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Edens Entelecheia -ラクエンテンセイ-  作者: 迷迭香
第一章 最弱の強者が目醒める
6/16

方針会議

 あの戦いから10日後——


「……知らない天井だ」


 目を覚ましたレオンの視界に入ってきたのは、見覚えのない木製の天井だった。


(まさか、このセリフを地で言うことになるとは思わなかった……もしかしてここが天国なのか?)


 上体を起こしてあたりを見渡すと、どうやら自分はどこかの家屋のベッドで寝かされていたらしいことを理解する。

 室内には自分1人、正面の窓からは顔を見せ始めた太陽から眩しい陽光が差し込み、室内を明るく照らしている。

 その時、誰かが扉をノックする音が聞こえた。


「失礼致しま——主様! お目覚めになられたのですね!!」


 部屋を訪ねてきたのは、承影の妹だった。


「あぁ、迷惑をかけたな」


 その声を聞いて、自分がまだ死んだわけではなかった事を認識したレオンは、小さく右手を上げて彼女に応える。


「痛いところなどはございませんか?」


「あぁ、その辺りは問題ない。して……あれからどうなった?」


(あぁそういえば、彼女にはまだ名前をつけてなかったか。呼び名がないのも不便だなぁ)


 呼びかけようとして、呼び名がない事を思い出す。


(彼女や他のみんなに似合う名前を考えておこう)


「はい。あの後すぐに、兄が人狼族へ向けて長の討伐を宣言しました。ほぼ全員がその光景を見ていましたので、人狼側も素直に降伏しました。我々の勝利でございます! 主様のおかげです!」


 彼女が嬉しそうに、そしてどこか誇らしそうに勝利を報告する。


「それは何よりだ」


(おぉ〜、人狼の長に胸を貫かれたところから記憶が曖昧だったけど、やっぱり承影ってちゃんと強いんだな)


 それを聞くレオンは、どこか他人事の様子。

 自身の内側に眠る力のことも、長を殺したのが自分自身であることも、全てすっかり忘れていた。


「さて、他の皆にも顔を見せにいかねばな」


「それはいいですね。では、里の皆を集めて参ります! 少しだけお待ちくださいね」


 両手を合わせ、満面の笑みで賛同した少女が一礼して外へ駆け出していった。

 約10分後。彼女が再び戻ってくると、レオンは彼女に連れられて外へ出る。


「で、これは一体どういうことだ……」


 レオンが玄関を出てすぐ、5段程度の階段の先には承影、ゼンゼ、ピクシーをはじめとした全ての配下、その数なんと150人以上が集まっていた。

 彼らは主君の姿を認めると、全員その場に跪いてレオンの言葉を待っている。

 しかし、それを見たレオンは何よりもまず疑問符が頭に浮かんだ。


「なぜ人狼族までここにいる……?」


 そこには鬼人だけでなく、鋭い牙と爪を持ち、鋭い目つき、全身を覆う灰色の艶やかな毛並みとその尻尾が特徴的な人型の存在、人狼も含まれていた。


 ————————————————————


 そもそも、魔族というのは上昇志向の塊である。

 しかし、それは裏を返せば己が強者と認めた相手には従順ということだ。

 レオンが意識を手放した直後、承影の降伏勧告を受けた人狼達は即座に戦意を放棄して平伏を宣言。

 そうして、レオンは本人すら気づかない内に、人狼族をも手に入れていた。

 ——という一連の話を後方に控えた少女から聞かされたレオンは、遅れて事態を理解し苦笑いを堪える。

 その時、人狼の中の一匹が一歩前に歩み出てきた。


「おはようございます、閣下! 我ら人狼族を代表して、新たに主君となられる貴方様にご挨拶させていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」


 階下で片膝をつき、胸に手を当てて拝礼する人狼に、レオンは戸惑いながら許可を出す。


「ありがとうございます! では改めまして宣言を。レオン様、貴方様という新たな主君に出会えた事を心から喜ばしく思います。我ら人狼族一同、貴方様の御心みこころのまま牙となり盾となりますので、どうか最大限活用し、御身のいしずえの糧として頂ければ、史上の喜びでございます!」


