2-2-17.
やっとディード君のターンと思ったアナタ!
ごめんなさい、今回はドラン師ですー
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ドラン・クーパーの一日は、陽が昇る前にベッドから起き出し、前日に用意しておいた洗面器の水で顔を洗うことから始まる。
王太子の教育を請け負っているとはいえ元は男爵家の四男。それなりに名も売れ、講演や著書により得た財産はすべて蔵書としてしまっており結婚したことはない。
知識を得ることに人生のすべてを傾けてきた。お陰で女性とも縁がなく、今も倹しいひとり暮らしをしている。
若い頃は、近隣諸国から要請を受けるままに鞄ひとつで国と国と移動していたこともあり、彼にとっての家とは、元々はスケジュールを管理して各所と連絡を取るようにと雇った秘書が詰めている場所でしかなく、集めた本や読んで欲しいと届けられる論文を置いておく場所でしかなかった。
王城へ通うようになった今は通いの家政婦を雇う様になったこともあり、本棚に埃が積もるようなことはなくなった。
顔を洗って着替えると、朝食室へ移動する。
前夜、家政婦に作って貰っている特製の豆スープと薬草茶をゆっくりと噛んで飲む。
どちらも温くなっていたし、味も悪い。豆スープに至っては、出来立てと違って冷えたことで粘度が増し、のど越しも最悪である。が、ドランは一切構わなかった。
食事に時間を掛けるなど、それこそ貴族の贅沢でしかない。
ドランとて貴族の端くれではあったが、兄どころか兄の息子が跡を継いでクーパー男爵を名乗っている今、自分が貴族であるという意識は薄かった。
「よし。身だしなみを整えて、出掛ける準備をするか」
昨日の王太子の魔力も安定していなかった。
教え甲斐のない進歩のなさを思い出し、眉を顰める。
見目の麗しさのせいか一部の貴族たちが異様に持ち上げているようだが、実際の王太子の魔法操作の未熟さは許せないレベルだ。しかも年々精度が落ちている。
「まるで私の指導が悪いようではないか」
あれはきっと自分に対する反抗もあるのだと思う。
男爵家の人間に教えを乞うことを善しとしないに違いない。所詮、その程度の底の浅い者なのだ。
「見た目がなんだ。実際の実力で王太子は決めるべきだ」
魔力量が多いからどうだというのだ。それを扱う心が、師となる者を爵位でしか計れない品のない精神しか持たぬならば、それはむしろ恐怖でしかない。そのような主を頂くことは国にとって負でしかないだろう。恐怖だ。
師として、その幼稚で下劣な心を入れ替えさせてやらねばならぬ。
「その為には、もっと締め付けるべきか。ならどうやって?」
悩みは尽きない。
それでも、王太子教育の総括として任を受けたその日からずっと八年も続いていることだ。
いつもと変わらない朝。
立ち上がった所で、ドアベルが鳴った。玄関に誰かが来たようだ。
「秘書を雇うことをやめたのは失敗だったかもしれんな」
留守がちな家に住まわせるのと、同居はやはり違うのだ。
元々がちいさい上に、廊下まで本が積み上げられているような狭い家だ。
そこに老境の男が顔を突き合わせて暮らすのは無理があった。
家政婦を雇う金もいるということでクビにしたのだが、封すら切っていない書類も溜まってきていて、今となってはどこから手を付けるべきかもドランにはわからない。
家の現状にため息をつきながら、軽く身だしなみを整えて玄関へ向かった。
「どういうことですかな?」
「ドラン・クーパー卿ですね。王城へ出頭願います」
扉を開けた所に立っていたのは、屈強な騎士だった。
首元の徽章を確かめると、王国騎士団の副団長のようだった。
その後ろに控えている者たちも皆王国騎士団の制服を着ている。
「なぜ?」
「さぁご出立を。戸締りは我々騎士団へお任せ頂こう」
有無をも言わせぬ強硬な態度の副団長の瞳は剣呑で、なにがどうなっているのか分からないドラン・クーパーは、何が起こっているのかわからない不安に、鈍色の瞳を揺らした。
サーフェスさん、激おこ




