人魔大戦⑤ 『決着』
明けましておめでとうございます、本年もどうぞよろしくお願いします(超遅)
今回も更新遅れてごめんなさい。今日はいつもより長くなってます。
——東部戦線
主力のゴッドハイドを失い、聖鍵十三騎士団も壊滅、加えて軍の大半が恐慌及び戦意喪失状態。
誰がどう見ても、既にこの戦場の趨勢は決していた。
既にメルトハルトを筆頭に、魔王3人と承影は南部のレオンの元へ向かった。
残党軍は茜雫とシルヴァを中心に掃討が進み、繊戦意を失っているものは捕縛される。
こうして東部戦線は、結果的に魔王軍の勝利という形で幕を閉じた。
そして、その光景を遠目に観察する影が一つ。
『こちら4番〜、東はダメだね。ゴッドハイドと聖鍵十三騎士団がやられたみたいで壊滅してるよ。オ〜バ〜』
『う〜ん、南東もダメそう。もうほとんど制圧されちゃってるや』
『あら、噂に名高い『天剣』もやられちゃったのね。3番、そっちは?』
『...南は酷いものよ。あんなの、人間も魔族も入るような戦場じゃないわ。ほとんどナグモの独壇場。というかあれ、遊んでるんじゃない?』
通信の奥からは、それぞれの戦場を偵察しに出た仲間たちから次々報告が飛んでくる。
4番にとっては興味のない情報ばかりだが、どうやら小隊長にとってはそうじゃなかったらしい。
『1番より全隊。給料分の仕事はしたわ、私たちは離脱する。これ以上私たちが出る幕はないし、私たちがリスクを取る理由もないわ』
『『『ウィルコ(うへ〜)』』』
『亡霊小隊』が撤退を開始し、4つのうち3つの戦場がそれぞれの形で幕を引いた。
誰もがこの戦いの決着が近いことを期待と共に感じている。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
南部戦線、そこはこの人魔大戦における最重要地点であり、理を外れた存在が一堂に会する人外魔境。
その中でも、一際異彩を放ちながら君臨しているのが『特異点』南雲慶太郎。
彼はアリエッタを除く【|魔天七星《セブンスヘヴン】6人に加え、ピクシー、ゼンゼ、承影、そして『万喰の獣』を同時に相手取って尚余裕があった。
四方から殺到し八方を塞ぐ殺戮と破壊の雨嵐、その全てを往なし、躱し、斬り伏せ、掴み、撃ち落とし、止め、貫き、防ぎ、受け止め、消し去り、へし折った。
それはおよそ人間の所業ではない。魔王にすら、ここまでの立ち回りができるものは、ただ1人、全盛期の『始原の魔人』しか存在しない。
「これが、『特異点』と呼ばれる男ですか」
「8000年前も大概じゃったが、それ以上の怪物になりおって...」
援軍に参じた面々も誰1人致命打を与えられず、このまま状況は完全に南雲の独壇場で敗北...と、誰もがそんな予感を抱き始めた頃。
ここにきて、南雲の表情に変化が現れた。
(笑って、いる...? 今度は何だ)
「頃合いだな」
ニヤりと僅かに口角を上げた南雲がそう一言呟く。
運良くそれを聞き取れた者がその言葉の意味を理解するより早く、答えが示された。
「@◎==◆◆……ッ……###ァァァ……!!」
瞬きの間に7回、息を吐き出す間に16回、それを認識するまでに数百回。
『万喰の獣』が苦悶の声を上げながら血飛沫を上げた。
そして次の瞬間には、鮮血の雨と共に命脈が絶たれ、獣は大地に倒れ伏し息絶える。
世界から滅びを司る獣がまた一体、葬られた瞬間であった。
「.............」
信じられない光景を前に、誰もが言葉を失う。
現存する5体の獣のうち、当時の魔王たちが封印するのがやっとだとされていた存在を目の前で瞬殺されたのだ、無理もない。
レオンでは、南雲が何かしたのは分かったが、彼が何をしたのかまでを認識することはできなかった。
常識や理解を超えた事象に、乾いた笑いが溢れる。
「はは、冗談だろ......?」
「冗談じゃないよ、レオン。信じられないことだが、ナグモは今の一瞬で792回の斬撃を加えてあれを倒した。
流石の僕も、あの速さであれを刻むのは難しいね」
できないとは言わないあたり、エトワールもエトワールだ。
それでも、いつもの様子でご丁寧に解説してくれる彼の声音も微かに硬い。
演技の合間に生きているような天性の役者の彼がそれを維持しきれないほど、これが彼にとっても衝撃的な出来事だっただろうことは流石のレオンにも分かった。
「.....さて」
ふっと南雲が短く息を吐き出し、その姿が消えたかのように見えた瞬間、
トンッ——
レオンは何かに胸を小突かれたような感覚を覚えた。
「次はお前だ、レオン。“起きろ”」
それが自身の懐に入り込んだ南雲が、自分の胸に右手を添えたのだと、理解したのが最後だった。
————ドクッ
心臓が脈打つ。その鼓動は波動に変わり、大気を震わせながら破壊を振り撒き始める。
その身から溢れ出すエネルギーが天を貫き、真昼の空を暗い翠に染めて行った。
