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能力社会  作者: コイナス?
1章 憎しみの世界
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8話 反撃開始

 戦力差は歴然だった。もう勝機なんてあるはずがない。これを諦めない方がおかしいくらいの状況。キルとシークレットは一度は自殺するまで絶望していたが、再び立ち上がることを決めた。だが、不利なことには変わらない。まともな戦い方では絶対に勝てない。幸いにも職員側はキルたちを警戒しており、まだ攻めてこない。そのため作戦を立てる時間はあった。


キル「まともに動けるのは、俺たち二人のみ。だが、おそらく管理室はクリーンが鍵をかけているため、まだ大丈夫なはず。爆弾はまだ使える。」


 キルは爆弾の他に手持ちの武器を確認する。爆弾は二人なので二つ、骨は全部で四本、拳銃は一丁で弾は後一発のみ。通信機は二機あるが、通信は盗聴されているため意味はあまりない。使えるものは決して多くはない。


キル「外の焼却炉の横にある灰を取りに行こうと思う。」

シークレット「今から!?」


 意外な言葉にシークレットが驚く。この状況でわざわざ危険を冒してまで灰が必要なのか疑問に思っていた。あまりにリスクが大きすぎる。しかし、キルが何も考えずそんな行動をする訳がない。どうせ、このままここにいても状況は良くはならない。それはシークレットにも分かっていたことだ。それに他に策なんてない。


シークレット「いいよ、どんな考えか分らないけど、一か八かでやろう。」


 キルは焼却炉に行く前に通信機で、クリーンに連絡を試みる。盗聴されていることは分かっていても、周波数を変えるとクリーンとは連絡できなくなるため、そのままで通信した。


キル『クリーン、聞こえているだろ。返事を!』


 返事がなかった。キルの策にクリーンの協力が絶対だった。なのに、クリーンがいないと実行に移すことができない。


キル「まさか、もうクリーンは捕まっているのか?」


 考え方が嫌な方向にいってしまう。もし、管理室が職員の手に落ちていたなら、首輪の取り外しが不可能なはず。キルは首輪が取り外しできるか確かめる。これが取れなければいつ殺されてもおかしくない状態となる。キルは緊張しながら取り外しが可能か試す。


キル(……。いけるか?)


 結果的に取り外しが可能だった。これでクリーンは捕まっていないことが証明された。しかし、返事がないということはクリーンに何かあったと考える方が自然。キルはもう一度呼びかける。

 少し経って返事がきた。以前聞いた声とは、まるで別人のような暗い感じの声になっていた。


クリーン『俺は……役立たずだ。何もできなかった、すまない。』


 クリーンが落ち込んでいることは、言葉を聞いただけで分かるほどだった。このままではキルの指示通りに動けそうにない。キルは何とか立ち直らせたかったが、言葉が思いつかない。キルにはクリーンがどうしてこうなっているかも想像ができない。今までキルはシンプル以外と会話したことがほとんどない。そのため、キルには人の気持ちというものが理解しがたかった。シークレットも会話を聞いていたが、かけてあげることに迷っていた。


シークレット(あなたは役立たずじゃない、というのは簡単。でも、仮にそれで立ち直っても、ただ責任を押し付けただけに過ぎない。役立たずじゃないということは、役に立つ存在であるということ。聞こえはいいけど、失敗すれば、重要な役割を担っていたクリーンの責任となる。クリーンは今回の失敗を自分のせいだと思っている。そこまで分かっていながら、何を言ってあげればいいのか分らない。私もちょっと前まで同じだったのに……。)


 キルはシークレットも同じようなことを考えていることに気付いた。きっと別の人間なら別のやり方があったのだろう。クリーンが戦うことを選ぶように説得することもできたはず。しかし、奴隷として生きてきた二人ではできなかった。だからこそ、キルは自分の率直な思いを言った。


キル『俺にはお前の気持ちが分らない。お前が謝った理由も意味も分からない。このまま職員に投降しようがお前の自由だ。俺は自殺までしようとした。それでも、諦めることはできなかった。戦う道を俺は選んだ。シークレットも同じだ。お前の生き方はお前自身で決めてくれ。』


