人魔大戦② 『最も身近な敵』
戦闘描写......何をどの程度描くかの塩梅が難しいですね
それと、年が変わる前に投稿間に合いませんでした。
非常に申し訳ない
この広大な星の海において、全ては2つに分たれ、永劫果てなき争乱を繰り広げる。
それは大宇宙を支配する揺るぎない不滅の法則であり、神が定めた天理でもある。
だからこそ、かつて彼らはその鎖を断ち切ろうとした。
しかし生物の一生は、儚くも一瞬で過ぎ去っていく。
永劫の中で、そのような刹那は意味を成さず、終わりには何の変化も残せない。
かつて彼はそれを嘆き、生物であることを放棄した。
死を殺し、不滅を滅すため、万象に手を伸ばした。
彼がそれを求めたのは、幾度も友輩を失った後のことだった。
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鋼色の冷たく鋭い死の感覚が、イヴリットの頬を撫でた。
細く切り裂かれた皮膚から鮮血が滴り、すぐに傷口が塞がっていく。
彼の視線の先には、刀を振り抜いた姿勢の若い剣士が1人。瞬き一つしないその眼差しは、イヴリットを絶えず捉え続け、彼の踏み込む空間に的確に刃を泳がせる。
イヴリットは持ち前の動体視力で、襲い来る凶刃の全てを見切り、鼻先に迫る斬先を頭を右に逸らしながら、右足で一歩踏み込むのと同時に姿勢を右斜め前に落として回避。
忽ちガラ空きになった胴体に全力の拳を叩き込み、勢いそのまま、若い剣士の華奢な身体を背後の木に叩きつけて戦闘不能に追いやる。
直後、口元を拭い次の敵を探すべく振り返ろうとしたイヴリットの元に、3つの影が殺到する。
真上、背後、そして膝の高さから迫る3つの殺意に対して、彼が取った選択はシンプルなものだった。
刃と接触する皮膚を龍鱗に変質させ、硬質化した自慢の肉体で真っ向から迎え撃つ。
次の瞬間、「ガキンッ!」という鈍い金属音と共に剣士たちはそれぞれ反動で弾かれ、僅かに姿勢を崩した。
その瞬間に、イヴリットの左の膝蹴りを腹に受け、右肘で鼻を打たれ、空いた左手で顔を掴まれ、それぞれ木や地面に叩きつけられて意識を失った。
やはりというべきか、かつてのレオンなき魔国領において、武力のみで名を馳せたイヴリットにとって、そこらの雑兵など相手にならない。
しかし、彼以外はそうではなかった。
見渡せば、今まさに胴を袈裟に斬られ、血飛沫を上げながら大地に伏す者。首を刎ねられ、光を失った瞳で真昼の星を見上げる者。
正しく屍山血河。敵味方問わず、すでに周囲では数多の死体が積み上げられ、大地に赤黒い海を築き上げていた。
「くそっ、婆さん! チンタラしてる場合じゃねぇぞ!」
木々を足場にして、重力を無視した弾丸のように縦横無尽に戦場を駆け巡りながら、自軍の救援を請け負ったイヴリットが、焦燥に駆られる。
声を投げかけた先、しかしおそらく声は届いていないだろう激戦の中心。
戦が始まって早1時間、サクヤと名乗った男と斬り結び続ける幼くも老練な少女の影が1つ。
ユイが振り下ろした刃をサクヤが受け止め、両者が鍔迫り合う。
互いに譲らぬその力比べは、完全に拮抗し、それに呼応して両者の口角が再び上がる。
「ククク、よいぞよいぞ。ここまで我の攻撃を受け切れる者は、世界でも数えるほどしかおるまいて」
「そろそろ小手調べは十分だろう? 『雪月花』」
合図があったわけではない。しかし視線が交錯した瞬間、両者は同時に相手を打ち払った。
足裏で大地を擦りながら、ユイが反動で2m後退する。
「随分と古い名を持ち出してくれる」
その時、ユイが放つ剣気がさらに鋭くなった。
それを肌で感じ取ったサクヤは、ついに温存していたもう一振り、『天剣』を抜き放った。
そして再び両者の視線が交わった時、今度はサクヤが踏み込む。
攻守交代。否、本来の展開に戻ったという方が正しい。
2本の刀が、それぞれ意志を宿したようにユイの喉笛を食い破らんと代わる代わるに襲いかかった。
首を狙う横凪ぎの一閃は妖刀の切先を真下に抜けたまま側面で受け止め、持ち手を狙う縦振りの一刀には半身を翻すことで刃の軌道から逃れる。
続く心臓目掛けた右の刺突も、ユイはさらに胸を逸らして紙一重で躱し、胴に振り下ろされる左の袈裟斬りは同等の力で妖刀を当てて弾く。
