第9話 入国審査
「起きろ、皇帝の御前であるぞ」
その低い声に目を覚ました。おぼろ気な意識を起こして僕は状況を確認しよう周りを見回した。
広い部屋にはライオンやドラゴンや人など様々な彫刻が置いてある。
僕の下には赤い荘厳なカーペットが敷いてあり真っ直ぐ玉座と思われる椅子まで続いている。
玉座には王冠を被った皇帝と名乗る人が座っている。
玉座の後ろには右を向き王冠を被った獅子のエンブレムが書かれてた大きな旗がある。恐らくこの国の国旗だろう。
その左側には白髪の老人が怒りに満ちた顔でこめかみに青筋を浮かべながらこっちを見ている。
右側には刀を腰に差しガッチリとした体型のいかにも剣豪といった雰囲気の男が見定めるようじっと僕をに見ている。
皇帝の真横には14,5歳程の少年がにこやかな顔をして立っていた。
段々意識がハッキリしてきた。僕は後ろに手錠と足に鎖をはめられて、赤いカーペットに跪いていた。
例の封神輪とか言う首輪もしっかりとついていたので神技はまだ使えなさそうだ。
後ろにはギデオンと呼ばれる僕を捕まえた影使いが監視するかのように立っていた。その隣に頭に包帯を巻いたミラがいた。
(確か僕は巨大な火球を食らって気を失って捕まったのか。これから何される? 処刑? 拷問? 非道な人体実験?)
皇帝を見て見てみた。厳しい目付きで僕を見ている、怒っているのだろうか?
(しかも首謀者は皇帝かよ……まさかこの国で一番偉い人とは……最悪だ)
状況を把握して青ざめた僕を無視して、皇帝は部下と話し始めた。
「まずはギデオン。作戦立案から捕獲作戦実行までご苦労であった。お陰で最小の損壊で捕らえることが出来た。大義であったぞ!」
「ハッ! ありがたき幸せです」
「次に、囮として正面から戦ったミランダ、ジョット、ブレアの3人! 良く頑張ってくれた。ギデオン他の二人はどうした?」
皇帝は厳しい目をしたまま、頬杖をしてギデオンに聞いた
「ハッ、近衛騎士団所属ジョット・グルーバー及び魔法庁所属ブレア・ラッセルベルは現在医療部で怪我の治療をしています。
皇帝の目所属ミランダ・カーターはどうしてもこの者の行く末を見届けたいと自ら申し出たので同席を許可しました。構わないでしょうか?」
「良かろう、許可する。不在の2人には後から褒美を渡しておこう。では早速聞いてみようではないか。ユーリ・タイラー!」
「あっ……ふぁ、はい」
急に話をふられ思い切り噛んでしまった。
どうしようか? よくあるの異世界物のように国王とかのお偉いさんをおっさん呼びして、横柄な態度を取るのに憧れていた。
機会があればやってみたかったけど、悲しいことに今それをしたら不敬罪で処刑にされそうだ。
大人しくしゃべるしかなさそうだ。
「まずは確認だ。お前は違う世界からこちらに転生してきた。間違いないな?」
「はい」
「いつ転生した?」
「昨日です」
「では、クラウンズとは関係がないのだな?」
「クラウンズ? 何ですかそれは?」
僕は始めて聞く単語に困惑して聞き返した。
「君のような転生者によって構成された、秘密の多い犯罪組織だ。
数年前から本格的に活動を開始し、それ以降帝国の至るところで様々な被害が報告されている。
特に酷かったのが5年前にたった三人でこの帝都に襲来し、多くの国民が犠牲となった帝都襲撃事件だ。
その反応を見るに、朕はクラウンズの一員ではないと思う。他の者はどう思う?」
どうやら僕はその犯罪組織の一員と疑われてるようだ。
皇帝は部屋にいる部下に意見を求めた。
「陛下! クラウンズの関係の有無に関わらず、こやつの能力は我々の手には終えん。
神技の瞬間移動で脱走し、クラウンズに加入して大問題を起こす前に処刑すべきですぞ!」
左側にいた老人が大声で乱入してきた。
この老人は凄い僕の事を嫌ってるみたいだ。初対面のはずだか僕が何をしたって言うんだよ?