 クリーンがキルの言葉をどう感じたかは分らない。彼が何を選ぶか分らない。その答えがなんであってもキルたちは受け入れるつもりでいた。

キル「シークレット、首輪をはずして遠くに置け。クリーンが戦わなくても俺たちは戦う。」


 シークレットはキルの言うことに従った。クリーンが戦わない道を選べば、首輪は武器ではなくなるどころかこちらが危うくなる。

クリーンがどうするかによって戦い方が大きく変わってくる。



クリーン(こんな俺でもまだやれるのか?こんなところで戦えるのか?……無理に決まっている。俺は結局なにもしないし、何もできない。)


 しかし、クリーンは心の底では何一つ納得も、諦めもできていない。できるはずがなかった。

彼はただ諦めたフリをしている。だから、動けない。あと一歩の勇気がなかったから。失敗したのは自分のせいだと思っていた。全て自分が悪い、そう思い込むことによって全てが済む。みんなに落ち度はなかった。そういう風に考えれば楽と……。


クリーン「俺に一体どうしろと、何ができるっていうんだ!全部、全部、全部!俺がいなければこんな風に失敗することはなかった!分かっている、分かっている!俺なんかがに何もできないって、そんなことは俺自身が一番よく分かっている!

 なのに何なんだ?何で俺はまだこうして立っている?何で降伏もしない?分かっているはずだ!・・・なのに!」


 クリーンは自問自答する。答えなんてもう前から出ている。だから、彼は彼自身に問う。何が自分にできるのか。諦めた、諦めようとしていた今までの自分に。


クリーン『俺は、俺は!……それでも戦う!」

 キル 『ありがとう、クリーン。

聞こえている、いや、聞いているだろう?職員ども!お前たちは勝ったつもりだろうが、俺たちはたった三人でも貴様らを皆殺しにしてやる!!』


 キルは職員に宣戦布告する。諦めから、絶望から立ち上がった今だからこそから、今度こそ成し遂げるために。



キル 『さっそくだが、管理室の入り口付近にお前の爆弾を仕掛けろ。奴らが扉を開けようとしたら起爆しろ。これでお前が捕まることはない。』

クリーン『分かった。』

クリーン(通信は常に盗聴されていると考えた方がいい。そのため下手なことはしゃべれない。)


 盗聴されないようにする対策なんてキルたちには思いつかない。だから、盗聴されても問題のないことしか話せないし、話さない。

それはジークも勿論分かっていた。それでも盗聴をもう一つの通信機で引き続き行っていた。たとえ有益な情報が得られなくても盗聴という行為そのものが、キルたちの作戦の妨害につながる。


ジーク(こちらの通信の周波数は一定時間ごとに変えるように打ち合わせしているから盗聴されることはないはず。それに三人は人数分しか通信機を持っていない。しかし、殺した職員から奪う可能性や職員を捕獲し人質にする危険もある。私たちの方は、他の奴隷を人質にとっても意味を成さない。こちらには失うものはあっても、奴隷たちには命しか失うものはない。それは弱点がないに等しい。今は優勢だが、いつ状況が変化し追いつめられるか分らない。)


 ジークはキルたちの動きを警戒していた。特にキル・コープスには最大の注意を払っていた。ジークは少し前までキルは管理室にいると思い込んでいた。一番の敵ともいえるキルが管理室の外にいることは全くの予想外だった。


ジーク(おそらくキル・コープスが今回の事件の首謀者だろう。私にできることは彼を止めることしかできない。でも……それが死んだ仲間の仇討ちになるのだろうか?仮に彼を殺して仇をとったとしても、死んだ者は生き返らない。結局、何をしても何をやっても誰も救われない。何を今更?……そんなことは初めから分かっていたはずだ!

