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騎士と悪魔の輝ける日々  作者: 玲島和哲
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騎士と悪魔のダンス

 夜、ディグジーズ戦後初となる、城の中で行われるパーティーにおいて、イエーグナは席について目頭を指で押さえつつ、微かな眠気を抑えていた。気だるそうに顔を上げると、その前を、白のドレス姿の男女二人一組が通る。


 服装は基本、タキシードとドレスに分かれていたが、どちらを着るかは自由であったドレス姿の男もいれば、タキシードの姿の女もおり、それぞれ、似合うものもいればそうでないものもいた。イエーグナはタキシードだったが、これを着るには、彼女は少し幼い容姿をしていた。


 彼女はこのパーティーがどんな内容のものであったか、説明はされたがよく覚えていなかった。とりあえず出るかというリベジアンの確認を了承して出てみた。周りに人が集い、似たり寄ったりのことを聞かれ、食事も、見た目こそ豪勢であるが、普段と特に変わらぬ味であり、大して楽しいものでもなかった。


 ワイングラスを持った片腕をテーブルの上に乗せつつ、イエーグナはパーティーの様子を見回す。タキシードやドレスを着た、富裕者やら政治家やら有名人がひしめき合っている中を、同僚のメイドやボーイが間を縫って、移動していた。


 一度、仕事を手伝うことを提案したが、彼女の態度が、それまでに比べれば幾分改善されていたものの、あまり良くないからという理由で断られた。元より乗り気で無かったこと、同僚達のいつもの態度に触れて、ある程度その気安さに気持ちが緩み、特に嫌な気分にはならなかった。


 ただ、やはり出席者の、妙に鼻持ちなら無い態度が気に食わなかった。表面的にこそ慇懃ではあったが、本当に表面だけで、特に目に見えて不快なところが見られるわけではないにしても、飽くまで格式ばった、どことなく嘘っぽい態度に見えて仕方なかった。


 それに一応合わせようとしてしまう自分にも、言い知れぬ嫌気があった。まだ、以前から時折向けられる不審な者を見る目付きの方が慣れている分、気にならなかった。


 少し遠くに視線を移すと、いつの間にか舞台の上に、ドラムやマイク、大きなスピーカーが据えられていた。話に聞いた楽団が、演奏に来るのを思ったが、特別興味を駆り立てられる物でも無かった。


「大丈夫か」


 声のした方に目を向けると、白いタキシード姿のリベジアンが、ワイングラスを持って立っていた。中の白ワインは、もうほとんど入っていなかった。


「ん? まぁ……」


 肩を軽くすくめつつそれだけ答えて、イエーグナは目を出席者らにむける。これだけで、彼女の状態がおおよそ分かり、リベジアンは苦笑した。とはいえ、以前ならよりはっきり、自分の態度を表したであろうとこを考えると、彼女も変わったと思わずにはいられなかった。


「別に、ずっといなければいけないというわけではない」リベジアンが言った。「もしあれなら、部屋に戻っても問題ないが?」


「あんたは良いの?」


「出席は必須ではないからね。それに、必要な挨拶もおおよそ済ましてある。いてもいなくても変わらないさ」


「ふぅん」イエーグナは少し考える。「英雄様も落ちぶれた?」


「そういつまでも英雄扱いは疲れるよ」リベジアンは苦笑しながら言った。「軽い気持ちで接してもらった方が、私は楽だな」


「そ。じゃあ……」


 イエーグナはグラスの赤ワインを飲み干し、机の上の肉玉を一つ二つ口に含むと、そのまま立ち上がった。






 長い廊下の明るさは、夜の暗さによって、より鮮明なものになっていた。二人は他愛ない会話をしながら角を曲がると、メイド長のサキミが、若いボーイと一緒に歩いているのに行き当たった。


 後ろには、五人が、やはりタキシード姿で、ついてきていた。それぞれ、楽器の入ったケースを手にしている。一人だけ、スティックだけである。二人ほど中性的な見た目をしており、そのうち一人に、辛うじて胸の膨らみが確認された。


