賢者たち
賢者の条件
悪をなさず、快楽は嗜む程度にとどめ、足ることを知り、危険からは身を遠ざける。あとは含蓄のありそうな台詞を数百ばかり暗記しておけばいい。そんな人生がお望みならば。
ーー西の賢者の言葉
混雑
賢者が週末の夜に街を歩いていると、酒場に大勢の人々が入り浸っているのが目に入った。
「嘆かわしいことだ」
その日から賢者は、酒がいかに有害であるか、酒場から足を遠ざけるだけで人生がどれほど素晴らしいものになるかを説いて回った。
最初は耳を貸すものはいなかった。しかし教えは徐々に広まり、いつしか酒場に群がる人だかりは無くなっていた。
「やれやれ、ようやく空いたか」
賢者は酒場に出かけて行ってビールを注文した。
いつわりなし
「勇者様、賢者にお会いになったことはありますか?」
「賢者? いいや、無いな」
「なるほど確かに賢者と呼ばれるだけのことはありますね」
公益性
強い正義感を持った青年が賢者のもとを訪れて訊いた。
「勇者に良心を与えることは可能でしょうか」
「あそこに山がある。君にはあれをつるはし一本で平らにするぐらいの覚悟があるかね?」
「ありますとも」
「ではその通りにしたまえ、麓の村が日照不足で困っている。大勢の人を救いたいのならば、その方がよほど現実的だ」
次なる目的地
魔族出身でありながら、人間からも尊敬を集める大賢者がいた。
魔王が誕生したとき、大賢者は人間の国へ亡命した。
「魔王と同じ大陸で暮らしたくない」というのが理由だった。
ドラゴンが復活したとき、大賢者は南の国へ亡命した。
「ドラコンと同じ半球で暮らしたくない」というのが理由だった。
勇者が召喚されたと知って、最近の大賢者は空ばかり見て過ごしている。