サクヤを剛の剣とするなら、ユイは静の剣。
往なし、躱すだけでなく、隙を見てカウンターの剣戟を叩き込む。対するサクヤもそれを完璧に処理してみせた。
ここまで互いに未だ無傷。
そして睨み合った両者は、間断なく再び刃を交えた。
「ダメだ、まるで聞こえてねぇ」
周囲の剣士たちを軒並み倒したイヴリットが再びユイに視線を送るが、今の彼女にとって周囲の状況は眼中にないらしい。
舌打ちして自分も加勢するべきかと思案した時、イヴリットは自らの背後で、誰かが静かに降り立った事を知覚する。
「——見つけました。文字通りの一騎当千、あなたが話に聞くナンバーズですね」
振り返ったイヴリットに投げかけられたのは、少女の声。
そこには一本の長い刀を携えた、黒髪黒眼の和服の少女が立っていた。
その少女は長い髪を後頭部で尻尾のように1つにまとめて首まで垂らし、開けた視界にイヴリットのみを映す。
すでにその手は鞘と柄にそれぞれ添えられており、腰を落として居合いの構えを取っている。完全に臨戦態勢だった。
その姿を認めたイヴリットが、目尻を吊り上げ眉を顰める。
「・・・・・・だったらなんだ?」
「いいえ何も。ただ、あなたが剣士でないことが残念だと感じたまでです」
「はっ、そうかよ。ならそのままくたばれ」
言い切るよりも早く、イヴリットは5mあるかないかの距離を瞬きの間に縮め、少女に肉薄する。
そして華奢な体に殴打の雨をお見舞いしようと拳を打ち出し、細く鋭利な感触に阻まれた。
見ればそこには、先ほどまで腰に収まっていたはずの刃が、半分だけ鞘から抜き放たれ、少女の胴とイヴリットの拳の間に確かに割って入っていた。
「はぁ、随分とお元気なのですね。ではこちらから攻撃を加える前に。私は如月涼音、『月虹団』所属の剣客です。短い付き合いになりますが、どうぞよしなに」
「お前さてはあれか? 武人ってやつか? 結構なことだな。なら俺も、殺す前に教えといてやるよ。俺は『始原』の魔王陛下の忠実な僕、イヴリットだ。冥土の土産に覚えて逝け」
『天剣』が『大剣豪』に挑む傍らでは、龍人と剣客が対峙する。
初撃は涼音の抜刀だった。
半抜きだった刀をそのまま鞘から抜き放ち、その勢いのまままっすぐ斬りあげ、イヴリットを縦に両断しにかかる。
これにイヴリットは回避を選択。後方に飛び退いて半月状に描かれた斬撃の軌道上から逃れ——られなかった。
紙一重で躱したはずの斬撃は、確かにイヴリットを捉え、切先が彼の衣服を僅かに切り裂く。
傷を負うことはなかったが、想定外の結果にイヴリットの脳が瞬時に分析を始める。
(目測を誤った? いや、他の奴らより刀身が拳2つ分長い。それに加えて、何か他にもタネがありそうだ)
初撃でその情報を得られたことは大きい。
それなら、敵に合わせて対応を練り直していけばいいだけだ。と、そこまで思考したところでそれを打ち切り、今度は先ほどよりも気持ち過剰に飛び退く。
自身から拳1つ分前方を、踏み込んできた二の太刀が横一文字に走り抜ける。
(間合い管理はこれでいい。敵の反応速度、こちらの行動への対応力、やはりそこらの雑兵とは一線を画している。油断や慢心は厳禁。必要なら聖域を使うことも視野だ)
続く3撃目は左腕を硬質化させて弾き、右脚で小さな体を蹴り上げる。
それに対し涼音は蹴りに合わせて大地を蹴り、自ら飛び上がることで衝撃を軽減。
そのまま付近の木々を足場に、縦や斜めの動きを加えてイヴリットに斬りかかる。
(人間にしちゃ、身体能力が異様に高い。聖遺物で増強してると考えるのが自然か。加えてやたら速いな、陛下と戦った時並みか)
真上から着地と同時に振り下ろされた一刀は一歩左へ避け、返す刀には硬質化して対応。
反撃を試みるが、往なされ受け流される。
致命傷を喰らうことはないが、こちらも致命傷を与えられない。
このままでは、持久力を先に切らした方が負ける消耗戦にもつれ込んでしまう。
イヴリットにとって、それは非常に有利な戦いだが、戦局全体で見ればそれは得策ではない。
彼は一刻も早く目の前の敵を処理して、自軍の救援に走らなければならなかった。
(まだ『特異点』が控えてる。ここで徒に兵力を減らすことは愚策だ。多少消耗してでも、一気に押し切るッ!!)
