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1-4『降りかかるにゃんこは払い除けるのみ』


「かかってこいにゃ! どっちが上か分からせてやるにゃ!!」


 非常に好戦的な表情で俺を睨むフィスクだが、さて、どうしてもやらなきゃ駄目だろうか。

 まあ、駄目なんだろうね。

 気が進まないけどここで逃げて今後もちょっかい掛けられるのは勘弁して貰いたい。


「勝負は模擬戦方式で行う。武器は刃引きされた物を使うように!」


 個人的には喧嘩ですらないというかリファリナ様が勝手に勝負事にしちゃっただけなので、当たり前だが刃を潰した模造剣で戦う。


 用意された剣を持ってフィスクと対峙。


 俺の扱う剣が刃渡り一メートル三十センチほどの両手剣グレートソード

 対するフィスクは刃渡り五十センチほどの片刃の短剣ダガーを構えている。


「にゃ、そんにゃおっきな剣、振れるのかにゃ、絶対見かけ倒しにゃ。でっかければ強い訳じゃにゃいにゃ!」


 ごもっとも。この大きさの剣だと今の俺の体では大き過ぎるのは間違いない。

 だからと言って小さい剣に持ち替える訳にも行かない。

 この体でもこの両手剣を振れなければダメなのだ。


「問題無いです。ちゃんと振れますから」


 正眼に構えてみるが、この女の子に変化した肉体だが、見た目に反して腕力なんかはあまり変わらなそうだった。

 ただ、身長が大幅に縮んだ影響でちょっとバランスが崩れてる。


「……まあ、慣らしには丁度良いのかな」


 フィスクは元気だけは有り余ってそうだし。悪いけど体の習熟に協力して貰うとしよう。


「……ん?」


 外野がヒソヒソと何か雑談をする中で、ひとりだけ真剣な表情で見ようとしてる娘が居るな。


 先程壇上での挨拶の時に、キャロルという護衛対象だと告げられた娘だ。


 パッと見た限り、あの娘の立ち姿は隙があんまり無い。

 一応、この場に居る娘たち全員、白を基調とした制服を身に付けて帯剣しているのだけど、キャロルという娘だけはその姿が様になっているのだ。


 剣の天才という噂通りかはきちんと動作まで観察しないと分からないけど……うん、そこらの腕自慢よりは恐らく強い。


 フィスク? この娘はすばしっこそうだけど動きは訓練された騎士のものじゃないし。


 ちなみに、俺が身に付けている服装は、白獅子騎士団の制服だったりする。

 腰布スカートを履いてる娘も居るけど、丈は俺が一番短い。なんでだ。


 修練場の中央に立っている関係で注目浴びるのは仕方ないけど、少なくない数の視線が下半身に向いてる気がする。


「よし、準備は出来たな! では……始め!」


「よそ見してんじゃねーにゃ! 隙あり!!」


 と、そこでリファリナ様が号令を掛け、同時に視線をずらしていた俺に向かってフィスクが斬りかかって来た。


 やっぱり動きは結構速い。フィスク自身も身のこなしに自信を持っているのか、両手剣の間合いへと躊躇せず踏み込んで袈裟斬りで俺の左肩辺りを狙う。


「にゃ!?」


 それをすくい投げるように弾き、上段で切り返して降り下ろす。


「にゃ、にゃっ!?」


 当然フィスクはそれを横跳びに避けようとするので降り下ろしを中断して踏み込んだ脚を軸に身体をひねり、迎撃するように逆方向からなぎ払う。


「にゃにゅっ!? ふにゃっ!?」


 焦ったような表情で、フィスクはそれも転ぶようにしてなんとか回避。


 様子見で軽く振ってただけとはいえ全部避けたなこの娘。思った以上に身軽だな。


「にゃ、にゃんでそんなでっかい剣でそんにゃちょこまか動かせるにゃ、危ないのにゃ」


「扱えないなら持ちませんよっと」


 ただ、すばしっこいというだけで剣術の類いは全くのド素人でしかない。

 真面目に鍛練すればけっこういい線行きそうだけど現状じゃ俺の相手にはならない。


