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 中間テストが終わったころだった。私とオーガストは公爵家の居間で今後のことを話し合っていた。


「なあ。あの平民、本当に姉上の言うような要注意人物なのか? 演技力は皆無だし、エルンスト殿下や俺に話しかけるそぶりもない。王族や高位貴族に接するつもりなんてないように思うんだが。まあ、うちのクラスのブロアーや上級生のブラム先輩には積極的に話しているみたいだけどよ」

「でもね。あの子がヒロインなのは確実なことなのよ。私が悪役令嬢だってのと同じようにね。あの子が演技が全然だめなのも、殿下や私たちにかかわろうとしていないのも確実みたいだけど」


 彼女の様子をそれとなく見ていたけど、彼女が演技できないのは確かなようだった。彼女に注目が集まったときや緊張したときはあんな感じで棒読みになる。教師に当てられた時なんか顕著なのよね。答えはあっていてもあれでは聞いているこちらが不安になってしまう。


 つまり、彼女は嘘をついたりごまかしたりすることはできない。口調があからさまに変になるから、本音じゃないのがバレバレなのだ。この国の上位貴族には演技が必要なときがある。知っていることを知らない振りしたり、逆に知らないことを知っているふりをしたり。でも、少なくとも今の彼女は、そう言った器用な真似をできそうにないのだ。


「姉上の記憶を疑うわけじゃねえけどよ。あの子が姉上になにかしてくるとは思えねえんだよな。授業態度はまじめだし、成績もいい。朝なんてあの子、オレがどんなに早く登校してもいるんだからな。同じ研究室にいるからわかるけど、カタリーナ先生から頼りにされているみたいだし」

「でも!! ・・・うん。まあそうなんだけどね。今のところ、アティが何かしでかす様子はないわけだし。たとえ原作で、彼女がヒロインで私が悪役令嬢だとしても」


 私がこの世界に転生したことを自覚したのは10年も昔のことだった。お父様が母と私にオーガストを紹介した時に気づいたのよね。


 私がかつて日本で暮らしていた女子高生だったってことを。そしてここが、前世でプレイしていた乙女ゲーム『コール・リリィ』の世界と同じかもってことを。


 ゲームでの私はヒロインのアティと衝突する、いわゆる悪役令嬢だったのよね。エルンスト殿下やオーガストのルートだと、アティのライバルとして立ちふさがり、最後には断罪されるという役どころだった。他のルートでも散々で、ハーレムルートなんて目も当てられない結果になるし。


 転生してこれらのことを思い出した私は、当然悪役令嬢になるなんて御免だった。運命を変えるために、とりあえずは母とオーガストの仲を取り持つことから始めたのよね。


「思えばあの頃が私のピークだったかも。他の子より大人な考え方ができたし、学力だって進んでいた。でも今は・・・」

「姉上! ったく! 少しはこっちの話を聞けよなぁ。そういうの、姉上の悪いくせだぜ」


 あきれ顔のオーガストに慌てて向きなおった。


「いやな? 姉上の記憶のことは信じてもいいかなって思ってる。言ったことは全部事実になったし、ゲームというのはよく分かんないけど、まあ予言みたいなものだと思ってるんだ。オレがこの家でうまくやれてるのも、伯母さんがオレのことを甥っ子だと思って扱ってくれているのも、全部姉上がうまく立ち回ってくれたおかげだ。でもな?」

「ヒロインがどんな子か次第で私たちの立ち回りは変わってくる。だから、私たちはあの子がどんな子で何を狙っているのかを知る必要があるのよ。私がうまく行動すれば未来を変えられる。そのことは、あなたのことで分かっているんだから」


 オーガストの言葉を遮るように私は言葉を紡いだ。


 原作では、母はオーガストのことを疑っていたのよね。父からは遠縁の子を養子にすると説明されたけど、本当は父の隠し子なんじゃないかと。それだけオーガストの容姿は父にそっくりだった。前世の私も母に影響されて、オーガストに冷たく接し、その関係は限りなく悪くなってしまったのだ。


 でも、前世でゲームをプレイしていた私は知っていたのよね。オーガストが正真正銘の従弟だってことを。オーガストが父に似ているのはある意味当然だ。だって彼は、父の双子の弟の息子なのだから。