「【聖域結界】!」
周囲に魔力を巡らせ、自分を中心に半径15m以内の空間を掌握する。
直ちに黒い天幕が2人を包み込み、あたりの景色が屍山血河の死合舞台へ塗り変えられた。
周囲の変化を確かめた涼音は、次に自身の変化を確認する。
「なるほど、これが話に聞く『聖域』ですか。ふむ、身体が重い、中にいると弱体化されるのですね」
そこまで認識し、正眼に構えた。
しかし、それでは聖域の恩恵により強化されたイヴリットの一撃を受け切れない。
案の定イヴリットの拳を見切れず、鳩尾に一撃を受けて外郭まで吹き飛ばされる。
「ゔっ、ガハッ!」
天幕に背中を強打し、血を吐き出す。
この戦いが始まって初めて、まともなダメージが入った瞬間だった。
「ケホッ、なる、ほど。五感をはじめとした肉体性能そのものにも、作用するのですね・・・・・・」
口元を拭い顔を上げた瞬間に、追撃で頭を強打され、飛びそうになる意識を唇を噛み切って強引に引き止める。
普通の敵なら、このままワンサイドゲームで決着だ。
しかしイヴリットは、これだけではまだ決着できないことを本能で感じ取った。
(『聖域』の原理、おおよそ解析完了。性質上、異能での再現は可能。できなければ死ぬだけ、試してみましょう)
その瞬間、涼音の纏う雰囲気が一変する。
いや、変わったのは雰囲気だけではなかった。
「【聖域結界】ッ!」
忽ち彼女を中心に、半径3m以内の景色が明かりなき夜空に塗り替えられる。
奇しくも涼音の天才ぶりは、剣術に限らなかった。
魔力を用いて空間を支配する聖域の原理を戦いの中で推察し、聖遺物である愛刀を触媒にそれを擬似的に再現。
必敗の状況に、わずかな勝機を生み出した。
その光景を前に、イヴリットは様々な感情を抱き、それらを即座に放棄する。
目の前にいるのは倒すべき敵であり、驚愕も称賛も無用なものだった。
これから始まるのは、単純な押し相撲。
魔力総量の多さと運用効率で競いあうシンプルな戦いだ。
「むっ、結構消費が馬鹿になりませんね。もっと、消費を抑えなければ・・・・・・」
即興で聖域を練り上げた涼音は、使用感を見ながらリアルタイムでそれらを調整し、洗練させていく。
総量では決して及ばないが、運用効率の強度でイヴリットに対抗し始めた。
やがて涼音の聖域は4m、5mと広がり、7mに至ったところでイヴリットの聖域と拮抗する。
魔力総量にものを言わせ、その聖域を押しつぶしにかかるイヴリットと、それを限界まで上方修正し続ける絶大な運用効率で迎え撃つ涼音。
2人の戦いは先ほどまでの殴り合いと違いとても静かだが、その熱量は決して穏やかではない。
(この女、見様見真似で聖域を再現しただけじゃなく、俺と互角の出力を維持し続けてやがるっ! 魔力切れになる前に押し切らなければ、負けるっ!)
(くっ、やはり即興の技ではまだ本来の使い手には届きませんね。私の異能が切れた時が敗北の瞬間ッ!)
