第7話 迷惑な主人公
■ミラ視点
私は愛用してる魔具の靴[イダテン]を起動して、ユーリさんのそばから垂直に天高く飛び上がった。これが作戦開始の合図だ。
それとほぼ同時に近くに隠れていた、ブレアとジョットが最大火力を左右から叩きこんだ。
2人の攻撃はユーリさんに直撃し爆発をした。上空にいる私も余波に巻き込まれ少し焦げた。
私はイダテンで魔力を噴射して、空を蹴り2人に合流した。
「やったか?」
「手応えはあったわ! もし普通の人だったら間違いなく死んでるわ。
あ、ミラ。ごめん爆発に巻き込んじゃった」
ブレアは申し訳なさそうに私の火傷した足を見た
「大丈夫よ、これくらい気にしないで」
「今治すわ。治癒光」
「――待て、後にしろ。出てくるぞ」
煙の中からユーリさんが困惑気味の顔をして出てきた。怪我は負っているものの、戦意喪失はしていない様子だった。
「通常の三倍の麻痺毒を入れはずなのだけど、もう効果が切れたみたいね。
普通の人だと丸1日まともに動けなくなるのだけど……」
「困ったな。生身であれを食らってまだ動けるとは、転生者とは耐久力もあんなにデタラメなのか……」
「ミラ! あいつの情報を教えてちょうだい。さっき探りをいれたのでしょ?」
「嘘の可能性はあるけど、彼はヘイストを使って近づきマスキュラの打撃を得意とする拳闘タイプよ。後、牽制用の火球も打てる。
好物はナパパ」
「最後の情報は必要か?」
ジョットは素直な疑問を述べた
「なら作戦通りね! 私がイフリートで後衛で援護する。ジョットはカゼキリ正面から攻撃して。ミラはイダテンによる立体機動で近づき、隙をみてこうげ……?
あいつは何をしてるの? 何か魔力をいじくり回してる感じだけど……」
ブレアが仕切ってるが、説明を中断してユーリの妙な動きに注目した。
ユーリさんは何か試してるようだ。しばらく様子を見てると、何かピンと来たような顔をした後、焦げた左側に右手を当てた。
「なるほど、こうやるのか! 治癒光」
ユーリさんの焦げた左側はあっという間に治っていった。
そのあり得ない光景を見て私達は絶望した。
「馬鹿な!? 高難易度のヒールを見様見真似で使ったのか!」
「なっ!? はっ? 私ですら習得するのに3年かけ、回復力を高めて、今のレベルにするのに2年もかっかたのに……
しかも私のより回復力が高いなんて……ありえない」
エリート街道まっしぐらだったブレアは、己の努力が否定されたような気がしたのか青ざめた。
ユーリさんはそんな私達を横目に、今度は右側のジョットのカゼキリに切られた傷にヒールをかけた
「治癒光 あれ? こっちの切り傷は治りが悪いぞ
血は止まったけど、傷がふさがらない。火球は治ったのに……」
「当たり前だ、皮膚の切り傷はヒールでは治りにくい。剣士の長所だ」
剣を誇りに思ってるジョットはユーリさんに言ったが
「ジョット! これ以上あいつに余計な情報を与えるんじゃないわよ! 危険度が上がるだけよ!」
「あぁ、すまんつい」
ブレアに怒られた
「大丈夫よ二人とも落ち着いて、まだ想定内の出来事よ。
それにこっちにはまだ切り札があるのだから」
「そっ、そうね。こういう時に頼りなるわミラ! 作戦通り行くわよ。正義なる勝利を 帝国万歳」
「「了解、帝国万歳」」
私は狼狽えている二人をなだめると、その一言で二人は冷静さを取り戻した。流石二人とも精鋭だ。
ジョットは己の魔具で愛刀のカゼキリを抜き下段に構えながら、ユーリさんに向かって走る。
ブレアは後ろで魔具の杖、イフリートを地面にさして魔法を唱えた
「小火球 八連射」
30cmくらいの小さめの火球を8個出して、目の前に滞空させ打ち出す機会を伺っている。
私は魔具の靴イダテンで、靴の裏から魔力を噴射し再び空に舞い上がった。
まずユーリさんと最初にぶつかったのは前衛のジョットだ。
ジョットはユーリさんに近付くと、まだ剣の届く距離ではないのに下段に構えた愛刀を振り抜いた。
「唸れ、カゼキリ!」
その剣先から風を纏った斬撃が出来てユーリさんを襲うが
「魔防盾」
ガンッ!!
