第8話 神技解放
『あぁ 僕は過ちを犯してしまった。空っぽの体のままではどこにも行けやしないというのに』
これが神様の言っていた僕に与えられた真の力か。
まるで始めから使い方を知っているかのように、頭に勝手に浮かんでくる言葉を僕は唱えをはじめた。
『ならば今度は決して間違えないためにも
希望を胸に詰め込みどこまでも未知の道を行こう
世界はこんなにも美しいという事を僕は知っているのだから!』
今回は見様見真似等ではない。誰かの魔法のパクり等ではない。正真正銘僕に与えられた僕だけの能力だ。
「神技開放」
【光輝く旅路に 優しい花は咲く】
詠唱が終わったとたん、白い光のオーラに包まれた。
僕は敵を見据え指を差して唱えた
「レーザービーム」
シュン
圧縮された光が指の先から真っ直ぐジョットの肩を撃ち抜いた。文字通り光の速度で放たれた攻撃は回避も防御も許さない。
「がっぁあ……」
何されたのか気づく暇も無いままジョットは痛みに顔を歪め、撃ち抜かれた肩を押さえて転げ回った。
「あれが転生者にしか使えないと言う固有の必殺技――神技!?
ジョット! 大丈夫?」
「ブレア! ダメ、次が来る!」
痛みで転げ回るジョットをブレアは気にしてるが、待ってあげる必要はない。
僕は再び指を差し攻撃した
「レーザービーム」
ミラはブレアを靴の裏から噴射された魔力で蹴り飛ばし、その反作用の力を使い空に飛び上がった。
とても強引な方法で避けられてしまった。
「改良がいるな、いくら光速が速くても指先で打つ位置がバレバレだ」
「いっったぁ! でも助かったわ。反撃するわよ!」
ミラに蹴り飛ばされたブレアは受け身をとり、すかさずまたミニファイアを8個作り、また複雑な軌道で打ってきた。
「またそれか……シールドだと避けて無効にされるし、回避するのも難しいから面倒なんだよそれ。
当たると地味に痛そうだし……」
(しかもそれは多分囮で本命は後方上空に回り込んだミラだろ)
その予想通り死角からミラが正面からブレアのミニファイアが同時に襲ってきた。それならこの技が合いそうだ。
僕は体中に強い光を纏わせ唱えた
「スタンフラッシュ」
閃光弾のようは強烈な光を360°に放った。レーザービームのように圧縮された光ではないためダメージは全くないが、この場面では効果てきめんだった。
「うわぁっ、なに!? きゃ!」
「何も見えない! どうなってるの?」
視界を失ったミラはバランスを崩し地面に激突した。ブレアのミニファイアは目標を失い制御不能になり、明後日の方向に飛んでいき消えた。
続けて次の技を試してみようと、ブレアに向かって指さして唱えた。
視界が回復して、指を差されたのに気付いた瞬間ブレアはまたレーザービームが来ると思ったのか、慌てて横にヘッドスライディングして回避した。だがこれは違う。
「レーザーワープ 25m」
僕は指から放たれた光となり、25m先のまだ起き上がる前のブレアの真後ろに瞬間移動した。
「一はっ!? なんでそこにいるのよ!?」
光の魔法かぁ……我ながら中々汎用性の高い能力をもらったものだ。指を差さなければ攻撃出来ないのはデメリットだが、工夫で何とかなるだろう。
そんなことを考えながら、狼狽えながらも急いで立ち上がろうとするブレアのお腹を蹴り飛ばした。
「あっ、きゃあっ!」
圧倒的な実力差の前に今度こそ三人の襲撃者は戦意喪失した。
ミラは何とか立ち上がろうとしてるが、頭を打ったせいか生まれたての小鹿のようだ。必死にこっちを睨もうとしてるが、目の焦点が合ってない。
ブレアは力無く跪き、絶望に満ちた顔で泣きながら力無い声で
「もう……やめてぇ……」
と呟いた。
ジョットは悔しそうに唇を血が出る程噛み締め、刀を杖代わりにして何とか立っていたがもう向かって来ない。
時間が経つに連れて怒りは冷めてゆき、哀れみの方に傾いた。
もう実力の差は十分見せたしもう良いだろう。
さっさと必要な情報だけ引き出して去ろう。僕には弱い者イジメの趣味はない。
「喧嘩売ってきたのそっちだろう? だと言うのに僕が悪者みたいじゃないか」
「お前は悪者に決まっているだろ! 転生者がこの国に何をしてきたか……」
「だから知らないって。僕はまだ何もしてないって!」
僕はそう怒鳴ってジョットの言葉を遮った。
過去に他の転生者が何をしでかしたか知らないが、今の僕には関係ない。そんな理由で悪者扱いされるのは理不尽だ。
「じゃあユーリさんはその与えられた力で、これから何をするつもりですか?