「うむ、フェル爺の言うことは一理ある」
皇帝はそう呟いた。老人の言うことを聞くべきか悩んでるようだ。
ヤバいな。このままでは本当に殺されるんじゃないか? そうだ僕は正当防衛しただけで罪なんか犯していない
「ちょっと待って下さい! 僕は確かに異世界から来たました。
でもそれだけです。クラウンズなんて知りませんし、罪になるような事は何もしてません。
だと言うのに殺されるのはあんまりじゃないですか!」
死なないために精一杯弁明した。
それを受けてフェル爺は更にこめかみに筋を立てて怒鳴って来た。
「何だと! 貴様ら転生者はどれ程我々に害を……」
「――待ってフェル爺、話がややこしくなるからボクから説明しましょう。良いですね父上?」
その時フェル爺の話を遮って皇帝の隣に立つ少年が話た。
「わかった。ノア、そなたに任せよう」
フェル爺は少し不服そうな顔をしたが黙って従った。
「まずは自己紹介しよう、ボクは皇太子のノア・ジャスティン。右にいるのがゼクウさんで、このおじいちゃんがフェル爺、後ろの人がギデオンさんだ。
三人合わせて帝国三獅士と呼ばれている。まぁこの国で一番強い人達だとざっくりと思ってくれて構わないよ。
ミラさんの事はもう知ってるだろうから割愛するよ。よろしくユーリさん」
「よ……よろしく」
急に攻め方を換えてきたので、僕は身構えた。絶対なんか企んでるだろこいつ。
国旗にライオンが入ってあるから、一番強い人たちの事を三獅士と呼ぶのか。
「クラウンズの話しは一旦置いておこう。ユーリさんが加担してる証拠はない。それにもしメンバーならユーリさんをみすみす我々に献上する訳がないからね。
だからここは、この世界アストラテスに取って転生者はどういう存在か説明しておこう」
このノアと呼ばれるお坊っちゃんは皇帝の息子か。大人しくて優しいそうな雰囲気がありちゃんと話を聞いてくれそうだ。
敵意が無いことを示したら命は助かるはずだ。
「察していると思うけど、アストラテスにはユーリさんの他にも異世界チキュウから転生者がやって来る。
ただ転生者全員がクラウンズのように帝国に敵対してる訳ではないんだ。
公開はされてないが初代皇帝、つまりボクの曽祖父が転生者だ。ちなみにゼクウ様の師匠もそうだった」
結構転生者はいるみたいだが、全員捕らえられるわけではないならしい。
「じゃあ僕も彼らと同じで帝国に敵対しないから……」
「――でもね、ユーリさん。知っての通り転生者と言うのはデタラメな存在なんだ。
まず魔力の量が普通の人より圧倒的に多い。この世界にはどんなに多くても水晶玉が割れるレベルの人はいない。そして何より君も神技をつかえるだろ?
報告書によれば光の能力だって? 勿論それは君しか使えない超凶悪な能力だ」
「…………」
最強チート能力はその人の意思は関係なく、それだけ危険視されるようだ。その点を全く考慮してなかった僕は無言になった。
「ユーリさんはこの世界に来た瞬間に世界最強クラスの力を手にした訳だ。
本来なら三獅士のような数十年に1人か2人の天才が血の滲むような努力を、何十年も続けて初めて得られる力でも及ばないくらいね……」
あ、ヤバい。この少年はさっきの爺さんより達が悪い。感情論ではなく理論で詰めてくるタイプだ。論破されそうだ。
「更に極め付けに君達の世界はこちらよりも科学技術が進んでいるようだ。
他の転生者から聞いたことがあるんだけど、君達の世界には[カクバクダン]という一撃でこの帝都を灰に出来る兵器があるんだって? もしユーリさんがそれの作り方を知っていたらどうなる?」
「し、知らないよ、核の作り方なんて……」
核分裂の原理はWik○で少し読んだ記憶があるが流石にそれだけの知識を元に作るのは無理だ。だがこの場で重要なのはその事実ではなく
「ユーリさんの世界ではあるかも知れないが、こちらの世界には嘘を暴く機械はない。ではどうやってそれを作れない事を証明する?」
それを元に凶悪コンボが使えることだ。
「悪魔の証明じゃないか……証明するのは無理だ」
「まぁ、そうだろうね。今回は[カクバクダン]を例にしたけどそれに限った話ではない。
我々が知らない技術や知識を君は知っているだろう。その一つ一つがこの世界のパワーバランスを、秩序を大きく崩す原因になるんだ」
確かに。僕は作り方を知らないが、近代の銃を量産出来る人が転生してきたら、パワーバランスは大きく崩れそうだ。
「僕は……そんなことする気はない……」
なので弱く反論することしか出来なかった。何を言ったところで悪魔の証明を迫られてるような物だ。
完全にこの優しい顔をした悪魔に主導権を握られた。
「まとめると転生者は神技という圧倒的な武力、それと未知の知識を持っている事が脅威なんだ。
君自身が悪い事をする気がなくても、その力を悪用しようとしてる人がいたり、気づかない内に悪い方向へと向かって行ったりする可能性がある。
ユーリさんが生きてるだけで、この帝国は大きなリスクを負っていてる。
つまりユーリさんの存在そのものが迷惑なんだ」
「……」
完全に論破された僕は何も言えなかった。
「さて、以上を踏まえた上で君を生かすメリットを教えて欲しい。
それ主張した上でも君を生かすデメリットの方が高いと判断した場合は……ですよね父上?」
「その通りだ、ノア。ご苦労であった。改めて問おう、ユーリ・タイラー!
