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天命の巫女姫  作者: たけのこ
7章 邪知暴虐Ⅰ<ゴーストタウン血戦>
173/285

エピローグ(聖典教会)

 11月18日、午前1時34分。場所、本館三階、第三会議室にて。

 深夜の円卓会議に五人の魔術師が集ってから34分が経過。


「以上が昨晩あった襲撃の報告だね」


 議長席に座る男が柔らかな口調で話す。


「酷い有様だな。代行者一人に八部隊規模の魔術師が敗北するなど……教団もずいぶん落ちたものだ」


 卓上に足を乗せた男がいまいましげに言った。


「耳障りな声ね。態度は愚か、獣と融合して感情すらも制御できなくなったのかしら、ガルティ。こうなってしまった以上、仕方のないことでなくて?」


 ガルティアの前方右斜めに座る女が貶めるように言う。


「ローゼ、それはお前だろ。酔狂に囚われ殺戮しか好まない阿婆擦れが。そんな阿婆擦れに寵愛されたガキは何処に行った。現場指揮官はあのガキだろ。この失態をどう取らせる気だ。ガキだからって大目に見るわけじゃねえだろうな」

「はぁ、知能が低下した獣を相手にするのは骨が折れるわね。一度、喉を潰しておこうかしら」

「ア? 喰い殺され――」

「二人とも。静かにできるかな?」


 男の、静かだが威圧的な声音に二人は口を慎んだ。


「うん、聞き分けがよくて助かるよ」


 一つ間を置いて先導者の男が口を開く。


「嬉嬉の失態についてだけど、ここで貴重な戦力を失うのは惜しいからお咎めは無しとする。それでも異論があるのならあの子を任命したのは私だから、直接私に言ってね、ガルティ?」


 穏やかな声音は変わらないが、得体の知れない圧迫感が異論を許さない。


「……異議はない」

「うん、理解が速くて助かるよ。とは言え、ガルティが言うように、とうとう組織のメンバーも一桁になっちゃったね。ローゼ、嬉嬉、シィ、ガルティア、バリア、マキエ……私を含めるとたったの七人だ。そのうち、下級魔術師はマキエ一人……」

「じゃあなんだ? 舎屋敷は解体でもするのか」

「ああ、今朝を持って舎屋敷は解体したよ。嬉嬉の事象支配で存在そのものは抹消し、以降、バリアの結界は残しておくことで手を打つ」

「ガキが欠席なのはそれが理由か」

「あんな大きな建物を吞み込んだからね、しばらくは寝込んで動けないだろう」

「でも欠席者ならもう一人いてよ?」


 ローゼが訊く。


「マキエのことだね。本当だったら皆に自己紹介の一言二言くらい喋ってもらおうかと思ったんだけど、今は地下牢で鉄を尋問しているよ」

「例の造反者か。それで何か聞き出せんのか?」

「まあ、それはマキエの腕にかかっているね。なんでも代行者の潜伏場所を鉄は知っているようだから、是が非でも聞き出して第二戦力でもある代行者を取り押さえたいところだ」

「それよりも本命は白い戦乙女だろ」

「うん、今回の本題は正しくそれについてだ。実は白い戦乙女は現在、代行者のもとにはいないんだ。今は剣崎陽毬、赤眼の女狐が確保している」

「ちっ、ということは黒の魔法使いの手にあるってことじゃないか」

「でもそんな彼女が今回の代行者襲撃に乗じてある提案を持ちかけてきたんだ。一緒に閻椰雄臣を倒そうってね」

「? どういう風の吹き回しだ」

「どうやら彼女は閻椰との関係にうんざりしているようで、彼女が関係を終わらせるためには閻椰を倒さなくてはならない。だから協力の手が欲しいみたいで手を貸してくれたら戦乙女を差し出すって言うんだ」

「さしずめ、俺らを誘い出し殺す気だろう。あからさまな罠に乗るって言うのか」

「そうなったときはそうなったで退却すればいい。因みに決行日時と場所は聞かされている。十一月二十四日、午前零時。場所は例のアクアリウムだ。彼女の提案に乗ってみるだけ乗ってみるのはいいと思うんだけど……さて、どうしようか、賛否を訊こうかな」


