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Edens Entelecheia -ラクエンテンセイ-  作者: 迷迭香
Prologue この紅き堕天の園に生まれる
3/16

覇者の行進

 —ゼンゼが仲魔に加わってから3日後の夕方。


 レオンがこの世界に生まれ直してもうすぐ2週間が経とうかという頃。

 今日も森の恵みを分けてもらい、果実の甘みに舌鼓を打っていた時、ついにレオンは抗いきれない欲望に襲われた。


(んんー、そろそろ果物以外のもの、やっぱり米と肉が食いたい。あと温泉……いや普通のお風呂でもいい、あったかいお湯に浸かりたい……できればギターも、いやそれは欲張りすぎか)


 それは、日本で生きた人間ならおおよそ持ち合わせているだろう感覚。どうしようもないほどの肉食、入浴願望だ。

 新しい体は支配人の配慮からか、前世ほどちゃんとした栄養ある食事を定期的に摂らなくても、生命活動自体になんら問題ない。身体もピクシーの水魔法なり、近くの川で水浴びなりすれば清潔になる。

 しかし、やはりレオンも元は歴とした日本人。50年以上慣れ親しんだ味と暖かさを恋しく思ってしまうのはやはり避けられない。

 食事もお風呂も心を豊かにするのだ。


(う〜む、どうにかならないものか……)



「——ということで、みんなに相談してみたわけだけど、どうかな。そういうのってできたりするかな」


「肉か……家畜が必要だな」


「そういうのは、ここにはないよねぇ」


 2人の言う通り、そういったものはこの森の外。まして風呂や米などは現状、人類国家側しか保有していない嗜好品の類であった。


「(プルルル‼︎ プルッ‼︎)」


 頭上のゼンゼが何かを訴えるように小刻みに震える。相変わらずピクシーと承影には、その意図はまるで理解できない。しかし、レオンにとってはそうではなかった。


「……そうだな、ゼンゼの言う通りだ。よし、じゃあ今日出るか、この森の外側に!」


 そんな、思いつきでコンビニへ出掛けるような軽いノリで、この日レオンは、本当の意味でこの世界に生まれ落ちることとなった。



 ————————————————————



 ——同時刻。迷いの森近隣簡易拠点にて。



「隊長、俺やっぱ自信無くしそうっす」


 まだ成人して間もないだろう1人の若い兵士が、手元の剣や外した装備品の点検をしながら、隣で果物ナイフを片手に熟練の手つきでジャガイモの皮剥きをしていた兵士に話しかける。


「どうしたいきなり」


“隊長”と呼ばれたその男は、外見年齢では30代後半と言ったところだろうか、縦傷の入った右目とタンクトップ姿で筋骨隆々という言葉がふさわしい程鍛え上げられた筋肉を晒しながら、繊細な作業を卒なくこなし、優しい声音で後輩兵士に答えた。


「いや、だってそうでしょ。仮にも今回の戦いの最前線だって言うのに、いざ蓋を開ければナグモさん1人で戦局は大きくこっちに傾いた。俺たちや他の部隊のみんなもいたってのに!」


 その兵士が言っている事は、決して驕りでもなんでもない。この2人は国家お抱えの特別精鋭部隊の一員としてこの戦場に送られたのだ。


「パーシー、お前の言うこともまぁわからんでもないんだ。実際、俺たち【RAPID-7】もナグモ准将も分類上はS級だ。だがな、俺たちは7人でS級なのに対して准将は個人でS級だ。まして、あれは個人で1個師団どころか軍隊を当たり前の用に圧倒する。そもそも比較する相手じゃないさ」


 隊長は諭すように話しながら、全ての皮剥きを終えてナイフを置く。

 彼が口にしたように、彼らが所属している「イースフィア帝国」の帝国軍では、通常の軍隊階級以外に、一部の兵士の強さをSからDまでの5段階に区分する特殊階級が存在する。

