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Edens Entelecheia -ラクエンテンセイ-  作者: 迷迭香
第一章 最弱の強者が目醒める
8/16

天空の城

なんだかんだ、各話のタイトル考えるのが一番大変ですね

 それから2日後の朝——


 エトワールという新たな仲間を迎えたレオン一行は、天翼種の住処である北の廃城前にたどり着いていた。

 湖の上に聳え、四方を水に囲まれたその城へ続く唯一の大橋を渡ろうとした時、上空から降りてくる気配に気づいたエトワールが足を止め、一泊遅れて全員がそれに続いた。


「エトワール様、本日はどのような御用向きでしょうか」


 上空から降りてきたのは、大きな純白の2対の翼を広げ、頭から爪先まで全身を白銀の鎧に包んだ性別不明の人型天使。

 それを見上げるエトワールが、アイオーンから降りてにこやかに応じる。


「やぁ、門番くん。2000年ぶりかな? 突然の訪問を許しておくれ。今日は、君たちに会わせたい相手がいるんだ。『大天使』の元へ通してくれないかな」


「なるほど。それにしては、随分と数が多いようですが」


「そうだろうとも、何せ彼に惹かれ、付き従う者は多い! そして君たちもすぐにそこに加わることになるよ」


 エトワールはわざとらしく大々的に両手を広げて、朗報だとでも言うように高らかに宣言する。

 一方で、門番は無機質ながら少し訝しんだ様な声で答えた。


「我々は主君以外に仕えることはないと、ご存じのはずでは?」


「あぁ、知っているとも。その主君が帰ってきたと言っているんだ!」


 流石に、仮にも魔王の一角にそう断言されたとあっては、たかが門番の独断で追い返せるような状況ではなくなった。

 半信半疑と言った様子で、門番は城門を開ける。


「他でもない貴方様に、そこまで言われてしまっては仕方ありません。しかし全員をご案内することは致しかねますので……エトワール様と、お帰りになられたという主君以外に1人まで同行を認めましょう。それ以外の方はこちらでお待ちいただきます。よろしいですか?」


「あぁ、十分だとも! それじゃあレオン、君と一緒に奥へ入る人物を選びたまえ!」


 2人の会話を邪魔するわけにもいかず、ひとまず尊大な態度を維持したまま数歩後ろで立っていたレオンに、エトワールが水を向ける。


「ふむ……そうだな」


(有事の際に戦力的に頼れるのは承影だが、エトワールで十分な気もする。一方茜雫はコミュ力も高く外交に強い、連れていくならどっちかだな……とりあえず、ピクシーはまだ存在に気づかれてなさそうだ。念のため袖口に隠れてもらおう)


 思考しながら、腕を組む動作に紛れてピクシーを袖口に押し込む。

 ピクシーは驚いていたが、レオンの意図を察して抵抗せず声を出さないことに徹し、エトワールもそれに気づいた様子だったが、あえて指摘せず笑顔でレオンを見つめている。


「よし、茜雫。共をせよ」


「はっ。承知いたしました」


 レオンが、後方の茜雫へ視線を向け同行を命じると、彼女は一礼してレオンの一歩後ろに控えた。その表情が僅かに嬉しそうだったのは本人しか知らない。


「では承影、しばらく部隊を任せる。頼むぞ」


「はっ、お任せを」


「決まったみたいだね、では行こうか!」


 そう言い残したレオンに承影が一礼。

 そして3人は、門番に連れられ城内に入っていった。


 ————————————————————


「失礼します。大天使様、お客様をお連れいたしました」


 廃城と呼ばれながら、隅々まで手入れの行き届いた絢爛な城内を進み、最奥の最も豪華な扉を門番がノックする。


「お入りいただいて」


「はっ。この奥で『大天使』がお待ちです。どうか失礼のないよう。お入りください」


 中からは、若い女性のような声が聞こえた。

 門番は3人、とりわけレオンと茜雫へ形式的に忠告を残すと、扉を開き入室を促す。


「あぁ、案内感謝するよ! では2人とも、行こうか!」


 開いた扉の先へ、意気揚々と進むエトワールとその背を追いかけるように後に続いたレオンと茜雫。

 扉の先は、元は謁見の間だったのだろう。縦に長い大部屋の両端には陽光を室内に迎え入れる大窓、奥の5段程度の階段の上には鎮座する玉座があり、そこに鎮座するプラチナブロンドの長髪とその背に六の翼を持つ女性は、芸術品のように整った容姿をしており、『造られた美の究極系』という言葉が最も似合う存在だという印象を与える。

