2-3-25.
大変申し訳ございません。
前回の更新で、公開設定をまちがえました(土下座
昨日正しい内容に修正しております。
申し訳ありませんが、まだ読み直していない方は
前回より読み直しをお願いします ><
ごめんなさいですー
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今にも雨が降ってきそうだな、とポールは憂鬱な気持ちで馬車に乗り込んだ。
公務である馬車の旅。俺の乗り込んだ馬車は定員ぴったりまで乗り込んでいる。
元々の予定ではディードリク殿下と一緒にブレト卿が行軍に参加するはずで、俺は救護班の馬車にお邪魔させて貰っている立場ではある。けれど、そんなにギリギリに割り込んだという訳でもないのに。同席者たちのつっけんどんな態度には辟易する。
はぁ。早く次の宿営地に着かないかなぁ。
騎士団のテントに寝袋という最悪な寝心地のお陰で夜はまったく眠れていない。
馬車の中では何もできないのでテントの中で本を読んだりして過ごし、馬車の中で眠るようにしてはいるけれど、揺れもあって眠りに入りにくいのが難点だ。
早く眠気がこないかと念じていると、欠伸が出そうになって慌てて窓の外へと顔を向けた。
王太子の側近として、公務中に堂々と欠伸をするのは憚られた。
顔を背けた窓の外、樹と樹の間から覗くどんよりとした空の中を金色の鳥が飛んでいるのが見えた。
番なのだろうか、二羽いる。
その鳥たちは、矢より速く、まっすぐ此方へ向かってくる。
見る見るうちに近づいてくる鳥たちの翼がどちらも羽ばたいてなどいない事に気が付いて、出かけていた欠伸が止まった。
「て……敵しゅ」
「馬鹿なことを言ってるんじゃない。教わっているはずだぞ、金色の鳥は王宮からの緊急連絡だ」
ポールの横に座っていた医務官が、ポール越しに窓から外を見上げて素っ気なく断じる。
失礼だな、と思わなくも無かったけれどそれを口に出すほど子供ではないのでポールは大人しくそれを受け入れた。
「へぇ。なんの用でしょうね」
馬車のちいさな車窓から見上げる鳥たちの内、一羽の軌道が逸れていく。
「どこ行くんだろう」
俺の疑問は、急停車した馬車の衝撃で遮られた。
「うわ」
「きゃあっ」
緊急停止の合図を出されても、馬たちは急に停まれるとは限らない。
広場なら余裕をもって位置をずらすこともできるかもしれないけれど、領と領を繋いでいる街道だから道幅もそれほど広くもないから、引綱が激しく音を立て、馬車が軋む。
積み上げられた荷物が座席へと転げ落ちようとするのを手で押さえる。
「何なんだよ。もう」
その頃にはすっかり眠気は吹き飛んでいた。
急いで馬車を降りて、先頭へと走る。
「なんだこれ」
そこは正に阿鼻叫喚だった。
先頭の馬車が、横転していた。
すぐ横で、御者が地面で転がりひーひーと泣いていた。その手にはちぎれた手綱が握られたままだが、腕があらぬ方向へ曲がっている。
「うわっ。痛そう」
視線を外すように首を廻せば、少し離れた先に、馬が、馬車と繋ぐ轅と軛部分を引き摺ったまま困惑した様に嘶いていた。
いや、馬の鳴く声は聞こえない。激しく地を掻く蹄の音もしない。
異様な光景に動けなくなってしまった俺の前で、救助作業が進む。
蝶番がめり込んでしまって開かなくなっていた扉を諦めたのか、ひとりの騎士がそのひしゃげた扉の隙間へと鞘ごと剣を突っ込んで梃子のようにして力を籠める。すると、バキリと大きな音を立てて重厚な扉が破れて弾け飛び、中から人の手が伸ばされた。
強く握って引き寄せれば、中に乗っていた騎士たちが横転した馬車の中から這い出てきた。
「すまない。気が付いた時には横転していて、閉じ込められてしまった」
周囲より飾りの多い騎士服を身に着けているのはこの遠征行軍の責任者だ。
怪我がないその様子に少しだけホッとする。
その時、すっかりその存在を忘れていた金色の鳥が、責任者ゲート卿の手の中へと降り立った。
その瞬間、鳥は手紙へと形を変える。
「これは……なんだと!」
険しい表情で手紙を読んだゲート卿が、慌てて切り離されてしまった馬たちの方へと駆け寄ると、そこに見えない何かがあることに気が付いて、両手を振り上げた。
「魔法解除 うぉっ」
何も無い空間にゲート卿の拳と魔法が弾き返された。
起きた事象が信じられずに、誰もが口を開けたまま静まり返る。
誰よりも信じられないという呆然とした顔をしていたゲート卿が、我に返って振り返る。
「ウィル伯爵による謀反の疑いが濃いという連絡が届いた! ディードリク殿下が狙われている可能性がある。見ていたと思うが、すでにこの街道の先へと続く道は私の魔法解除が効かない何らかの魔法により封鎖されている。しかしだからといって手をこまねいている訳にもいかん。魔法解除に自信のある者は前へ。それ以外の者で打開案のある者は此方へ集まって欲しい。足に自身のある者は、街道を戻って、近隣の領へと支援を求めろ」
魔法による伝達では限度がある。
身分の証明できる人間が直接出向いて伝えることこそ、迅速に協力を得るには有効なのだ。
「ハイ!」
敬礼を取り、指示を受けとった者たちはそれぞれの判断に戻づいて方々へと散らばっていく。
突然せわしくなった周囲の中で、ポールはそのどれが自分の当て嵌まるのか分からず立ち尽くした。
視線の先で、魔法解除に自信がある者たちが次々にその解除を試みては失敗して、相談を交わしている。
壊れた馬車を移動させ、その作業の邪魔にならないだけのスペースを作っている者もいる。
自分にできること、と考えたけれど、王宮に残っているブレト卿たちへの連絡を取ろうにも、あちらから緊急連絡で反乱を知らせてきてるだ。今更だろう。
ゲート卿の指示で近隣へ協力を求めてもいる。怪我人の手当はそれこそ医務官の仕事だ。
「救助班の方々は、御者の治療が終わっても魔法障壁が解除できるまで此処で待機してくれ。解除出来次第、一緒に突入してディードリク殿下のご安全を確保して欲しい」
救護班という役割すらも、ポールには当て嵌まらない。
しかし側近としてディードリク殿下のお傍に向かわなければならないのは間違いない。訂正するほどでもないかと、その場ではとりあえず頷いて治療に使えそうなものを集めに元の馬車へと一旦戻ることにした。
その時、強く風が吹いて、ポールは髪を押さえて頭を下げた。
続いてぱりんと何かが割れた衝撃が辺りへと走った。
目の前に立っていたゲート卿が惚けて動けなくなっている、その視線へと顔を向けた。
去っていくのは、馬に乗った外套を纏った男。
ゲート卿やその他の魔法が得意な者たちが真剣に解除を試みて失敗した障壁を一瞬で壊して先へと進んでいく、その後姿に呟く。
「……ぶれと、卿?」