無理矢理私達の居場所を奪って、そこで何をするつもりなのですか?」
ミラはふらつきながらも強い意思を持って言った。
その問に僕は動揺して答えれなかった。目的はまだハッキリと決めてないのだから。
昨日考えた時はこのチート能力を使い最強に成り上がろうと思っていた。
前世の好きな小説の主人公が、チート能力を駆使して敵を千切っては投げを繰り返している様子を見てスカッとした。
だから同じような力を手にした僕もそうしたいと思ったんだ。
でも確かにそこに住んでる人からしたら、いい迷惑なのかもしれない。そこまでの事は考慮していなかった。
待て、そもそもなんで僕は最強なんかに成り上がろうとしてるんだ?
前世では一回も本気の殴り合いなんかした事の無い平和主義な僕が、戦いを好きな訳が無い。
なのに何で最強に成り上がろうとしたんだ? どうして自ら戦いを求めるんだ?
前世での僕は一体何に成りたかったんだ?
何かとても大事な物を忘れているような気がした。
いや、今はもうこれ以上考えるのはやめよう。増援が来たら面倒だ。
それに初めての事だらけで少し疲れた。特にレーザーワープは魔力の消耗が多いようだ。
「あぁ、もういいや。口喧嘩してる暇はない。
誰の命令でやった? 答えろ」
こいつらを返り討ちにしても、元を絶たないと意味がない。
その刹那
「俺だ」
背後から怒りの混ざった冷たい声がした。
全身から鳥肌が立ち、この世界に来て初めて恐怖を感じた。
(馬鹿な! こいつどこから出てきた? 周囲に人は居なかったのに……)
急いで四人目の襲撃者から距離を取ろうとするが
「もう遅い、影縛り!」
体が金縛りを受けたように動けなくなった。必死にもがくがプルプルと小刻みに震えるのが限界だ。
ガチャン
と音がして動けない僕に首に何か鎖のような首輪を付けられた。
「よし、封神輪の装着に成功した」
「兄上、助かりました」
封神輪と呼ばれる首輪がつけられたとたん包まれてた光のオーラが弱くなり、さっきまで体中に満ちていた魔力を上手く扱えないようになった。
僕はかろうじて動く首を動かして後ろをみた。
黒装束を着た忍者のような男の上半身が地面から生えていた。
下半身と思われる部分は黒い影になって地面にそって僕まで延びて、体中を締め付けるように縛っている。
影は首まで延びて、強く締め付けてきた。首を締め付けられる感覚に息が苦しくなり気を失いそうだ。
「三人とも良くやった。特にミラが動揺させてくれたお陰で大きな隙が出来た」
ギデオンと呼ばれる忍者は三人を労った。
こっちを向いてないが、僕を締め付けている影を緩める気は全くないようだ。
僕は落ちそうになる意識に抗いながら、必死に現状の確認をした。
体は影に締め付けられて動けない。封神輪のせいでどんどん光のオーラが弱くなっていくのを感じているが、まだかろうじて神技は使えるそうだ。影と言う事は光に弱そうだ。
それなら
「す、スタンフラッシュ」
「何ッ、封神輪をしたのにまだ神技が使えるだと!?」
光を放つと影が消え、体が自由になるのを感じた。
よし出来るだけ遠くへ逃げよう。
「レーザーワープ 100mだ!」
逃げるには十分な距離だ。ワープしたとたん光のオーラは消え、神技はもう使えないようだが普通の魔法は使えた。
「加速」
後は走って逃げよう、捕まると何されるか分からない。
チラっと後ろを見たがギデオンはまだ視界が回復してないみたいだ。他の三人も追える状態にない。
僕はヘイストを使い帝都に向かって駆け出した。
どうやらこの首輪のせいで神技が使えなくなったらしい。
(恐らく帝都の中にもこいつらの仲間はいるが、身を隠す場所がたくさんあるはずだ。そこでこの首輪を切って、神技のレーザーワープを使って逃げよう。)
と考えながら走り続けてると、突然帝都の空から5m以上はある超巨大火球が猛スピードで飛んできた。
「何!? どこから飛んできた?」
急いで右に避けるが、まるで生き物のようにカーブを描き追跡してきた。
「ホーミング型だと? デカっ! ヤバっ! 避けきれない……」
ドッカーン!
