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1-5『淑女への道』

「──では、始め!」


 リファリナ様の号令によって、俺とキャロルの試合が開始される。

 キャロルはフィスクとは違って開始直後に動き出すような事はせず、長剣ロングソードを下段に構えた状態で静止したままこちらの出方を伺っている。


 うーん、やっぱり隙が無い。構えが下段なのはカウンター狙いだろうし、そのまま突っ込むと痛い目見そうだな。


 ……まあ、良いか。別に何か賭けてる勝負って訳でもないし。


 負けたらそれはそれ、勝てるようになるまで鍛練して再戦すれば良いだけの事なのだ。


「……ッッ!」


 まずは向こうの希望通りこちらから先制。


 上段で構えた状態で詰め寄り、大剣の間合いギリギリで打ち降ろす。

 下手に剣で防ごうとすれば刀身を叩き折ってそのまま重症を負うぐらいには力と速度を込めた一撃だが、キャロルは当然の判断として横あいに跳び去り痛撃を回避する。


 お、一瞬焦った表情をしたな。向こうの予測よりも鋭い一撃だったかな。

 だがそれも一瞬のこと、キャロルは回避した流れで身を捩り、身体のバネを利用した鋭い突きを繰り出してきた。


 狙いは脚。万が一を考えて致命傷となる部分は狙わなかったか。


 でも甘い。一瞬前のキャロルと同じように身を捩り、突きを避けると共に剣を横一線に切り払う。

 カウンターなら点の攻撃である突きで切り返すよりも斬撃の方が対処しづらい。

 後の先を取るつもりで今のように後の先の先を取られかねない。


「くっ!」


 案の定逃げ場を失ったキャロルは、やむなく剣を盾に斬撃を受け止めるが、俺の扱う両手剣は大きさ相応に重量があり、それなりに速い。

 故に受け止めきれなかったキャロルは吹き飛ぶよう転がっていった。


「キャロルさん、手加減は要らないですよ」


 俺も手加減してるけどね。


 ただ、俺の場合は扱う武器の都合上、殺すつもりが無いならどうしても手加減が必要になってしまうし、仕方ない。


「……ふぅぅ……っ……」


 キャロルはムクリと身体を起こし、深呼吸するように息を整えてから立上がる。

 転がって乱れた髪を払うように整えて、瞳に一層闘志を宿らせながら再び剣を構えた。


「ゴメン、舐めてた。フィスクの事簡単にあしらってたし、強いって思ってたけど予想以上だった」


「キャロルさんも強いですよ。なんでこんな所に居るのか疑問に思うぐらいには」


 色々詰めが甘いとは思うけど、キャロルの技量は先程のやりとりでおおよそ判断出来る。

 その上で判断するならキャロルの剣術は、王下百景でも上位に対抗出来る。三十位前後って所だろうか。

 無論、王下百景の力は剣術だけでは測れないけれど、もしも彼女が順当に百景に選定されたとしたら、条件次第では序列十位以内も視野に入ると思う。


 ほんと、なんでこんななんちゃって騎士団に居るのだろうか。謎だ。


「さて……まだ続けますよね」


 それはそれとして、キャロルとの試合は俺にとっても有意義になりそうでとても良い。

 実力的には俺の方が、女体に慣れていない事も踏まえても僅かに上だけれど、お互いに研鑽を詰むのに絶好の相手と言える。


 その考えはきっとキャロルも同じだろう。


「当然。悪いけど納得出来るまで付き合ってね」


「もちろん」


 既に構えているキャロルに習い、俺も再び剣を構える。そして、今度はどちら共に踏み込み距離を詰めようとして……。





「──待て! やっぱり我慢ならん! 勝負止め!!」






 リファリナ様の怒気を帯びた声が響き、俺とキャロルの動きはその場で硬直するように止まった。


「え、えっと……?」


「リファリナ様? どうし……」


「お姉ちゃんと呼べ! クリス、おまえ、なんだその戦い方は!?」


 へ? 戦い方?


 なんだと言われても、女の子の身体となった事を考慮しつつ、普段通りに戦っていたつもりなんだけれど、何かおかしかったのだろうか。


 おかしかったのかな? 自分では思ったよりも動けて少し安心したんだけど。


 ほら、この女の子の体格だと、筋肉がまるで付いていないように見えるからさ、不安だったんだよね。


 「……問題無かったと自分では思うのですけど、どの辺りがダメだったんでしょうか?」


「全部だ! とても観てられんぞ!!」


「ええ……」


 全部って。何をもってそこまで怒っているんだ、このお方は。


「クリス、お前、その服装での戦い方がまるで出来ていない!」


「…………はい?」


 ……ん? つまりどういう事だろうか?