吹き荒れる暴風は目覚めの息吹。湧き上がる熱に呑まれ、碧く澄み渡っていた瞳は燃えるような真紅に塗り変わり、やがてその瞳孔には黄金の冠を戴く。
荒れ狂うような力の本流の中心で、再び覚醒を迎えた【始原の魔人】がゆっくりとその顔を上げ、右腕を振りおろした。
「......やはり、この程度か」
予想通りだと失望を言葉にする南雲。
レオンの振るった右腕は、南雲の左手に掴まれて完全に静止していた。いや、静止ではない。レオンが押し切ろうとするのを南雲が完全に押さえ込み、細かくその手が震えている。
「おまえ、つよいな?」
「ふん。俺を忘れるに飽き足らず、力と共に知性も抜けたか。嘆かわしい」
言い切ると同時、レオンが素早く左腕を振り抜いた。
それは掴まれていた右手を手首の上で切断し、即座に再生する。
近接格闘が無理と見るや、レオンは遠距離から質量による飽和攻撃に打って出た。
赤黒く浮かび上がる無数の魔力の球体からレーザー状の光が放たれ、周囲の球体に触れて乱反射しながら南雲へ殺到する。
「...魔王たち、さっさと力を返してやったらどうだ。このままでは、例えその気が無くても殺してしまう」
うんざりした様子の南雲は、不規則に襲い来る光条の全てを回避し、斬り裂く。
しかしその言葉に頷く者は誰1人としていない。
「...ならぬ」
「『その時が来るまでは何があっても返してはならない』本人の言伝じゃ」
「えぇ。ですので...」
「代わりに僕たちが一肌脱ぐ、と言うわけさ!」
「寝てられる状況でもないですし〜」
「友達は...死なせない!」
「あぁ、命の恩は命で返す」
「(プルルルル‼︎プルップルッ‼︎)」
全員が満身創痍、それでもこの絶望的状況で諦める者は皆無。1人また1人と覚悟と闘志を漲らせ南雲に相対する。
それを前にした南雲は——
「そうか。そうかそうか......ふはははっ! 結構、大いに結構!!」
大層上機嫌に高笑いして納刀、そしてゆっくりと両手を胸の前に持ち上げる。
その動作に、全員がこの後に起こることを直感し、また反応した。
「ならば挑み、超えてみせろ......【聖域結界】」
先刻、如月涼音が成し遂げたように、【聖域】の構築は決して魔族だけの特権ではない。
現代において、異能力と魔法は似て非なる力だと考えられているが、実際は違う。
魔族が己の肉体を介して超常的な現象を引き起こすのに対して、人類は聖遺物を介してそれを行う。
両者は違う手段を用いて同じことをしているに過ぎない。南雲はそれを理解していた。
南雲を中心とした半径100kmの範囲を天幕が覆い隠す。
大地も空も瞬く間に潤いを失い、殺風景な荒野に乾いた風が吹き抜ける。
同時に5つの声が重なった。
「「「「「【聖域結界】!!!」」」」」
喝采の黄金劇場、蒼穹の成層圏、叡智の次元書庫、断崖の悪魔城、熟眠の少女部屋。
南雲の【聖域】に対抗して5つの聖域が広がっていく。それらは互いに境界を融解させ合い、5つで1つの【聖域】として南雲と拮抗を始めた。
「5人がかりで、やっととはのう...!」
「悲観的なのは良くないよ、むしろ5人で抑えられたことを喜ぶべきだ!」
繊細な結界術の制御をこなしながら軽口を叩き合える辺り、【魔天七星】の名は伊達じゃない。
【聖域】を習得できていないナンバーズの3人はそれぞれ魔王たちの【聖域】に匿われ、反撃の機会を窺う。
一方、レオンは掌印を組んだまま不思議そうな顔を浮かべていた。
「【聖域】がでない……?」
まるで子供のように、きょとんとしたままのレオンへ容赦のない追撃が迫る。
「ゼンゼ!!」
「(プルル‼︎)」
もたらされる不可視の一撃を察知した承影とゼンゼが割り込み、それを防いだ。しかしこれまでと比較にならないほどの威力に、双方無視できないダメージを負う。
刃こぼれし始めた自身の刃を見て、承影はよく折れなかったものだと苦笑いしながら油断なく次の攻撃に備える。
通常【聖域】の押し合いをしながら術者へ攻撃を行うことは、人魔を問わず不可能な所業だ。
【聖域】の構築は繊細な制御を要する。拮抗状態の押し合いともなれば、少しでも集中が切れれば一気に押し切られてしまうは明白だ。
故に【聖域】の押し合いは、単純な魔力量と運用効率の勝負。というのが通説だった。
それを可能たらしめているのは——
「『並行波紋顕現』、噂に聞く可能性を実在化させる異能の刃......ですか」
「......然り。然りとてそれも万能ではない」
南雲の不可視の攻撃の正体、それはレイアスが口にした通り可能性を実在化する力。
今、南雲は数多に存在する『自分がレオンへ攻撃する可能性』の中から、『正面から軍刀で攻撃する可能性』『左から軍刀で攻撃する可能性』の2つの独立した可能性を同時に現実のものとした。
可能性として実体化した南雲は一度その力を振るえば忽ち消えてしまうが、インパクトの瞬間にのみ実在化をする特性上、実体を伴わない不可視を実現する。
南雲慶太郎を最強たらしめている要因の1つだった。