 仰々しく挨拶をしながら、犬科の習性か尻尾を大きく左右に振って首を垂れる代表と70体強の人狼達。

 人狼たちは、あの後生き残っていた個体は自前の再生や、鬼人たちの解毒処置を受け、この10日間で傷を完治させていた。


(なんか……仲間になってみると大型犬みたいだな、まぁ事実狼だから犬といえば犬なんだけども……後で撫でたら怒られるだろうか)


「う、うむ。まぁそう畏まらずとも良い。楽にせよ」


「「「「「はっ!!!!!」」」」」


 その一言を受け、深々と一礼して元の位置に戻る代表。

 全体を見渡し、レオンが口を開く。


「諸君。まずは先の戦をよくぞ戦い、また生き抜いた! これだけ多くの者を迎えられた事、俺は嬉しく思う!」


 レオンの言葉の一言一句を噛み締めるように、跪いたまま耳を傾ける一同。


「さて、奮闘してくれた諸君に褒美をやりたいところだが……その前に、まずは諸君に名前をつけたいと思う!」


 その言葉に一斉にざわめき、そして歓喜の声が上がる。


「本当によろしいのですか!?」「ありがとうございます、閣下!」「何よりの褒美です!!」「一生ついていきます!!」「閣下万歳!」「「「万歳ーー!!」」」


(名前つけるだけでこんなに喜ぶものなのか……? だったら自分たちで付け合えばよかっただろうに……ま、いいか)


 レオンはまだ気づいていないが、「名付け」という行為はこの世界において重用なもこだ。

 名前を持つこと、それは「魔王へ深化しんかする資格を持つこと」を意味する。

 承影とゼンゼに名付けたレオンや、森でずっと孤独だったピクシーやゼンゼはその事実を知らない。

 唯一知識があった承影は、恩人であるレオンについていくと決めていた為に当時は気にしていなかったが、あの頃を振り返って当時の自分の厚顔無恥さを密かに恥じる。

 一方、歓声を上げて喜ぶ一同を宥めて一列に並ばせたレオンは、先頭に並んだ少女から名付けていく。


「まずは卿からだが、実はもう決めてある。茜雫せんな、これが今から卿の名だ」


「せんな……素敵な名前ですね! 主様から頂いた貴重な名前、大切にいたします!」


 茜雫は嬉しそうに両手を胸の前で合わせ、レオンに一礼すると承影の元へ駆け出していった。

 年の頃を考えると14-5歳程度だろう茜雫が年相応に喜びながら、小躍りしそうな勢いで嬉しそうに兄に報告している姿と、そんな妹を優しい目で見つめながら頭を撫でている承影の姿を見て、レオンや周囲の面々はとても微笑ましく尊いものだと親心のような物を抱いた。

 そして、気を取り直して次の配下を呼ぶ。

 次は先程挨拶していた人狼の代表だった。


「さて、次は卿だな。ふむ、そうだな……シルヴァ。うむ、これがいい」


「ありがとうございます! このシルヴァ、頂いた名に恥じぬよう尽力して参ります!」


 大喜びで列を外れるシルヴァ、そんなこんなで150人余りの配下全員に名前をつけて行ったレオン。

 全員分つけ終わる頃には既に日が暮れ始めていた。


「よし。これで、全員……名付けが、終わったな」


 ぶっ続けで名付け続けたせいか、一日働いたのと同じくらいの疲労感に見舞われてしまったレオン。

 一方それとは対照的に、名前をもらえた配下たちは一様に生き生きとした様子で喜びを分かち合い、自らの名を自慢しあっている。


(俺が弱いってバレたら、ここにいる全員から狙われるのか……この前の戦いじゃヘマしちゃったし、これ以上やらかさないようにしないと)