 今は亡きオーガストの父は、父の双子の弟だった。昔は双子が不吉とされ、叔父は生まれてすぐに祖父に平民へと養子にだされてしまった。自分に双子の弟がいると知った父は、叔父を探し出してコンタクトを取り、話し合えるような仲を作ったそうだ。父は叔父に貴族に戻らないかと聞いたこともあるそうだが、叔父は貴族の生活に未練がなかったようで、説得にもなかなか応じなかったという。


「両親が事故で死んじまって、伯父さんが引き取ってくれたおかげでオレは野垂れ死にせずに済んだ。そんで姉上のおかげで伯母さんともうまくやることができた。でもな」

「そうよね。オーガストのときは母を何とか説得することで仲を取り持つことができた。母の調べは正確だからね。私の言葉をヒントに、あっという間にオーガストと叔父の関係を突き止めてくれた。私がちゃんと行動すれば未来を変えられる。だったら」


 オーガストが苛立たし気に頭を掻いたときだった。居間にメイドのドナを連れた母が入ってきた。


「2人とも、それくらいにしたら? ほら。ドナがアップルパイを焼いてくれたのよ。勉強もいいけど、少しは休憩しなさい」

「あ・・・。伯母さん、ありがとうございます」


 オーガストが話を切り上げて母に一礼した。母はそんなオーガストに微笑みかけた。


「オーガスト。聞いたわよ。この前の中間試験、学園で1位だったんですって? さすがよね。私、あなたたちならできると思っていたわ」

「いえ、次はどうなるかはわからないですけどね。2位のケッペル令嬢とはわずかしか差がなかったようですし。3位にはあの平民の特待生も追いついてきているから」


 オーガストが照れ隠しをしながら答えた。


 オーガストって、本当に勉強ができるのよね。その上、いろいろなことに気が付いてくれる。私が母とオーガストの仲を取り持つ過程で違和感に気づき、私を問い詰めてきた。おかげで気が付けば私は前世のことやゲームのことを残らず話す羽目になってしまった。まあ、そのおかげでオーガストは私の相談にいろいろ乗ってくれるようになったのだけど。


 ちなみに、前世の記憶があるというと前の世界では頭のおかしい人だと思われちゃうけど、こっちの世界ではまれにあることらしい。意外だけど、こんな私のことをオーガストも受け入れてくれたんだ。


「オーガストはさすがよね。あの特待生もすごいけどオーガストとフィロメナは頭一つ抜けてる感じがするわ。今はカタリーナ先生に呼ばれて研究室にも通っているんでしょう? 私とは大違いね」

「!! ベアトリクス。ごめんなさい。そんな意味ではなかったのよ」


 母が慌てて言いつくろうが、私はアップルパイを口に入れながら笑顔で首を振った。


「ごめんごめん。そんな意味じゃないのよ。それに、私だって次は負けないし。こう見えても公爵令嬢だから、いつまでも負けるわけにはいかないわ。その地位にふさわしい成績に戻すことだってできるはずだし」 

「あ、ああ。まあそうだよな。姉上の化粧品、やっぱりすげえからな。なんでも、王族にもファンがいるらしいし。まあ、化粧品が合わねえ人のために改善を繰り返すのはやりすぎって気がするけどよ」


 慰めてくれるオーガストと母に、アップルパイを口にほおばりながらたどたどしく笑いかけた。


「えっと。じゃあ私はそろそろ部屋に戻ろうかな。オーガスト。明日は私、ちょっと寄るところがあるから先に戻っててね。あの子のこと、十分に気をつけるのよ! 放課後に勝手に連れまわしたり、ずっと一緒にいようとしたり、愛をささやき続けちゃったりしたらだめだからね!」

「あ、ベアトリクス!」


 母に呼び止められて、ぎこちなくなりながら振り向いた。


「私たちは、あなたがどんなになっても、たとえ間違いを犯したとしても味方なのよ。勉強ができなくても、新しい商品を開発できなくても関係がない。それだけは、忘れないでね」

「・・・。うん。分かっている。じゃあ、私はもう戻るわ」


 そう言って、私は静かにその場を後にしたのだった。

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