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1-1『膝上20センチ強制は勘弁して欲しい』

 白獅子騎士団。

 その名前の通り、獅子の勇ましさと白の清廉さを意匠に組み込み、このファルン王国で最も気高く、そして麗美であると言われている騎士団である。


 それも当然で、白獅子騎士団は設立当初から団員は全て女性、それも二十代中頃までの若い婦女子のみで構成される為に、非常に見栄えが良い特殊な存在なのだ。


 何故構成員が女性のみなのかと言われれば、詳しい事は自分も知らない。

 ただ、設立当初の王様が趣味で設立したとか、過去にお転婆だった王族の姫が立ち上げただとか、そういう嘲笑混じりの噂なら幾つか聞いた事がある程度だ。

 とはいえそんな騎士団でも歴史が積み重なれば伝統的で由緒正しい所になる。


 騎士団を構成する団員は基本的には王族含む貴族の子女から選抜され、はっきり言って騎士団としての資質よりも婦女子としての器量を優先される。


 儀礼的な式典にのみ飾る綺麗な花、つまりはお飾りのなんちゃって騎士団だろうと伝統は伝統なのだ。


「……まさか俺げふんっわたしがそんな所に所属する事になるとは……」


 エラリオ陛下からの特務を拝命し、誠に遺憾ながら肉体を女にされてしまった俺は、翌日には白獅子騎士団の詰所へと向かっていた。


 詰所は王城の程近く、正門から徒歩十分程度の場所と立地的には一等地と呼べる場所にある。


 まあ、要はすごく近い。

 昨夜は拝命後から任地移動開始まで監禁されていたので余計に近い。


「何が最低限女性らしく振る舞う特訓をする。だ……からかって遊んでたようにしか感じなかったぞ!」


 動けないのを良いことにあれやらこれやら身体中いじくり回され、恥ずかし過ぎる衣服に着替えるように強要され、肉体的にも精神的にも屈辱過ぎる一晩を過ごさされたのだ。


 下まで剃られる必要性を問いたい。

 問いたけど済まし顔で「必要だからやったに決まっているでしょう?」とのたまいやがったドロテア先輩には任務後絶対に抗議してやる。

 

 絶対に必要無かった。

 あの人、間違いなく趣味でやりやがった畜生。


「この服装だってそうだ、なんで腰布スカート……しかも膝上丈なんだ」


 上は良い。それなりにきっちりとした騎士らしい上着ブレザーを着込んでいるので違和感はそこまで無い。下着に問題あるが。


 しかし下半身は酷い。

 なんで膝より股下から計った方が短い腰布なんだ。

 こんなの履いてる女性は年齢一桁の児童ぐらいしか見た事が無い。


「頼りないしスースーするし、なんでズボンじゃダメなんだ……!!」


 当然だが俺はこんな物を履く事は断固拒否した。

 しかし、これしか用意が無かった。ついでに男の時に着ていた服は念入りに焼却処分されてしまった。

 まさか素っ裸でずっと居る訳にもいかず、俺は断腸の思いで現在身に付けている衣服を装着したのだ。


 下着込みで。


「…………屈辱ッ!!」


 おのれ変態先輩ドロテア悪友陛下エラリオめ……俺では絶対に勝てない逆らえないと思って横暴しやがって、それなりに感じてた畏敬の念を返せ。


「はぁ……まあここまで来ては怒っていても仕方ない、何も考えずに任務に集中しよう」


 なんとか気を落ち着けて道を歩き、既に見えてきていた詰所へと歩を進める。


 見える建屋は意匠モチーフとなっている白獅子を意識したのか、全体的に白く、装飾がやや過剰なのが分かる。

 白亜の獅子像が門扉の両側に添えられ、パッと見た感じは詰所というよりはどこか貴族の邸宅のような雰囲気だった。


「貴族子女ばかりが寝泊まりする場所だし、こんなもんか」


 詰所は王都に住む者達が通いで詰めている場合が大半だけど、一部の地方貴族の子女の為の宿舎も併設されていて、それまで蝶よ花よと育てられていた可憐な乙女達が快適に暮らせるようにと配慮がなされた造りであるとの事だった。


