モノローグ①(後朝の別れ3.5)
夢みたいな一夜だった。
ほら、目を覚ましても夢じゃない。
窓から斜めに差し込む淡い月明かりがベッドに横たわるあたしたちを照らしている。
隣にはあたしのことをずっと好きでいてくれた愛しい年下の彼がいる。
幸せそうな寝顔。彼はあたしの手を握りながら眠っている。まるで赤ちゃんみたいでとても可愛い。
彼の頬に口づけをする。
「大好きだよ……」
彼を起こさないようか細い声で愛を伝えた。すると、ふいに涙が頬を伝った。起こさないように彼の手を振り解こうとした時、彼が目を覚ました。でもまだ夢の中にいるみたいに意識は覚醒していない。
「こは、く……? どこ、行くの……」
「……。ちょっと、トイレに行ってくるね」
「早く、戻ってきてね」
「…………うん」
ああ、あたしは大嘘つきだ。彼にも嘘をついて、今抱いているこの感情にも蓋をして、必死に嘘をついている。
本当は、叶うことなら、戦乙女との約束を破って、彼が教えてくれる幸せに流されるまま、ずっとこのまま、彼と一緒にいたい。
なんてそんなことを口にしたら、あたしは弱くなっちゃうから。
せめてもの償いとして彼に言葉を綴ることにした。
ホテルから出ると頬に触れる夜風は涼しくて、街並みは穏やかな闇に包まれていた。その中をあたしはゆったり歩いていく。
歩く度に彼が刻んでくれたものを強く感じる。
お腹の奥がとてもぽかぽかする。あたし以外の誰かが、彼がくれた優しい陽だまりが、ずっと体の中にあるような感覚。この感覚を幸せと呼ぶのだろう。
誰かに恋をして、誰かを愛せて、本当に幸せな人生だった。
ありがとう、陽玄くん。
市街地の駅から離れた、さっきまでいた公園に舞い戻る。
時計台のある園内のベンチに腰を下ろしていた白髪の少女があたしを視認して立ち上がる。
「雪姫ちゃん、さっきはありがとう。手を緩めてくれて、彼の怪我を治してくれて」
「それがあなたとの約束でしたから。私もあなたが約束を守ってくれて嬉しく思います」
「うん……最後に一つだけ、これはもしもの話だけど、そうなった時はあたしの願いを叶えて欲しい」
「その願いとは何ですか?」
あたしは願いを口にする。その願いに彼女は潔く頷いて、時計台に続く階段を下りてきた。
「安心して眠りなさい。あなたが願いを乞わなくともそうするつもりです」
「そっか。よかった……、じゃあ、安心だ」
あたしは瞼を閉じる。目の前の彼女にすべてを託すように胸を差し出した。