 この特殊階級で区分されるのは「魔人兵」と呼ばれる、聖遺物アーティファクトユーザーの兵士たちだ。彼ら【RAPID-7】はその中でも最上位のS級に分類されている。

 彼らは、個人単位で見てもA級の上澄みレベルや、中にはS級相当の猛者まで集められたエリート中のエリート。紛れもなく国お抱えの極秘精鋭部隊だ。

 それぞれの階級がどの程度の強さを指すかと言われた時、帝国軍には明確な指標が存在する。


 D級。戦闘向き異能ではない、あるいは異能の制御が未熟である。


 C級。ある程度の殺傷能力を有する異能である。一般の魔人兵はこの階級に位置する。

 単騎でも一般兵10人相当の戦力とされる。


 B級。殺傷能力に偏った魔人兵。自身の異能を完璧に制御し、単騎でC級100人相当の実力を有する。


 A級。聖遺物の能力を十二分に引き出すことができ、単騎でB級10人に相当する。この階級まで行っていれば、世界レベルで見ても上位のユーザーであると言え、帝国軍が誇る魔人兵の中でも3%程度の人数しかいない。

 ちなみに、パーシーはこの階級に位置する。


 そしてS級。これは別名、特別階級とも呼ばれ、1000年以上に及ぶ長い帝国史において、これまでS級に登録されたのは個人で4名、部隊で5つ。そのうち存命、あるいは現役なのは個人2名、部隊で2つだ。

 その指標は「国家転覆が可能なレベル」だとされる。文字通りの超越者、化け物と呼ばれるトップレベルの猛者のみが分類される階級だ。


「ま、いくらS級兵とは言え、こんなやばい戦場を個人でひっくり返される様を目にして思うところがあるのはわかる」


 そして隊長はゆっくりとパーシーの隣りに腰を下ろす。


「ほう? 俺がどうしたというんだ?」


 噂をすればなんとやら。背後からこちらへゆっくりと近づいてくる足音が1つ。そちらへ振り向けば、そこに立っていたのは話に上がったナグモだった。


「うげ、ナグモ准将……いつから?」


「仮にも上官に向かって「うげ」とはなんだ。「俺やっぱ自信無くしそうっす」のところから聞いていたぞ」


 思わず素の反応で驚いてしまったパーシーの様子に、ナグモは「やれやれ」と溜息を吐く。


「いや最初からじゃないっすか!!」


 そしてそんなナグモに、反射的にお決まりのようなツッコミを入れるパーシー。

 一方、隊長はその隣りで欠片ほどの驚愕も見せず、ナグモの来訪を迎える。


「准将、あんまりこいつを驚かせないでやってくださいや」


「すまんな、そういった意図はなかった。しかしそうだな。せっかくだ、驚かせた詫びではないが、パーシー。お前に良いことを教えよう」


 ナグモはそのまま歩を進め、パーシーと隊長を追い越し、振り向き様に黒い外套をバサリと翻した。


「お前が俺を見て自信を失うのは、これが最後になるだろう。これからはもっと自分の力を信じろ。お前たち【RAPID-7】は、そしてお前は、この先で間違いなく必要になる」


 ナグモはパーシーの前でしゃがみ込み、珍しく口角をわずかに上げて小さく微笑みかけ最後にポンと頭を撫でた。

 帝国内でも「鉄仮面」と言われるほど、自身の感情を表に見せないあのナグモが、まるで子供を慰める親のような仕草を見せたことに、パーシーと隊長は目を丸くする。


「……すまんが、野暮用だ。俺はこれで失礼する」


 しかし、突如として右方向へ視線を向けるとそれだけ言い残して、ナグモは簡易拠点から立ち去っていった。

 その後ろ姿を見送った2人が、彼の言葉の意味するところを理解するのはまだずっと先のことだ。


 ————————————————————


 約3時間後——


「そろそろ森を抜けるぞ。覚悟はいいな?」


 いよいよ外の光が見え始めたところで、承影から最終確認が入る。

 それに頷く面持ちは三者三様だが、そのどれも迷いのないものだった。


「よし、ならば行こう!」


 そして4人は、満を持してついに外の世界へ飛び出した。


「うっ……眩しっ」


 木々に阻まれることなく、大地を満たす外界の純粋な光に呑まれ、レオンは反射的に眼を覆う。


「すごいすごーい! 外の世界はこんな感じだったんだね!」


 興奮気味に右へ左へ飛び回り、落ち着きのない様子でくるくる回るピクシー。

 彼らの視界に広がったのは、積み上がる死体の山と一面のレッドカーペット……ではなく、どこまでも広がる翠緑色の平原と、なだらかな丘陵。時折吹く風が草花と4人の頬を撫でる。