音を立ててジョットの放った風纏う斬擊はユーリさんの張ったシールドに防がれた。
だがシールドは無傷とはいかず、斬擊の跡が残りヒビが入っていた。もう2、3発くらい同じ斬擊を食らわせれば割れそうだ。
「舞い踊れ」
ブレアは滞空させてる8個のミニファイアを打ち出した。
8個の火の球はそれぞれ蝶のように不規則に飛んでいった。
その内4個のミニファイアがシールドの横と上を抜けユーリさんに襲いかかった。
「加速」
ユーリさんはスピードを上げ、バックステップで火の球を避けた。だが、すかさず残りの4個の火の球が襲いかかる
「火球」
ユーリさんは2mを超える巨体な火球を放ち、襲いかる残りのミニファイアを全てかき消し、その直線上にいた攻撃を仕掛けようとしてるジョットごと巻き込こんだ。
「なっ、 硬化」
「危ない!遠隔魔防盾」
ブレアは寸前でジョットの前に遠隔シールドを張り、ぶつかって爆発を起こした。シールドは音を立て割れたが、巨大ファイアボールの威力を弱めてくれた。
バーーン
「がぁ、っはあぁ……すまん助かったブレア」
爆発の中から出てきたジョットは無事だが大ダメージを負ったようで、咳き込みながら片膝を地面についてる。
「加速、筋力強化」
そんな無防備になったジョットに追撃しようとユーリさんはヘイストで駆け、マスキュラで強化した蹴りをいれようとしたた。
「させない! イダテン」
私は空から急降下して、イダテンの噴射と落下により威力を上げた蹴りを放った。
ドゴンっ! とお互いのキックがぶつかった。
それでもユーリさんのキックには敵わなず押し返された。
私はその力を利用してジョットの服を掴みユーリさんから急いで後退し、イダテンで後方にいるブレアに合流した。
「ハァハァ、みんな大丈夫?」
痺れて感覚のない右足を庇いながら、ブレアに近づいた。
「何が牽制用よ! あんな大きなファイア初めて見た。
メガファイアでもあの大きさにするのは難しいのに……本当自信がなくなるわ。
しかも真似されるからこっちは迂闊に他の魔法は使えないわね」
「すまない、タンクの役割を果たせなくて。しかしただのシールドで俺のカゼキリを防ぐとは……」
想像以上にユーリさんは強い。それにまだ例の技は使ってない
「困りましたね、ジリ貧です」
三人とも肩で息をしてながら、最初の奇襲以外でダメージを与えられていないユーリさんを見た。
こちらはまだ戦えるが、このままでは勝てる気がしない。
なら早いところ彼に奇襲出来る隙を作って上げようと考えてると、ユーリさんが沈黙を破り話しかけてきた
■ユーリ視点
急に襲って来た3人は集まって何やら作戦会議をしているみたいだ。
あれは休戦する流れか? なら良かった。このままやると殺してしまいそうだ。
流石にそれはしたくないし、そもそも僕は襲われてる理由すら知らない。とにかく話せるチャンスは今しかない
「待ってくれ、僕には君たちと戦う意思はない。何故攻撃してくる?」
「とぼけるな! お前は転生者だろ」
とジョットと呼ばれるマッチョなナイスガイは怒鳴った。
(バレてる……もしかしてこの世界では僕みたいな人は悪者なのか?だとしても、まだ罪になるようなことをしてない!)
「か、仮にそうだとしても、僕はまだ何も悪いことをしていない。
それだけで攻撃されるなんておかしいじゃないか!?」
「それはあんたがそんな危険な力を持っているからよ!
気づいているか分からないけど、あんたがさっきから当たり前のように使っている魔法は、本来私達のような天才が何年も努力して初めて得る事の出来る物なの!
私達の誇りをオモチャみたいに扱って、冒涜だわ!」
「えっ!?」
今度は赤い髪をした女性にしては背が高めの美少女も怒鳴った。それは知らなかった。
困惑する僕を無視してブレアと呼ばれる少女は怒鳴り続けた。
「あなた達転生者は何の努力もしてないクセに、たまたま手に入れた力で威張っちゃって腹が立のよ!!
お情けで恵んでもらった力なんかで、最強みたいな顔をして恥ずかしくないの!?」
「――んだとッ!」
ブレアの罵倒は僕の琴線にふれ怒りを覚えた。この言葉だけは受け入れられないと思った。
確かにこの力は昨日与えられたばかりだ。彼女の言う、小さい頃から積み重ねの努力で身に付けた物ではない。
だから何だ? その事にわざわざ恥を感じて生きて行かなければいけないのか?
「貰い物だろうが何だろうが、僕が神様に選ばれて与えられた力だ。それをどう使おうが僕の勝手だ!」
僕はそう叫ぶと、悲しそうな顔をしたミラと目が合った。
「そんな身勝手に無責任に、強い力を振るうユーリさんの居場所は、この世界にはありません。弱い私達からしたら迷惑なんです」
ミラは潤んだ目をして言った。
「あぁ。それなら自分の力で、無理矢理この世界に僕の居場所を作ってやるよ」
前世では、居場所を作る力なんて持って無かったが、今は違う。
心を支配する静かな怒りに身を任せ、僕は転生して来てからずっと抑えていた本気を初めて出した。
次話は18時頃に投稿します
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