンスター。どのような奴か一度見てみたいとは思う」
「それに、お世話になったマルティナさんを助けに行かないのはあまり気持ちのよいものでもありませんし」
クロの言葉にキミコが迷いながらも続ける。
アキラはそれを聞くと大きく息を吐く。
「わかったわよ。目的は村長とマルティナの救出。捜索は明るいうちだけ。そのモンスターと遭遇したらすぐに逃げる。その他少しでも危険を感じたら逃げる。合言葉は『いのちをだいじに』いいわね?」
「おう」
「ええ」
大丈夫かなぁ?
そうは言ったものの、アキラの胸の内は不安でいっぱいだった。