「......その技で私たちを攻撃すればいいでしょうに、なぜ彼に固執するんですかぁ?」
エミリーの指摘は、この場の誰もが考えることだ。
【聖域】の押し合いは、繊細な制御と集中を求められる。
そんな便利な技があるなら、未完成の外野に構わず【聖域】の維持を阻害してしまえばいいというのは、極めて簡単で合理的な選択だ。
南雲自身もそんなことはわかっているだろうに、やはりそうしない。
今度はレオンへ炎、水、雷、風などなど、様々な属性による可能性の波状攻撃を仕掛けながら、不敵に笑って見せる。
「お前たちなど俺の敵ではない、何よりこれが最善だからに決まっているだろう? 質問が軽くなっているぞ」
「最善ですか。あなたは一体、何の目的でこうしているんでしょうね?」
「さてな。自分たちで考えることだ。ヒントは既に出尽くしているぞ」
他の5人が【聖域】を維持しながら問答を交わす一方で、レオンは承影たちに守られていた。
物理にはゼンゼが、魔法にはピクシーが、双方の足りないところには承影がサポートに入る。
3人がローテーションを組み、必死で飽和攻撃からレオンを庇い続ける一方で、当の本人はそんな周囲の様相などまるで眼中にないような様子で手のひらを見つめて呟く。
「...ちから、たりない」
レオンと南雲以外、誰1人として余裕のないこの状況。ここにきて最終局面は、我慢比べへともつれ込んだ。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
——レーゼンハイド城内——
時はわずかに遡る。
2人はライオットとミカエルを無事に連れ帰り、城内へ避難する。
「...よし、ひとまずこれで良いわね」
ライオットの傷の手当てを終えたアリエッタが安堵の息を溢す。
ひとまず彼は危機を脱することができた。目が覚めれば彼はきっと再び戦場へ駆け出すことだろう。
城内に限らず現在この国の人員はほとんど出払っており、城内にも今はアリエッタたち3人しかいない。
つまり自分たちがここを離れれば、目が覚めたライオットを止められる者がいなくなってしまう。
(この感じ、みんなきっと今頃死闘を繰り広げてる......私も参戦するべきかしら......でも私が離れると、フィリアちゃんとライオットが......)
己がどうすべきか判断に迷い逡巡していると、思わぬ声がかかる。
「あら、それなら私に任せなさいな」
廊下の向こうから、少し野太く乙女チックな喋り方をするスキンヘッドの筋骨隆々な大男が歩いてくる。
その姿を見たフィリアが、不安に曇っていた表情をパッと明るく変える。
「ブリちゃん!!」
「はぁ〜い。フィリアちゃん元気にしてたかしら? 『ブリリアントアーティファクトショップ』店主ブリリアント、出張大サービスに来ちゃった♡」
思わぬ助っ人に、流石のアリエッタも驚きを隠せない。
「あ、あなた、どうしてここに!?」
「うん? そんなの簡単よ。フィリアちゃんと魔王様が慌てた様子でここに入ったのを見たから♡
そんなことより、急ぎなんでしょう。ここは私に任せて行ってきなさいな。後悔してからじゃ、遅いわよ」
ウインクしながらアリエッタの背中を押すブリリアント。
不思議な頼もしさに、思わず頷いてしまう。
「それから、フィリアちゃんも! パパのところに行きたいんでしょう? なら行ってきなさいな。魔族は度胸! 乙女は最強! ってね♡」
「う、うん。えっとその......行ってきます」
激励を贈られたフィリアは、『行ってきます』の丁寧な言い方が見つからず、躊躇いがちにそう告げる。
それに満面の笑顔を返すブリリアント、一方でアリエッタは納得が行かなそうに食ってかかった。
「え、うそ!? フィリアちゃんは危ないわ。連れて行くなんて......」
「ノン。確かにフィリアちゃんはまだ幼い、でも並の魔族よりもずっとすごいものを持ってる。この子の成長の機会よ。
それに、子供が親に会いたがってるのに、邪魔なんてできないでしょ?」
そう言ってウィンクされては、流石のアリエッタも何も言えなくなってしまう。
「......はぁ、私の負けよ」
「あら、魔王様に勝っちゃうなんて、私もなかなかってことね♡」
と冗談めかして笑うブリリアントに送り出され、2人は再び戦場へ向かう。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
〔......ナ............!〕
薄ぼやけた意識の中で、誰かの声が聞こえた。
それは水底から空を目指して浮かび上がる泡のように儚く、しかし確かに脳裏を揺らした。
〔......ー……オ......〕
暗澹の世界を揺蕩う意識を研ぎ澄ませ、響いてくる微かな声に集中する。
そして浮かび上がってくるその言葉を、その声を理解した時、
〔オーナー!〕
ぼやけていた意識が鮮明になった——。
(うわっ、なんだこの状況!?)
