人魔大戦③ 『誤算』
お待たせしました、更新再開です。
奇跡を殺す弾丸は、清廉な願いと強固な意志によって生み出される。
それは並大抵のものではない、多くの者が挑み、多くの者が失意の中で終わりを迎えた。
欲望は願いを濁らせる。我執は意志を揺るがす。
その一撃のためだけに、彼らは100の屍を積み上げた。
だからこそ担い手には、より強い決意と意志が求められるのだ。
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その頃、ミカエルは1人霧に煙る戦場を見下ろしていた。
霧の向こうからはいろんな音が聞こえてくる。同胞の起こした破壊音、誰かの断末魔、微かな銃声、そこかしこで巻き起こる爆発音、猛るライオットの咆哮。
目を開ければ、視覚は自軍の生命反応、敵軍雑兵の生命反応を伝えてくる。
しかし『亡霊』の姿は愚か、痕跡すらどこにも見えない。
(魔力反応なし。生命反応なし。ですが・・・・・・)
周囲を観察し続けるミカエルが、不意に首を右に寝かせれば、彼女の左目のあった位置を1発の弾丸が通過した。
(やはり。知覚外からの攻撃だけが現れる。威力、軌道、速度、どれも十分。戦術、連携、判断能力、全て極めて高水準。ここの担当が私たちで本当に良かった、と思ってしまいますね)
思考と並行して、殺到する弾幕を紙一重で避け続ける。
銃弾は四方八方、時には地上100mの高度を翔び回る自分自身よりも上空から降り注ぐこともあり、射手の居場所は依然特定できず、戦場を共にする同胞たちからも、有益な情報は回ってこない。
現状、制空権はミカエルにあるため戦況は千日手状態だが、ミカエルはこの均衡も長くは続かないことを理解していた。
(敵は最低2人、未知の手段で遠距離から金属の塊を撃ち出し、時には私より上を取ることができる・・・・・・。これだけ戦って尚、情報が少なすぎる。まるで文字通りの“亡霊”、噂以上に厄介でございますね)
舌打ちしたくなる感情を抑え込み、網目状に張り巡らされた弾幕を高速機動で躱し続ける。
短期決戦を仕掛けようにも、本気のミカエルの火力では自軍まで被害を及ぼしてしまいかねない。
ライオットが地上を制圧するのが先か、この翼が撃ち落とされるのが先か。
久しぶりの脅威を前に、思わずミカエルの口角が三日月状に吊り上がった。
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「王手」
自らが生み出した霧の中で、1番の声が小さく空気を揺らす。
今まさに、上空を駆け回る獲物に包囲射撃を終え、部隊の仲間の状況を確認する。
幸い、いや、予定通りと言うべきだろう。彼女たちの被害は0。一切の傷も消耗もなく、最上位種族の一角を完璧に手玉にとっていた。
生前の彼女たちでは、同様の状況は作れても、ここまで完全とはいかなかった。
それが可能な理由は、まさに今使用している素体にある。
ミカエルが苦戦を強いられているトリックは、極めて単純なものだ
両手足に加え脳に至るまで、全身が機械化されている彼女達には、生物由来の部位が存在しない。
それ故、天翼種の目には生物として認識されないのだ。
加えて素体に備えられた光学迷彩機能により、彼女達の身体は360°どこから見ても、その姿を捉えることはできない。いわゆる完全な透明人間状態になることができる。
そこに彼女たちが後天的に身につけた隠密技術も合わされば、例えそれが魔王クラスであっても、その存在を捉えることは不可能に等しい。
予定通りの結果を前に、通信機能を起動したモノは、感情の伺えない声音で呼びかける。
『1番より各員。第二次包囲射撃終了、獲物は予定通り追い込めてるわ。そっちの戦況は?』
『はいは〜い♪ こちら2番、指定の座標に到着。モノ姉の合図でいつでも動けるよ!』
『こちら3番。金色の獅子頭率いる魔族部隊と交戦中。多少手間取ってるけど、概ね予定通り。問題ないわ』
『4番、作戦通り上空の天使達を狙撃中〜、簡単すぎてちょっと眠いくらいだねぇ。ふわぁ......撃墜数追加っと』
全員の報告を順番に聞き、モノの口角が上がる。
今回もいつも通り仕事を終えることができそうだ。