 自身の活躍をすっかり忘れている為レオンはまるで気づいていないが、「レオンに下克上をしよう」などという考えを1ミリでも抱いている者は、誰一人として存在していない。


「さて、それじゃあ明日からは里の復興を始めるぞ!」


 そしてレオンが全体に向けて解散を宣言しようとした時、茜雫の手が上がった。


「あの、それに関してなんですが……里の復興は、主様が眠られていた10日間でほぼ終わっていますよ?」


「ん? え、マジ? というか俺10日も寝込んでいたのか??」


「はい、左様でございます」


 想定外の事実に思わず威厳の欠片もない素の反応をしてしまったレオン。

 幸い、配下たちが気にした様子はなかったので、自分で自分にぎりぎりセーフ判定を出す。

 茜雫の言った通り、里の復興は10日の間に済んでいた。

 というのも、里を降った利点を戦場に選んだ事、人狼族は兵糧攻めこそしたが、侵略するつもりだった為に里への破壊行為はほとんどしていなかった事、などが幸いし、物理的な被害はほぼ0に等しかったのが大きな理由だ。

 一方で修復が必要な部分も、人狼族と鬼人族の協力してほぼ元通りになっている。

 肝心な両種族間の確執問題も、「主君を失望させない」という総意の元に存外穏便な和解を迎え、今では手を取り合うことができている。

 いわゆる『昨日の敵は今日の友』状態であった。

 茜雫からそんな詳細を聞かされたレオンは、少し不意を突かれた様子でいたが、2秒で思考を切り替える。


「うむ、うむ!! 諸君、実に大義であった! ならば言うことはあるまい! 明日は今後の方針を決める会議を行う。承影、ピクシー、ゼンゼ、承影、茜雫、シルヴァ。以上6名は明日の正午に本部の会議室まで来るように。他の者は、各自農業や狩りに励み食糧問題の改善に励め! 以上、解散!!」


「「「「「「はっっ!!!!」」」」」」


 そう高らかに宣言して締め括る。

 そして、その日の晩。

 レオンは承影から名付けに関する常識を聞いて、「え゛っ」と情けない声を出して驚く。


(魔王になった配下に下克上とかされたらどうしよう……いや、もし魔王になる個体が出てきたら、それ自体は仲間が強くなってくれて喜ばしいことなんだけど!!)


 と、配下が自分をどう見ているか知らないレオンが、密かに必要のない悩みを抱えることになったのはまた別のお話。


 ————————————————————


 翌日正午。


 前日の指示を受けて、かつての対策本部であった会議室に集った6人。

 レオンは円卓を囲むように席についた一同を見渡して、全員が揃った事を確認する。


「うむ。揃ったな。ではこれより、我々の今後の行動指針に関する会議と、それに伴って俺の目的を共有したいと思う」


 そう切り出したレオンに、全員の視線が集まった。


「まず、俺の目的だが……それは【黒天宮こくてんきゅう】に行くことだ」


「【黒天宮】ですか!?」


「恐れながら閣下。いくら閣下でも、あそこは危険すぎます!」


 驚きのあまり思わず立ち上がって異を唱えるシルヴァと茜雫。

 そんな2人の様子を見てかつての承影の反応を思い返す。


(ま、そういう反応になるよねぇ)


「落ち着けお前たち、閣下は何も無策で行くとは言っていない」


「そうそう! ちゃ〜んとそれ相応の準備はするからねっ♪」


「(プルッ‼︎ プルプルッ‼︎)」


 それに対し、旅の初期メンバーだった3人が2人を宥めた。


「その通りだ。それに、急ぎの旅でもないのでな。準備は念入りにしていく。それに今は卿らがいるだろう?」


「はいっ! この茜雫、どこまでも主様にお供いたします」


「無論、自分も同様です。閣下の歩む道が我らの道、どんな場所でもお供いたします!」


 レオンに向けられた信頼と期待の入り混じった視線を受け、2人は、それに応えるように熱の篭った返事をする。


「うぬ、頼りにしているぞ。さて、それを踏まえて今後の方針に関してだが……俺から提案をする前に、諸君の考えを聞きたい。意見がある者はいるか?」


 そう言って、レオンが見回すようにそれぞれに視線を送っていく。

 最初に手を挙げたのはシルヴァだった。


「それでしたら閣下、【黒天宮】へ向かう為にも、まずは配下を増やしてはいかがでしょうか」


「ほう? 詳しく聞かせてくれたまえ」


「はい。幸い、人狼族も鬼人族も魔族の中でも上位種。そして何より、我らを率いる閣下がいらっしゃいます。【黒天宮】に乗り込むにはまだ心許ないですが、通常の戦力としては十分強力です。ですので、他の種族に戦を仕掛け傘下に加えられては……と」