僕は大爆発に巻き込まれた
ダメージの限界が来た僕はそこで意識が途絶えた。
■帝都の城
「ほぉー、わしのギガファイアが当たったわい。見たかゼクウ!」
帝都の城の一番高い展望台に二人の男がいた。
その内の1人白髪を生やした初老の男、ブレアの祖父にして魔法庁長官のフェルディナンド・ラッセルベル、通称フェル爺がガッツポーズをしながら隣にいた偉丈夫に話しかけた
「凄いなぁ、フェル爺は。俺にはそんな多才な事は出来ないよ」
近衛騎士団団長のゼクウ・レオンハルトは腕を組み顎を擦りながら答えた。
「いや、この[超遠くまで見える君]のお陰じゃよ。この前、南部経済特区から来たのを、買ったんじゃが大正解じゃよ。
ちと高かったがのう、ここから覗くと5kmも離れてるのにハッキリと見えるんじゃよ。ええじゃろう? あげんぞ」
フェル爺は置いてある架台に載った細長い円柱の機械を自慢げに見せた。円柱の両端にはレンズがついてある。
(それにしても変な名前だなぁ……)
と思ったが、喧嘩になりそうなので口にするのは止めておこう。
「この機械も凄いが、この距離でギガファイアを操作して当てるフェル爺も凄いよ」
と素直に称賛を送るが
「フンッ!お主には負けるわい。帝国最強戦士にして剣聖、三獅士筆頭のゼクウ様にはのぉ!」
いつものようにすねた。特に三獅士筆頭と言う言葉を強調して
「まだ俺がフェル爺から三獅士筆頭の座を奪ったことを根に持っているのか……
別に良いじゃないか。俺は断ち斬ることしか能がない男だが、フェル爺は見ての通り俺に出来ない事がたくさん出来る」
「むぅ」
フェル爺は口を尖らせた
「皆違って皆良い。俺達は俺達の出来る事で帝国に尽くそうではないか」
「……まったく、お主がそんな立派な奴でなければ、ためらわず謀して筆頭の座を取り戻したというのに……」
「さらっと怖い事を言うなぁ……」
「冗談じゃ、冗談……半分な」
「なら良かった……」
フェル爺と喧嘩するのは辞めておこうと思うゼクウであった。
「ところでブレア嬢――お孫さんは大丈夫なんですかい? 見たところ、あれほど大きな挫折を味わったのは初めてみたいだが……」
ゼクウは[超遠くまで見える君]を覗き込み彼らの様子を見ながら言った。
同僚のギデオンは負傷した3人を、後から急行した治療部隊に任せた。
その後右手を影に変化させて、白目剥いて気を失ってるユーリを影で縛りこっちに運んでいる。
一番重傷のジョットは仰向けになり、治療部隊にヒールかけてもらっている。
ミラは頭に包帯を巻いてもらいながら、何か悩んいでるような難しい顔をしてる。
ブレアは未だに泣いたまま放心状態でその場を動けずにいる。
「正直心が痛むがブレアはもう大人だ。可愛い孫には冒険させねばならん。
あのくらいの絶望の1つや2つ乗り越えて貰わんと将来三獅士は務まらん。
わしらの世代でクラウンズを滅ぼせればそんな必要はなくなるんじゃがな……」
「確かにな。三獅士になるとクラウンズとの戦いは避けられない。可哀想だが必要な経験かもな……」
「はあぁ……それにしても流石わしの孫。絶望して咽び泣いてる姿でさえ可愛い!!」
フェル爺は超遠くまで見える君を覗き込みながら興奮して言った。
「えぇ……過程と目的が逆になってないか?」
ゴホンっと、フェル爺は思わず出てしまったいけない本音をごまかした。
「ところでゼクウよ、お主の弟子はどうじゃ? 結構痛め付けられたようじゃが……」
「ジョットなら大丈夫だ。あいつは剣の才能も魔法の才能も並みだが、向上心があって図太い。
あいつを弟子に選んだ理由は2つあるが、その内の1つは折れない心を持っていることだ。
この挫折を糧により一層精進するだろう。まぁそれはそれとして……」
「あの転生者のクソガキにはそれ相応の報いを与えてやらんと気がすまんのぉ!」
フェル爺は怒りの声を上げ、持っていた超遠くまで見える君をバキバキと握り潰した。
「同感だ。若い芽がいじめられてるのを見るのは、気持ちいい物ではないな。そろそろギデオンが奴を連れて帰ってくる。
一体どんな人物なのかを、この目で見定めてみようじゃないか。
帝国の未来を担う英雄か、はたまた力に溺れるだけのガキか……」
そう言い残し2人は展望台を後にした。
次の話は朝8時頃に投稿します。
神技は転生者のみが使える、卍○や領域○開や宝○のような固有の必殺技だと思って下さい。
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