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情動  作者: 駄犬
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アイランド

 携帯電話の画面に表示される平面的な地図を実際の風景と照らし合わせて、ホテルアイランドが根を下ろす場所を目指す。地図との睨めっこもとりわけ、私の歩みを邪魔する原因ではあったが、その大半を担っているのが彼女であった。形容し難い緊張が手足に重苦しさを枷として纏わせ、地を這うカタツムリを連想させる愚鈍な歩調を強いられた。私は、どれだけ自身が小心者なのかを改めて自覚する。信号が赤に変わるたび、ざわついて仕方ない胸騒ぎが少しだけ和らぎ、一呼吸置くのに役立つのだから。


 落ち着きがない視線の運びに、目を回し始めた頃、「ホテルアイランド」と検索をかけた際に浮上する外観の写真を見比べる段階にようやく至った。私は目の前の建造物を仔細に観察し、間違いがないかを神経質なまでに見物していると、入り口の直ぐそばに腰を下ろす石の塊に、「ホテルアイランド」と掘られているのを見つけた。約束した時刻よりも三十分早く着いてしまったが、遅刻の為に頭を下げるような真似を演じずに済んだのは幸いだろう。普段は傍観者として眺めるばかりであったコミュニケーションツールアプリを起動し、彼女から送られてきたメッセージに目を落とす。


「先に部屋の中に居ますね」


 三十分前に、彼女から受け取ったメッセージである。先走った私を見越していたかのように、既に入室を果たしている彼女に対して、約束の時間より早く到着する男の器量はどう思われる?


「……」


 私は幾ばくか考えた末に、ホテルの前に到着した有無を先にメッセージとして届けることにした。全国的に手を広げるホテルは、象徴的な意匠を看板に設けながら、建物の外観はデザイナーの強い主張を排しており、景観を損なわない優等生的な佇まいをしている。足を運ぶ敷居は高くなく、軽やかな足取りでホテルの入り口をくぐり抜けられた。ホテルを訪れる客が必ず通らなければならないのがラウンジであり、経営者の趣味趣向が大きく反映される場所だ。ホテルアイランドは、大理石の床を下地に、白と黒を基調に装飾されていて、現代的な審美眼に則った、目が決して滑ることがないまとまりのある内装が施されている。悪く言えば没個性になり得て、宿泊客をもてなすのに些か魅力が欠けるかもしれない。私はそんなホテルのラウンジを一通り見回すと、足早に受付けへ向かった。左右対称を意識した従業員の正装は、名刺を持つより効果的に「顔」の作りを印象付けさせる。


「いらっしゃいませ」

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