でも、もしも私が違う生き方を選んでいたら、どうなっていただろう?今回のようなことは起きなかったかもしれない、誰も死なずに済んだかもしれない。奴隷たちを救える方法だってあったかもしれない。……もうこんなこと考えても遅いな。)


ジークは思い悩んでいた。自分の行動は本当に正しかったのか、これから自分がなすべきことを考えていた。しかし、いくら考えても行きつくべき答えはいつも同じだった。過去はどんな能力者であっても変えられない。もしもあの時……なんていうものは考えても何の意味を成さない。



 クリーンと連絡を取った後、キルとシークレットは行動を開始していた。職員が動きだす前にしなければ作戦は成り立たない。急いで二人は焼却炉がある外に行こうとしていた。動き把握され、通信も盗聴されている。だからこその作戦。キルたちは外に出る前にシークレットに待機させた。


キル「シークレットは今は中にいろ。作戦通りに頼む。」

シークレット「ええ。」


 キルだけ走って外に出た。目的は焼却炉の横にある灰が入った袋だった。しかし、動きをあらかじめ読んでいたため、二階から職員がキルを狙撃しようとしていた。


ジーク『手足を狙い、動きを止めろ。』

職員 『了解。』


 職員が能力で拳銃の性能を上げ、キルに狙いを定めた。その時、キルが何かを二階の窓の向かって投げて叫ぶ!


キル『今だ!クリーン、五番の爆弾を起爆しろ!』


 キルの言葉を、いや行動を理解したジークが急いで指示を出す。


ジーク『まずい!爆弾が来る。逃げろ!!』


 ジークの言葉通りに大急ぎで職員は狙撃を止め、慌てて逃げる。キルの投げた物は二階まで行かずに途中で落ちた。そんなことは気にせずキルは灰の入った袋を二つ取り、キルを追いかけたシークレットに投げ渡す。そして、二人はそのまま袋を持ったまま建物に入る。

キルの作戦の第一段階は成功した。キルの投げた物は実はただの段ボールをちぎってボール状にしたものだった。外にある焼却炉に向かうのに二階から狙撃される危険を見込んで、まるで二階に爆弾を投げるように演出してみせた。その隙に第二段階に必要な灰を取りに行った。本物の爆弾の方を投げる考えもあったが、キルの腕力では不可能だった。それに数少ない爆弾をまだ使うわけにはいかなかった。


 ジークが本当のことに気が付いた時は遅かった。キルたちは既に建物の中に入っており、狙撃は不可能な状態だった。ジークの心中には驚きと疑問があった。


ジーク(まさかハッタリだったとは思わなかった。しかし、何故焼却炉にいった?骨を取りに行ったのか?本当にそれだけとは考えにくい。他の物だとしたら灰か骨を取るためのトングぐらいしかないはず。危険を冒してまで取りに行ったからには必ず使ってくる。)


ジークにはキルの狙いが分らなかった。そのため、次の一手が考えられない。



キル「ひとまずうまくいった。問題はここからだ。相手はどうくる?挟み撃ちかこちらが動くのを待っているか、正面から攻めるか?」


キルは職員の次なる一手を予想する。先ほどの行動から警戒していると考えた。


キル(警戒しているなら簡単には近づいてこない。ならおびき寄せるか。)


キルは通信機でしばらく待機するとクリーンに伝える。それはすなわち職員たちに罠を張っているから向かって来いと言っているようなものだった。普通なら来ないが、罠を回避してあえてくると考えた。罠があることが分かっていれば、罠のパターンは限られているため対策を立てられる。罠さえ破れば職員側の勝利も同然となる。


ジーク(間違いなく罠を仕掛けている。考えられる罠は、爆弾を仕掛けているか灰を使った目くらましからの銃撃、もしくは両方。これなら対策が立てれる。)

ジーク『アイル、これからの奴隷の位置を細かく伝えてくれ。その周辺に爆弾を仕掛けてくる可能性が高い。』


 通信を切った後、ジークは職員を三人キルたちの元に向かわせた。同じ時間にキルとシークレットは次の手の準備を進めていた。キルたちにとって、全てはこの一手に掛かっていた。


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