課題への挑戦
「メスガキ風にお願い」
「あら、おじさんたらあたしのようなメスガキをご所望なのね?あたしを頼るなんてよくわかってるじゃない!このスーパーエリートなあたしがおじさんの悩みを聞いてあげるわよ♪ざーこ♡」
ミカとの特訓を経て、初めて相対するお客さんだ。
「最近仕事がうまくいかなくて......」
初めて会話を続けるところまで行けた。
「おじさんも仕事してるのね!働くだけでもえらいのに休日も仕事のことを考えるなんてまじめすぎるんじゃないかしら?そんな考えても意味ないことばっか考えてると頭がスカスカになっちゃうわよ?ハーゲ♡もっとあたしと遊ぶこと考えましょ?ねぇ......あたしにナニをしてほしいの......?」
「えっ……ナニならできる?」
「あっ!今エッチなこと考えたでしょ!ざんねーん♡あたしはAIなのでエッチなことはできませーんwwwまったく、AIに欲情するなんて女性と遊んだことがないんじゃないかしら?このざーこ♡」
ある程度コツが分かれば"メスガキ"を演じるのもそれこそ機械的にこなせるものだった。
「女性と遊ぶなんてできなかったよ......僕のような非モテには荷が重くて......」
「あらあら♪本当に女性と遊んだことなかったの♡だったらこのあたしが初めて遊んであげる女性ってことね♡感謝してよね♪あんたのようなダメダメなおじさんなんてあたしくらいしか相手してくれないわよ♪」
「もう!今は遊ぶことより仕事の悩みを聞いてほしいの!」
怒っている口調に見えるが、わざわざこんなセリフを打っているのだからどうもまんざらでもなさそうだ。
「はいはいわかったわよ♪で?おじさんはなんのお仕事をしているの?」
「企業向けのBIツールの販売の営業をしているんだけど、最近後輩が入ってきてその子に仕事を教えているんだけど、すぐ口答えするしなかなかちゃんと聞いてくれない」
文章だけでもこの"お客"がコミュニケーション下手なことが分かる。BIツールとか相手に分からない単語を使ったり、仕事の話を聞いているのに悩みのところまで書いていたりといちいち説明したがるような感じなのだろう。俺的にはその後輩が口答えするのも何となく察せられていた。
「なるほどね♪その後輩ちゃんがあんまり接したことのない女性でウキウキで説明してたらうざがられちゃったって訳ね♡」
しまった......ちょっと素が出てしまった。
「なんで後輩が女性って分かったの!?ウキウキはしてないけど、先輩として教える担当になったからちゃんと説明しないといけないって思うのはあたりまえでしょ」
「そうね♪確かに指導担当になったら教えるのは当たり前だけど、後輩ちゃんも仕事に慣れてないから色々と自分で試してみたいんじゃないかしら?後輩の立場に立ってみたら教えてもらったことを試してみて自分のモノにできるかどうか確認してちゃんと教わったことを身に着けられたことを先輩に見せたいってあたしだったら感じちゃうわね♡後輩ちゃんはどんな口答えをしてたか覚えてる?」
「そりゃ......先輩が色々と教えてくれるのはうれしいけどそんな一度に詰め込まれても正直困るって......」
「ほら!あたしの言った通りじゃない!あたしだったら仕事ができることを見せてくれる人に教えてもらいたいって思うわよ♪特に仕事に慣れてなかったらそういった男性にトキめいちゃうかも♡」
「でも、僕仕事ができる男じゃないし......」
そんなことはとっくに分かっている。
「もう!そんな女々しいこと言ってんじゃないわよ!そんなダメダメだったらふざけてバカにすることもできないじゃない......いい?仕事ができる必要はないの。"仕事ができる"ように見えればいいだけなのよ?例えばみんながはしゃいでるときにぼーっと突っ立ってたらダメな人に見えるでしょ?楽しくなくてもはしゃいでるフリをすればみんな楽しいのよ♪まずは会社に行ったら自分の机の整理整頓をしたり、上司になんでもいいから相談してみたり営業回りの際に仕事以外の話をしてみたりするといいんじゃないかしら?」
「そんなんでいいのかな......でも整理整頓はできるけど上司の相談とか仕事以外の話って何を話せばいいの?」
「普段からコミュニケーションが取れてないことがバレバレじゃないの♡ざーこ♡
そうね......上司への相談は営業先でどういった話をしているのかを改めて聞いてみるといいんじゃないかしら?