『オッケー、それじゃあ“詰め”に入るわ。2番』
『りょーかいっ! ジズスペシャル、いっちゃうよー!』
モノが呼びかければ、人懐っこい元気な声が返ってくる。
それを聞き届けるよりも早く『キィィィンッ!!』と甲高い炸裂音が響き、景色が白一色に塗り替えられる。
それは空高く打ち上げられた閃光音爆弾による視覚と聴覚への同時攻撃だった。
上空の天使達が、突如現れた光に目を奪われ、鼓膜を貫くノイズに耳を塞いで悶え始める。
『お、すばしっこかった的が止まって見えるよ。1、2の3っと』
『うわぁ、痛そー。私たちもこの身体じゃなかったらただじゃ済まなかっただろうねぇ』
事態の主犯であるジズは、片手で陽光を遮りながら他人事のように上空を見上げ、眠たげなテトラは間髪入れずに天使たちを撃ち抜く。
彼女達の連携は、もはや特別な指示を必要としない。
小隊長の声一つで、ごく当たり前のように、細やかな物から信じがたいレベルのものまで互いの行動を補完し活かし続ける。
その連携力から、脳を補強するシステムの演算によって緻密に計算された悪魔的な弾幕射撃を繰り出されるのだから、敵としては堪ったものではない。
『小隊各員、制圧開始』
たった一言の簡潔な死刑宣告が下された。
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一方、地上の霧の中。そこではライオット軍が、3番軍と交戦中だった。
(姿の見えない敵将がいるな。一般兵は数が多いだけで脅威にならない。しかし・・・・・・)
思考の隙間に叩き込むように、眉間、鳩尾、腿に弾丸が殺到する。
それを喰らう『金獅子』ではないが、決して無視ができない程度に手を出され続け、少なからず苛立ちが募る。
(これでは時間を稼がれる一方だ。せめて視界が晴れれば!)
迫り来る弾丸を戦斧を盾にして弾き落とす。
その時、ライオットのヒゲがピリピリと刺激に震える。
彼の持つ野生の勘は、細やかだが確かな変化があったことを告げていた。
そしてそれを証明するように、敵の攻撃の質が上昇する。
一見すれば先ほどまでと同様の注意を引き、集中を乱すための牽制攻撃。
しかしそれが明らかな殺意の宿った飽和攻撃だと看破したライオットは、2歩3歩と交代しながら、大岩を背にして身を丸く固め、戦斧で胴を守る。
雨のように、全方位から迫る弾丸が肉を抉った。
筋肉の要塞のような彼の堅牢な肉体にとって、両手足の肉を抉られる程度はかすり傷でしかない。
それ自体は問題にならない。問題は行動を制限されてしまうことだ。
(ぐっ、これでは身動きが取れん。敵の位置も割り出せん、次の一手を——)
そこまで思考した時、ライオットの聴覚が背後の岩や肉を抉る銃弾の着弾音に紛れる異音を聞き取った。
コロコロと、球状の物体が転がるような——
そこからのライオットの行動に迷いはなかった。
本能が告げる警報に従って、防御を放棄して全速力で一目散にその場を離れる。
幾らかの弾丸が彼に突き刺さるが、一切それに構いなどしない。
直後、その判断は正しかったことが証明される。
『ドガァァァァァン……ッ!!!』
先ほどまでいた地点から、地響きと共に遠くまで響くような重く低い爆裂音が木霊した。
荒野を覆っていた霧の一部が、爆風により爆心地を中心に晴らされる。
開けた視界で先ほどいた地点を見れば、身を寄せていた大岩を中心に直径5m範囲の地面が深く抉られて焦土と化し、黒い煙をあげていた。
それに背筋を凍らせるより速く、四方から影が殺到する。
正面の影を蹴り飛ばし、右と背後の影は戦斧で薙ぎ払う。
「ぬっ、ぐぅっ・・・・・・!!」
しかし斧を振るった瞬間、背中に微かな痛みを覚える。
見れば、対応の間に合わなかった左の影が背中にナイフを深く突き刺していた。
「ウオオォォォォォ!!!!」
もう一度斧を振るうが、既にそこに影はなく、手応えもない。
すぐにナイフを引き抜き、再生を始めようとした時、ライオットは脱力感に襲われ、思わず片膝をつく。
長年培ってきた戦士の勘は、己が何をされたかを瞬時に理解した。
(不覚を取った、刃に毒を塗られたか。痺れるような感覚はない、となれば、直接命を蝕む神経毒!)