「てっきり死体の山とか、一面血だらけの戦場を覚悟してたんだけど……なんだか拍子抜けだな」


「俺が逃げ込んだ方とは真逆に出たからな。迷いの森が壁になって、こちら側へ戦火は飛んで来なかったようだ」


 周囲の美しさに目を輝かせ、どこか脱力したように表情を緩めるレオンと、そんなレオンの横に並び立ってホッと一息つく承影。

 しかし、安堵や感動も束の間。丘陵の向こうから足音と共に、男の声が近づいてくる。


「ようやくのお出ましか。まったく、随分遅かったじゃないか。なぁ、レオン?」


 丘陵の向こう側から姿を表した人物は、星型の装飾が施された平たく黒い軍帽を深く被り、肩には真っ黒な外套、両腕、襟、裾に金色の線が施された黒を基調とした軍服を着て、細長い2本の軍刀を腰に下げていた。

 その男の名は——


「貴様は……ナグモケイタロウっ!」


 声音に殺気を滲ませた承影がすかさず抜刀、しかし彼を諌めたのは他でもないナグモ本人だった。


「まぁ待て承影よ。せっかく拾った命を無闇に散らすこともなかろう……今俺にお前たちを害する気はないのだ。だが、見たところその様子だと、傷はしっかり塞がっているな。良いことだ」


 左手を軍刀の柄に置いたまま、4人を見下ろして語りかけるナグモ。

 ピクシーはその存在感に怯えたのか、レオンの背後に隠れ、ゼンゼはレオンの頭上から飛び降りてレオンを守るように立ち塞がる。

 そして、そんな2人に挟まれるレオンは、ナグモケイタロウという存在に疑問を抱いていた。


(予想はしていたが黒髪、黒い瞳、アジア系の顔立ち、そしてあの軍服。本で見たことがある、色々変な改造が施されてはいるみたいだが、あれは明治時代に日本の陸軍で使われていたものでほぼ間違いない。やはりナグモは日本人だ。ただ、疑問なのは……)


「ナグモさん、だったか? どうして俺や承影の名前を知っている?」


 注意深く疑いの眼差しを向けながら、ナグモへ率直な疑問をぶつけるレオン。

 対するナグモから帰ってきたのは堪えるような笑い声だった。


「ククッ……ハハッ! やはり気になるか。そうだな、その答えを知りたいのなら、ここより遥か北東にある【魔国領まこくりょう】、その中心にある【黒天宮こくてんきゅう】を目指すがいい。そこに全ての答えがある」