不思議な感覚だった。自分の意思とは関係なく体が動いている。それをゲーム画面越しに見ているような、そんな感覚。
〔解説。オーナーは先ほどまで、深層意識の中で昏睡状態にありました。現在はそこから意識のみ覚醒されている状態です〕
(もっとわかりやすく頼む)
〔了解。現在、オーナーは肉体の主導権を『始原の力』に奪われています。いわば、二重人格の裏側の人格と入れ替わっている、というイメージが近いでしょう〕
(最初からそっちで頼む。それで周囲の状況は?)
〔現在、ナグモケイタロウの展開した【聖域結界】に魔王5名で対抗中。個体名『承影』『ピクシー』『ゼンゼ』の3名がオーナーの防衛を行なっています〕
(なるほど、確かに相当な状況だ。早く起きて加勢しないと......でもどうやって肉体の主導権を取り戻すんだ......?)
〔解答。これまでの状況及びオーナーの記憶を読み取ると、1つの方法が推測されます〕
ピノキアが提案する方法、それは——。
(本当にそんな方法が? ......試してみるか)
意識だけの状態で、自分の腕を強くイメージする。
それを胸にあて、強く念じるように唱えた。
(『起きろ』)
その瞬間、何かにグワっと意識が引っ張られる。
釣り上げられる魚のように、急速に海面に顔を出し、光を浴びる。
「......3人とも、守ってくれてありがとう。ここからは俺も一緒に戦う」
ぐらりと一瞬ふらつき、意識を取り戻したレオンはそばにいた3人にだけ聞こえるように呟く。
その声を聞いて、3人とも驚いたような反応を見せた後、それぞれが短くも嬉しそうに応じてくれた。
「ほう? 覚醒状態で意識だけを引き戻したか」
感心した様子の南雲の言葉に、周囲の魔王たちも目を見開く。
「ははっ、やっぱり君はいつだって僕たちの予想を超えてくるね!」
「それでこそ、我ら七つの星を束ねる者よ」
レオンの復帰は、たちまち周囲の士気を上昇させた。
しかし、今のレオンにその声は届かない。南雲をじっと注視しているが、今彼の意識を支配しているのは南雲ですらない。
(...不思議な感覚だ。いつも以上に身体が軽い。それに、力が溢れてくる。今なら普段できないようなこともできそうな......試してみるか)
まず真っ先に思いついたのは魔法だった。初めて出会ったあの森でピクシーの真似をしようとして失敗した記憶が蘇る。
あの時は魔法というものをイメージできなかったが、仲間達のお手本をずっとそばで見てきた今ならできる気がした。
(グワァとかヌヌヌヌッとか、あの時のピクシーの説明はアバウトだが、魔法はもしかしたら案外感覚的なものなのか? 例えば......)
イメージしたのは泥団子。身体中から溢れ出る不可視の何かを腕の中に集めて固めるように、などと前世の漫画で見た手法でチャレンジする。
思ったよりそれは大きくまとまりのない形になってしまったが、確かに力を集約することに成功した。
周囲から見れば突然レオンが何かし始めたようにしか見えないが、それに構っている余裕などない。
それぞれが必死の攻防を繰り広げながら、戦況の好転を狙っている。
(螺◯丸.....って言うには不恰好だな。これを投げる......いや、か◯はめ波みたいに指向性のビームにできないか?)
