2-3-33.
■
「まぁそれなりの賠償額とペナルティを科せられたんじゃないですかね」
慰謝料として、現在引かれている国境とされているマニ河とその沿岸すべての権利をグランディエ国へ書き換えること、更に現在あの国が保有している金の半分を受け取ることで合意した。
しばらくは最貧国として苦しむことになるのだろう。
そして事件を起こした国王と王太子、魔術師や研究者たちは全員が現在の職務を引退したのち生涯隔離幽閉されることとなった。
あまりにも長い間一切の行動を止められたままでいたために、解放された時にはすでに衰弱しすぎて廃人化していたそうだ。
王妃が期間限定で女王として立ち、現在11歳の王女が王太子となり、グランディエ国の公爵家から王婿を迎え入れ、成人する16歳になったと同時に婚姻を結び王位を継ぐことが決定した。
勿論、グランディエ国からは、王婿となる公爵家の令息だけでなく、ブレインとなる者達や警護できるだけの騎士隊も一緒に送り出すことになっている。
「実質的な属国化ですね」
「当たり前だ。なんだあの王妃の面の皮の分厚さは。再度の訪問で、いきなり『お詫びとして、ディードリク王太子殿下へ我が国の王女を差し出させて頂きます』などというふざけた申し入れを使者が持って来た時には、その首を落してやろうかと思ったぞ」
「ディードリク殿下ご自身がひと言で斬って捨ててくださった時にはスッキリしました!」
サーフェスの言葉に、その場にいた者たちが全員大きく頷いた。
『断る。私を人質にして国を滅ぼすことができなかったので、私を傀儡にして国を乗っ取ろうというのか。グランディエ国の未来の国母という地位を、随分と安く見積もられたものだ』
『安くなど! そんな風に考えておりましたら、大切な王女の輿入れを願い出るような真似をする訳がございません。我が国の王女はいずれも我が国の至宝と呼ばれる美姫でございます。金銀財宝を積み上げるより価値が高いと』
『断る。寝首を掻かれる心配をする未来は、必要ない』
強く光る金の瞳に睥睨されて、使者は深く頭を下げて、王子の意向に了承の意を表した。
「あれは爽快でしたなぁ」
「しかしその次に持ってきたのが、『ハロルド第二王子を婿に受け入れたい』でしたからねぇ。そうやって無駄に粘った結果、国王と王太子が廃人化したのですから。本当に、あの王妃……いや今は女王でしたね、あんな愚かな女を、期間限定とはいえ王として頂かなければならないあの国の国民が哀れでなりませんよ」
もしハロルド第二王子を婿にすることができたとしても、グランディエ国の王族としての性質はその子供に現れることはない。
魔力量も見目に関しても、相手方の血筋を色濃く持った子ができるだけだ。
グランディエ国の王族としての血は、グランディエ国内、それも王家の血筋にのみ現れる。
それは厳然たる事実であるのだが、それでも万が一を夢見る者がいるのも事実だ。
「どんな夢を見ようと勝手でしょうが、敗戦国としての弁え方が鈍すぎる」
さすがにあの一族に隣国を任せておいては、いつまた変な夢を見て攻撃を仕掛けられるか分からない。
かと言って完全に併合するには、仕込みも予算も人でも、すべてが足りない。
あちらの案に乗るのは不快ではあったが、強い指導力を見込める人材を送り込み、王婿とすることに決めたのだ。
「いいや、結構な女狐かもしれん」
国力の差を考慮せず、たったひとりの罪人の言葉のみを信じて自国を破滅に陥らせた愚王。無謀な計画を立てただけならともかく実際に実行に移してしまった愚かな王を、あの王妃は交渉を長引かせることで自然な形で廃することに成功した。
そうして結局は将来的にグランディエ国の支援を望める王婿を手に入れることまで成したのだ。
国境上にある河の権利を手放そうとも、王婿をグランディエの公爵家から迎え入れるのだ。以降は温情を求めることもできるだろう。それまでの我慢でしかない。賠償金もぎりぎりまで出したのは間違いないだろうが、それ以下で納得させられる可能性は低い。
「あっさり支払ったことから、元々賠償金は用意されていたのかもしれんな。つまり、出すつもりだったけれど言うだけ言ってみて妥協してくれたらラッキーもし駄目でも断られて当然だし、時間を稼ぐことで愚王を廃することができて実権を握るチャンスを得られた、ということかな」
「それが本当ならば、転んでは只では起きぬ策士ですなぁ」
それでも、その策に乗ることに決めたのだ。
「国民の平和のために。我々は、できることをするだけだ」
第二章第三部完
次回更新から第四部開始しますー
よろしくお願いします




