2-2-13.
■
それにしても、本当によく似ている。
間近にした陛下は、白金の髪も金色に輝く瞳も、ディード様とよく似ていた。芸術品のような顔の造作も。たぶんきっと、成長したらこんな風になるのだろうと思わせる血の繋がりを感じさせる。
けれど、瞳に籠められた覇気がまったく違っていた。別格だ。
王者というより拝すべき神を目の前にしている気がする。
見つめられるだけで自然と頭を垂れて、何の議論を挟む余地もなく唯々諾々とすべて受け入れてしまいたくなるのだ。
「ドラン師が、いつからそのような妄執じみた考えに憑りつかれたのか。私の知っている彼は、正しく若者を正しい道へと導ける優れた導き手であったものを」
幼い王太子殿下の教育係に任命されて、この国の行く末を左右する地位に就けた誉れと喜びに、間違った方向へ張り切ってしまったのかもしれない。
まるで人とは別の種であるように見えるほどの容姿を持ち、教えたら教えた分だけ乾いた大地が水を吸い込むが如き勢いで知識を身につけていく優秀すぎるディードリク王太子殿下を、自分の手で、更に特別な存在へと育て上げようとしたのか。
自らが考える素晴らしい王となるよう導き育てるという夢は、教育者において途方もなく大きく強い誘惑となるなのかもしれない。
けれど、強い国王陛下のお導きがあれば、ドラン師がディード様に施してきた偏った教育を正すこともできるだろう。
もう大丈夫だ。きっとディード様に笑顔が増える。そう安心した。
「この国で生きる者を笑顔にできるように。そうして総てを愛せる人間になる教育こそ、我が国における帝王学であると私は考える。総てを愛さない人間は、信を得られない。そうして信を得られぬ人間は、臣からの忠義を得ることもないだろうよ」
陛下の意見に完全同意する。心から俺もそう思う。
自分のことをちゃんと見て大事にしてくれないと思われたら、人間関係は終わる。
思っていても伝わらなければやっぱり終わってしまうんだけど。くっ。
「ディードリクがこの王宮を抜け出したいと思った理由、原因は分かった。だが、あの子は夜のギョルマクで何をしていたのだ。何をする為に、あのような繁華街に足を向けたのか。何か知っているか、ブレト・バーン」
ビクッと肩が揺れてしまった。
もう話は終わったも同然だと油断したのがいけなかったのだろう。危ない話題には近付くことなく切り抜けられたと信じていたところだったから、素直に身体が反応してしまった。
「あの……その……」
思わず視線が泳ぐ。
駄目だ駄目だ、考えろ。もっとよく考えてから言葉にしなければ、ディード様のプライドをずたずたにしてしまう。
言葉を躊躇う俺に、陛下はやさしく「慌てなくてもいい」と許しを与えてくれた。
「上がってきた報告書のどれにも、どこにも触れられてはいなかった。それだけ取扱いを慎重にしたいということなのだろう? 確かに今回の件において、それほど重要ではないのかもしれない。だが、それを判断するのは、私にしたいのだ」
それは、当然の要求だった。
すべての判断は陛下の手の中にあるべきなのだ。
臣下でしかないブレトがしていいものではない。分かっている。
だがそれでも、と悩んでしまうのだ。
苦しみを取り除こうとして足掻いたディード様に、違う苦しみを与えてしまう訳にはいかないのだ。
そうならないように、上手く会話を進めなくてはならない。
無理だと放り出す訳にはいかない俺は、覚悟を決めて自分も一緒に恥を引き受けることに決めた。
「我が、近衛隊員が、原因なのです」
申し訳ありません、と頭を深く下げた。




