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好きを取り上げられた王子様は  作者: 喜楽直人
第二章 ディードリク・エルマー・グランディエ 第一部 摘み取られた薔薇
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2-1-1.プロローグ



 急げ急げ。


 四柱式のベッドの帳の向こうから、抜け出したことが誰にも見つからない内に。

 朝が来るまでには帰らねばならない。


 急げ急げ。


 完璧な王太子だという評価が、ハリボテでしかないのだと誰にも知られない内に。


 この世の真理を授けてくれる場所へ。





*****



 秘密の館のある場所について、ひとり情報を集めて廻った。

 そんな特別な場所が王都内にあったのには驚いたけれど、王宮勤務の近衛たちが通い詰める場所なのだ。それほど遠いはずがなかった。


「辺境の森の奥や異国の地でなくて良かった」

 日々のスケジュールがきっちりと決められているディードリクには、何日も王宮を留守にして探し回ることなどできはしないのだから。


 まだ少し場所の確定はし切れていなかったけれど、それでも近衛隊の隊長が連休を取るということで隊員の気が抜けている今夜がチャンスだと思ったのだ。


 タイムリミットが近づいていた。



「まずは一度、夜の王都に出て、現地でさらに情報を収集してみれるのが一番だろう」


 申し訳ないと思いつつ、使用人の私物を失敬して集めた変装用の服に着替える。


「大丈夫。あのドラン師だって僕の認識阻害を見破れたことがないんだから」


 ドラン師は、魔法だけでなく座学に関しても国内最高の指導者だ。王太子教育が始まってからずっとディードリクの教育に関してのすべての方針を纏めている人でもある。


 そのドラン師だって、認識阻害を掛けて王宮内で情報収集をしていたディードリクに気が付かなかったのだ。


「見つかるはずがない」


 そうやって自己暗示をかけ呼吸を整えると、特徴のある白金の髪を覆い隠せるフード付きの外套を身に纏った。

 部屋の中で身に着けるモノではないことくらい知っている。マナーとしてどうなんだって思うと落ち着かなくなるけれど、こればかりは仕方がない。


認識阻害(ハイド)


 こうして魔法を唱えてしまえば、誰にも見咎められるはずないのだから。



*****



 王宮を抜け出すまでは緊張していたけれど、王城の東門を抜け出す時すら誰の目にも止まらないまま抜け出せてしまってからは、ちょっと気が抜けた。


「本当に、誰にも見つからないものだな」


 認識阻害(ハイド)。そういう魔法があることは知識として知っていたけれど使う機会もなかったし、今回の計画を立てるまで使ってみようとも思った事自体がなかったから、まさかこれほど効果があるとは思わなかった。


 勿論、王宮内で散々確認練習したのだ。

 最初は朝起こしに来た侍女相手から始めて、授業にきた講師たちにも効果があるのかどうかを確かめた。

 ドラン師の目の前で手を振っても大丈夫だったことに確信を得て、こうして実行に移したのだけれど。


「でも、誰の目にも止まらないけれど、その代わり情報が思ったより集めにくいな」

 誰かに話し掛けたら、さすがに認識阻害は解ける。

 つまり会話を誘導することもできないのだ。

 たまたま誰かの会話に名前が出てくることを祈って彷徨うことしかできなかった。

 当然だけれど、何も情報は集まらなかった。


 駄目元で探した王都内における登録業者一覧の飲食業と宿泊業部門に、“摘み取られた薔薇(ピケットローズ)”の名前を見つけることができた。

 宿泊業と飲食業は兼ねていることも多い。登録業種は別だが住所が同じなので、食事も出す宿泊所ということなのだろう。


 それでも、その近くには同じような形態の店が並んでいるようで、飲食のみだったり宿泊業としてだけの登録だったりもするが、なにやら賑わっている場所のようだった。


「こんなに人通りの多そうな場所に建っている店がこの世の真理を教えてくれる、本物の“摘み取られた薔薇(ピケットローズ)”だとは思えないんだけどなぁ。でも人が集まる場所だからこそ敢えてなのかもしれないし。とにかく実際に行ってみて正解かどうか確かめてみるしかないか」


 違う場所であるならば、それを確認する必要がある。そうしないと次の情報を探すこともできない。間違った情報が混ざったままでは精査できない。

 できることなら一発で当たりを引き当てたいところではある。

 なにしろ自分には時間がないのだ。


「早くロザチャン様に会って、教えて貰わないと」

 

 父王から告げられた期限である次の誕生日まで、あと少し。


 もしそれまでに教えを乞うことが出来なければ、ディードリクは王太子から降ろされてしまうかもしれない。


 王太子となるべく研鑽を重ねてきたディードリクにとって、それは死刑宣告にも等しかった。


 その恐怖に夜の眠りが浅くなり、悪夢にうなされる日が増えた。

 このままでは父王からの課題クリア云々の前に、大きな失態を犯しかねない。


「僕には、自分が王太子であるという価値しかないのに」


 それすら無くしてしまう訳にはいかないのだから。





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