「バカを言うな! 【魔国領】それも【黒天宮】など、不可侵領域の中でも特に危険な部類じゃないか! そんなところへ誰が」


「ほう? たった今お前たちは、その不可侵領域から姿を表したのだが……ククッ、まぁお前たちの好きにするが良い。言うべきことは言った。ではな」


 ナグモの言葉に食ってかかる承影。それを軽くあしらい、一方的に話し終わらせたナグモは4人に背を向けて立ち去っていく。


「……まさか本当に襲ってこないとは。運が良かった」


 ナグモの姿が消えるまで、瞬きすらせずにその後ろ姿を注意深く凝視していた承影だったが、気配が消えたことを確認するとホッと胸を撫で下ろし刀を鞘へ納める。

 同時にゼンゼも緊張を解いたのか、レオンの頭上に戻っていく。


「なに、あいつ……視線だけで殺されるかと思った……」


「もう大丈夫だ、ひとまずの脅威は去った」


「それより承影、さっき話に上がってた【黒天宮】ってなんなんだ? そんなに危ない場所なのか?」


 レオンは、未だ恐怖に震え右手に擦り寄ってくるピクシーを指先で優しく撫でて宥める。


「あぁ、その通りだ。……なるほどそうか、森から出たことがないレオンは【始原しげん魔人まじん】の伝承を知らないのか」


「うん、まったく聞いたこともない」


 ここへ来てまた知らない通称が出てきて、レオンは頭に「?」マークを浮かべる。


「【始原の魔人】というのは、今からおよそ8千年前に存在したとされる史上最強の魔王だ。そして【魔国領】はその魔王が築き上げ、統治していた国の領土だったとされる場所、中でも【黒天宮】は彼の魔王が君臨していた城だ。あの場所は、魔王亡き後も濃厚な魔素が満ち、強力な魔族が生まれるだけでなく、彼の配下だった魔族たちが跋扈し、四六時中覇を争う死の領域だ」


 掻い摘んで要点を説明した承影が「あそこへいくのは自殺行為だ」と最後に付け加える。それをピクシーと2人で「うんうん」と聞いていたレオンだったが、彼の言葉はシンプルなものだった。


「……よし、じゃあそこ行ってみるか!」


 ポンと左の掌と右の握り拳を打ち合わせ、またもやコンビニに出かけるかのようなノリで今後の進路を決定する。

 しかし、他の3人の反応は当然——


「「「いやいやいやいや!!(プルルルル‼︎‼︎)」」」


「え、ちょっ、レオン話聞いてた!?」


「そうだぞ! あんな場所へ行くなんて死にに行くようなものなんだ!」


「(プルッ‼︎ プルルルル‼︎)」


 それぞれ驚愕や僅かに呆れた様子でレオンへ詰め寄る。


「いや、話は聞いてたよ? でも全ての答えがあるって言われると……嘘かもしれなくても確かめてみたくて」


(それに、どうしても行かないといけないような気がするし)


 詰め寄られたレオンは、あまりの勢いに両手を胸の前で翳しながら、冷や汗混じりに「あはは……」と3人を宥めようとする。

 彼が内心感じている直感は、彼の50年余りの人生において幾度も彼を手助けしてきた第六感であった。


「そもそもレオン、戦えないでしょ?」


「そうだね、結局魔法も俺は未習得だし、承影みたいに武芸にも秀でてるわけじゃない」


「それはマズイな、魔族というのはほとんどが上昇志向の塊だ。中でも【魔国領】にいるような連中は一層その気が強い。もしも下に見られるようなことがあれば何をされるかわからない、最悪殺されるかもしれないぞ」


 レオンの右肩に両手をつき耳元で抗議するピクシーと、レオンの言葉を受けて顎に手を当て考え始める承影。

 やがてレオンを置き去りに、3人で何やら話し合いが行われる。


「(プルルルルッ‼︎ プルッ‼︎)」


「あぁ、そうだな。ゼンゼの言う通りそれがいいだろう」


「へ? 何? というか、いつのまに承影はゼンゼの言ってることわかるようになったの??」


 最後に頷きながら当然のようにゼンゼの肉体言語を読み取る承影に、まるで状況についていけないレオンが狼狽する。


「レオン、【黒天宮】を目指すならレオンに強くなってもらう」


「え? あ、それじゃあ今日から本格的に戦闘訓練……」


「ちーがーいーまーす!」


「より正確に言えば、レオンには俺たちを従える威厳溢れる頭目として振る舞ってもらう」


 3人から持ちかけられたのは、レオンを頭目に3人が部下として振る舞いながら彼を守り、武力を誇示することで、相対的にレオン自身を強く見せかけるというものだ。


「つまり全力で周りを騙し続けるってこと? えっと……ちなみにそれって俺が承影とかの部下って感じじゃダメなの?」


「ダメだ、それではレオンが殺されて終わりだ」


 ダメ元でおずおずと小さく手を上げるレオンの提案を、断固とした表情でピシャリと切って捨てる承影。


「もちろん、強くこわ〜いボスになってもらうから、喋り方も変えないとね♪」


「(プルルッ‼︎ プルッ‼︎ プルッ‼︎)」


(え、えぇ……)


 やけにノリノリでレオンの顔の周りを何周も翔び周るピクシーと、こちらも嬉しそうに頭上でぴょんぴょん跳ね回るゼンゼ。

 そんな部下となる仲魔たちに嬉々として迫られ、ただ1人置いて行かれた様子のレオン。


(強くて怖い頭目ってどうすればいいの!? うちの社長は……ダメだ、真逆すぎて参考にならない! ええいもうヤケだ!)