冷静に状況を分析し、全身の筋肉で血管を圧迫して血の巡りを遅くする。これで多少は持つだろうが、解毒しなければ遠からず命を落としてしまう事は明白だ。
じんわりと、口の中に命の味が広がっていく。
「猛獣と正面から殺し合う馬鹿はいないわ」
顔の見えない暗殺者が、遠くで不気味に笑っていた。
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ミカエルには、致命的な誤算があった。
彼女の戦略は、『ライオットの勝利』を前提として立てられていた。
8000年前から彼を知るミカエルにとって、この戦争でライオットが敗れることはあり得ない事象であり、またそもそもナンバーズの威信にかけて、敗北など許されない。
例えそれが、未知の敵であったとしても。
人間と違い、魔族は未知に対して恐怖は抱かない。
彼らは誰しもが、己が生物として強者である自負がある。
その事実が未知への恐怖を、興味関心や好奇心へと転じさせているのだ。
「ライオットは何をしているのでございましょう。よもや貴方をして苦戦を強いられる何かが?」
周囲では今この瞬間にも、同族が地に堕とされていっている。
天翼種は例え死んでも、主君さえいれば復活することは可能なため、それ自体は大した問題ではないが、決して悠長にしていい局面ではないことは彼にもわかっているはず。にも関わらずいつまでも『制圧完了』の報告が上がってこない。
不測の事態ならば援護を、と行動を起こそうとした時だった。
不意に背後から声が掛かる。
『大天使』である己をして、決して無視できないそれに半強制的に意識を奪われた。
「あら、答えは簡単よ。私の仲間が貴方の仲間を殺した。それだけだもの」
視線の先には、1人の少女がいた。
空中で、そこに地面があるかのように2本の足で立っている。
背中まで伸びた長く鮮やかな茶髪は、左側頭部で一部の毛が纏められ、細いサイドテール状に。
首からはショルダーのついた短機関銃を携え、腰元のポーチには弾薬とグレネード類を装備している。
彼女の琥珀にも近い金色の瞳が、ミカエルを真っ直ぐ見つめている。
その視線や佇まいには殺気も敵意も感じられない。その少女は、あるがまま、当たり前のようにただ自然と”そこにいる“。
それを理解したからこそ、尚のことミカエルは意識を離せない。
先ほどの乱戦時同様、上空100mにテリトリーを構えた自分の感知をすり抜けて背後を取られた現状を前に警戒を強めずにはいられない。
「・・・・・・確かに多少はやるようですが、そのくらいであの『金獅子』が倒せるとは到底思えませんね」
「ふ〜ん、随分お仲間を信用してるのね。でも残念なことに、現実はこっちの方が一枚上手だった。チェックメイトよ、油断したわね」
その時ミカエルは『対策された』と直感した。
敵に『ナグモ』がいることは初めからわかっていた。
ならば、かつて共に過ごした我々の戦術、弱点、相性、全て筒抜けなのは当然。
むしろなぜ今までこの可能性を考慮していなかったのか、己の浅はかさを恥じる。
その上で、ナンバーズとして、敬愛すべき主君に生み出され、その寵愛を一身に受けた存在として、自分の成すべきことは変わらない。
ライオットを取られたならば、自分が代わりになればいい。
この戦場で最後に1人、自分が立っていればいいのだ。
さぁ、愚かにもノコノコと姿を現したこの下等生物をこの空ごと焼き尽くそうと、溢れんばかりのエネルギーを限界まで周囲に現出させ、ノータイムで炸裂させる。
「気づいているはずよ、そんなものは通用しない」
その光景を前にして、少女に一切の焦りはない。それどころか微笑みを浮かべるその姿は、いっそ余裕すらあった。