 手を上げる者はおらず、同席する魔術師全員が賛意を示す。

 そこに反論も否定もない。

 迷うことなく、即決だった。


「意見が統一するのは気持ちがいいよね。うん、戦乙女を手に入れるには乗るしかない。あとは共闘した彼女をどうするかだけど……、後始末はスィとガルティに任せるよ。特にスィ、君にはまた苦労をかけさせるけどよろしく頼むね」

「ご命令とあれば」

「うん。最後に第三勢力の報告だけしとくね」

「第三勢力ですって?」


 ローゼが驚いたように言う。


「ああ、つい最近行方不明だった局長二人の人骨が樹海から見つかった。骨にわざとらしく焼痕があったことから古流魔法『炎』の使い手で間違いないだろう。今はとりあえず頭の片隅に置いてくれるだけでいい」

「おかしくておかしくておかしくてよ? 毒殺したはずなのにおかしくてよ?」

「おそらく閻椰と一枚嚙んでいたんだろう。でもローゼ、君が動く必要はない。嬉嬉と一緒に大人しくしていてくれ」

「……あなたがそう言うのならよろしくてよ」

「うん、今後の役割はこれで以上かな」

「教祖さま、私にはご命令、ないのですか。私にもください」

「バリアはいつも通り地下礼拝に運ばれてきた遺体、無意識に死んだ自殺者の個人情報をこの世から抹消してくれればそれでいい。結界を維持するのも大変だろうから、私の指示があるまで地下の礼拝堂でローゼと嬉嬉と一緒に待機だ」

「はい。かしこまりました」

「じゃあ、報告はこれで以上だ」

「待て。異能者から国民を守るという国の依頼は今後どうするんだ。動ける駒がもういねえぞ」

「問題ないよ。閻椰雄臣を討伐した時点で付与した魔力は消滅するはずだから、すべて解決だ。ロミリアが今代に生きているのも閻椰雄臣と関係を持っているからだろうから彼が死ねばロミリアも多分死ぬだろう。あとは鉄から情報を引き出せれば、代行者の潜伏先もいずれ突き止められる。悲願が叶うまであともう少しだ」



 会議終了時刻、午前1時40分。同刻、地下二階、尋問室にて。

 暗闇の中で鈍く光る一つの蛍光灯の下で、天井から銀白色の女性が鎖によって吊るされている。黒いドレスは剥ぎ取られ、足枷をつけられた女性には抵抗の余地はない。

 血染めの包帯塗れになったマキエが、鉄の髪を撫でながら、裸の胸に甘えるように頬をなんどもこすりつける。


「あぁ、五年ぶりだよ。五年ぶり、五年ぶり、五年ぶりっ。やっぱりがねちゃんのおっぱいは最高だねっ! やわらかくていい匂い」

「――っ、はぁ……」


 鉄の口から吐息が漏れる。触れただけで過敏に反応してしまうほど、彼女の身体は絶え間なく続く快楽に耐えかねていた。

 興奮剤を投与されてから一時間。休む間もなくマキエによる同性愛的接触によって凌辱された鉄の裸身は汗と涎に塗れていた。性器を擦り合わせてする擬似的な性行為は彼女を何度もオルガムスへと迎えさせる。


「ねえ、がねちゃんの本当の名前教えてよ」

「……っ、ふ、ぅ」

「教えてくれたら休ませてあげるよ」

「……結構、です」

「そう、じゃあ仕方ないね」


 そう言って一番敏感な性感帯を細い指先でまさぐられた鉄は白い裸身に銀の髪を振り乱した。


「がねちゃんの身体は調べ尽くしたからね。どこが一番弱いかなんて見なくても分かるんだよ」


 得意げな表情を浮かべながら高揚した声で罵る。

 汗ばんだ裸身を撫で回しながら耳元で囁いていく。


「ねえ、あなたは、がねちゃんのお姉ちゃんなんだよね。じゃあどんな気分かな? 自分の妹の身体で感じちゃう感想は?」

「……酷い、気分です。妹にこんなことを……、絶対に赦しません」

「あはっ、やっぱりわたしと戯れていた時はあなたじゃなくて本当のがねちゃんだったんだね。がねちゃん、すごい可愛い声出すんだよ? ちょっと弄れば胸だけであんあん喘ぐし、普段の涼し気な顔してるがねちゃんとずいぶんギャップがあるから萌えたんだよね」