「ん゛ん゛っ! 強くて怖い頭目の喋り方……こ、こうか?」


 大きく咳払いし、少し声音を落とし、どこか羞恥混じりの躊躇いを滲ませながら、目一杯胸を張り、顎を前に突き出し、周囲を見下す。

 レオンのその精一杯の大根芝居をみた3人の反応はあまり良くなかった。


「ぜーんぜんっ! だめ!!」


「虚勢が見え見えだな……」


「(プルッ‼︎ プルルルル)」


 その後、3人からみっちり懇切丁寧な演技指導が入り、本人も過去遊んだゲームに出て来たキャラクターの口調を必死にあれこれ思い出しながら陽が傾くまで、ああでもないこうでもないと試行錯誤を繰り返した結果——


「ふっ、愛しき我が爪牙そうがたちよ。これで満足か?」


 胸の前で腕を組み、余裕綽々といった不敵な笑みを浮かべ、その眼差しは見る相手をさも当たり前と言わんばかりに自然な動作で見下し、地声ながら発声と言葉の節々に覇気と威圧感を滲ませるレオン。

 丸一日に及ぶ演技指導と徹底的な矯正により、レオンの演技はそれはそれは完璧な物へと昇華された。その時、レオンは武田慎之介であることを忘れ去っていた。

 生前は演じることにあまり触れてこなかったために本人すら気づいていなかったが、彼はプロの劇団員にも引けを取らないレベルの憑依型の演技派だったのだ。


「そうそうそれそれ! すごいよレオン! あとは私たち4人だけ以外の時は、ずっとそれを維持するの!」


「かんっぺきだ! これほどのレベルなら側から見ても、レオンが恐ろしいほどの強者に見えるだろう!」


「(プルルルルッ‼︎ プルッ‼︎ プルルルル‼︎)」


 3人とも痛く感動した様子で、ピクシーやスライムは小躍りしながら歓喜の声をあげる。

 しかし、完全に役に入りきっているレオンの反応は冷たい。


「卿ら、不敬だぞ。俺をなんと呼ぶのだったか、もう忘れたのか?」


 瞳を閉ざし、顎をゆっくりと引き、続いて顎を緩やかに持ち上げる動作で見上げ、3人を睥睨する。

 あまりにも堂に入った強者の所作に、3人は密かに内心で震え、この男は本当に弱いのかという疑いすら抱きかけた。

 しかし、演技とはいえ主君たる男の問いかけに無言を貫くことは許されない。

 承影はすぐさまその場に跪き、ゼンゼも承影の横に飛び降りておそらく平伏の意思を示し、ピクシーも舞い散る葉のような速度でフワリと地面に降り立ち2人同様平伏する。


「「「はっ、大変失礼致しました。閣下。(プニョン……)」」」


 3体の魔族を従えるハーフエルフ。その様子は見るものがいれば間違いなく戦慄し、呼吸を忘れただろう。

 それほど、この時のレオンが発していたオーラは尋常ではなかった。3人が演技も忘れ、素で平伏してしまうほどに。

 一方、その様子を見たレオンは満足げに鼻を鳴らし、腕組みを解くと緩やかに歩みを進め、3人とすれ違い、追い抜かす。


「よい。ゆめ、忘れぬことだ。では行くぞ、ついてくるが良い。天道は今、俺の前に拓かれた」


「「「御意のままに!! (プルルルルッ‼︎)」」」


 レオンの歩みが一歩、また一歩と大地へ刻まれる。

歩み出す彼らを迎え入れる夜の帳に、レオンの碧眼から溢れる蒼白い眼光の残滓が短く迸り溶けていく。

 今はまだ最弱の絶対的な覇者の行進が、今ここに始まった。

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