「バカ力にゃ! 卑怯にゃ!!」


 バカ力は褒め言葉です。真面目に鍛練した結果なので卑怯じゃないです。と突っ込みを心の中で入れながら追撃を仕掛ける。


 変化した体格を確かめるように慎重に動いているので踏み込みは甘いし剣筋は本来より鈍い。なのでフィスクはかろうじて回避出来ていた。


「にゃ、ひっ……! ふにゃっ!?」


 あんまり続けさせるのもかわいそうなので、フィスクの持つ短剣目掛けて打ち払いを仕掛けて取り落とさせてやる。

 体幹のズレとか変化した間合いとか把握出来たので十分だし。


 この女体化した身体を総評するなら、筋力は何故か男の時と同等、ただし両手剣で戦うには体格のせいでバランスが悪く剣に振り回され気味になる。って所だろうか。


 慣れれば男の時と遜色無く戦えそうだけど、慣れるほど女のままでは居たくないなぁ……。

 万全に戦えるような状態にはちゃんと持ってくけど、不本意。


「……さて、勝負ありで良いですよね?」


「にゃ、にゃ……うぅ……」


 無手となったフィスクに切っ先を突き付けて負けである事を促してやる。

 正直試合にもなっていなかったけれど、先に突っ掛かってきたのはあちらなので気にしないでおこう。

 発破かけたのはリファリナ様だけど。


「う、うぅ……うにゃ、うぅ……!」


 負けを突き付けられたフィスクは、怒ったり泣きそうだったりと表情をころころ変化させながら周囲を見回して、最後に俺を恨めしそうに涙目で睨んでから突然全速力で逃げ出した。


「お、覚えてろにゃーーーー!! うぇぇぇぇぇん!!」


 あ、これ逆恨みされて今後もちょっかい掛けられるやつだ。


「……しまった、面倒はここだけで納めたかったのに」


「手を抜きすぎだったなクリス、せっかく妾が手早く厄介事を終わらせられるように手引きしたのに」


 いや、リファリナ様はその場の勢いで俺とフィスクを戦わせましたよね? 思慮深いふりとかしなくて良いです。


「……模造剣とはいえ、武術の心得もない女の子に本気で打ち込める訳がないでしょう。只でさえ大剣扱ってるんですから、当てたら骨ぐらいは簡単に折れますし」


「腕の一本ぐらいなら折っておけば良かったのだ。邪魔になるならそれもありだぞ?」


 怖い事を言う。まあ、余計な障害になるなら徹底的に痛めつけて近寄らせないように仕向けるのが正解なんだけど。


「まあ、捨て置いても問題無かろう。どうせ子供の悪戯程度のちょっかいぐらいしか出来ないだろうからな───それよりだ、クリス」


「あの……! リファリナ団長、それとクリスティナさん」


 リファリナ様が改めて表情を険しくして俺に何かを告げようと声を放つ…………が、それと同時に別の所からも声を出す者が居た。


「む? どうした、キャロル・セインブルグ」


「はい、あの、お願いがございまして」


 声を掛けて来たのは例の娘、キャロルだ。


 はて、何の用だろうか?


「なんだ、言ってみるが良い!」


 団長であるリファリナ様が主に対応して話を促している。

 キャロルはどこぞのにゃんことは違って礼節を弁えているようで、きちんと一礼をしてからリファリナ様に向かって話し掛けている。


 ……チラチラとこちらを見ているのは、どういう理由からなのか。


「──叶うなら、私もクリスティナさんと戦わせて頂けないでしょうか」


 ……あ、そういう理由なのね。


「うむ、良いぞ!」


 リファリナ様は再び俺の意見も聞かずに二つ返事で了承した。


 だよね、リファリナ様はそうするよね。


「……まあ、良いけどさ」


 一応キャロルの力量は気になってはいたし、顔繋ぎの意味も含めれば願ったりという所かな。


 今度はちゃんと剣術に心得あるだろう娘だし。ちゃんと相手しなくては。

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