 シルヴァから提案されたのは、有体に言えば侵略戦争をしようという物だった。

 しかし、それに茜雫が待ったをかける。


「案としては悪くないですが、問題はそんな悠長な事をしている時間があるかどうかです。最近は帝国の動きも活発になってきましたしそもそも鬼人の主力が出払っていたのだって、元はそれが原因です。他の種族と争ってるところを帝国に襲われでもしたら、それこそ全滅必至ですよ」


 彼女の言う通り、鬼人族が帝国と戦っていたのは、魔族根絶への動きを本格化させた帝国による進軍が、鬼人族にとって無視できない領域まで進んでいたからだ。


「むぅ……ではどうするというのだ」


「あぁ……それについてなんだが、多分大丈夫だと思うぞ?」


 承影が茜雫とシルヴァの議論に割って入る。

 当然、2人の視線が承影に突き刺さった。


「兄様、なぜそのように思われるのですか?」


「あぁ。そもそも閣下に【黒天宮】を目指すように言ったのは、他でもないナグモだからだ」


「「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?!?!?」」


 2人の絶叫が会議室に響く。

 突然大音量に襲われたピクシーが目を回してクラクラしながら倒れ込み、それをゼンゼが優しく受け止めた。


「失礼。つい、声を荒げてしまいました」


「無礼をお許しください」


 我にかえり恥ずかしそうに座り直す茜雫と、レオンへ頭を下げ謝罪を述べてから着席するシルヴァ。


「まぁ、そういう反応にもなろう。何せ意図的に見逃されたと同義であるからな」


「あれは、閣下に何かをさせたいような様子だった。ナグモにも何かしら殺すこと以外の目的があるのだろう」


「同感だ。もし本気で殺す気なら、あの場で俺は斬られていただろうよ。尤も、罠である可能性もないわけではないがな」


「まぁ、そういうわけで少なくとも【黒天宮】にいくまでは、ナグモと奴が率いる部隊からの邪魔は入らないと思う。南雲以外の帝国の他の部隊は、現戦力とこれから加わる戦力でも十分対応可能だろうしな」


 承影の言う通り、ナグモさえいなければ勝っていたのは定刻ではなく鬼人族だった。

 それほどナグモと他の差は大きい。


「では、私から一つ宜しいでしょうか?」


 そこで茜雫が再び手を挙げる。


「あぁ、言ってみたまえ」


「はい。それでしたら、シルヴァさんの案を取り入れ、魔族の連合軍を作ってはと。【黒天宮】の他にも帝国にも対処しなければいけないなら、戦力は多いに越したことはありません」


「それじゃあ……その軍が駐在する拠点もいるよね……」


 茜雫の提案に、未だフラフラしながら千鳥足さながらの様子でゆっくりと羽ばたくピクシーが付け加える。

 他の面々もそれには賛成の様子で、あれやこれやと意見を出し合い、議論が本格化していく。

 レオンは、それを顎に右手を添えて考える人増のような姿勢をとりながら、うんうんと相槌を打って全員の意見を聞く。

 そしてゆっくりと立ち上がった。

 当然、議論を交わしていた全員の視線が集まる。その視線を満足気に受け止め、口を開いた。


「ふむ……では、やはり作るしかあるまいな。楽園を」


「楽園……ですか?」


 キョトンとしているシルヴァに、レオンは「その通りだ」と頷く。


「これは元から提案しようと思っていたことなんだがな、みなの意見がその方向に纏まり始めてくれたのはありがたい」


(プレゼンテーションとか久しぶりだなぁ……会社でも会議で時々こうやって自分の案を発表したっけ)


 そしてレオンは一つ咳払いをして、胸を張り右手を斜め前に掲げる。


「俺の提案するのは、シルヴァと茜雫の案を取り入れながら、俺に付き従う魔族たちが安心して暮らせる国……魔族の楽園を作ると言うものだ!」


(肉とか食べたいし、国が発展したらお風呂を作りたいし!)