「あら、二人とも」


「どうも」


 リベジアンが軽い挨拶しつつ会釈する。イエーグナもまた小さく頭を下げた。


「部屋に戻るんですか?」


「はい」


「もし用事があったら、いつでも呼んでください」


「ありがとうございます」


 メイド長とボーイ、そしてその後ろから楽団のメンバーが、小さく頭を下げつつ、パーティーへ戻っていく。






「──確か、『ノールス・ヒール』だっけ?」部屋にたどり着いてゆっくりしたイエーグナがリベジアンに聞いた。「途中であった連中。演奏するんでしょ?」


「あぁ」


「確か、ギターとかベースとか使うんでしょ?あんな場所てうるさくない?」


「いや、音楽は静かなのを演奏するんだよ」リベジアンが答えた。「見に戻っても構わないが?」


「いやここに来てすぐに戻るのは流石に……」イエーグナは面倒くさそうに言った。「まぁ聴いてみたいと言えば聴いてみたいけど」


「一応聴けるぞ?」


 そう言って立ち上がると、リベジアンは棚からラジオを出して、電源を着けた。


「放送すんの?」


「そうだよ。なんとかってラジオ番組が放送許可を取ったらしくてね、人気楽団だから。生放送で流すそうだよ」


 答えつつリベジアンが上手くチャンネルを合わせると、鳴っていた拍手が静かに止んでいき、一瞬の沈黙が覆った。やがて、ゆったりとドラムの音が鳴り出し、それに合わせるように、他の楽器の音も入ってきた。


 リベジアンの言った通り、それは穏やかな、優しい曲調の音だった。一音一音が丁寧に響き、包み込むような温もりに満ち、心を落ち着けていくようだった。ボーカルもまた、ダンディーながらも品格のある声をしていた。


 イエーグナとリベジアンは二人して、しばらくはじっとこれを聞いていた。やがて途中からリベジアンが立ち上がり、音に合わせてステップを刻み始めた。この曲を知っているようで、音にはしっかり合ってはいた。


 しかし、そのセンスは最悪で、しばらくは我慢してみていたイエーグナは、思わず吹き出してしまった。真面目なリベジアンは、時折意図して笑わせようとふざけたりすることがあるが、これが毛ほども面白くない。


 その一方、そうした真面目な人間に往々にしてあるように、当人が意図しないところで、多くの人を面白がらせたりする場合がある。今は、まさしくそういう瞬間だった。今の彼女の顔つきは、にこやかにしてこそいるが、あくまで真剣に踊っていることがわかる。故に、なおのこと可笑しかった。こうした無礼さにも拘わらず、リベジアンは平然と、彼女に目を向けつつ、踊り続けた。


 次第に楽しくなってきたイエーグナも立ち上がり、リベジアンと一緒に踊り始めた。彼女の方は曲を知らないため、その動きは少しばかりぎこちなかった。とはいえ、それでもフォークダンスを、互いに軽やかに踊っていく。


 時には手を繋ぎ、手を離しては、開いた翼を模する様にそれぞれ手を広げる。型など無く、それぞれが思い付いたままの動きであったため、よく乱れたり、バランスを崩したりするなどしたが、それでも楽しく踊っていた。


 軽やかで情緒のあるギターソロが入り出した時、イエーグナは感覚的に、曲が終盤にかかりかけたことを察した。サビとなる部分が繰り返された時、彼女は背中に翼を発生させ、て、足を床から離し、宙に浮き始めた。


 イエーグナは笑顔のまま、リベジアンは少し呆然としていた。右手はリベジアンの左手を握ったままだったが少しずつ高くなっていくにつれ、その手も次第にほどけていく。


 二人の手が離れる。曲も丁度その時、静かに鳴り止んでいく。イエーグナは空中で、身体を仰向けに倒す。次の瞬間、翼を消滅させた。驚いたリベジアンは、落ちてきた彼女に急いで近付き、両手で受け止めた。


 焦りながらもほっとしたリベジアンは、横抱きをしているイエーグナと目を合わせる。やがて、急に可笑しくなった二人は、互いに笑いだした。邪気の無い、晴朗な笑い声であった。

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