イメージしたのはホース。水道の水をまっすぐ放出するように、両手を筒に見立てて集めたエネルギーを真っ直ぐ南雲へ向ける。
「か〜め〜...」
腰を落として両手を腰の辺りで構える。
「は〜◯〜...」
より成功率を上げるために、キャラクターになりきったつもりで技名を紡ぎ、
「波ァァァァァ!!!!!」
全力で声を上げながら、原作さながら手を前に突き出して、思いっきり感覚だけで解き放つ。泥団子を投げ飛ばすように、あるいは叩きつけるように。
残念ながら放った一撃は、かの有名な『か◯はめ波』というよりも、『元◯玉』の劣化といった方が近かった。
それは野球初心者の投げた野球ボールよりも遅い速度で緩やかに南雲に迫り、あっさりと躱されてしまう。
それでも、南雲を除くその場の全員が目を見開いた。
「レオン、お前それ...!」
「すごいすごい! 魔法使えるようになったんだね!」
「思った出力ではないがな。ピクシー、今のは何属性だった?」
「えっと...光? でも特殊属性だったような気も......」
ピクシーは何やら口篭ってはっきりとしない様子だ。
しかし断片的な情報が手に入った。どうやら今のは光かそれに類する類の属性らしい。
「わかった、それで十分だ。感謝する」
「う、うん」
(思ったよりスピードも威力も出なかった。きっと団子の圧縮が雑だったんだ。でも感覚は少し掴めたぞ)
そしてもう一度両手に力を集中させる。
今度は全身に流れる力を両手から均等にまとめ上げるように、先ほどより圧縮率をあげようと試みる。
しかし、南雲はそんな時間を与えてくれるほど甘い相手ではない。
「覚えたての児戯にかまけていては、寿命を縮めるだけだぞ」
南雲が動く。【聖域】を一気に縮小して強度を底上げし、全方位からかける圧力を急上昇させることで、たちまち5つの【聖域】を自身の【聖域】と対消滅させた。
砕けた【聖域】の外郭の破片が粒子となって舞い散る中、間断なく本体がレオンに迫る。
「手本を見せてやろう」
懐に潜り込みニタリと口角を上げた南雲は、右手に先ほどレオンが作ったような、野球ボール程度のエネルギー球を作り出す。
「これが、魔力撃だ」
それをすかさずレオンの腹部へ叩きつけ、腕を伸ばす勢いで突き飛ばす。
ゼンゼの反応より早く、承影の認識をすり抜け、ピクシーの詠唱を置き去りにして放たれた一撃に、レオンは後方へ何度も地面を跳ねながら吹き飛ばされた。
「うぐっ、ぁぐ......カハッ」
呻きながら震える手足でなんとか立ち上がって血を吐き出す。
覚醒して肉体強度が強化されたおかげか、思ったほどの痛みはない。
日本人だった頃の感性が、戦いの恐ろしさと死の恐怖に嫌というほど警鐘を鳴らし、全力で逃げろと叫んでいるが、それを奥歯を噛み締めて粉砕する。
立ち上がったレオンの思考は、意外にも澄んでいた。
(ピノキア。分析できたか...?)
〔肯定。性質理解、原理解明、再現性の確立。いずれもクリアしました〕
(流石。それじゃあリアルタイムで補助を頼む。体動かすのは結局俺だからな)
〔了解。追記、『魔力撃』の応用として、仮称『疾風脚』を使用可能になりました。如何されますか?〕
(ナニソレェ...)
〔魔力に風属性の性質を与え、後方へ射出する推進力で高速移動を行う技です。制御難易度は高く、消費魔力も比較的高いですが、私のガイドとオーナーの魔力量なら問題ないと思われます〕
(魔力って性質付与とかできるんだ...。まぁそれなら早速使って戦線復帰しよう。どうせこのままじゃジリ貧だし、似たような技なら本で見た事があるしな)
〔了解。魔力制御、性質付与の補助並びに実行プロセスガイドを開始します〕
疾風脚の制御は、自身の身体を墜落させないように絶妙な加減と感覚で風力を適切な方向に打撃ち出さなければならない。
その性質上、本来ならば習得は困難を極める。即興で使って一朝一夕に安全運用できるものではない。
しかし今この瞬間、レオンは生まれ持った魔法運用及び戦闘センス、覚醒状態による圧倒的な魔力量と強化、寸分の狂いなく瞬時に必要な出力とベクトルを演算するピノキア、前世でのオタクカルチャーによる魔法の明確なイメージ、そして50年以上の人生経験と社会経験によって獲得した即席での対応能力の高さ、それら全てを持っていた。
ならば、レオンがこの状況で失敗する理由など存在せず——
(おおっ!? これすごいな! 新幹線くらいの速度出てるんじゃないか!?)
〔正確にはおよそ時速600kmほどで移動しています。我々が吹き飛ばされた距離はおよそ300mですので......到着です〕
(驚いてる暇ないなっ。よし、ピノキア。このまま1発かますぞ!)
〔了解〕
(イメージは螺◯丸、掌に魔力を集中して圧縮......)
「くらいやがれっ!」
風より早く、弾丸の如く戦線に復帰したレオンは、そのまま生み出した魔力の塊をゼノンと取っ組み合っている南雲に運動エネルギーもろとも思い切り叩きつける。
さっきのやり返しとばかりに振り抜かれた腕は、しかし手応えを伝えてこない。
激突の衝撃で生まれた砂煙が晴れると、伸ばした腕は南雲が鞘から半身だけ抜き出した刀の腹に止められていた。
(今更驚きゃしない、これくらいならむしろ想定内だ!)