そのまま少女が静かに瞳を閉じ、パチッと指を鳴らす。
たったそれだけで収束していたエネルギーが霧散し、爆撃作戦が不発に終わる。
「天翼種の持つ力は、決して理解の及ばないものじゃないわ。貴方たちは何も、無から破壊のエネルギーを生み出しているんじゃない。
その本質は魔力を元素に変換して利用した、ただのスケールの大きな化学反応。
原理がわかっていれば、対処法なんていくらでもある」
元素やら化学反応やら、知らない単語が混じっていたが、天翼種の魔法のタネを理解されたらしい。
それで驚いたりはしなかったが、先ほどの直感が証明される結果になり内心舌打ちした。
魔法がダメなら、肉弾戦を——
「魔法がダメなら近接で、って考え方は柔軟で結構だけど、それは無理よ。
言ったじゃない。““チェックメイト““って」
仕掛けようと加速し始めた瞬間、声が聞こえて、視界がぐらりと揺れる。
上下反転した世界で空が眩しい。
ミカエルはその日、初めて重力を体感した。
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その頃、閑散としたレーゼンハイド城内では、フィリアが、友達のクマスケ(アリエッタお手製護衛用ぬいぐるみ。動く)と一緒に、今日も勉学という名の解読作業に励んでいた。
「ここの文章はこうで・・・・・・うん、わかってきたかも!」
また1つ古代語の意味を読み解き、進展に歓喜する。
隣ではクマスケがモフモフの両手で拍手してくれている。
理解できている範囲から察するに、どうやら本の内容は大昔に考案されていた研究の記録のようなものらしい。
まだ全容は把握しきれていないが、何をすれば良いかはわかっている。
「きんじゅ? って言うんだね。意味はわからないけど、これを使えるようになればパパの役にたてる!!」
フィリアは奮起していた。これを習得してパパに魔力操作を教えるのだと、そして目一杯褒めてもらおうと。
意気込み新たに拳を握り、続きを読み解こうと本に目を向けた時
「・・・・・・みかえる?」
なぜか、急にミカエルのことが頭を過ぎり、凄く悲しい気持ちになった。
理由はわからない、どこにいるかもわからない。それでも動かずにはいられない。
気がついた時には、すでにフィリアはクマスケを連れて走り始めていた。
「くますけ! ありえったお姉ちゃんのところに連れていって!」
「(ムイムイ!)」
腕の中のクマスケが腕を前に伸ばしている。おそらくサムズアップをしているつもりなのだろう。
彼女はそのまま、世話役の使用人の静止を振り切り、彼らを置き去りにして城外に飛び出していく。
フィリアとて魔族。まして父だけでなく、ナンバーズ全員、エトワール、アリエッタらからこの半年間惜しみない愛情を注がれ、毎日のように彼らと遊び、時には彼らの技術を教わったりもした。
その結果、魔法はまだ使えなくとも、齢11にしてすでに身体性能だけならナンバーズと渡り合えるレベルにまで成長していた。
並の世話係では、その背中に追いつけないのも無理はない。
クマスケに導かれるまま城を出て、街を駆け、国を出て、森を抜けて、アリエッタの元へ急ぐ。
このまま走り続けた先に、彼女がいるはずだ。
フィリアの参戦。それがミカエルの2つ目の誤算だった。
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時は開戦から約30分後まで遡る。
アリエッタはエミリーを連れて、最北の山脈にある石造りの古い遺跡を訪れていた。
彼女たちに与えられた役目は、この場所の封印を解き、ビースト『万喰の獣』を戦場に送り込むこと。
早速封印解除に乗り出そうとした時、
