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好きを取り上げられた王子様は  作者: 喜楽直人
第二章 ディードリク・エルマー・グランディエ 第一部 摘み取られた薔薇
35/128

2-1-29.



 視線の先──

 大きな節くれだった手が重ねられ、そこへ色の薄い唇が寄せられる。

 目を伏せて囁きに念と魔力を込めると、その人は夜空へ向けて両手を開いた。

 

 ふわり。彼の魔力が指先へと集まり、僕の見ている前で小鳥の形を成した。


 彼の魔力と同じ色。紅い光を帯びた翼が羽ばたき、くるりと一度彼の頭の上を旋回すると、夜空をまっすぐ飛んでいく。


 彼が生み出したにしてはあまりにも愛らしい姿をした小さな鳥が、夜の王都の空を羽ばたいて遠ざかっていく姿を見守る。


 あんなに大きな身体をしたブレト・バーン隊長の作り出す魔法が、あんなに繊細で愛らしいとは思わなかった。


 小鳥の羽の軟らくて滑らかな動き。

 あれは、彼の中に小鳥への正しい知識と深い観察眼、理解がある証拠だ。


 わざわざ上空でくるりと旋回していくことなど、ありない。

 きっと、彼が普段から小鳥たちとあのように通じているからなのだろう。


 彼にとっては、あれが当たり前の小鳥の動きなのだ。

 魔法で形を写し取っただけですら、愛情を返してもらえる。



「応援を呼んだのか」

「えぇ。拘束はしましたが、そのまま置きっぱなしにしておく訳にはいかないですから。いるどうかもかわかりませんが、仲間に回収されてはもしもの時に繋がる情報を掴むことが出来なくなりますからね」


 あの男たちは、間違いなく荒事に慣れていた。

 問答無用で暴力を振るい、相手を蹂躙させることに躊躇いがなかった。

 特に、ブレト・バーン隊長を襲った者は確実に殺意を持っていた。


 僕に潤沢な魔力があり、もうひとりが近衛隊長であるブレト・バーンその人だったから不意打ちにも対応できたが、これが普通の子女であったならあっという間に僕は攫われ、ブレト・バーン隊長は殺されているだろう。

 人を殺し、連れを攫うこと。それを当たり前のように人の溢れた夜の王都内で行う。それで捕まる可能性を考えていなかった。

 つまり、彼らの背後に大きな反社会的勢力がある可能性は高い。

 応援を呼んで確実に尋問等を行うことは重要だろう。


 だが。


「近衛隊長が連行していけばいいのでは?」


 絶対に拒否してくるだろうけど。そうしてくれたら、僕はこの街でしなくてはいけないこと、“摘み取られた薔薇(ピケットローズ)”探しを続けられる。


 駄目元で笑顔を振り撒いてみるが、やはり通じなかったようだ。


「俺はこれからあなたを王宮までお連れしなければなりません。あなたの顔を、外回りの衛兵たちに見せる訳にもいきませんし。あぁ、もう。昨日今日と明日は2カ月ぶりの纏まって取れた休暇だったんですよ。それなのに」


 あっさりと、というよりジトッとした視線で睨まれて提案は却下されてしまった。


 しまった。藪蛇だった。


 不穏な念を感じて、気が付かない振りをして道に転がされている男たちを睨む。

 近衛隊長による魔力縄で拘束されているのだから、そう簡単に抜け出すことはできないだろうが、駄目押しの逃走対策が必要ということなのだろう。


 少し考えて、転がっている男たちへ向けて手を伸ばした。


 イメージを投影して、障壁(シールド)と呟けば、ブンッと軽い空気が振動し、魔力で作り出した障壁が男たちを丸く包み込んだ。


 ブレト・バーン隊長が、淡い金色をした障壁に近付いて手で叩いた。

 コンコン、と硬そうな音が響く。


「これって、中の空気はどれくらい持つんですか?」

 興味深そうに半透明の障壁の中を覗き込みながら、ブレト・バーン隊長が訊いた。

「空気は通る。あちらからもこちらからも、音の波も伝わるよ。この男たちが目覚めさえすれば、会話もできるようになる」

「なるほどすごい。この障壁越しに、尋問ができるということですね」

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