お前は何をしに我が帝国に来た? そしてその危険な力と知識で何を成し遂げるつもりだ?」
ヤバいヤバいヤバい! 何だこの間違えたら即処刑の入国審査は!? 何て答えればいいんだ?
世界最強になって成り上がる? ダメだ、そんな奴処刑されるに決まってる。僕が皇帝でもそうする。
「僕は……」
皆が固唾を呑んで見守っている。
そうだ、あるじゃないか。僕が自殺する直前に何て言ったのかを今思い出した。
突然与えられた大き過ぎる力に目が眩んで見えなくなっていたんだ。
別に最強に成りたかった訳じゃない。弱い者イジメをしてオレツエーしたかった訳でもない。
前世でずっと願っていたが、結局努力を怠り、成れなかったものが……これしかない!
「僕は主人公になりたい!」
そう。皆から尊敬されて、誰もが憧れる立派な主人公に成りたかったのだ。
「――主人……公?……つまり……どうゆう事だ?」
皇帝は大きく首を傾げている。
「僕はみんなのヒーローのような立派な人になりたい! 前世ではずっと、そんな人に成りたかったけど駄目だった。
多分努力が足りなかったんだと思う。
だからこの世界では本気で主人公を張れるような人になるために、全力を出したい!
それが僕のやりたい事だ!!」
よし、言ってやったぞ! ようやく思い出せた本心を言ってやったぞ! これで駄目ならもう諦めて処刑されよう。
で、肝心の反応はどうだ?
周りをみまわしてみた
「「「「「「…………………………」」」」」」
皇帝は厳しい顔が崩れて、あんぐりと大口を開けて沈黙してる。他の人達も同じように時間が止まってたかのように沈黙してる。
(これは……どっちだ?)
「「ガーハッハッハッハ!!!」」
一瞬だったのに永遠と思える沈黙を打ち破り、厳しい顔を破面した皇帝とフェル爺が大爆笑した。
ゼクウは口を手で隠し少し苦笑いしてる。ギデオンはやれやれと呆れた顔をして肘を曲げ手の平を上に向けてる。ミラは良かったぁと呟き潤んでる目を拭いた。ノアは無邪気な顔で笑っていた。
良かったぁ。何で笑われてるのかはよく分からないが、とりあえず生き残れたみたいだ
「なるほど、なるほどなぁ! 君も正義の味方になりたいのだな!?
つまり我々と同じこの帝国を守る正義ヒーローになりたいわけだ! 朕の理解に間違いはないか?」
「は、はい」
(帝国を守る正義の味方までは言ってないが……)
「よろしい、ならばユーリ・タイラー! 第四代目帝国皇帝ロイド・ジャスティンの名の元に命ずる!
これよりクラウンズに対抗するために朕直属の部隊、対転生者特殊部隊を結成する。
その一員となり、正義の味方として帝国に尽くせ!
お前の望む主人公とやらになるが良い。応援してるぞ!」
「はい?」
(今なんて? 何その名前がめっちゃ長い部隊は?)
「とはいえ、お前は機密事項の塊だ。まだ自由に外を1人で出歩かせる訳にはいかん。
封神輪もつけたままにしてもらう。瞬間移動で逃げられると追跡が不可能になるからな。24時間監視されてると思え!
その監視役とまとめ役と補佐役をつけよう。辞令を伝える。
ミランダ・カーター、ジョット・グルーバー、ブレア・ラッセルベル。以上の3人を本日より対転生者特殊部隊の配属とする!」
「はいぃぃ!?」
(そんな部隊に入るとは言ってないよぉ)
「はい! ご勅令承りました。全力で監視させて頂きます」
拒否権がないまま勝手に話が爆速で進んでいった。
隣にいたミラは跪き嬉しそうに答えた。
(何だよその部隊は? 社畜は嫌だよぉ。
何だよミラ全力で監視って……頭がついてこない)
「対転生者特殊部隊かぁ……長くて呼びにくいな。
よし! 以降は略称として転特隊と呼ぶ事にする。
以上だ! 各位、解散。
正義なる勝利を! 帝国万歳」
「「「「「帝国万歳!」」」」」
「ほらユーリさんも一緒に」
この腹黒皇太子め!
「じーく えんぱいあ」
こうして僕の対転生者特殊部隊での日々が始まるのであった……
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