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第二話「異世界」その4

 マルティナに案内された家はマルティナの家より少しだけ広かった。

 生活感に溢れているその家は、そこに誰かが住んでいたことを物語っているが、ほとんどホコリまみれで長年使われていなかったことがわかる。

 マルティナの話では、夫婦と息子の三人家族が住んでいたそうだが母親は流行り病で亡くなり、息子は家を出て街に行ったっきり何十年も帰ってきていないそうだ。父親も数年前に病気で亡くなったらしい。

 マルティナ自身あまり面識もないそうで、村長も取り壊すかどうするか悩んでいるとのことだった。 なのでしばらく使う分には問題ないとのことだった。

 こんな街はずれで街道からもはずれた田舎の村には宿屋もないとのことなので、こちらに泊まるほかないみたいだ。

 どこのどんな街や村にも宿屋があるというのはゲームの世界だけなのかもしれない。

 食べ物や着るものもマルティナが仕事の合間を見て用意してくれた。

 ただそこまで豊かな村というわけでもないようで、お腹いっぱいになるほどの食べ物は用意してもらえなかった。

 それでもこんな見ず知らずの場所で、タダでご飯が食べれられて寝る場所があるというだけで、幸せなのかもしれない。

 あとはお風呂もあれば最高なのだが贅沢は言っていられない。

 もし元の世界に戻れたらちゃんと毎日お風呂には入ろうとアキラは固くこころに誓った。


「キミちゃん、どうしたの?」


 窓際に立ってスマホをいじるキミコにアキラは声をかける。

 窓と言ってもガラスははまっていない。壁に四角い穴が空いていて木の板を開けて金具で留めてある。

 

「やっぱり電波は入らないですね」

「そうよね。見た感じだとスマホなんてなさそうだし、この世界」

「でも写真は撮れるみたいです。せっかくなので風景だけでも撮っておこうかと」

「なるほど。通信は出来なくてもそれ以外の機能は使えるのね。もし私たちの世界に戻ることが出来れば、何かの役に立つかも」


 そう言いながらアキラも自分のスマホを手に取ると動画を回しはじめる。

 といっても充電もあまりないので、そんなに長い時間は撮れないが。

 写真を撮るキミコの横顔を撮りながら振り返り、パンを頬張るクロにカメラを向ける。


「ところでクロ。私たちは帰れるの?」

「言ったじゃろ? ワシの家に帰れたら、戻れるかもしれないと」

「で、その家ってのはどこにあるの? 遠いの?」

「ここがどこかもわからんのに、わかるわけないじゃろ」

「じゃあなんでここの世界にクロの家があるってわかるのよ」

「魔力じゃよ」

「まりょく?」

「ここでは魔力を感じられる。お前たちの世界では魔力は感じなかった。だからここはワシがもといた場所なのじゃよ」

「魔力っていうのは魔法の力ってことですか?」


 外の写真を撮っていたキミコが話に入ってくる。


「そうじゃ」

「じゃあクロは魔法が使えるの?」

「まぁな。だが今は簡単なものしか使えん。ここは魔力が薄いからな」

「濃いとか薄いとかあるの?」

「魔力はその辺に転がっておる。近づけば吸収して使うことが出来るがここいらはあまりない。人間の土地だからな」

「そんなマイナスイオンみたいな感じなの? 魔力って」

「何を言っているのかわからんが、ワシの住んでいた場所はもっと魔力が多かったから、ここがワシの住んでいた世界であっても遠い別の場所だと感じるのよ」

「ところでアンタさっきから人間って言ってたけど、クロは人間ではないの?」

「ワシらは人間とは違う。いやもしかしたら元は同じであったのかもしれんが。ワシらはワシらをどうとか人間どもをどうとか考えたことはないが、人間どもは自分たちを人間と呼びワシらのことを魔族と呼んでいる。だからワシらもそう呼ぶことにした」

「魔族、、、中二病?」

「さっきからお前は何を言っておるのだ? お前たちの世界の文化はようわからんのじゃが」

「ではクロさんも何か魔法のようなものが使えたりするのでしょうか」

「使えるぞ。というかさっきから使っておるではないか」

「え?」

「この村の者たちと話を出来ているじゃろ? ワシが意思疎通の魔法を使っているからお互いが思ったように話をすれば相手に伝わるようになる」

「アンタそんなことできたの? じゃあ通訳いらないじゃん。海外旅行に行っても困らないじゃん」

「アキラさん。とりあえず私たちの世界に帰らないことには、、、」

「そっか」


 アキラは天を仰ぐ。

 そもそも元の世界に帰ることができたとしてクロがついてくるとは思えない。やっと自分の世界に戻れたと言っていたのだ。きっとここにとどまりたいのだろう。


「クロさん。もう少しこの世界のことを詳しく教えていただけませんか? 私たちもこの世界のことはわからないので、クロさんの家を探す手助けもできませんし」

「ワシもよう知らんがな。ワシらの土地がある。そして人間どもと土地がある。そしてワシら魔族と人間どもは争いをしている。どちらが始めたのか、理由もわからん争いをな」

「ホント、こんなことを言うのもどうかと思うけどファンタジーよね」


 アキラはカメラを回しながら呆れたようにつぶやく。


「ワシらは魔法が使える。しかし人間どもは使えない。まぁ使える者もおるようじゃがそんなには多くはないようじゃ。だがワシらは数が少ない。その結果、争いはいつも決着がつかない」

「モンスターってのがいるんでしょ? あれもクロたちの味方じゃないの?」

「モンスターにも二種類おる。ワシらが兵とすべく生み出したモノ。自然発生的に生まれたもの。自然発生したモノはどちらの味方でもない。まぁ人間の中に、モンスターはすべて魔族の味方と考える者も多いようじゃがな」

「なるほどね。まぁそれは難しい問題よね。私たちの世界にも、アレとコレは違うって言っても一緒くたにして批判する人もいるし」

「それでクロさんは、どうして私たちの世界に来られたのですか?」

「そうよ。しかも黒猫の姿で。それはわかってるの?」

「それがわかれば話は早いのじゃがな。人間どもとの争いは拮抗していたはずで、ワシの家も戦場からかなり離れた場所にあったはずなのじゃが、突然、人間どもの新兵器が攻めてきての。ワシの家を破壊し、ワシもそれに倒されたのじゃ」

「人間の新兵器?」

「我々の作るゴーレムのようでもあったが、ゴーレムとも違う。似ているものとすれば人間どもが使う馬車のようでもあったが馬もおらん。地を這う獣のようではあったが」


 馬車のようで馬車じゃない。地を這う獣、、、何? 戦車? と思ったがここの文明レベルを考えると考えにくい。

 もしかしたらここが田舎すぎるだけで都会に行けばもっと文明が発展しているのかもしれないが。


「それで気が付いたらお前たちの世界にいたのじゃ。しかも謎の、か弱き生き物となってな」

「なんで黒猫だったのかはわからないわよね。じゃあこっちに戻ってこられたのは? 魔法を使ったって言ってたよね? 確か」

「空に浮かぶ金色の不思議な物体を眺めていたら少しづつではあるが魔力が溜まっていったのじゃよ」

「月ですね」

「月というのか、あれは」

「はい、私たちの世界のあの場所と同じような、でもまったく違う別の場所です。ずっと遠くにある別の場所」

「なるほどな。あそこにはワシらの世界以上に魔力があるのかもしれないな。一度行ってみたいものじゃ」

「どっかの社長みたいなこと言うわね」

「だから何を言っとるんじゃさっきから」


 呆れたような表情のアキラに、今度はクロが呆れたように言った。

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