2-4-3.
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散々悩んで躊躇して。
けれどもうどうにもできない自分が苦しすぎて。
僕はついに、それを申し出ることにした。
覚悟を決めて父の書斎の扉を叩き、出てきた侍女へ、父への取次を頼んだ。
「父上に、折り入ってご相談があるのです。お時間を、いただけませんか」
「今でもいいぞ。ここでいいか」
侍女の取次を待たずに、後ろから声が掛けられた。
「ありがとうございます。人払いを、お願いします。」
「よし」
軽く了承してくれた父は侍女たちに書斎から出て行くよう指示を出すと、僕が申し出る前に音声遮断の障壁まで展開してくれた。
「そんなに蒼い顔をして。あぁしまった。せめて茶を用意させてから全員を追い出すべきだったな」
くくくと笑って、書類の積み上がった机の前にあるソファーを勧めてくれる。
おずおずとソファーに腰かけた僕の対面ではなく、すぐ隣へ父が座った。
「こんなに手を冷たくして。ずっとひとりで何かを悩んでいる事には気が付いていた。今日は、その相談に来てくれたのであろう? なんでも言いなさい。なんでも聞きなさい。父は、お前の相談相手として選んで貰えて嬉しい」
「最近のお前は、ずっとブレト卿ばかりだからな」
そう笑った父に、ブレトとのことを冗談にされて、涙が零れた。
「ディードリク? どうした」
「僕を、廃嫡してください」
「ディードリク?! 何を言うんだ」
「廃嫡とまではしなくとも、王太子の地位から、外して戴きたいのです。僕には、その地位が、重すぎる。この身に持つ魔力が必要というなら、生涯国を護る兵器ともなりましょう。けれど、王太子としての義務は、僕には重すぎるんです」
「ディードリク」
言葉を紡ごうと、幾度も震えては閉じるを繰り返す唇は、それでも音を成すことできなくて、また閉じた。
──なんて勇気がないんだ、僕は。
それでも、ただじいっと。父上は、僕の言葉を待ってくれていた。
その優しく厳しい金の視線に励まされるように、覚悟を決めて、唇を開いた。
「ごめんなさい。不甲斐ない息子で、本当に、ごめんなさい。せっかく、王太子に選んで貰ったのに。グランディエ王族として、誰もが羨む魔力量に産んで下さったのに。僕には、次代へその血を繋げません」
ぽろぽろ、ぽろぽろ。
父の金の瞳に、涙で汚れた顔をした子供が映っていた。
情けない。
僕はなんて情けない顔をしているんだろう。
遠回しな告白で、詳しい説明もせずに受け入れて欲しいなんて。
なんて我儘な子供なんだ。
それでも、このひと言を告げた時、どうなってしまうのかが、怖くて堪らなかった。
「ブレトが、すきなんです。彼の手しか、取りたくない。血を繋ぐためや国の友好のために、他の人の手を取らなくてはならないことが、死にたくなるほど辛いのです」
──ブレト、君を失うことになったら、僕はどうすればいいんだろう。
涙と一緒に、一生涯誰にも伝えず、秘めているつもりだった想いが、言葉となって溢れた。
あぁ、駄目だ。やっぱり僕は、ずるくて駄目な人間なんだ。
どれだけ叱責されてもいい。
僕は、どんな重い罰を受けてもいいから。
けれど、ただ僕から好かれたというだけで、ブレトには何の罪もないのだから。
元々は近衛として、そして今は王太子付きの側近としての職務を誠実に勤めてくれているだけ。
それなのに、僕が彼を好きになってしまったからって、彼の栄光ある職歴をふいにさせて道連れにするところだった。
そんなの、駄目だ。だめ、なのに。
ブレトと離れたくないと心が軋む。
自分がずるくて、愚かで、情けなかった。




