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天命の巫女姫  作者: たけのこ
6章 天と剣の選別式
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モノローグ④ 秋の終わり

 陽玄さんはもういない。

 体感として十分。陽玄さんはわたしが泣き止むまでずっと抱きしめながら頭を撫でてくれた。

 今も、彼の温もりが微かに残っている。

 窓から見える月明かりを見る。

 諦めようと思っていたのに、嘘つきなわたし。

 完全に諦めるにはまだ時間がかかる。

 だから今は悲しいし寂しい。

 泣いて疲れた浮遊感。

 彼に対する欲情。

 その狭間にわたしはいて、けれどわたしはその欲求を抑え込む。けれどやっぱり心の中はさっきしてもらったばかりなのに、もう彼を求めていてどうしようもない。

 それくらい好き。大好き。

 もっとなでてもらえばよかったな。

 もっと甘えればよかったな。

 もっとわたしの身体に触って欲しかったな。

 ずっとずっと一緒にいたいな。

 好きだよって言われてみたかったな。

 唇と唇を重ねてみたかったな。

 そんな煩悩ばかり。

 でも心の中で何を思っていようとわたしの勝手だ。

 ああ、もう彼になら何されても嬉しいと思う。

 きっとわたしは陽玄さんに殺されたって嬉しいと感じてしまうのだろう。

 いっそのこと。

 彼の筋肉質な胸の中で永眠できればどんなに幸せか。厚い胸板の奥で、彼の心臓は息づいていた。あのままもっと抱き締めてもらえれば、心臓と心臓はくっついて離れずに済んで、さらに激しく強く、わたしの身体が折れてしまうまで抱き合えば、二つの心臓は一つに溶け合える気がした。

 でも、彼には琥珀さんがいる。傍にいたい相手が彼女なのだから、彼が求めようとしている幸せを邪魔したくない。大好きな人には幸せになってもらいたい。ただそれだけだから。

 でもそうだなぁ、住む世界が違くなくて、ただのクラスメイトだったら……。

 ううん、淡い幻想はもうやめよう。

 これで良かったんだ。

 叶わぬ恋はきっとわたしを強くする。

 もうすぐ寒い冬がやってくる。

 そうなれば、樹の葉は一枚もなくなり、樹の骨である幹だけになる。でもいつかは芽吹いてたくさんの緑を増やすんだ。

 だから。

 どんなに寒い冬が訪れても、きっとわたしは乗り越えられる。


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