両者一歩も引かず10分、20分と互角の押し合いが続いた。
そして30分を超えた時、バチッと互いの魔力が反発して弾け、二つの聖域が薄れて消えていく。
両者は弾き合う磁石のように後方へ吹き飛ばされ、大地を大きく滑って止まる。
その衝撃で巻き上げられた砂埃が煙幕となり、互いの姿を覆い隠した。
聖域勝負の結果は、完全な引き分けだった。
魔法も異能も当分使えなくなった状況下で、しかし2人はその影響をまるで気にしていない。
本来、彼らにとって魔法や異能はサブウェポンであり、彼らはそれを主体に戦う戦士ではないのだ
故にここからは1対1の純粋な殴り合い。
互いに得意の戦法で、相手を上回った方が勝利する人類最古の決戦方法。
油断していたわけではなかったが、目の前の少女は自分の想定を遥かに上回る強敵だと、再度認識を改める。
握り拳に力が入り、砂埃の向こうにいるだろう敵に意識を集中させる。
その時、砂埃の向こうから齎された斬撃が彼の視界を開き、静寂を切り裂いた。
鮮明になった視界の奥で、剣を振り抜いた少女の口元は、楽しそうに笑っていた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
(ほう、早々に聖域を使いおったか。あやつも相当な相手と遭遇したようじゃのう。ならば、我もそろそろ勝負を決めねばなるまいて)
視界の端で黒い帳が降りたのを認識したユイが、絶えず振るわれる二刀の猛攻を掻い潜り、密着状態から彼我の間に3mの余白を生み出した。
これまでユイは、妖刀に魔力を纏わせ強度を補強するにとどめていたが、剣術のみの戦いを楽しんでいられる段階ではなくなった。
「良かろう、ならば・・・・・・起きよ、『月影』」
ここにきてユイは刀に纏わせる魔力を引っ込め、代わりに『妖力』と呼ばれる固有のエネルギーを流し込む。
それに呼応して、妖刀が静かに喝采した。
決して視覚的な変化があったわけではない。
しかしその瞬間、サクヤは確信する。
あの刀と真正面から打ち合ってはいけないことを。
「お主との手合わせも中々楽しかったぞ、サクヤ。そろそろ我も本気で行かせてもらおう」
その発言をサクヤは決して侮辱だとは取らなかった。
彼は目の前の存在の正体を知っているからこそ、これまでの戦いが最初から遊ばれていることを理解していたのだ。
だからこそ、彼はむしろその言葉を誉に思った。
伝説の存在に、ついに本気を出させた事実を、自分自身に誇ったのだ。
彼女は右手に刀を持ち、無造作にその場に立って己を真っ直ぐに見ている。
一見隙だらけに見えるその構えは、しかし一縷の隙もない。
あるいは魔王にも引けを取らないその覇気と殺意を前に、サクヤは生唾を飲み込み、背筋に寒気を覚えた。
殺し合いが始まる。数年ぶりの死の予感を抱く。
剣術において無類の強さを誇り、ついに『天剣』すら手にした己は、目の前の存在に一体どこまで立ち向かえるか。
刀を握る両手に力が入り、一剣士としての好奇心がどうしようもなく刺激された。
「構えよ」
サクヤは愛刀を鞘に収めると、『天剣』を両手で逆袈裟に構えた。
眼前の『大剣豪』の表情に、先ほどまでの朗らかさはない。彼女はただ荘厳に鋭い剣気をぶつけてくる。
この瞬間の彼女は、魔族でも大妖狐でもない。まさに剣士として完成された最高峰の存在だった。
「来いっ・・・・・・!!」
深呼吸を1つして、天剣に魔力を流す。
その瞬間、『大剣豪』の姿が掻き消えた。
それが人間の知覚速度を大きく超えて、こちらへ駆け抜けて来たのだと直感すると同時に、サクヤは咄嗟に己の首を守った。
確信があったわけではない。剣の道に生涯の大半を費やした経験と第六感が、自身に迫る死を告げたのだ。
『妖刀』と『天剣』が鈍い金属音を上げながら鍔迫り合う。
「【月食】」
サクヤは刃から伝わる手応えと同時に、ユイが小さく呟く声を聞いた。
瞬間、『天剣』に迷わせていた魔力が、いやそれだけではない。
『天剣』そのものが持つ聖遺物としての固有の力が確実に削がれたのを感じた。
(くっ、打ち合いを強要された! 『天剣』から力が失われていく、これが『妖刀』の力か!)
