兵器開発部の鈴木さん
小説を書きたいなと思って、まずは短編で練習することにしました!
初投稿です。
改善点などコメントしてくださると幸いです。
放課後になると、僕いつもの通りに部活動に勤しむ。
——兵器開発部
物騒な名前をしているが、武器のプラモデルを作ったりするだけの部活だ。
——ドゴオオオン!!
……去年までは。
——部室から煙がモクモクと溢れ出てきた。
「部長! 何とかしてくださいよ!」
頭がアフロになった部員の『中村』が涙目で僕に訴えかける。
さて、今日も騒がしくなりそうだ。
僕は保護ゴーグルをかけて部室内に入る。
「『鈴木』! またお前か!」
新入部員の『鈴木友佳』。兵器開発部を混乱の渦に巻き込んでいる張本人。
「あ、『真鍋』部長! ちっす!」
鈴木は屈託のない笑顔で僕に挨拶してくる。
女子制服は埃とかススで汚れている。
普段は綺麗な金髪も黒ずんで台無しだ。
「何回部室を荒らせば気が済むんだ!」
「いやー、爆薬の調合をミスっちゃって!」
「だから、そんな危険な物作るなって!」
「爆薬って言っても、煙が出るだけっすよ!」
鈴木は今年の春から入った1年生で、理科系に関しての天才少女と言われている。
しかし、その知識を遺憾なく発揮するのは、この兵器開発のみに限定される。
「すぐに片付けるっす!」
鈴木が清掃用具を取ろうとすると、見るからに危ない感じのスイッチを踏ん付けた。
ポチッ。
「あ、部長! 危ないっす!」
部室の奥の方からミサイルが飛んでくる
「危なっ!」
僕はバドミントンのラケットでミサイルの軌道を逸らす。
鈴木がやって来てからというもの、自衛用の道具をいくつか携帯している。
「部長! 今日こそ鈴木にガツンと……」
僕が逸らしたミサイルは中村に向かって行った。
「俺……この放課後が終わったら、結婚するんだ……」
ドガアアアン!!
——中村は塵になった。
「惜しい人を失くした……」
「中村先輩……アフロ、似合ってました……」
合掌。
「さて、掃除するか」
「了解っす」
僕たちは掃除用具を取り出して、壁とか床とか、何だか分からない部品の欠片を掃除し始める。
毎度毎度よくここまで散らかせるものだ。
と言っても、鈴木に悪気があるわけではない。
自分で汚したものは自分でちゃんと片付けようとしているわけだし、大目にみるか……。
「あの、もうちょっと心配してください……」
中村が這いずって教室に入ってきた。
「中村! 殺されたはずじゃ……」
「まだ生きてますよ!」
「仕留め損なったっす!」
「仕留める気だったんですか!?」
——今日も散々な目に会った(主に中村が)が、無事に帰宅時間を迎えた。
校門で鈴木を待つ。帰り道が同じだから、部活後はいつも一緒に帰ることにしている。
「お待たせっす!」
夕焼けに照らされた彼女は、いつものように屈託のない笑顔を浮かべる。
それを見ると、普通に可愛い女の子なんだなと再認識させられる。
全身ススだらけだけど。
「髪の毛とか、汚れたままだぞ」
「家に帰ってから洗うっす!」
「こらこら」
「あっ……」
ハンカチで鈴木の髪の毛を拭く。
でも、あんまし汚れは取れなかった。
髪の毛は女の子特有のシャンプーの香りと、油とか鉄とかその他色々が混じって……とにかく、独特の匂いだった。
まあ、不快な匂いではない。
「あの、ちょっと、恥ずかしいっす……」
「え、あ、ごめん」
部活内では小学生みたいにはしゃいでるくせに、こういうところでは恥じらいを見せるのか。
なんだろう、凄く可愛い。
これがギャップ萌えというやつなのか。
「すごく、アリです……」
「へ?」
「いや、何でもない」
思わず口に出てしまった。
「ああっ!」
鈴木が急に声を上げた。
「どうしたんだ?」
「ロケットが……」
ロケット?
「母さんのロケットが……」
ああ、アクセサリーの方か。
「落としたのか?」
「多分、部室だと思うっす」
部室か……。
基本的に、生徒は午後6時には下校しなければならない。
今は午後5時40分。
今から教室の鍵を借りて探しに行くと、帰りの時間を考慮して5分くらいしか探せる時間はないだろう。
「明日、探してみるっす」
鈴木は悲しそうな顔をしていた。
大切にしていたおもちゃを無くしてしまったような、そんな顔だった。
「いや、まだ間に合うかも」
僕は鈴木のか細い腕を引いて校舎に戻った。
——部室の前に着いた。
時間はあまりない。
「あれ、部長たちまだ帰ってなかったんですか?」
「中村、お前こそ」
「髪の毛とか洗ってたんですよ、全く……」
中村は鈴木を睨みつける。
だが、鈴木の元気の無い顔を見ると事態を察してくれた。
「何かあったんですか?」
「忘れ物したらしくてな。これから探す」
「それじゃ、俺も手伝いますよ」
「そんな、先輩、悪いっすよ……」
鈴木は俯いている。
そんなの、鈴木らしくない。
僕は不快な気持ちになった。
早く忘れ物を探し出して、いつもの鈴木に戻ってもらおう。
「鈴木らしくないですよ。ほら、早く探しましょう」
中村が僕の気持ちを代弁してくれた。
——忘れ物は無事に見つかり、ギリギリの時間で僕たちは下校した。
中村は校門を出るとすぐに別方向に行った。
「また明日」
中村が手を振る。
「ああ」
「また明日っす!」
鈴木はすっかり元気を取り戻していた。
手元でロケットを弄っている。
「見つかってよかったな」
「はい! 大事な物っす!」
鈴木はロケットを弄りながら、複雑な表情をする。
楽しい。
嬉しい。
懐かしい。
そして……寂しい。
そんな感情がいっぺんに混ざったような。
僕の主観でしかないが。
……鈴木は『母さんのロケット』と言っていた。
憶測に過ぎないが、僕は察してしまった。
「鈴木」
「はい」
「部活は、楽しいか?」
僕はそれしか言葉が思いつかなかった。
「はい。真鍋先輩がいて、中村先輩がいて、とても楽しいっす!」
「……そうか」
「真鍋先輩は、楽しいっすか?」
ああ、楽しい
鈴木が来る前から楽しかったけど。
鈴木が来てから、もっと楽しくなった。
いつも愚痴を言ってくる中村も、鈴木を追い出そうとはしたことがない。
鈴木には、不思議な魅力があるのだ。
そして、『兵器開発部』はそんな彼女の居場所になっている。
そのことが、僕にはちょっぴり誇りに思えた。