「メルトハルト! レイアス!」
間髪入れずに仲間へ呼びかける。
具体的な指示も何もなかったが、歴戦の彼らはそれだけでレオンの意志を汲み取ってくれた。
そのことに感謝しつつ、多少魔力強化の制御が雑でも威力よりゼノンから引き剥がすための蹴りを繰り出す。
目論見通り、南雲は一歩下がってその蹴りを回避した。
レイアスの生み出した黒い魔力の檻がそれを捉え、メルトハルトの生み出す自在の鎖が内部に無数に張り巡らされてその身の捕縛を狙う。
忽ち無数の剣閃が鎖ごと檻を斬り裂き、南雲が姿を表す......が、それもレオン(シミュレート結果を提言したのはピノキア)の想定の内。
この攻撃の一番の目的は目眩しと時間稼ぎ。そう、ゼノンが龍化するのを見せないためのブラフだった。
暗幕が崩れると同時、ゼノンが巨大な顎門で南雲に噛みつき捕縛。そのまま飛翔して上空へ連れ去る。
流石の南雲も、あの状況でゼノンの牙は回避できなかったようだ。
ゼノンは中空へ南雲を放り投げ、自身はさらに急上昇する。
そして、それが合図だった。
「撃て!!!」
レオンの号令と同時に、上空で待機していたエトワールとエミリーがそれぞれ南雲の左右から、地上からはピクシー、レイアス、メルトハルト、レオンが最大出力の魔法を放ち、上空からはゼノンが赤雷のブレスを浴びせる。
回避困難な空中で放たれる、全方位からの全属性攻撃。
まともに食らえば、龍は愚かビーストすら無事では済まない絶大な破壊の嵐。
それでも、倒したなんて考えているものは誰1人としていなかった。
すぐに先ほど同様の剣閃が錐揉み回転しながら魔法の嵐を斬り裂く。
どういうわけかブレスだけは防げなかったようで、少し服が焦げつき傷を負った様子だったが、それも致命傷ではない。
「そんなものでは届かんぞ」
「もちろん、知ってるさ。フィニッシュはまだなんだ。フルコースをプレゼントするよ」
それも予測していたエトワールが南雲に急接近し、龍すら両断できるほどの威力を込めた手刀で真下に叩き下ろす。
圧倒的な加速度を乗せた落下攻撃。
着地不可能なそれに、南雲は地面に魔力撃を放つ事で勢いを軽減し、撃墜を墜落程度のダメージに抑えようと構える。
しかし、そこへ待ち構えていたのは承影だ。
「仲間の仇だ、くたばりやがれ。鬼神爆炎斬ッ!!」
蒼く完全燃焼する炎を纏った刃を思い切り振り上げる。
野球ならばホームラン間違いなしの完璧な一振りは、急遽魔力撃の対象を変更した南雲によって無に返された。
ゼンゼの献身により承影の致命傷は免れたが、南雲の一撃をもろに受けた刀が折られてしまう。
しかし、それにより南雲に落下の衝撃とダメージを与えることはできた。
「ククッ...少しはできるじゃないか。今のは、久しぶりに少し、痛かったぞ」
砂煙の中から立ち上がる南雲は、頭と口から血を流しながらそれでも尚立ち上がる。
それと同時にピノキアから応答があった。
〔解析完了。予測通り、個体名『ナグモケイタロウ』の使用する刀剣は魔法を掻き消す特性を有しています。おそらく聖遺物でしょう〕
(なんだそのチートみたいな刀は...強いやつに強い武器持たせたらそりゃこうなるって)
少し遅れて上空に出ていた3人も着地する。
南雲の様子を見て確かな手応えを抱きながら、全員油断なく互いの出方を窺っている。
そうしている間にも、南雲の傷は少しずつ塞がっているように見えた。
(...ん? ピノキア、南雲の傷が塞がっているみたいだが、あれは回復魔法か? みんながやっている再生とも、ピクシーが使っていた回復魔法ともまるで違うように思うんだが)
〔肯定。おっしゃる通り、あれは回復魔法でも魔族の再生でもありません。ごく一部の聖遺物ユーザーが行う『リザレクト』です。魔力のもつ破壊というネガティブなエネルギーを反転させてポジティブなものへ変化させています。魔力効率、回復速度ともに回復魔法よりも圧倒的に上です〕
(時間を与えると不利ってことだな、了解)
他の面々も、南雲の回復を見るや否やすぐに次の攻撃を繰り出し、回復の暇を与えないように動く。
しかしあそこまでしてようやく傷を負わせられた相手、誤魔化し代わりの穴埋め行動では何の圧力にもならない。
いよいよ南雲の回復も終わり、状況は不利な状態で振り出しに戻ってしまう。誰もがそう思ったその時
「人形兵団の包囲網!」
聞き覚えのある少女の声と共に、無数の武装した人形たちが南雲を全方位から取り囲み、鋼糸で包囲網を築き上げ動きを制限する。
ふわりと空から降り立ったのは、
「アリエッタ......とフィリア!?」
序列第4位。残る最後の魔王アリエッタと、愛娘のフィリアだった。
「事情の説明は後よ。今はナグモに集中しないと」
「あぁ、援軍感謝する。フィリアも無事でよかった」
「うん、わたしもパパと一緒に戦うよ!」
(フィリアはあれで賢い子だ。考えなしにこんな死地に来たりする子じゃない......子供だからと侮るより、今は信じて頼ってみよう)
フィリアが日々努力をしていたことは知っている。きっと自分が思う以上に実力をつけているのだろう。まだ未熟な部分はあるかもしれないが、今の状況では正直ありがたい気持ちが勝った。
はりきった様子の娘に頷きかけ、南雲に意識を戻す。
彼は既に人形の包囲を突破したようで、レイアス、ゼノン、エトワールの3人と睨み合っていた。
「ようやく全員お出ましか。何人来ようと結果は変わらんがな」
「さぁ、それはどうかしら。案外、何が起こるかわからないものよ?」
「ククッ......わかるさ。もう一度言ってやろう。お前たちは全員、俺の敵ではないんだよ。アリエッタ」
「そう、ならその慢心を抱えたまま逝きなさい」
アリエッタが腕を振るうと同時に、他の面々も攻撃を加える。
南雲は1人で10人の攻撃を見事に対処し切って見せている。
「時間の無駄だな。全員構えろ、火力勝負といこう」
徐ろに全ての攻撃を弾き、大きく後退したナグモが右手を軽く持ち上げる。
その瞬間、何かを察した面々が魔力を練り始めた。
ピノキアに確認しなくてもわかる。あの異質な空気感、目に見えない確かな殺意が南雲の周囲に収束している。
間違いなく、今までで最も恐ろしい一撃が来ると直感した。
(ピノキア! 最大出力のまほ.......いや待て)
と、そこでレオンは1つの疑念に至った。
南雲の刀は魔法を打ち消す性質を持っている。ならばこれから放たれる攻撃も同様の特性を持っていてもおかしくないのではないか?
