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好きを取り上げられた王子様は  作者: 喜楽直人
第三部 側近ブレト・バーン
71/128

2-3-2.



 窓から見上げた朝の空も綺麗だったけど、外へ出て、真新しい乗馬服に着替えて仰ぎ見る(そら)は、もっとずっと青くて高くて気持ちが良かった。

 



 目の端に映る草木の緑の色も濃くて、時期的に花もついていないただの葉ばかりなのにとても艶やかで綺麗だと感じる。


「ねぇ、ブレト。世界って、こんなに明るかったっけ?」


 なんか、見るもの全部、綺麗に目に映る。

 伸ばした手が、どこまでも届きそうでワクワクする。


 馬房を目指す足の動きが、どんどん大股になって、一歩が広く遠くまで進める。


 それはまるで空を飛んでいるような。


 更に大きく足を上げる。

 一歩一歩、弾むように。

 ふわっと身体が浮くような感覚が楽しくて。


 もっともっとと大きな一歩を目指してしまう。


「ディード様、無茶はしないでください。そんなに急がなくても、シルフィードは賢い馬ですから逃げたりしません」

「シルフィードは待っててくれても、僕が会いたくて待ちきれないんだ」


 足を速めると、ブレトが顔を歪めた。


「あはは。ブレトってば、変な顔してる」


 シルフィードは、真っ白で輝くように美しい牡馬だ。

 その美しさから生まれてすぐに、第一王子である僕の馬となるように決められて教育されてきたんだって。


 初めて引き合わせて貰った瞬間に僕はシルフィードを気に入ったし、シルフィードも僕を気に入ってくれたみたいだった。

 とはいえ、僕はずっと脆弱だったし馬場をゆっくり廻る程度のことしかさせて貰えなかった。

 だからとても綺麗で調教が行き届いた素晴らしい牡馬なのに、馬舎にいる時間がとても長い。可哀想なことをしてるって僕でも思う。


 それは何故かって言えば、偏に僕の体力不足のせいなんだけど。

 王城から出て遠乗りすると、帰りは誰かに乗せて貰って、シルフィードを引いて帰るみたいなことになってしまっていたからだ。


 でも最近は剣の鍛錬もずっと長く速く剣を振れるようになったし、手合わせでも前よりずっと自分が動けるようになっていた。剣が軽く感じるようになった。

 体力がついてきていた。


 と、いう訳で! 今日という日は、僕にとっても周囲にとっても“挑戦の日”なのだ。


 注意されて振り向くとブレトが近衛とふたり連れ立って早歩きで追いかけてきていた。

 いつの間にか僕の足は駆けだしていたようだ。ちょっとした早歩きくらいのつもりだったんだけど。


 天ばかり見上げたまま駆けだす僕が心配でならないという顔。


 それなのに僕より近衛との距離が近くて、しかもちょっと話し掛けられただけでそっちを向いてしまう。なんか仲良さそうに会話なんかしててイラッとした。


 ふたりの注意が僕から逸れてることを確認して、こっそりとちいさな声で呟く。

認識阻害(ハイド)

 そうして方向転換して、会話を続けていたふたりにそっと近付いた。


「わっ。近いな」


 やっぱり。ブレトだけには分かるんだ。

 すぐ横の近衛はまだ変な顔してブレトを見てるだけだもん。


「あ。また王宮内で認識阻害を使いましたね? 禁止だって言ってるでしょう」

「だってブレトしか見つけられないのって面白いんだもの」

「護衛に認識できなくなってどうするんですか。いざという時に困るのはディード様ですよ」

「ブレトが見つけてくれればいいじゃないか」

「俺がいない時だってあるでしょう」

「いない時がないように、ずーっと僕の傍にいばいいんじゃないかな」


 ニコニコと笑いながら無休宣言してあげる。

 見るからに苦い顔をして萎れたブレトの肩を、近衛がポンポンと叩いて「側近がんばれ」と笑った。

 なんとなく僕より近い気安げな関係なのだと主張された気がして、僕はブレトの腕を取った。


「ねぇ早く行こうよ、ブレト。遠乗りに一緒に行ってくれるんでしょう。僕のすっごく楽しみにしてたんだ。あ、今日のお弁当にはブレトが好きな鴨肉も入れて貰ったんだよ。楽しみだね」


 グイグイと引っ張っていた僕の身体が宙に浮く。


「すごい、ブレト速い! すごい!!」


 まるであの日の夜のように、ブレトの太い腕にふわりと乗せられた。

 そのまま走り出す。


「ブレト、空があおいねぇ」


 ブレトの腕に乗せられて、さっきよりずっと天に近づいて手を伸ばした。


 そこに広がっているのは僕を見上げて笑っている瞳と同じ色。




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