「その為にこの鬼人の里から始まりとし、他種族を束ね、やがて魔族を統一できるほどに巨大な国を築き上げる! 決して簡単ではないだろう、しかし不可能だとも思っていない! なぜなら俺には卿らがいる、卿らには俺がいる。どうだろうか?」


 そう言って演説のような短いプレゼンを締めくくる。

 他のメンバーは、パチパチと拍手を送ってくれていた。


「いいですね! それが達成できれば、軍の駐屯問題も戦力問題も解決できます!」


「実現に漕ぎつければ帝国への牽制にもなる! 素晴らしい案だ!」


「世界を統べる閣下の覇業の第一歩というわけですね! 全力でお力になります!」


「でも、それを実現するにはこの里はあんまり立地が良くないね〜」


「では他の種族を引き入れ、めぼしい立地の拠点を基盤にすればいい!」


「おっ、承影冴えてる〜♪」


 一気に会議室が沸き立ち、提案者のレオンを置き去りに議論がさらに白熱。気がつけばレオンの案は、文句の付け所がないほどにブラッシュアップされていた。


(俺置いてけぼり……まぁみんな活き活きしてるしいっか。優秀な部下を持って俺は嬉しいよ)


 そんな周囲の様子を見ながら、レオンは静かに席に着いたのだった。


 ————————————————————


 そして、今後の方針が固まった。最終的な内容はこうだ。

 ・次は北に住まう天翼てんよく種を引き入れ、そこを次の拠点にする。

 ・レオン主導で彼らの飛行能力に対抗する武器を作る。

 ・食糧と装備を万全にし、全員で大遠征を行う。

 勝つ事を前提としているが、事実十分勝てるだけの戦力は揃っている。

 あとはレオンが鬼人たちの火薬技術を用いて、現代でも強力な兵器だった銃の前身である火縄銃を製造する。

 これにより魔法と近接戦闘による白兵戦だけでなく、射撃部隊を編成する事が可能になるのだ。

 この方針で纏まった一同は、その日から早速、部隊編成、戦闘訓練、火縄銃の試作、遠征用資源の確保と準備など慌ただしく動き始める。

 帝国がいつ攻めてくるともわからない状況で、猶予などあってないような物だ。

 しかし、そんな状況下でレオンにとって嬉しい誤算もあった。それは鬼人と人狼の相性の良さだ。

 2人1組のペアを組んだ彼らは、移動時は人狼が狼形態で鬼人を乗せ駆け、戦闘になれ浪人フォームになり、スピードで翻弄しながら鬼人が魔法と剣や弓で支援。

 これが思った以上に強力な上に、人狼族の持つ能力『思念伝達』が仲間と認めた鬼人たちにも適用されることがわかって戦闘力が爆発的に上昇した。

 また時間こそかかったが、火縄銃も火車の技術を一部応用し、地雷にも用いた爆発の魔法を込めた魔弾を打ち出す銃として完成に漕ぎ着けた。

 2ヶ月ほど時間がかかってしまったが、その代わりに兵装、食糧、野営具一式、各部隊の編成などあらゆる物を万全と言えるほどに整えることができた。


 そして、いよいよ出立の日。

 日が登り始めた頃、鬼人の里に住まう全ての者が整列し、先頭に立つレオンの言葉を待っていた。


「諸君、これより魔族の頂点に立つと言う俺の覇道が始まる。その目で見届ける準備はできたか?」


「「「「「「おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」」」


 レオンが大々的に宣言すれば、全体から凄まじい熱量の大歓声が上がる。


「ふっ、良い返事だ。ならば征こう! 目指すは天翼種の住処。まずはそこを我が領域とする!!」


「「「「「「おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」」」」」」


 先ほどの倍以上の熱狂が起こり、シルヴァに跨り駆け出したレオン(とレオンの肩に乗るピクシー、レオンの前に抱えられるように乗っかるゼンゼ)に続き、承影、茜雫、そして他の鬼人たちもそれぞれ人狼の背に跨り駆け出した。

 およそ70体強の人狼たちが大地を鳴らす。


 並の国なら蹂躙できてしまうほどの軍隊が、ついに進軍する。

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