 焚きつけるように囁く。


「貴様――」

「でも、そういうことだったんだね。お姉ちゃん、穢したくなかったから人格交代してたんだね。ほんと健気だなぁ。あとあなたはすごく優しいよね。人を殺したくない代わりにこの身体をわたしに委ねるって誓ったんだから。でも妹のがねちゃんは大事なあなたを汚されたくなかった。すごいすごい、すごい姉妹愛だよね」

「どこまで妹を愚弄すれば……」

「がねちゃんが殺す決意をしていればこうはならなかっただけの話でしょ。それとも見たくないものは記憶に残らない感じ?」

「……」

「それにね、私はがねちゃんのこと心から愛してるから愚弄するんだよ?」

「――っ、狂って、ます」

「え、狂ってんのかな? わたし、生まれつきこうだからわかんないや」


 血で滲む包帯。塞がらない傷口から血が溢れて包帯の隙間から血が流れる。


「でもこれだけは言える。愛があるならどれも愛なんだよ。おかしい愛なんか何一つもないんだよ?」

「……何を言っても話が通じない相手に、話すことは何一つありません」

「ふーん、そんなこと言っちゃうんだぁ。……いいよ、そうやって口を閉じてな。でも絶対に吐かせるし、この傷の呪いも解いてもらうから」


 そう言ってマキエが棚から取り出したのは目隠し。マキエは鎖と枷で身動きの取れない鉄の背後に回り、鉄の視界を目隠しで覆った。

 そして――。


「はい、妹ちゃんからのプレゼント♪」


 視界を奪った後に鉄の耳にヘッドホンを装着した。


「――な、なん、ですか、これ……なん、で」

「ふふふ」


 明らかな狼狽を見せる鉄にマキエは笑みを零した。


「聞こえてないかもしれないけど、ヘッドホンからはがねちゃんの喘ぎ声が大音量で流れている。今からあなたは妹の嬌声を聞きながら一緒に快楽の淵に堕ちてもらうの」


 戯画的内包術、嗚呼絵(ぎがてきないほうじゅつ、おこえ)。式神を顕現させる呪文が唱えられた。

 そうして絵巻物から具現化された生物は五メートル級のイソギンチャクとヒルが合体したような未知なる生命体であった。

 無数の触手が床を這う。

 晒し者になった女性を嗅覚と熱で感知し、ぬちゃぬちゃと水気を含んだ音を立てながら蠢く。


「っ――」


 鉄の身体が仰け反った。

 へその緒のような赤い触手が鉄の肢体に絡みついた。ぬめり気のあるざらりとした感触の触手が下半身に張り付き、大きく開いた口から伸びる触手が鉄の肢体を這いずっていく。やがて触手は太腿の間に入り込み、股下をなぞり、臍を通って、豊満な乳房を撫で回しながら、脇を舐め上げていく。その様は食虫植物に食われる白い蝶を連想させ、既に彼女の首から下は蠢く口に呑み込まれていた。


「ぁ、んあ、い、っあああ、あああああああっ!」


 口の中は快楽の坩堝。

 想像を絶する快感に鉄は涎を垂らしながら悲鳴のような悶絶を響かせる。その光景をマキエは椅子に座りながら高揚した表情で眺める。


「この子、がねちゃんの初めてをもらった子だから、身体の相性ばっちりでしょ」

「や、め、や、めっ……ふっ、ああああああああ!」

「え、もう? がねちゃんより甲斐性なしじゃん。でもいいよ、がねちゃんの本当の名前を教えてくれるなら」


 足をぶらぶら揺らしてマキエは楽しそうに問いかける。


「……っ、ぅ」


 鉄は唇を噛みしめ必死に堪え直した。


「あひゃひゃひゃ。そうこなくっちゃ。流石、がねちゃんのお姉ちゃんだね。いいよ、姉妹揃ってたっぷり甚振ってあげるから。今日はこのままずっとその子の口の中で喘いでな。せいぜい失神しないよう意識を保つことだね」


