002
「…(聞きたいことは多いけど情報が少ないから何から聞けばいいのか分からない)」
「…(記憶が無いんじゃ何を聞いたらいいのか分からないわね)」
麓の村を目指して移動している間、ワタルとトウカは無言だった。やがてそれに耐えられなくなったのかワタルが口を開いた。
「そう言えば、この機体に名前は有るのか?」
ロボの歩行する振動に揺られながらワタルはトウカに聞いた。
「サクナよ、死んだ私のお母さんの名前なの」
「そうか…」
「気にしなくていいわよ。何年も前に気持ちの整理はついているから」
「…」
「…」
そしてまたお互いに無言になった。それから時間が過ぎて耐えられなくなったワタルは本音を吐いた。
「ごめん、いろいろと聞きたいことが有るけど何から聞いたらいいのか分からない」
「私も記憶喪失の人に何を聞いたらいいのか分からなくて困っていたの」
それにつられてトウカも思っている事を告げた。そして2人は笑いあった。2人が麓の村についたのはそれからすぐの事だった。
「着いたわよ。今日はここで宿を取りましょう」
「(のどかな村だな…)この村は規模で言うとどれくらいだ?」
「そうね、村としては平均的な規模かな。典型的な旅人には優しいけど移住者には厳しい田舎の村だから住むのはお勧めしないね。心配しなくてもここで放り出したりはしないから」
それからサクナから降りるとトオカは足元の石を拾いワタルを手招きで呼んだ。
「でも私が美少女だからって襲おうとしたらこうだからね」
そう言ってトオカは拾った石を握りつぶした。
「(コワッ!)そんな恩を仇で返すような事はしないから」
「(『恩を仇で返す』ね)ごめんね、美少女の1人旅だったからこういう事には敏感で」
「いや、その用心は正しい」
トウカが美少女なのはワタルも認める所だったので素直にそう答えた。2人がそんなやり取りをしていると村の老人が近づいてきた
「トウカさんお帰りなさい」
「あ、村長さん」
「実はトウカさんにお願いしたい事があるのじゃが」
「何ですか?」
話を聞くと村の食料をしまう倉庫の屋根に穴が開いてしまったという。このまま雨が降ると中の食料が腐ってしまうのでサクナを使って屋根の修理に手を貸して欲しいという。
「えーと…」
「今日の宿は只にするし少ないが報酬は払う。駄目かの?」
「いや、私ってそういう細かい作業は駄目なの」
トウカがそう言うと村長は困った顔をした。そこでワタルが名乗りを上げた。
「俺がやろうか。大体の操作は分かるぞ」
「記憶喪失なのに?」
「座席に座っていたら何となく操作法が頭に浮かんだ(という事にしておこう)」
ワタルがそう言うので物は試しにとやって見る事にした。そして数時間後、ワタルはトウカに内蔵されたマニピュレータを使い倉庫の屋根を修復した。
「凄い、修理した後が分からないくらい綺麗に直っている」
「スキャンしてみたけど問題は無かったよ」
「(もしかして天上人の事を抜きにしても掘り出し物?)」
それから村の人たちから感謝され手厚いもてなしを受けた2人は翌朝村を出た。それからしばらくの間道なりに進んだが、途中でトウカは道を外れた。
「ごめん、ちょっと試させて」
「え?」
そう言ってトウカはサクヤを暴れ牛のように走らせた。コクピットの中は暴れ牛の背中に乗るように激しく揺れた。しかしワタルは悲鳴1つ上げなかった。
サクヤは道なき道を進み、遠くに城壁に囲まれた街が見える所で動きを止めた。
「随分と荒っぽい運転だね」
「気分はどう?」
「別に問題は無いけど」
強がるわけでもなく素でワタルは答えた。
「ねえ、遠くに街が見えるでしょ。本当は時間をかけてあそこまで行って(場合によっては)そこでワタルと分かれるつもりだったの。でも昨日のサクヤの操作を見て考えが変わったの。ワタルは私に出来ない事が出来るし私の運転にもついて来れる。ねえ私とコンビを組まない?ずっと後ろの席に乗れる人を探していたの」
「記憶そうしてで身元不明の俺でもいいのか」
「ええ、ワタルは信じられると思ったから」
そう言ってトウカは笑った。
「行くあても無いし喜んで。改めてこれからよろしく(トウカと一緒に旅をすればこの星について見てまわれる。仲間と合流するのはその後でいい)」
「よろしくね。でもトウカの操縦者としてのパートナーだからね。もし私に手を出そうとしたら…」
そう言ってトウカは握り拳をワタルに見せて威嚇した。
「分かったから、襲わないから」
「うん」
困ったような声のワタルの返事を聞いてトウカは笑い、つられてワタルも笑うのだった。