先ほど、南雲はゼノンのブレスだけは防げていなかった。初めは余裕がなかったから無視したものだと思っていたが、ここまで完璧に対応してきた南雲に限ってそれはやはり考えにくい、となるとやはり——
(ゼノンのあのブレスは雨が降るのと同じように、あくまでも現象......魔力を使う魔法じゃない。あの刀で斬れるのは魔法や魔力由来のものだけなのか?)
その思考に思い至った瞬間、ピノキアへの命令と同時に反射的に叫ぶ。
「魔法じゃダメだ!! 魔力に『現象の性質』を付与しろ!!!」
突然の無理難題。できるのかどうか、どうすれば良いか、レオンすら理解していない。
それでも長年魔王の座に君臨する猛者6人、全員その無茶な注文に二つ返事で頷いて見せた。
刀の折れてしまった承影、攻撃より遙かに守りに長けているゼンゼ、性質付与をまだ習得していないピクシーにはフィリアを守ってもらうことにした。
これで安心して目の前のことに集中できる。
〔了解。性質付与の補助及びリアルタイムレクチャーを開始します。わたしの指示に従ってください〕
揃った仲間は、本当に誰も彼も頼もしい。
それに誇らしさを覚えながら、ありったけの魔力を込めて今の自分の最大出力を目指す。
(この際、制御の雑さとか魔力効率とか、そういうのは度外視だ。全神経を威力特化に集中して出力を跳ね上げろ。思い出せ、俺の知る限り一番強い必殺魔法...)
真っ先に思い浮かんだのは、世界的に有名な魔法使いの物語において『禁断の呪文』と言われていた即死の呪文。
あの呪文は魔法的効果で生命活動を停止させるものとばかり思っていたが、後に出たゲームではシステム的に最大ダメージを与える処理をすることで即死効果を再現していた。つまり解釈を広げることが大事なのだ。
それに倣うように、名前を呼んではいけないあの有名なキャラクターの一撃を強くイメージすることで南雲への対抗を図る。
しかしそれ単体ではきっと足りない。もっと様々な解釈とイメージをつなぎ合わせる。
数多の技を複合した、レオンオリジナルの即席荷電粒子砲。名付けて——
「原初に刻む星滅の極光!!!!」
「天叢雲剣」
南雲の頭上に出現した巨大な門が開かれる。
右腕が振り下ろされると同時に、その門から一振りの巨大な神剣が発射された。
その剣は魔王7人の一撃と衝突し、競り合う。
10秒、20秒とその拮抗が続くが、7人の表情にはそれぞれ焦りが浮かび始めていた。
決して馬鹿にならない魔力消費、7人がかりでやっとの拮抗。全員確信を抱いていた、誰か1人でも脱落した瞬間に天秤が傾くと。
対する南雲は余裕の表情、やはり持久戦では間違いなく不利というのは明白だ。
それでも誰1人対策を打ち出せない。この状況を少しでも崩せば、その時点で終わってしまうからだ。
(まずいまずいまずい! このままだと真っ先に落ちるのは間違いなく俺だ! そうなれば全員死ぬ! フィリアも......フィリア......そうだ、フィリアの命がかかってる、死ぬ気で、娘だけは、守らないと......! 俺は、父親だろうっ!!)
必死に魔力を掻き集め、倒れそうになるのを気合いで踏みとどまりながら、解決策を模索する。
ピノキアもいい答えが見つからないのか、声が返ってくることはなかった。
きっと集中を乱さないために黙っているのだろうと察して、こっそり感謝する。
(あと少し、もう少し、何か変化がほしい! あと一押しの、何かが!)