 名前を吐かない限り終わることのない快楽地獄。一度吐けば堕ちてしまうと分かるからこそ耐える他ない苦痛の境地。


「んぅ、ふっ、ん、ああああああぁぁぁぁ――っ」


 ヘッドホンから流れる妹の絶頂が自分の喘ぎ声と重なって次第にどちらの声か分からなくなる。その事実が彼女の精神を徐々に蝕んでいく。


「っ――、や、ぁん、くっ、い、っ、ん――っ!」


 生物の口内に生えた無数のひだと触手が鉄の裸体を容赦なく蹂躙した。

 肌に張り付き舐め回すだけで終わるわけがなく、穴という穴に入り込んだ有象無象の触手たちが鉄の体液を成すがままに吸い続けた。


………………

…………

……


「おい、これはどういうことだ」

「最近見つかったバラバラ遺体に関する件ですね。これらはすべて私の部下の仕業なので、総理は気にせずご自身の職務を全うしてください」

「何を言っている……」

「ああ、伝えるのを忘れていましたが、公安委員会は既に我々聖典教会の管理下に置かれていますから知らないのも無理はありませんでしたね」

「何を言う、一体、何をしたというんだ」

「単なる暗示みたいなものです。意のままに動かせた方が何かと都合がいい、それだけのことです。虚構と現実を織り交ぜるよう警察組織には直接、指示を仰いだ方が融通が利くというものでしょう?」

「……お前は何を企んでいる」

「企んでなどおりません。意味が分からない事件はうやむやにし、遺族には行方不明の遺体らしきものが発見されたと虚偽するだけです」

「ならなぜメディアではすでに複数の遺体が通行人によって発見されたと報じられているんだ。なぜこんな失態を起こしたのか説明してもらう必要がある」

「部下の言葉を代弁しますと単純に人手が足りなくなったからです。こちらの戦力も外部によって随分削られてしまいましたから、少し手荒な形になってしまったのでしょう」

「それで済まされる話かっ。現実的な数としてすでに百人以上の命がお前らの手で葬られているんだぞ。名目上は異能狩りとして不問してきたが、傍から見ればそれはただの人殺しだ。その元凶である閻椰雄臣をお前らがいつまでも野放しにしているから新たな被害者が生まれているんだ」

「それに関してはおっしゃる通りでございます。我々が不甲斐ないばかりに死ななくて済んだ命を増やしてしまったことは事実です。こちらとしても敵戦力の低下及び勝機への機会を窺っておりましたが、流石に我々もこれ以上の殺人は控えたいと思っております」

「なら一刻も早くそいつを始末しろ」

「はい。一連の元凶である閻椰雄臣を十一月二十四日、聖典教会の名において必ず殺害致します。ので、それまでどうか吉報をお待ちください」

「……良かろう。それで解決するのならこれまでの愚行はすべて水に流す。だが、問題はもう一つ残っている」

「はい。自殺症候群の件ですね」

「ああ、そっちの方が深刻だ。先月だけで四百人のうち三百人あまりが突発的・無意識的な自殺で亡くなっている。もはや社会病理だ。我々では対処できないところまできている」

「そうでしょうね。こればかりは我々も儀式が完成しなければどうにもなりませんが、今まで通り原因不明で自殺した遺体は警察組織を通して我々聖典教会が回収します。後は以前説明した通りです。特殊な手段を用いてその者の個人情報を抹消、即ち他者の記憶から消失させることで自殺の連鎖を断ち切ります。自殺症候群が進行してしまった地区はやむを得ない措置として結界にてその地域を封鎖することで被害を最小限に食い止めましょう」

「ああ、引き続きよろしく頼む。話は以上だ」

「総理。退出する前に一つ、あなたに伝えておかなければならないことがあります」

「何だ?」

「まだ血は流れます。ですが多くの国民が救われるのなら多少の犠牲は仕方ないと割り切ってください」

「……その覚悟ならとっくにできている。現に数えきれないほどの死を闇に葬ってきたんだ。もう後には退けんし、この国の存続のためなら悪魔にだってなる覚悟だ」

「覚悟ができていて何よりです。ではこれにて私は失礼いたします」

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