 そして室内に入り、階段の下辺りまで進んだところでエトワールが玉座に向けて手を振った。


「やぁ『大天使』。久しぶりだね!」


「あっ、エッちゃん! 2000年ぶり〜♪」


(……えっ、そういうノリ? というかエッちゃん??)


 エトワールの挨拶に応じた『大天使』の態度は、見た目の荘厳さとは裏腹にとても砕けたもので、女子高生が友達に話しかける時のような態度だった。

 そのギャップに不意をつかれたレオンと茜雫は、思わず目を丸くしてポカーンと口を開けてしまった。

 両者とも咄嗟に我に帰り表情を引き締めたが、彼らが受けた初見の衝撃は並大抵のものではない。

 しかし、そんな2人を無視してエトワールと『大天使』の会話は続く。


「いきなり来るなんて珍しいじゃ〜ん。今日はどしたの?」


「あぁ、君に合わせたい相手がいてね。紹介するよ、彼はレオン。かつて君たちを生み出した造物主にして、最強の魔王『始原の魔人』の転生体さ!」


 横に立つレオンを両手で示しながら、大々的に告げたエトワールに『大天使』は小気味よく笑う。


「へぇ? 確かに少し前にマスターと同じ波動を感じたし、無い話じゃないね♪ でも一見、ただの脆弱なハーフエルフにしか見えないんだけど……エッちゃんがそこまで言うんなら何か根拠があるんだ?」


「もちろんさ! 彼の近くに来れば、君にもわかるはずだよ」


 エトワールにそう断言され、レオンは興味深そうな視線を向けた『大天使』は、一瞬で玉座から消えたかと思えば、次の瞬間にはレオンの顔を息がかかるほど近くで覗き込んでいた。


(うお、近い近い近い!!)


 絶世の美少女と言って差し支えない『大天使』にゼロ距離で見つめられ、不覚にもドキッとするレオン。

 動揺を顔に出さなかったのは、日頃の演技訓練の賜物だろう。


「ふ〜ん? 確かに微弱だけど、マスターと同じ息吹を感じる……エッちゃんの言ってたこと、本当なんだ」


 その様子を見た茜雫は微かに頬を膨らませ、密かに『大天使』に妬ましげな視線を送る。

 一方レオンは、必死で動揺を抑え込み、眼前の天使の額に右手を添えてゆっくりと押し退けた。


「して、確認は済んだか?」


「はっ、もちろんにございます。そのお声、声音は変われど確かにマスターのお声です……」


「ふははっ! 当然だとも! 僕のお墨付きさ!」


『大天使』は、先ほどまでの軽々しい態度とは打って変わって、その声に畏怖や敬意、歓喜など様々な感情を滲ませながら、瞳に涙を浮かべてレオンの前に跪く。

 エトワールは、それを見て心底楽しそうに高笑いしていた。


「先刻の無礼を、どうかお許しください。我ら天翼種一同は、マスターのご帰還を心よりお待ち申しておりました」


い。全て許す」


(正直、俺がこの人たちを作った人物の生まれ変わりってあんまり実感湧かないけど!)


 そして大天使が傅いてから数秒後、謁見の間の扉が開く。

 そこから部屋を埋め尽くさんばかりの天使たちが雪崩れ込み、綺麗に整列してレオンの背後で跪いた。

 天翼種の持つ能力『魂の回廊』で、『大天使』の経験と記憶が種族全体へ共有されたのだ。


「マスター。我ら天翼種に、今一度マスターにお仕えする栄誉をお与えいただけないでしょうか」


『大天使』が全体を代表して進言する。

 両翼を折り畳み、深々と頭を垂れる背後の天使たちを流し見たレオンは、ニヤリとほくそ笑んだ。


「良かろう。お前たち、よくぞ今日まで待った。褒めて遣わす」


(よっしゃぁぁぁ! 思わぬ形で天翼種も仲間入りっ! 前の自分ナイス! しかも、俺のことを造物主って信じてるなら裏切る心配も薄そうだ! もちろん警戒は怠らないけど、これは僥倖! ナイスアシスト、エトワール!!)


