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好きを取り上げられた王子様は  作者: 喜楽直人
第三部 側近ブレト・バーン
82/128

2-3-13.



「ブレト……」


 ──こんなに。こんなにブレトが怒っているは、僕のためなんだ。


 それが伝わってきて胸が熱くなった。どくどくと胸の動悸が激しくて。身体の奥の奥まで痺れるような、深い感動で震える。


「っ」


 ブレトの迫力に気圧されたのか、虚勢を張り切れなくなったポールが言葉もなく逃げ出していく。


「あ、ポール!」


 思わず後を追いかけようとしたけれど、ブレトに肩を掴まれて止められた。


「ひとりにしてやりましょう。アイツには少し頭を冷やす時間が必要です」

「そう、だね」


 首を横に振るブレトに同意する。

 それに、すぐに追いかけて行って捕まえたとして、ポールへなんと言えばいいのかすら分からない。そんなの意味がない。


「僕、まだまだ子供のままなんだなぁ。早く、ひとりでなんでも出来るようにならないとだよね」

「ディード様。そんなに急に、大人になろうとしなくても、いいのではありませんか」

「駄目だよ。僕、これでもこの国の王太子なんだよ」

「それでもです。あれだけ大変な目に遭われたというのに、挫けなかった。それだけで十分頑張られていると思います」


「あはは。本当にブレトは僕に甘い。……でも、ありがと。それと、ごめんね?」


「ディード様?」


「ブレトに甘えてる自覚がなかった訳じゃないんだけどさ。それにしても、僕、甘え過ぎてたよね。ごめん」


「いえ、そんな。俺は全然気にしてないです」


「でも!」


「……ディード様?」


「でも、……ブレトだって、自分の好き、を、探しに行かないと、だよね。ごめん。僕、邪魔してたね」


「ディード様……そんな。一緒に探すんじゃなかったんですか」


「うん。でもさ」


 ──僕はブレトの、一番すき、に、なれないから。


「僕にはまだ、好きな食べ物や趣味を見つけるだけで、いいかなって」


 こんなことになって、ようやく見えた自分の好きは、すとんと僕の心に納まった。

 言葉にすることは、できないけれど。


「ディード様」


 心配そうに眉を下げてる。そういう表情(かお)をしていると、ただでさえ垂れ目気味なブレトの顔は、まるで死んじゃいそうに見える。ふふ。


 それほど心を尽くしてくれるから、だから手を離す事だって、できるんだ。


「でも、ブレトももういい年齢だもんね? 15も下の僕に付き合わせてたら適齢期を過ぎちゃうもんね。お嫁さん貰えなくなっても可哀想だしね」

 

 笑えているかな。せめて、ブレトにだけはちゃんとそう見えるといい。


「ディードさま?」


「ポールってば、逃げ癖ついちゃったのかな。就任したばっかりなのにさぁ。何度目だよね。仕方がない奴だなぁ。ポールの分の仕事もしなくちゃいけないから、ブレトは早く騎士団との折衝を済ませて戻ってきてね」


 机の上の書類を確認する振りをして顔を俯け、視線を逸らしたまま席に着く。

 そのまま書類に目を走らせる。と言っても目は文字を上滑りするばかりで、まったく意味をなさなかった。そもそも同じ行を目が行ったり来たりするばかりだ。

 それでも、ブレトが動き出すまで顔を一切上げるつもりはなかった。


 しばらくそうやって仕事をしている振りをし続けたけれど、動く気配はまったくしない。

 視線が突き刺さってくるのが辛くて、手をひらひらさせてブレトの退出を促した。


「……」


 ついにブレトは深く頭を下げると、執務室から出て行った。


 たぶんきっと、僕にも気持ちを整理する時間が必要だって思ってくれたんだろう。

 もしかしたらブレト自身にも、時間が必要なのかも。


 それは、僕がそう思いたいだけなのかもしれないけれど。


 でも、ブレトは僕に過保護だから。

 それはもう、まるで雛を守る親鳥のように。

 大事にされている自覚は、ある。


 僕が、心を寄せてしまうほど。


 ブレトの忠義のその意味を、都合よく考えてしまいたくなるほど。




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