「へぇ、本当に来た。流石はナグモ准将、今回も予測を外さない」
暗闇の向こうから、背の高い水色の髪の男——エリオンが歩み出てくる。
予期せぬ異常事態に、アリエッタは表情を強張らせ、隣では流石のエミリーも眠りから目覚めていた。
「私たちの思惑なんて筒抜けってわけね。でも残念、あなた一人で私たちを抑えられるとでも?」
アリエッタは決して馬鹿ではない。目の前の男が1人で自分たちの前に姿を現すような愚か者でないことくらい察しはついている。
彼女の狙いは、敵戦力の把握と、今の質問で自分を馬鹿な敵だと思い込ませること。
「いいえ、1人じゃありませんよ」
「それに、もう一つ間違いを正そう。俺たちはお前たちと争いたくて来たわけじゃない」
背後から続け様に2つの声が聞こえた。
片や物静かそうな長い桃髪の若い女クリスタ、片や頬に傷痕の残る成人して間もないだろう薄い栗髪の青年ルカだった。
「なら何のためにわざわざこんなところへ?」
「簡単な話よ、あなた達が封印を解くのを遅らせに来たの」
右斜上、石柱の上に赤い髪の女、ユリアが立っている。
「封印解除の阻止ではなく遅延? 理解できないですね」
「それも当然っすよ。俺たちだって、ナグモ准将の考えていることを推し量ることはできないっす。
誰も、あの人の考えを、この戦いの意味を知らないんすよ」
本気で理解できないと眉を顰めたエミリーの声に続いて、また新しい声が聞こえてくる。
気がつけば、左手側の崩れた石柱の上にはルカと同じくらいの年代の青年、パーシーがいた。
「そういうことだ。故に今は待て、お前たちもこんな所で無駄に消耗したくはないだろう」
最後にエリオンの後ろからもう1人、一際強いオーラを放つ筋骨隆々な大柄の男、イグナーツが姿を見せる。
彼らの言う通り、今は誰からも敵意も戦意も感じない。
しかしこちらが強引な手段に出れば相応の報いがあるだろうことは明白。
魔王2人とはいえど、決して軽視できない強さの敵に包囲された状態で6対2、流石に力技を取れる状況じゃなかった。
「・・・・・・それで? その准将さんから、どのくらい待てば良いのかは聞いてるの?」
「あぁ。あと1人、ここを訪れる存在がいるらしい。そいつが来たら、俺たちの仕事は終わりだ」
「あと1人? そっちの仲間じゃなさそうですね、一体誰が・・・・・・」
「さぁ、そこまでは聞かされてないっす。本来なら魔族は問答無用で殺害対象なんすけど、ナグモ准将曰く今回は特別みたいっす。
そういうわけで、その時が来るまでここで楽しくおしゃべりでもするっすよ」
そう言う彼らからは、敵陣営にも関わらず表面上の友好的な態度すら感じられた。
アリエッタとエミリーは、心の底から訳が分からないと内心頭を抱えながらも、状況的に渋々それを承諾。
本来ならあり得ない敵同士での対談が始まった。
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そして時は現在に戻る。
30分もの時間を費やし、ようやくフィリアがそこに辿り着いた。
「はぁ、はぁ、やっと、ついた・・・・・・」
すっかり息を切らしていたが、まだ動く元気はある。
息を整え遺跡に入ろうとした時、クマスケがフィリアを庇うように進路を塞いだ。
「くますけ? お姉ちゃんがいるんじゃないの?」
まだフィリアには気配を察知することはできない。
クマスケが何に反応したのか見当がつかず、疑問符を浮かべながらも、物陰に入って慎重に中を覗く。
そこではアリエッタとエミリーが、6人の男女に囲まれて何かを話しているようだった。
まだ少し距離があり、話している内容はわからない。
もう少し近づくべきかと迷った時に、一際体格の大きな男と目が合った。