「勿体なきお言葉、光栄にございます」


 不遜な態度で彼らを労ったレオンは、その内心では思いきりガッツポーズをとっていた。

 その足元では、窓から差し込んだ光が『大天使』を照らし、艶やかな髪と純白の翼を喜色に煌めかせる。


「さて、『大天使』よ。まずは確認だ。現在、天翼種はどのくらいいる?」


「はい、その数およそ2000名でございます」


(にっせっん!!? そんな数の飛行能力持ちと殺り合おうとしてたの!? 無謀だよ! 死ぬよ! マジで穏便に引き入れられてよかったぁぁぁ……)


「良いな。よし、外にみなを集めよ。お前たちにも名を与える」


「……よろしいのですか?」


 名を与えると言われた『大天使』は、キョトンとした様子で主君を見上げる。

 その瞳には期待と喜びが満ちていた。


(よかった、ピクシーに出てもらう必要はなかったな)


 ————————————————————


「それでレオン。彼らを仲間にしたはいいが、次の一手はどうするのかな?」


 5日かけて天使たち全員への名付けを終え、城の一室で1人ベッドに寝転がって休息をとっていたレオンの元を訪れたのは、彼に何かしらの期待を寄せた様子のエトワールだ。


「【黒天宮こくてんきゅう】を目指す。あそこには、俺の求める物がある……気がするのだ」


(正確には南雲の受け売りだけどっ!)


「ふむふむ。それが君の描く脚本か、良いじゃないか! 確かにあそこは昔、君が築き上げ治めていた国だ。尤も今は、新参とかつて君に仕えた古参の魔族が跳梁跋扈すると聞く。ま、僕もいるし、君なら心配はいらないかな!」


(んーその話が本当なら、新参はともかく古参は上手くやれば引き込めそうだな)


「そういえばレオン」


「なにかな?」


 高笑いをやめて何気なく話題を変えようとするエトワールに、レオンも自然な演技で応じる。


「君が役者になっているとは思わなかったよ。一体どういう心境の変化だい?」


「ハハハハ、ナニヲイウー」


「突然大根芝居になるじゃないか」


 不意を突かれたレオンは、棒読みになりながら乾いた笑い声を出した。

 それを聞いたエトワールは、どこか可笑そうにクツクツと笑いを堪える。


「……なぜ、わかった?」


「僕の通り名を忘れたかい? こと演技において、僕ほど熟達した者はそういないさ」


 前髪をファサッと片手で下から撫でて靡かせながら自慢げに語るエトワールを、レオンは呆気に取られながら見ることしかできない。


「まぁ理由はわからないけど、僕と2人の時くらいはありのままの君を見せてくれても良いんだよ? 何せ僕らは、そう! 8000年前より変わらない絆で結ばれる親友なのだから!」


 レオンは、まるで覚えのない友情を理由にここまで良くしてくれるエトワールの存在に、複雑な感情を抱いていた。

 彼の言葉を信じてみたい気持ちと、出会って一週間程度の親友を自称する強者への疑念。


「どうやら、まだ迷っているようだね。今はそれで構わない! 君がいつか僕を真に友と思えた時、君の素顔を見せてくれればいいさ! それまで、僕もこのことは秘密にしておくからね!」


 レオンは「ハーッハッハッ!」と気持ちのいい笑い声と共に部屋を後にするエトワールの背中を、ただ呆然とした様子で見守ることしかできなかった。


 ————————————————————


 ——翌朝。


「全隊! レオン閣下に注目!」


 承影の号令で、城外に集まった全ての人狼、鬼人、そして天使たちが綺麗に整列し、大橋の前に立つレオンへ頭を垂れる。


「諸君、いよいよこの時が来た! 我らが【黒天宮】へ進軍する時だ!!」


「「「「「おおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」」」」」


「不可侵領域ではあるが、恐れるな! 諸君らと、俺、そしてエトワールもいる! 共に征こう!」


「「「「「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!」」」」」


 全軍の興奮も最高潮に達したところで、レオンの前に歩み出てくる者がいた。


「ミカエルか。どうした?」


『大天使』と呼ばれていたその天使は、レオンから「ミカエル」の名を与えられていた。


「はい、恐れ多くもマスター。【黒天宮】へ征かれるのでしたら、わざわざ進軍なさる必要はございません」


(えっ、なに? そうなの??)


