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騎士と悪魔の輝ける日々  作者: 玲島和哲
16/37

写真撮影

 こうしたメイドの仕事は当然毎日ではない。仕事が終わったり、指定された休みの日には、読書をしたり、リベジアンの剣術の練習に付き合ったりした。


 剣術に関しては基本見学が主で、面白いんだかどうか分かりかねる表情をしながら、練習風景を見ていたりする。そんな孤独な様子をじっと見ていたリベジアンは、彼女にも軽く練習に参加しないかと誘ってみた。


 当初は露骨に嫌そうな様子を見せて拒否していたものの、二、三度押してみると、しぶしぶという様子を見せながら、竹刀を手にした。そしてリベジアンの指導のもと、持ち方から刀の振り方を試してみたりした。感想を聞かれて、それなりだったと言いながら、気が緩むと笑顔になりかねない、満更でも無さそうな表情をしていた。


 ──ある日、城の巨大な庭における丘の傾斜の所に仰向けで寝転がり、両手の肘を地面について上半身を少し起こしつつ、少し距離を置いた下の方を見ていた。そこには何人かの少年少女達が、練習だか遊んでいるだか判別しがたい様子で、竹刀の打ち合いをしていた。


 イエーグナの斜め後ろにはリベジアンも立っており、イエーグナが見ているものを、平和な様子で見ていた。


「──こんにちは」


 声をかけられそちらを向くと、リベジアンとティクスが試合しているのを観戦している時に、イエーグナの隣に座っていた少女が立っていた。相も変わらず気が弱そうである。


「シルビー」


 リベジアンに名前を呼ばれて、少女──シルビーは、小さく会釈した。片手に竹刀の入った、真っ黒な竹刀袋を背負っていた。


「君も参加するのかい?」


「はい。それで──」


 突然、彼女の後ろから勢いよく何かが通り過ぎながら、


「こぶこぶシルビー速く来い!!」


 と叫びながら、男の子三人が元気一杯に丘を走って下っていった。うち一人は、イエーグナに刀を手にされた少年である。シルビーとリベジアンは呆然と、イエーグナは相変わらずの、少しばかり小馬鹿にしたような表情で、彼らの小さくなっていく姿を見送る。


「……こぶこぶシルビーって何」

 イエーグナが尋ねる。


「あぁ……私、少し太ってるから、それで」


 シルビーは困ったように笑いつつ、少しばかり躊躇いながら言った。


「……あんた、弱いの?」イエーグナはシルビーの方を向く。


「え?」


 唐突な質問に、シルビーは一瞬戸惑った様子を見せる。すると、彼女の代わりに返答するように、


「とんでもない」リベジアンが言った。「シルビーはクラスの生徒の中でもトップクラスの強さだよ。太刀筋、スピード、瞬発力 、どれも申し分ない。少し気が弱い所に懸念がないわけじゃないけどね。とはいえ、それは裏返せば、彼女の優しさに起因するところなんだけど」


リベジアンの素直な態度で語られた評価は、これまた優しさに起因する謹み深さのために、シルビーをすっかり恐縮させてしまった。


「ふぅん」イエーグナはまた丘の下に目を向ける。「じゃあ連中の顔ぼこぼこに変形させて、こぶこぶのあだ名を譲ってあげたら?」


「イエーグナ……」


 リベジアンは咎めるようなツッコんだ。シルビーは苦笑しか返せなかった。


 その時、練習試合をしている場所から少し行った所にある小さな森の中から、二人の少年少女が出てきた。少年の方が何かを持っている。彼らに声をかけられ、練習試合を止めた生徒達が何かを聞いている。その後その少年はリベジアン達の方を向いて、大きな声で呼び掛けながら手を振ってきた。


「呼ばれてるようですね」


 シルビーが言った。


「あぁ」リベジアンはイエーグナの方を向いた。「行ってみないか?」


 問われたイエーグナは、嫌そうにリベジアンの方を振り向いたが、やがて小さく溜め息をついて、しぶしぶ立ち上がった。


「──今から写真撮影をするんです。写ってみません?」


「良いじゃないか。写ろう、イエーグナ」とリベジアン。


「何あれ?」


「ん? 知らないか? カメラと言ってな、私達の姿を紙に一瞬で綺麗に映してくれる機械だ」


「ふ~ん……」イエーグナは少年の方を向く。「明らかに嫌そうにしてる奴がいるけど」


 この言葉を聞いて、イエーグナに未だ根に持っている少年が、嫌悪の念を更に深めた。


「まぁまぁ良いじゃねぇか。気にすんなって」


 少年の親友が、彼の首に腕を回して、軽い調子で言った。


「──じゃあ撮りますね」


 そう言って、カメラの調整をしていた少年は、カメラの上部左端の白い部分を長押しする。青、緑と色が切り替わると、更に左端の指を掛ける部分を引っ張った。


 カメラは仄かに発光し、ゆっくり離していく両手の真ん中で、浮かんでいる。落ちる気配が無いことを確認すると、少年は皆が集まっている所まで走って向かい、一番前に屈んで位置した。


「……なんであれは浮いてるの?」


 イエーグナはシルビーに尋ねた。


「魔力を使ってああしてるんだよ」


「へぇ。便利便利」


 肩を竦めながらの、その妙に嫌味なイエーグナの言い方に、シルビーは苦笑する。二人は向かって左端の方に、イエーグナを外側にして立っていた。イエーグナの方が背が小さい。その後ろに、リベジアンが二人の肩に手を乗せていた。


「そろそろだよ」


 リベジアンに言われた二人は、カメラの方を向いた。シルビーの方を向いたイエーグナはその顔を彼女に向ける。少し背伸びをし、前を向きつつも、彼女に顔を近づける。それに気付いたシルビーも、笑顔で前を向きつつも、少し屈んで、彼女に顔を近づける。リベジアンは微笑ましくその様子を見守った。


 ──撮影が終わると、最大で十枚まではその場で現像できる写真を、人数分現像し、少年が一人一人に配って渡していく。


「ありがとう」


 感謝の意を示しつつ写真を受け取ったリベジアンは、撮られた物を見る。写真は全体的に、しっかり綺麗に撮られている。ふと、イエーグナの方を向く。彼女もまた、写真をじっと見つめていた。彼女に話し掛けようと近付くと、


「綺麗に撮れてるね」


 彼女の前にいたシルビーが、イエーグナに言った。イエーグナはそちらを一瞥する。そうして何も答えず、左手の人差し指を下にして、写真の左上を、親指の爪で強く押さえた。


 シルビーがじっと見つめる中、イエーグナは指を離すと、押さえた部分に細い穴が引かれ、そこを中心に小さなしわが吸い込まれているかのように寄っている。彼女はそれを懐にしまい、元いた丘の方へと上がっていく。


 呆然とそれを見守るシルビーの隣に立つと、リベジアンはその口を彼女の耳元に近付ける。


「──ああすれば、例えばなくしてしまったのを誰かが見つけた時、すぐ自分のだと分かるな」


 口を離して真っ直ぐ立つリベジアンにシルビーは目を向けると、彼女の微笑みにぶつかった。そして、彼女が視線をイエーグナの方へ向けると、シルビーもそれに合わせるように目を向ける。居丈高とも言えそうな目付きで、イエーグナはこちらを見下ろしていた。


 シルビーは思わず笑みを溢さずにはいられなかった。


 ──イエーグナの数日は、こうして過ぎていった。

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