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ドラゴンの庭

青いドラゴン

作者: 笹月美鶴

 この世界はドラゴンの庭ほどしかない。

 はるかな山々、広大な草原、巨大な街。

 そのどれもがドラゴンの庭に散らばったおもちゃたち。

 世界は、ドラゴンの庭なのだ。


 これはここではない、どこかの世界に伝わる、ドラゴンのお伽噺。

 あるところに、真っ青なドラゴンがおりました。

 青いドラゴンはきれいなものが大すき。



 花がすき。

 澄んだ青空がすき。

 キラキラしたものがすき。

 人間がすき。


 人間はキラキラしたものを身につけていて、とてもきれい。

 そのキラキラしたものといっしょに食べると、とってもおいしい。


 だから、人間がいちばんすき。



 青いドラゴンは空が青く澄んだ日に、ふもとの街に出かけます。

 空と同じ色のドラゴンに、人間たちは誰も気づかない。

 青いドラゴンは高い塔のてっぺんにそっと舞い降り、キラキラしたものをさがします。


 市場に飾られた美しい織物。

 ドアに飾られたキラキラ光る鈴。

 キラキラをたくさん身につけた人間。


 今日もたくさんのキラキラをおうちに持ち帰って大満足。


 そのうち街からキラキラしたものがなくなると、青いドラゴンは夜遅く街に行き、静かに眠る街を焼き払う。


 夜の闇に燃え上がる炎。

 キラキラしてとてもきれい。


 しばらく燃える街を眺めてから、青いドラゴンはおうちに帰って眠ります。



 人を喰らい、あちこちの街を滅ぼしていく青いドラゴンに、人間たちも黙っていません。


 今日は一人の勇敢な若者が青いドラゴンの住む洞窟にやってきました。

 若者は地味で質素な服を身につけていただけだったので、青いドラゴンは若者をしっぽで跳ね飛ばしてしまいました。

 あわれ若者は奈落の底に飲まれます。


 今日は十二人の騎士が青いドラゴンの住む洞窟にやってきました。

 鎧がキラキラしていてとてもきれいです。

 青いドラゴンは鎧ごと、おいしそうに彼らを食べました。


 今日は五十人の兵士が青いドラゴンの住む洞窟にやってきました。

 青いドラゴンは一番キラキラした鎧を着た男を捕まえ、あとは鼻息で吹き飛ばしてしまいました。

 男の鎧はとてもキラキラしていたので、きれいな箱に男を入れて、大事にしまっておきました。


 今日は二百人の軍隊が青いドラゴンの住む洞窟にやってきました。

 みんな頑丈そうな黒い鎧を着ています。

 誰もキラキラしていなかったので、青いドラゴンはつまらなそうに彼らを焼き払いました。



 今日は女が一人青いドラゴンの住む洞窟にやってきました。

 女は輝く金の髪をもっていて、体中にキラキラした宝石や金の鎖を身につけています。

 そのあまりの美しさに青いドラゴンはうっとりしてしまいました。

 女はドラゴンを恐れるふうもなく、まっすぐにドラゴンを見つめて言いました。


 青きドラゴンよ、あなたはきれいなものが好きなのですね。


 青いドラゴンはうなずきました。


 わたしは今たくさんのきれいなものを身につけていますが、これよりももっときれいなものがあるところを知っています。その場所を知りたいですか?


 青いドラゴンは力強くうなずきました。


 ここより北西に飛び、海を越えると島が見えてくるでしょう。

 その島にひときわ高い山があります。その山のてっぺんに穴があいています。

 そこをのぞいてごらんなさい。

 あなたが望むものをみつけることができるでしょう。


 青いドラゴンは女の言葉をしっかり聞くと、女を金のカゴに入れて鍵をかけ、大空に舞い上がりました。



 女の言った行き先は、人間ならば何ヶ月もかかるような距離。

 でも大きな翼を持つドラゴンにとっては、ちょっと出かけるくらいの距離。

 青いドラゴンは山を越え、草原を越え、海に出て、しばらく飛ぶと、女の言った通り、島が見えてきました。

 小さな島にひときわ目立つ、高い山。山の頂上に舞い降りると、山を貫くような深い穴があいています。

 首をのばして中をのぞくと、穴の底がオレンジ色にキラキラと輝いていました。


 今まで見たこともない輝き。

 青いドラゴンは身を乗り出して、もっとよく見ようと穴の中に飛び込みました。

 美しいキラキラがだんだん青いドラゴンの目の前にせまってきます。



 なんてきれいなキラキラだろう!



 青いドラゴンは羽ばたくことも忘れ、真っ赤な溶岩の海に飛び込んでいきました。



 ドラゴンが飛び立って洞窟が静かになると、女はじっと辺りの様子をうかがいます。

 しばらく待ってもドラゴンが帰ってこないのを確認すると、ピューッと口笛を吹きました。

 すると、どこからともなく大勢の男があらわれて、女の囚われている洞窟に入ってきます。


 男の一人が女を閉じ込めるカゴの扉の鍵を器用にあけて、女を外に出しました。

 男たちは手際よく青いドラゴンの宝を運び出し、宝物でキラキラと輝いていた洞窟は、あっという間に静かな暗い洞窟に変わります。


 あとに残ったのは、ドラゴンに囚われた哀れな者たちのむくろだけ。

 大勢の男と美しい女の姿はもうどこにもありません。



 その後、青いドラゴンに街が襲われたという話を聞くことは、二度とありませんでした。

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