レプリカ・シスター
レプリカ・シスター
ミレイは、妹が欲しい。
「うふふ。ふふ……」
妹を可愛がって可愛がって、ベタベタに甘やかしたい。
「ミウちゃん……必ず、手に入れるわあ」
そして念願がそろそろ執念にジョブチェンジしようという頃、遂にその時は来た。
あの純朴素直を体現したような容姿、潤んだ大きな瞳。
「たまらないのよねっ」
凹凸がすくなく小さい身体はまるでお人形だ。
ほぅ、と両頬に手を当てると、ミレイの豊満な胸が強調される。
「アタシの魅了も跳ねのけるタフな精神力と意見してはっきり自己主張する度胸。もう、最高。可愛がって可愛がってメロメロにしてあげたいわ」
「…………ひぅっ!?」
「ミウ、どうした?」
ミウは辺りを見回して、首を横に振る。
「いえ。ちょっと……悪寒が」
ぶるっと身体を震わせ、自らの両腕をさすり、シェルディナードが「風邪でも引いたんじゃね?」と言って、ミウは悩むように首を傾げた。
(風邪よりも、何か、もっと質が悪いような……)
そしてその質の悪い根元はというと、
「エイミーちゃんとアルデラちゃんて言ったかしら。あの子達も可愛いけど、エイミーちゃんはちょっと違うし、アルデラちゃんは断固として拒否されてとりつく島もなさそうだし」
程よく付け入る隙があるという事も含め、やはりミウは最適最高の人材だ。
「シェルディナードの彼女になる子はいーっつも『妹』って感じじゃなかったし」
類は友を呼ぶ。遊びと割り切る貴族の女性など似てくるのは当たり前と言えば当たり前で、ミレイの性癖もとい好みにジャストミートする逸材など可能性皆無だった。
だからこそ、この千載一遇の好機を逃す手はない。
「はぁぁぁ! 待ち遠しいわ。早く夜会にならないかしら」
スタイリストは『あの』黒陽である。
「ほんと気持ち悪いくらいシェルディナード大好きだものね。腕は確かだから今回は助かるけど」
毎度毎度、シェルディナードにくっついて回っている黒陽に、ミレイは溜め息をつく。慣れれば空気として居ないものと見なせるが、それまでが大変だ。
今まで何度、他の『彼女』からそれに関して苦情が来たかわからない。
「ほんと、ミウちゃんて凄いわ」
自然に、しかし無視せず。黒陽がシェルディナードの側に居るのを受け入れている。それに一番驚きなのは黒陽にそこそこ気に入られている事だ。
「シェルディナードと人形に関しては、一切妥協しないのに。黒陽」
今までせいぜい良くて無視。悪くて二人の間に無言で入るか、見せつけるようにシェルディナードの腕にくっついているか。
「まさか黒陽がミウちゃん抱っこするなんて」
ぬいぐるみのような扱いでも、今までを知っているだけに黒陽がミウを気に入っているのは一目瞭然。内心、度肝を抜かれた。
それと同時に確信する。
「やっぱり、私の跡を継げるのはミウちゃんしかいないわ」
なので何としても夜会では彼女をシェルディナードに相応しいと皆に周知して印象づけておく必要があるのだ。
「ふふふ。うふふ。逃がさないわ。ミウちゃん♪」
「ひぎゃっ!? な、何!? 何か、凄い悪寒がぁぁぁぁぁっ!」
「おーほっほっほ。待っていて。必ず貴女をアタシの後継ぎ、妹にして濃密かつ親密なお付き合いをするわ!」
ミレイの勝利の確信を帯びた高笑いが、離れた場所にいるミウの背筋をこれでもかと震わせていることは、互いに知るよしもない。
そしてミレイの確信が確定に変わり、晴れやかかつ遠慮無しの突撃が繰り広げられるのは、そう遠くない未来。
ミウの本当の恐怖はこれからだと、知るものはこの時点では誰もいなかった。