 うん、何度考えても騎士団である必要がわからない。

 わざわざ女の子に騎士団の真似事なんてさせずとも、儀礼用の騎士団なんて礼装式のプレートアーマー着込ませた男達でも十分だと思うんだが、慣例になってる部分だし変えるのも難しいんだろう。


 そんな慣例が無ければ俺が女体になる必要も無かったというのに。


「考えると愚痴しか浮かんでこないな……はぁ、いかんいかん」


 今考えるべきは、この女の子だらけだという騎士団に潜入し如何にしてボロを出さずに居られるかという事だ。

 正直態度や雰囲気で相当に変だと思われそうだが、まさか本当は男という事がバレる事は無いと思っている。

 何故なら身体だけはどう見ても女だから。


「とはいえ、普段通りにしてたら変人扱いぐらいはされてしまいそうだしな」


 男っぽいとは思われるのは規定路線だとして、最低限恥を掻かない程度には取り繕わなくてはいけない。


 一人称としては本来は“俺”なのだが、この状態でそれではちょっと痛い。

 なので“わたし”と意識して声にしないといけないのが既に違和感だったりする。


「ただ、あとは良く分からん」


 女の子らしい動作とはなんだろうか。とりあえず内股で歩けば良いのか。


 その辺りも昨晩ドロテア先輩に指南されたのだが、聞き流した。

 悩殺ポーズとか教えられても使い所無いだろうから当然だと思っている。


 やっぱり色々考えても無茶だよね。

 挙動不審になるのが目に見えているのに、何故俺がこの任務を任されるのか。


 女にするなら別に六位の【白夜アルヴァノーテ】とかでも……いやあの人今年で三十だったか、白獅子騎士団への潜入は無理か、くそぅ。


 ぶつくさとぼやいて辟易する思考をどうにか抑え、詰所の正面玄関までたどり着いたので気を引き締める。

 ここから先はきちんと仕事をする為に集中するのだ。任務の放棄なんてもっての他なのだし。


 玄関扉に据え付けられた呼鈴を鳴らし、来訪を内部へと知らせてその場で待つ。


 そのまま数分、なんの反応も無いので再び呼鈴を鳴らすが、やはり無反応。


「あれぇ?」


 曲りなりにも騎士団の詰所で来訪者へ対応する人間が出てこないのは、どういう事だ。


「……参ったな」


 応答が無いからと出直す訳にもいかない。本当はすぐに帰りたいが。

 更に数分粘って対応が無い事を確認してから、俺は仕方ないと無断で玄関を開き、直接呼び掛ける事にした。


「すいませーん! 本日から入団となっているクリスハイ……じゃないクリスティナ・トールセイスですー!! どなたかいらっしゃいませんかー!」


 玄関口から顔だけを内部へ突っ込んで声を掛けるも、応答する人はやはり居ない。


「……どうなってんだ、ここは」


 国のお偉方とかがいきなり来たりとかしたらどうするんだ。

 事前に俺がここへ来る事は通達済みだし、応答無いとおかしいのだが。


「仕方ない、勝手に入って誰か探そう」


 そう思い、無断で入り込む事を謝罪しつつ扉を開いて内部へと足を踏み入れようとした瞬間。


「んひぃ!?」


 突然、何者かに背後からおしりを鷲掴みにされた。


「なんだ!? なに!?」


 咄嗟の事だったので若干気が動転してしまう。いや、これでも俺は結構気配察知とか得意な方なのに全く分からなかったんだよ。

 慌てて後ろを振り返りつつ飛びずさり、俺のぴったり真後ろに一切気配を感じさせずに現れた、尻を触りやがった奴の姿を視界に納める。


「うっ、貴女は……!!」


「やあクリス、聞いてはいたが本当に可愛くなっているな」


 そこに居たのは、きらめくような金髪を肩の辺りで切り揃えた翠色の瞳が印象的な美女だった。


「り、リファリナ様……? 何故ここに」


「かわいいクリスが余計にかわいくなったと聞いて」


「なに言ってんですか貴女は!?」


「貴女? クリス、妾を呼ぶときはお姉ちゃんと呼べと昔から言っていた筈だが?」


 彼女の名前はリファリナ・ファルン・アーレスロード。

 このファルン王国における、先王陛下の長女。


 つまりエラリオ・ファルン・アーレスロード国王陛下の姉である。


 ……なんでこの人ここに居るんだ。


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