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天命の巫女姫  作者: たけのこ
4章 執心熱情
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インタールード⑤(欲縋り)

 服装ははだけて、ほとんど下着姿と変わらない。

 こんな姿、誰かに見られたら恥ずかしくて死んでしまう。

 本当に、情けない。

 力を封じられたら、この身体は、か弱い女の身体でしかない。

 状態さえ回復すれば、炎で焼かれても、出し抜けるはずなのに、固く縛られたこの手首は動かない。薬で魔力の流れを抑制されているこの身体は、普通の人間の身体で、火を点けられれば、皮膚は爛れ、ひどい死に方をするのだろう。

 身体の気だるさは薄れ始めているが、魔力を行使することは愚か、身体に力を入れることすらままならない。

 目の前に立つ少年は思い通りにいかない苛立ちを言動に表していた。


「こはく、こはく、こはく、こはく、こはくっ! 本当に殺しちゃうよっ! 炎に身を委ねるより僕に身を委ねた方が賢明だと思うよっ! だから早くっ、僕のモノになってよ――っ! お願いだからさっ!」


 自分が好意を抱いている人間をそう簡単には殺せないと思っていたが、それもそろそろ限界が来ているようだ。少年の目は血走っていて、欲望を抑えきれなくなっている。

 このまま黙っていたら。

 燃やされるのか。

 犯されるのか。

 犯された後に、燃やされるのか。


「ああっ、ああっ、あああ――っ!」


 少年は地団駄を踏み、奇声を上げた。


「琥珀、琥珀、琥珀、どうしてだよっ! 僕はこんなにも琥珀のことを愛してるのに。ねえ、答えてよ。琥珀、琥珀、琥珀、琥珀、琥珀……」


 自分の名前を呼ぶ度に思いの丈は大きく膨らんでいく。

 だが、琥珀は岡内幹彦になった理人という少年に関心はない。

 ただぼんやりと別の少年のことを考えていた。


 早く、帰らないと。

 心配をかけたくない。

 こんなあられもない姿なんか見せたくない。

 見られたらどう思うんだろう。

 情けない。

 でも、ここに来ることはないって分かっているのに、どうして、思うんだろう。

 助けてほしいから?

 守ってほしいから?


 ううん、違う。

 会いたい。

 顔が見たいと思ったんだ。


 そんなことを思っていたら、いつの間にか、強姦される恐怖も、焼き殺される恐怖も、頭の中から抜けていて、彼の顔だけが浮かび上がる。


「琥珀――っ‼」


 一際大きな声で名前を呼ばれて、意識は強制的に、そっちへと向いた。


「あと五秒。カウントダウンするから、それまでに言って。僕のモノになるって。言わなかったら本当に燃やすから」


 使命感なんてなければ、死んだ方がよっぽどマシだ。


「五……」


 けど、自分の私情はいらない。ここで死ぬという選択肢はありえない。


「四……」


 好き勝手やればいい。


「三……」


 薬が抜けた後、真っ先に刀を具現化させて、その心臓に突き刺してやる。


「二……」


 穢されようが、この身体は自分のためにあるわけではない。身体は好きにできても心は決して思い通りになんかならない。


「一……」


 もともと死ぬはずだった命、救ってくれた戦乙女テンシのためにも、この命をここで終わらせるわけにはいかないのだ。

 幹彦がゼロの言葉を口にする時、琥珀は口を開いて、彼は瞼を閉じた。


「き、君……、君の……、モノ……、モノに、な……」


 悔しさと恥じらいを表情に同居させながら、震える唇を開いて、何度も失敗させながら、言葉を紡いでいく。


「な?」


 そう促すように問いかけてくる少年の瞳は、自身の欲望があと一歩で達成できる喜びからか、満面の笑みを零し始めていた。


「な……」


 る、と言った言葉は、割れた窓ガラスの音で遮られた。飛び散った窓ガラスの破片はカーテンに防がれ、石の塊がリビングに転がっていく。割れたガラスの窓から吹き込む湿った風の冷たさが、琥珀の身体から熱を引かせていく。


「……」


 風で靡くカーテンの隙間から、琥珀が知るもう一人の少年が姿を現した。

 ああ、こんなみっともない姿は二度と見せたくなかったけれど、彼の顔が見られて、ほっとしている自分がいた。

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