2-1-26.
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なんてことだ。
地図が頭に入っていても、それを使うには、自分の現在位置が分からなければ意味がない。
煌々と街を照らす松明のせいで夜空を見上げてみても星はまったく見えないし、雲が増えてきたのか月がどこにいるのかすら、まったく見つけることができない。
当然、王都から見上げた景色など見たことのない僕には、微かに見える遠い明かりが、王城のものなのか城壁のものなのか、もしくはまったく別の建物のものなのかすらさっぱりだ。
困った。男たちから逃げる為に、まずはまっすぐ行って、右に曲がって左に曲がって……斜めに進んだけれど。ううん。
元来た道を戻ることはできるかもしれないけれど、あの男たちの前に行くのはちょっと遠慮したい。
認識阻害が効いているのだから見つかることは無いと思うけれど、あいつ等の顔を見るのは精神衛生上あまりよろしくない気がする。うん。
──どうしようか。どっちにいけばいい?
怒声と嬌声が交差する街ギョルマク。
危険と隣り合わせの街を笑い合い楽しそうに行き交う人達が、往来の真ん中にいる僕と視線を合わせることなく避けていく。
それが魔法の効果だって分かっていても、視線ひとつ合わないことが不安の種を心に撒いた。
ううん、それでいい。先ほどのような目に遭いたくないし、それでいいんだけれど。
同じ世界から切り離されてしまったような、不安で足元が揺らいだ気がした。
何処へ行けばいいのか、どうすればいいのか。
この中で、僕だけが、自分がどこにいるのかどちらへ行けばいいのか分からない。
視界が揺れた。涙が、目に幕を張っていた。
それが零れ落ちる前に、腕でぐいっと拭う。
何を弱気になっているのだろう。
違うちがう。全然駄目だ。こんな気持ちになっている場合じゃない。
僕は、ロザチャン様とお会いする為に、摘み取られた薔薇を探しにきているんだ。
僕は、そこで好きを取り戻し、自分自身を取り戻すのだ。その為に努力してきた。
下を向いてる時間は、もう無いんだってば。
この夜何度目になるのか。自分で自分を叱咤激励する。
周囲を見回すと、今いるこの細い道をもう少し先まで行けば、人通りが多そうな道と交差しているようだった。
あの大きそうな通りに出て、そこからランドマークになりそうな建物の看板を探し出す。うん、完璧だ。
両手で頬を叩いて気合を入れ直す。
朝までには王宮の自分の部屋へ戻らないといけない。
それまでに、僕はこの世の真理と好きという言葉を取り戻す術を、賢者ロザチャン様から教えて貰わなくちゃいけないんだから。
悩んでいる時間なんて、本当にない。
「認識阻害」
念の為にもう一度。
そうだ。認識阻害だって掛け続けているのだから、このまま声を出さずにさえいれば、誰にも見つかりっこないのだ。
ドラン師だって見破れなかったこの魔法を、市井で破れる者などいないだろう。
誰も僕を見ることができないのなら、こんなフードを深く被っている必要はない。
道を探す邪魔になるだけだ。
僕は魔法の力を信じて、グッとフードを引き下げた。
「え?」
──え?
よく知ってる声が聞こえた気がして、動きが止まった。
振り返るとそこには、目を見開いて立つ、今日何度も頭の中で思い描いたその人が、いた。
「こんなところで何をしているんですか、王太子殿下」