 跪いて進言するミカエルを、目を丸くして見下ろすレオン。

 その横で、エトワールは何か知った様子で頷いていた。


「あぁ、そうだとも! 何せ、君にはこの『天空城レーゼンハイド』がっ! あるのだから!!」


(ラ○ュタは本当にあったんだ! じゃないわ! なんだそれ聞いてないんだけど!)


 背後の廃城を示して高らかに謳い上げるエトワールに、その表情をわずかに引き攣らせながら内心でノリツッコミと大忙しのレオン。


「恐れながら、マスターは以前の記憶を失っておいでだと聞き及んでいます。ですので、この城の本来の役割をご存じないのも、仕方がないかと」

 

「ミカエル、卿は優しいな……すまぬが、この城について俺に教えてほしい」


「はい。この城はかつてマスターが【魔国領】より切り離した【黒天宮】の本殿でございます。尤も、その事実を知るのは私を始めとした天翼種一同と、お隣のエッちゃん、魔国領に残った古参の配下のみでございますが」


(本殿切り離してたのかよ……昔の俺は一体何を考えていたんだ……)


「この城は、切り離しの際に使用した浮遊術式を再起動して、天空を渡る巨大な要塞として運用が可能な状態でございます。この機能を使えば【黒天宮】まで、およそ数日から数週間ほどで到着いたします」


(そんな便利な物があったのかよ!! 巡り合わせというべきか運が良かったというべきか……まぁいい、使える物は使わせてもらおう)


「実に良いな。ミカエル、卿がいてくれて助かる」


 優秀な部下や、成果を出した部下を素直に褒めるのは生前の癖だったが、それは転生してからも変わらない。

 レオンが無意識にミカエルの頭にポンと手を置き、子供を褒める親のような手つきで撫でた。


「ま、マスター! あ、ありがとう、ございまひゅっ」


 当のミカエルは、照れた様子で耳まで朱に染め、甘噛みしながら気持ちよさそうに撫でられていた。

 茜雫が、それを羨ましそうに遠目に眺めていたことには、エトワールしか気づいていなかった。


「では、諸君。予定変更だ。これより、この『天空城レーゼンハイド』で、我らは【黒天宮】を目指す!」


 ひとしきりミカエルを撫で終え、全体へ宣言したレオンは、存在しないマントを翻すように踵を返し、城内へ帰っていく。


(わざわざ外に出た意味、あんまりなかったな)


 そしてミカエル指導の下に、主君であるレオンの承認を持って術式を起動した天空城は、水面を揺らしながらその巨躯を緩やかに持ち上げ、空へ飛び立つ。

 それに伴い、地上との連絡通路であった大橋に亀裂が入り、およそ7:3の比率で砕けて落ちた。

 そして地上からおよそ5000m、エベレストよりも少し低いくらいの位置まで上昇した城は、進路を東北東へ定め緩やかに進み始めた。


(ふぁ〜、ひとまず【黒天宮】まではお休みだな)


 飛行開始から数日。

 レオンは謁見の間の玉座で、ゼンゼを抱き抱えながら欠伸を噛み殺していた。

 ミカエルによれば、この城には飛行期間中に食糧難に陥らないように確立された食糧庫と、食糧生産ラインが存在するらしく、それを聞いたレオンは、当初空いた口が塞がらなかった。