しかし無情にも、その切先は少しずつ喉笛に迫りつつあった。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
パパの叫び声が聞こえた。
あのおじさんを倒すためには、『せーしつふよ』って言うのをしないといけないみたい。
それがどういうものかはわからないけど、パパやみんなが何をやってるのか、どうやってるのかは見てわかった。
でもみんなだけじゃ足りないみたい。このままじゃパパ達が負けちゃうのはわたしでもわかる。
だから、そばで守ってくれる3人にお願いすることにした。
「ねぇ、3人とも。力を貸して。わたし、パパとみんなを助けたい!」
「もちろん!」
「あぁ、なんでも言ってくれ」
「プルルルルルルゥ!!」
ピクシーおねえちゃんにはわたしのお手伝いを、他の2人にはわたしが『せーしつふよ』をする間の護衛と、万が一わたしが倒れた時に保護してもらうようにお願いした。
パパ達がやってるあれは、魔力の色を変えてるんだ。普通の魔力は真っ白だけど、みんなはそれを赤く塗り直して使ってる。
それは、お絵かきをするときと同じだ。
クレヨンは、わたしのイメージ。どんな絵を描くのか考えるみたいに、真っ白な紙を赤く塗りつぶす。
パパ達はこの紙を色々な形にして使ってるけど、わたしにはそれはまだできない。
わたしにできることは、真っ赤にしたその紙をクシャクシャに丸めて投げることだけ。
(わたしはまだ制御が下手だから、きっとパパ達も巻き込んじゃう。でもパパ達なら、きっと大丈夫だよね!)
パパやみんなはわたしよりずっとすごい。きっとわたしのこんな攻撃なんて、なんでもないみたいにやり過ごしてくれる。
それに、このままだとパパ達が危ないから......ピクシーおねえちゃんに分けてもらった魔力も混ぜて、できる限りおっきなボールを作る。
制御も何もできないなら、魔力を思いっきり固めてぶつければいい。
「今だよ! 投げちゃえ!」
「えーーーーい!!!!」
わたしは真っ赤に塗りたくった魔力の塊を、あのおっきな剣目掛けて投げつけた。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
あと一歩。その些細な変化を渇望していた時、それは起こった。
叫ぶようなフィリアの一声と共に、大岩サイズの魔力の塊が天叢雲剣と衝突する。
「パパを、いじめないで!!!」
その声に呼応するように、魔力塊が天叢雲剣を横合いから打ち砕く。今、天秤が傾いた。
拮抗の反動でわずかに勢いを増した【魔天七星】の放った全力の一撃が、扇状に拡散して大地諸共南雲を飲み込む。
絶大な破壊の嵐に晒され、流石の南雲も無事では済まない。
「ハァ......ハァ......」
頼むから倒れていてくれと、誰もが肩で息をしながら爆心地を睨む。
「くっ、今のは、流石に、効いたぞ......」
荒れ狂う砂煙が晴れた向こうで、南雲は刀を杖のようにしながら、満身創痍の様子でかろうじて立っていた。
その光景に絶望を抱くより早く、南雲が動く。
レオンだけをその瞳に映しながら、捨て身で、生身で、刀一本だけを携えて、先ほどより遅いがそれでも弾丸のようにレオンへ迫る。
それと同時にレオンも走り出す。
レオンは魂で理解した、いやさせられた。目の前の男を倒す、その唯一の方法を。
「......どんだけ化け物なんだか」
あまりの常識外っぷりに、そんな言葉が溢れた。
疲労と負傷でボロボロの体に鞭打って、レオンは右手に残った僅かな魔力を集め、鋼の爪のように纏わせる。
(できるかじゃない、やるんだ)
「 並行波紋顕—」
「させない!」
接近と同時に南雲が発動させようとした異能を防ごうと右腕を伸ばす。
「ゴフッ......!」
伸ばした右腕は何か硬い感触に当たるが、その感触諸共南雲の心臓を貫き、赤い飛沫を散らして粉砕する。
そして——
「うっ......ぐはッ!」
強い衝撃と共に襲った嘔吐感に、レオンは喉元へ込み上げたものを口から吐き出す。
その色は濁った赤で、少し鉄臭い。
腕を引き抜き自分の胸元を見れば、南雲の刀が、レオンの胸を深く貫いていた。
その光景に理解が追いつくより先に、泣き出しそうな子供の痛々しい叫び声が聞こえた。
「いやっ......! ぱぱっ!! いやああああああ!!!!!!」
胸に生えた刃は引き抜かれることなく、銀色の刀身を赤く染め上げている。
こちらに呼びかけるピノキアの声も、駆け寄る仲間達の声も、よく聞き取れない。
ただ、最愛の娘を最悪の形で泣かせてしまったという罪悪感が心を満たす。
不意に足の力が抜け、世界が90度傾いた。
人魔大戦は多分次くらいで終わり、そろそろ3章に入るかなと言ったところです。
引き続きお付き合いください