「分からんか、ならばはっきりと言うぞ! クリス、お前が剣を振るう度に丸見えだぞ、下着が!!」


「………………は……?」


 ……下着?


「…………あー……なるほど」


 言われて初めて気が付いた。


 うん、確かにけっこう激しく動いたし、剣を振るう度にめくれるぐらいはしてたような気がする。


 いや、でも仕方なくないだろうか?


 だってこれ、腰布スカート短すぎるんだよ。そりゃめくれるよ。


「ええと、言わんとする事は分かりましたけれど、試合を中断する程の事ですか、それ?」


 リファリナ様が凄い剣幕で止めるから何事かと思えば……正直、そんなの俺は気にするつもりまるで無いし。


 気になるなら今すぐにでもズボンに履き替えるしむしろズボンに今すぐにでも履き替えたいけど。


「そもそも戦闘中にそんなの気にしますか?」


「気にするわバカ者!」

「ゴメン、気にする」


「えっ?」


 リファリナ様だけではなくキャロルまで……。


 見れば周囲で観戦していた娘たちも肯定するようにウンウンと頷いていた。

 いやいや、戦闘中にそんなの気にするなんて出来ないよ?


 というかパンツが見られたからと言ってなんだと言うんだ。

 俺、男だし。なんならパンツ一丁でも恥ずかしくないし。


「良いかクリス、女たるものみだりに肌を晒す物ではない! 淑女たるもの慎みを持たねばならんのだ!!」


 いや、そもそも俺は淑女じゃないですが。


「それをなんだお前は! せっかくの美少女っぷりが台無しになるほどおおっぴらにぴょんぴょん跳び跳ねて中身晒しおって!」


「……えぇ……」


「良いかクリス! 女は着飾り見映えを気にする! だがいくら美しく整えたところで中身が伴わなければまるで意味が無い!」


 そりゃ、中身は男だもの……この服装とかも自分の意思じゃないし……。


「お前は強い! だが、戦い方は下品だ!! 同じ女として、なによりもお姉ちゃんとしてお前のその戦い方は認める訳にはいかん!!」


「…………えーそんなこといわれてもー」


 め、めんどくさい……良いじゃんか、なんでそんなの気にしなきゃいけないんだ。


「そういう訳なので、これから時間が許す限りお前のそのお下劣戦法を矯正しようと思う! 言っておくが逃がさんぞ、お前の為だからな!」


「…………ええっ……」


「あ、団長、それなら私も協力します。ほら、私もスカートで剣を振る事多いので、何か手助け出来ると思いますし」


「そうか、確かにキャロルは先程の戦い、激しく動いていたにも関わらず清楚な雰囲気を損なう事もなくクリスに近い技量を発揮していたな。良いだろう!」


 え、そうなの? いや、確かにキャロルは膝丈の俺よりも長い腰布スカートだったけれど、転がった時すら一切はしたなさを感じなかったけど。


 ……あれ、意識してやってたの? 生粋の女の子ならどんな子でも女の子らしさがあるもんじゃないの?


「じゃ、これからもよろしくねクリスティナさん。大丈夫よ、ちゃんとすれば恥ずかしい思いとかしないからね」


「よし、なら早速だがここからは個別鍛練の時間とする! 各自は自由にしていいぞ! 見学するも鍛練に参加するも好きにせよ!」


 キャロルが頑張りたくない事を頑張れと励まし、リファリナ様が周囲の見学していた娘たちに指示を出す。


 ……あれ、これ必要無いって意見は通じない流れ?


「…………下品……そんなにダメ……?」


「「ダメ」」


 そうして俺は、いわゆる“女の子としての戦い方”を強要される事になった。


 ……なんで、誰も俺の意見聞いてくれないんだろうね?


第一部分として登場人物紹介を追加しました。


現在の主人公クリスの紹介のみですが画像付き。今後随時追加していきます。


ブックマーク&評価してくれたお方、感謝感激です。更なるブクマ評価、感想お待ち致しております。

今後とも自作を宜しくお願いします。m(_ _)m

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