2-3-3.
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「勝者、ディードリク殿下!」
判定の声を合図に、周囲から歓声が上がった。
「見たか、あの決めの一撃」「鋭かったな」「力負けしてないの凄すぎ」「流石だ」
「さすがですね、完敗です。少しは良い所をお見せしたかったんですが、無理でした」
手で土埃を払って、晴れ晴れとした表情でブレトが取り落とした剣を拾い上げて立ち上がる。
「そんなことないよ、結構ギリギリだった。最後の攻撃は危なかったもん」
手を差し出して握手する。
元副団長で現騎士団長となったサーフェスとの手合わせから、もうすぐ一年。あの日約束した手合わせを、ついに果たした。
あ、サーフェス副団長は、騎士団長に昇格した。
元騎士団長は学生時代の同期であるドラン師と懇意にしていたからという噂があるけど良く知らない。
僕の所には『年齢的に勇退することになりました』と挨拶に来ただけだった。
あまり良く思われていないのは知っていたけど、最後に会った時は視線をまっすぐ合わせてから深く頭を下げ去って行った。
ブレトとの手合わせは僕の勝利となったけれど、その差は僅かだ。
いいや、かなりズルして強引に捥ぎ取った、っていうのが正しいのかも。
負けたくなくて、普段より身体強化のレベルを上げたのは、内緒だ。
勿論バレているかもしれないけれど。でも訓練で怪我をする訳にはいかないから、攻撃魔法は禁止だけれど、身体強化はルールで許されている。
身体強化には幾つか種類があって、早く動けるようにする高速、攻撃力を上げる強化などがあって、それらを重ね掛けしていくものだけれど、どうしても魔力量にはその人なりの蓋がある。
唱える際には発動させたい魔法を正確にイメージしないといけないし、それが曖昧だと余計な魔力を消費することにもなるから魔力量が乏しければ乏しいほど発動まで時間が掛かることになっちゃう。
だけど僕の魔力量は半端ないし、最近は体力も付いてきかたらその辺はかなりいい加減でも発動できるし、何度でも重ね掛けだってできちゃう。
使う魔法も、騎士の祝福という僕が考え得る強い騎士が備えている体力や腕力といった項目すべてを底上げする、というとても雑な定義づけがされていて、それを重ね掛けしちゃった。我ながらズルいなーって思う。
でもいいのだ。魔法による強化も含めての手合わせなんだから。
そもそも、僕とブレトでは体格に差があり過ぎるんだから、それ位で丁度いいのだ。うん。
握手を交わしてるブレトが、目を瞠った。
そのまままじまじと顔を見つめてくるから、思わず首を傾げた。
「どうしたの?」
「いえ、その。うーん、やっぱり」
ブツブツ言いながら僕をジーッと見つめたまま首を傾げたりしているから、なんだかとても恥ずかしくなってきた。
もしかして顔が汚れてでもいるのだろうか。
手合わせ中に転んだりもしてないから大丈夫だと思うんだけど、念の為清浄をこっそり唱えてみる。
「ああ、いえ汚れてなどいません。ディード様はいつだってお美しいです。ただその……大きくなられたなぁ、と」
「は?」
え、僕いま美しいって言われた?! ナニソレ、突然。
「すみません。あの、どうしても、俺の中のディード様って、この辺までしかないイメージが離れなくて」
この辺、といいながらブレトは自分の腰のちょっと上辺りで、手を横に振る。
……なるほど?
「ブレト、ちょっとそこにまっすぐ立ってみて」
「はい」
素直にまっすぐ背すじを伸ばして立つブレトへ、背中を向けてとすんとその胸に身体を寄せる。そうして、頭の上に手を乗せてブレトで身長を測る。
首を伸ばして振り向くと、ブレトが示した高さより、拳ひとつ分は高い場所に僕の手があった。
「ホントだ! 食事が変わってまだ半年しか経ってないのに!!」
このままいけば、いつか僕もブレトみたいに大きな大人の男性になれるかもしれない。そう思うとわくわくした。
太くて逞しい腕と力強い胸筋とそれに続く腹筋に、こっそりと憧れていたのだ。
どんなに鍛えてもまるきり筋肉がつかなかったけれど、食生活が変わって半年でこれほど成長できるなら、今からでも僕だって筋肉隆々になれるかもしれない。