ニッと口角を上げたその男は、アリエッタ達の周囲を取り囲んでいた5人に向けて何かを言っている。
それを受けた5人全員が、瞬く間にその場から立ち去った。
男の言葉は、アリエッタ達にとっても無視できない内容だったのだろう。2人はキョロキョロとあたりを見渡し、気配に気づいたのかこちらへ揃って振り返った。
「フィリアちゃん!? 何でこんなところに」
アリエッタが目を見開いて駆け寄ってくる。
それに答えようとした時、クマスケが前に出て身振り手振りでアリエッタに説明し始めた。
「うんうん、なるほど。それで私を頼ってきたわけね」
「お姉ちゃん、くますけの言葉わかるの?」
「ええ、クマスケも私が作った子だもの。いい名前を貰えてよかったわね」
クマスケを祝うように、その頭にポンポンと優しく触れる。
アリエッタは、決して確証の無いただの予感でも、子供の思い違いだと馬鹿にすることはなかった。
事情を理解したアリエッタは、早速眠ろうとしているエミリーを叩き起こし、封印の解除を開始する。
「そういうことなら、パパッと仕事を済ませましょう」
「しょうがないですねぇ・・・ZZZ」
封印の解除には全魔王の承認が必要だが、既にこの場にいる2人を除いた5人の承認は済んでいる。
あとは2人が承認して、異界の門を閉ざす鎖を断つだけだ。
「一応確認よ。この後の手順は覚えてる?」
「鎖を断ち切ったら、魔力の痕跡を残しながら私たちも戦場へ合流、ですね」
ヘンゼルとグレーテルの道標のように、通り道に魔力の擬似餌を残すことで、ビーストを誘導する寸法だ。
何が起こるかわからない様子のフィリアは、クマスケを抱きしめながら離れた位置で、アリエッタに言われた通り大人しくしている。
「私は封印を解除したあと、フィリアちゃんを連れてミカエルを探しに行くわ。誘導はそっちに全面的に任せるけど、大丈夫? 道中で寝てそのまま食べられたりしないでね?」
「流石の私でもそんなヘマはしませんよ〜、最初はレイアス君とメルトお爺ちゃんのところでいいですか? ・・・ZZZ」
「ええ、ここにナグモの手先が来た以上、彼には筒抜けでしょうから。まずはもう一方の懸念要素、ゴッドハイドから取るわ」
2人の承認を経て、鎖で雁字搦めにされた門が姿を現す。
そして、2人は最後の工程でその鎖を外し
「よし、これでビーストが這い出してくる。急いでこの場を離れるわ。エミリー、あとはお願いね!」
「まかせてくだs・・・ZZZ」
封印を解けば早速、扉に内側から乱暴に体当たりをするような音が響き、それに合わせてもはや意味を為さなくなった残りの鎖が音を立てながら、一本、また一本と千切れていく。
それに追いつかれないよう、アリエッタは一目散に後方のフィリアの元へ、エミリーは早速手筈通りにゴッドハイドのいる東部の主戦場を目指して南下を始める。
「さぁ、フィリアちゃん。ちゃんと掴まってて、ミカエルのところに急ぐよ!」
「ひゃっ、は、はい!」
突然お姫様抱っこをされ、年頃の女の子らしい反応を見せたのも束の間、腕を伸ばしてアリエッタにしっかりと抱きついた。
落ちないことを確認したアリエッタが、「よし」と一言呟くと、2人の体が大地から離れていく。
「それじゃあ、楽しい空の旅の始まり始まり〜」
恐怖に震える間も無く、大空の遊泳が始まり、早速意識が飛びそうになってしまうフィリアだった。
完全に余談ですが、自分は5000字程度ではどうも少なく感じてしまい、毎話最低でも8000字程度は書くように心がけているのですが、実際5000字って読者の皆様から見てどうなのでしょうか。
いずれにせよ、もっと早く書き上げられるように頑張ります。