 加えて防衛もバッチリとこの城一つで全てが完結しており、わざわざ新たな拠点を作る必要が無いなと思ったりするレオンであった。

 一方、彼の眼下では承影、茜雫、ミカエル、シルヴァ、ピクシーと言った主要メンバーが定例会議を行なっていた。


「目下、課題になるのが【黒天宮】に着いたあとだな」


「えぇ。兄様の言う通り、こんな巨大な城がやってきたとなれば大騒ぎになるでしょう」


「ん〜『金獅子』や『大剣豪』みたいな昔の配下たちは、まだ生き残っていれば私たちみたいにマスターの元へ戻ってくるだろうけど〜」


 あれこれと意見を出し合い、時には議論してその日の会議も終わりに近づいたころ。


「それにしても、閣下が『始原の魔人』の生まれ変わりとは……」


「前々からすごいとは思ってたけど、ほんと予想外だよね〜」


 ミカエルの話を聞いて、未だにどこか実感がなさそうな様子のシルヴァとピクシーが、玉座で頬杖をつき、船を漕いでは目覚めを繰り返している主君を見上げる。

 そこへ、承影や茜雫も話に加わってきた。


「しかし、閣下の強さを思えば、あり得ん話でも無いと思うがな」


「はい。閣下は、本当に強くて素敵でカッコいいですから!」


「そうだな。あの方の底知れない頼もしさとカリスマは、生まれ変わりと言われれば納得がいく」


 兄妹の意見に、首肯して同意するシルヴァ。

 そして、いよいよレオンが眠気に抗えず眠りに落ちてしまった。

 茜雫はそんなレオンの寝顔を優しい目で見つめ、そっと毛布を膝にかけた。


「それにしても……」


「あぁ……」


「なんでマスターは、わざわざ私たちに取り繕った態度を取られるのかな?」


 茜雫、シルヴァ、ミカエルの3人が揃って頭に疑問符を浮かべる。

 古より仕えてきたミカエルのみならず、レオンの側近として少なくない時間を過ごした茜雫やシルヴァも、主君の日頃の態度が本来の彼のもので無いことには勘づき始めていた。

 一方でそんな3人の疑問に、密かに冷や汗を流す人物が2人。


「………………さぁ?」


「……閣下にも、きっと何かお考えがあるのだろう。俺たちがやるべきことは、閣下のご意志を汲み取り、邪魔をしないこと。違うか?」


 ピクシーと承影だった。

 事情を知る彼らは、レオンに万が一がないようにそれとなくフォローをする。


「そうだね。私たちが下手に詮索して、マスターのご意向の妨げになってはいけないし!」


「お兄様の言う通りですね! どのような理由であれ、私は閣下のお力になるだけです!」


「一塊の従者ごときが、閣下の御心を押し測ろうなど、過ぎた真似であったな」


 三者三様の納得を示し、その疑問から興味を失った3人は、レオンの役に立つべく城内へ散っていった。

 それを見送ったピクシーと承影は、


「……ふぅ、危なかった。アイツら勘が鋭いな」


「ほんとヒヤヒヤしたよー、レオンには……知らせないほうがいいよね」


「あぁ。レオンにはこのまま、うまく騙せている、と思い込んでもらう。幸い、あの3人がこれ以上詮索することはないだろうが……他にも同じような奴が出た時のために俺たちでフォローするぞ」


「うん! レオンに何かあったら大変だもんね!」


 より一層決意を固め、誓いを新たにレオンが目覚めるまで護衛をするのだった。

 ————————————————————


 その頃。天空城より遥か南方のイースフィア帝国にて。


「アイゼン、ただいま調査より戻りました。お耳に入れたいことがございます」


 謁見の間を訪れたのは、皇帝の勅命により単独調査に出ていたもう1人のS級兵士、アイゼンだった。

 彼は皇帝の眼前に歩み出て跪き、玉座に鎮座する皇帝の許可を待つ。


「ご苦労、申してみよ」


 老年の皇帝は、年相応の貫禄のある声で厳かに許可を出す。


「はっ。北方の魔族領にて、奇妙な集団を目撃いたしました。その一団は、人狼に跨る鬼人が70余りと、それらを引き連れるハーフエルフで構成されており、魔王エトワールと思しき存在が同道していることを確認しております」


「魔王エトワール……この期に及んで一体何を……わかった、ひとまず下がって良い。何かあれば追って指示を出す」


 忌々し気にエトワールの名を呼んだ皇帝は、アイゼンを下がらせると胸元まで伸びた顎髭を撫で、目つきを鋭くして虚空を睨み付ける。


「奴が動いたということは最悪の場合……どうやら、悠長にはしておられんらしい」

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