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はじまり

「今日もありがとね」

ファンの子に感謝の言葉を伝えながら、今日のライブについて考えていた。

やっぱ売れるためには歌やダンスより結局見た目なんだよな~。


この俺、藤堂(とうどう) (かるま)は所謂男性アイドルユニットで活動していた。

モデルの母とイケメン弁護士だった父のおかげで最高クラスのルックスとそこそこの地頭を持った俺は楽々芸能界に足を踏み入れていとも簡単に欲しいものを手に入れることができた。


正直神様は不平等であると思う。世の中の大半は日々苦難を抱えながら過ごしているというのに、俺はこの世界でイージーモードが約束されていた見た目とそれを十二分に活用できる程度の頭脳を持っていたのだから。


そんなことを考えながら今日の夜のことに想いを馳せていた。

芸能界は輝ける表舞台とは裏腹に当然ながらえぐい闇がたくさん渦巻いている裏舞台が存在していた。親の七光ではあるが、両親の地位のおかげで芸能界に対するコネも十分多かったことが幸いして、俺に対して枕営業と呼ばれる所謂「女性をあてがう仕事」が存在していたのだ。

要は俺を介して"良いお仕事"を頂けるように口利きをお願いするということだ。


こちらとしては女に不自由することがないのでよいのだが、残念なことに枕無くしても元々女に困ることはなかった。ただ、1つ良い点があるとすれば、普通の女には最低限の気遣いが必要なのだが、枕の女にはそうした気遣いが不要なことだ。

正にモノのような扱いができることから、たまにこうした案件も気に入った女であれば引き受けていた。


自分でも自分がクズだと感じるが、選ばれた存在なのだからそれを100%使うのは何一つおかしいことはないはずだ。そして今日は「氷の魔女」と呼ばれる冷たい演技で今注目されている期待の美人女優・塩崎(しおざき) (れい)のお相手だった。正直な話、仕事に困らなさそうな女だったからこの案件が来たのには心底驚いた。

しかし、それよりも美人なのに冷たい感じのするこの女を好きに扱うことができるということにかつてないほどの興奮が心を先に支配していた。


そう、本来ならこんな相手から枕営業をするという話が来ることはないのである。だが、この時の俺は興奮のあまりそのことに一切頭がよぎらなかった...


◆◆◆


ライブの片付けも終わり、他のメンバーに別れの挨拶を告げた後、予定のホテルに向かった。

時間は23時。もう深夜に近い時間である。ホテルはやや遠くにあり、タクシーで移動するほかない。

当然だが、一般人に見られてはいけないため、運転手に迂回路をお願いしてホテルへと向かうのである。


本来なら30分ほどで着くところだが、途中の公園で服を着替えたりも含めて1時間半ほどでホテルに到着することになった。指定の部屋のキーを受け取りそのまま向かう。

エレベーターの中で今日の相手に対する期待がこみあげていった。そして、部屋に到着してカギを開けて入ると、そこには期待を遥かに超える裸の女がベッドの前に立っていた。


「うわ......今日はマジ最高じゃねぇか......」


一人そう呟いて女に急ぎ足で近づく。そして......




突如、背中に強烈な痛みが走った。


「......は?」


後ろを見るとパーカーを頭までかぶった人物にナイフで背中を刺されていた。

そのまま痛みに耐えきれず倒れる。その瞬間二人の人物から手も足もめった刺しにされて全身から激痛と体温が失われていく感覚が急速に走っていった。


(マジか......いつかこういう日が来るとは思っていたが......)


自分がクズであることを自覚していたが故に、想像はしていた。しかし、終わりの日がこんな突然訪れるとは思いもしなかった。薄れゆく意識の中、パーカーの人物の顔が少しだけ見えた。


(あ......そゆことね......)


その顔ですべてを思い出したが、そこで今世の俺の記憶は途切れることになった。

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