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好きを取り上げられた王子様は  作者: 喜楽直人
第二章 ディードリク・エルマー・グランディエ 第一部 摘み取られた薔薇
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2-1-24.



 随分時間を無駄にしてしまったけれど、その後は計画の通りに上手くいった。

 一番緊張した王宮の出入口を拍子抜けするほど、あっさりと通り抜けられてしまった。

 もしかしたら、門番たちの気合を入れ直した方がいいんじゃないかって思うほどだった。

 だいぶ遅くなってしまったし、この時間なら鍵が掛かっているかもしれないと思ったのに。両脇に眠そうな顔をした兵士たちが立っているものの、扉は開けられたままだ。

 掃除や洗濯(洗濯係の彼女らは一日中出された汚れ物を洗っていた。朝には干す作業を始めないといけないのだから当然といえば当然だけれど)に勤しむ下女たちがひっきりなしに通るから、開け閉めが面倒くさいのかもしれない。


 それにしても不用心だ。お陰で出ていきやすいけれど。


 心の中で『ごめんね』と謝って、出入口から出た。


 見上げた空は暗くて明るい。月がまんまるだった。星明りも綺麗に見えた。

 眠れぬ夜に窓辺から見上げる夜空と同じはずなのに。まるきり違って見える。


 晴れた夜空という言葉は、おかしいかもしれないけれど。

 雲のない澄み切った夜の空は、まるで僕のこれからを祝福してくれているように見えた。



 勢いづいた僕は、そのまままっすぐ兵士や官吏、商人たちが使っている王城の外壁まで進み、その西門もあっさりと通り抜けた。


 外部からの受け入れ時間はとうに終わっていることもあって、さすがに門は閉められているのだけれど、当然門番たちの詰め所は王城にも城外にも抜けることが出来る訳で。


 門の前に立っている当番以外の者たちが、詰め所内でなにやら書類を書いたり読んだりしている横を通らせて貰う。


 扉の打掛錠(うちかけじょう)を静かに動かし、外に出る。

 魔法を使って空気を固め、バーを上げた状態で固定してから扉をそっと閉めた。

 すっかり閉めたところで、魔法を解除すると、扉の向こうでバーがかちりと嵌った。

 これで、僕がここから出ていったと気が付く者はいないだろう。

 この程度の単純な魔法ならば呪文なしで発動できる。それだけの魔力量と知識が自分の中にあることを、今は誇ろう。


 こうして、ついに僕は、今日のミッションで最大の難所をクリアしたのだった。




 足早に王城から離れる。


 王都の中央なだけあって、この時間でも王城前の広場には街灯の照らす明かりがあって静かだ。


 自分の足音だけが響く。


 一歩一歩。王城が遠くなるにつれて、街に人通りが増えていく。

 明るい。大きな松明がそこかしこで揺らぎ、生みだす熱気と明かりが煌々と街を照らしていた。

 魔法があるといっても、一般庶民の魔力量ではこれだけの広い夜の街を、これほど明るく照らすことは無理だ。火を焚いて照らすのが一般的で、その熱気がすごい。


 王都一の繁華街ギョルマク。

 そこは大きな松明に囲まれた、夜のない夜の街。


「ここに、摘み取られた薔薇(ピケットローズ)があるんだ。……っ!」


 思わず声を出してしまって、慌てて首を竦めて口元を抑えた。

 祈るような気持ちで周囲を伺った。


 けれど、ここには小汚い外套に頭まですっぽりと包まれた子供の言葉ごときに気を取られるような者はいない。

 誰もがどこか街の熱気に浮かされた顔をして、吸い寄せられるように街へと足を急ぐ。誰も周囲なんて気にしてない者ばかり。


「まるで、何かの魔法に掛けられているみたいだ」


 自分の口から零れた言葉だったけれど、真実そうなのかもしれなかった。


 だってこの街には、この世の心理を教えてくれる賢者がいる。



「待っててくださいね、ロザチャンさま。絶対にあなた様の所まで、辿り着いてみせます」





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