このまま鍔迫り合えば、『天剣』の力が失われるばかりだと理解したサクヤは、大きく飛び退き距離を稼ぐ。
「異能解放、【月虹】!」
それと同時に、ユイのいる方向へ横一閃に『天剣』を振り抜いた。
【月虹】という技は、代々【月虹団】の団長に受け継がれて来た『天剣』が持つ固有の異能力。
使用者の実力と剣気によって威力が大きく変わるこの技は、ある意味で『天剣』の代名詞とも言える。
半月状に弧を描いて振り抜かれたその剣閃が、虹の輝きを放つ刃に変化して、遠近法を無視しながら太刀筋から200m以内の直線上に入った全てを瞬く間に切り裂いて行く。
切り倒された木々がバタバタと倒れ、不幸にも射線状にいた戦士たちが両断されていった。
知る者が見れば、その一撃が水無月サクヤという存在が、歴代の中でも屈指の使い手だとわかるほどの斬撃。
それでも、ユイには届かなかった。
音を置き去りにして迫る虹の斬撃を、ユイはタンッと地を蹴り、スクリュー状に真横に回転しながら躱わす。
そして着地した瞬間、再び軽やかに地を蹴ってサクヤへ迫り、
「天晴れじゃ、水無月サクヤ。貴様の剣、初代のサクヤを思い出したぞ」
と、当人同士にしかわからない最大限の称賛とともに。
——————満月の現し身が、黒く瞬く。
曇りなき白日の月夜に、紅い華が咲いた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「如月一刀流・剣術 壱ノ型【流星】」
砂塵が晴れたのと同時に、涼音がイヴリットに迫り、何度目かわからない攻勢に打って出る。
愛刀の切先をまっすぐ敵に向け、右手で握った柄を頭の横に構え、左手は刃を支えるように空中に添えられている。
いわゆる刺突の形だった。
自身に迫る刃を認識したイヴリットは、それに対して再び硬質化した右腕で防ぎ、強力なカウンターを打ち込もうと左の拳を握る。
そして切先が触れた時——————イヴリットの予想が覆された。
「グッ、くそっ!」
グサリと硬質化した皮膚を貫いた刃が右腕を貫通し、ぐるりと刀そのものを回転させて肉を抉りながら引き抜かれる。
この戦争が始まって初めて、イヴリットが明確な傷を負った。
傷口そのものはすぐに再生して塞がったが、両者にとって重要なのは、『攻撃が通る』という事実。
これによってイヴリットは、無闇に防御力に物を言わせたカウンター戦法を取れなくなった。
そして涼音の猛攻はまだ終わらない。
「如月一刀流・剣術 弐ノ型【流星群】」
今度はそのまま1秒間に3度の刺突を放ち、3秒で合計9度の攻撃を喰らわせた。
その傷はすぐに塞がったが、確実にイヴリットを消耗させている。
(やばい、このまま喰らい続けたら押し切られる!)
聖域展開直後、僅かに回復していた魔力を再生に使わされたイヴリットが内心歯噛みする。
あらゆる行動の全てを放棄して、回避に意識を集中させる。
敵の攻撃は、龍人の動体視力があれば決して捉えられない速さではない。
(致命傷以外の治療は悪手だな。原理はわからんが、あの剣の刺突は回避が必須)
そうと分かれば対応も可能。
横の空間を広く使い、二次元的な最小限の動きで攻撃を躱していく。
「如月一刀流・剣術 奥義【残月・刹華】」
刺突に対応され始めた涼音は、ここへ来て攻撃手段を斬撃へ変更。
空中に×印を描くように連続で刀を振るった。
しかし刃渡り110cmの長刀を持ってしても、2m離れた現在の距離では届かない。
さらにイヴリットは、万が一を警戒して油断なくさらに1m後退した。
ここまでの距離が空いては、その場で刀を振るったところで空振りに終わるだけなのは明白だった。
——————本来ならば。
「あ゛、?」
突如、血飛沫を上げた己の体を見下ろし、言葉を失う。
なぜ斬撃で傷を負ったのかという疑問は痛みで掻き消した。
なぜ攻撃が届いたのかを解き明かそうとする余分な思考も、喉元に込み上げた血と共に吐き出した。
今のは見逃せるダメージではない。明らかな致命傷だ。現在の魔力量では再生も不可能。
早々に目の前の敵を殺しきり、一刻も早く止血しなければ、失血死することは火を見るよりも明らかだった。
(やばい、閣下と戦ったあの時よりもやばいっ! 死ぬ、殺される、解決策を、対処を急がねぇと)
傷口から絶え間なく流れ出していく鮮血と共に、思考力が失われていく。
つま先から旋毛にかけて、突き抜けるような焦燥感に襲われ、頬には冷や汗が伝い、平静と共に顎から滴り落ちた。
龍を追い詰める狩人は、居合いの構えでこちらに鋭い眼差しを向けたまま、獲物の次の動きをじっくり観察している。
「時間」という最も身近な存在が今、彼に牙を剥いた。
戦闘描写、もっとオシャレかつスマートに書けるようになりたいな...
頑張ります