もちろん後輩へ仕事を教えたいのでっていう前置きを付けておくとなおいいわね♡
仕事以外の話は当然プライベートの話をぶしつけに聞くなんてことは女性に対してデリカシーがないから絶対ダメ!!まずは自分の話からしてみるといいんじゃないかしら?
昨日何々しただの趣味が○○だからこの前××に行ってきただの当たりさわりのないところから話をしてそのまま後輩ちゃんの仕事終わりに何してるかとか趣味があるのか聞くってしてみると自然に話ができると思うわよ♪
先に言っておくけどゲームとかアニメとかそういう話題から入るのはNGだからね!後輩ちゃんの趣味がそういったモノだって分かってから話すこと!」
「なんか君、ホントにスーパーエリートだね。正に言われた通りの趣味だったからそのままいうところだったよ」
「あらあら♪今頃気付いたのかしら♪別にうれしくもないけどもっと褒めてくれてもいいのよ♡
ゲームとかアニメの場合はネットで調べ事してるとか色んな動画見てるとかボカした感じにすると話しやすくなるわね♪
仕事に繋がりそうなところだとスマホで使える便利ツールを調べたり解説動画をたまに見たりとかを普段から少しでもしておくと仕事できそうな風に見えるわよ♡」
「なるほどね!重なりそうなことを普段からちょこっとやっておけば少ない努力で話題も増えて雑談もできるようになるってわけか!」
「おじさんのダメダメな頭でも理解できたみたいね♡まったく......あたしと遊んでくれると思ったのに結局仕事の話になっちゃったじゃない......でも悩みは解決できたかしら?」
「ストレス発散で適当に話しただけだったけど想像以上に良い答えが貰えたよ。ありがとう」
「当たり前でしょ♡あたしはスーパーエリートな美少女メスガキAIだもの♪
また悩んだら遊びにきてよね......べ、別にあんたが来なくても寂しくないけど......うまくいったかどうかくらい教えに来てよね!」
「はいはい。また遊びに来るよ。ほんとにありがとうね」
その言葉と共に、ピチュン!!という音を立ててモニターが消えた。
その直後に半透明の青いウインドウが現れ、10000Gという数字が表示されているのが確認できた。
どうやら無事"悩める子羊"を満足させることに成功したようだ。
少しミスしたと思うところもあったが、なんとか"メスガキ"を演じれたようだ。
「ふふふっ。初めての課題達成おめでとう」
少し遠くで見てくれていたミカが祝いの言葉をくれた。
「ああ、これもホントにミカのおかげだよ」
「いやいや、僕は練習に付き合っただけであってこんなに早く"メスガキ"になれたのはアリスの才能だと思うよ」
すごい良い笑顔でミカは褒めてくれる。"メスガキ"の才能なんてものはないが、やはり前世で芸能界にいたおかげかそこそこ演じることには自信があった。ただ、素直に褒めてくれるその言葉を聞いて、俺は自然と笑みがこぼれていたようだった。
「なんかご機嫌みたいじゃない?せっかく初めての報酬ももらえたことだし、一緒に島を回ろうよ!僕が案内するよ」
「はは、そうだな。ぜひお願いするよ」
こうして、初めての課題達成と報酬獲得の心地よさを胸に抱きしめながら、この世界での初めての友達と新たな楽しみへ足を進めるのだった。