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能力社会  作者: コイナス?
1章 憎しみの世界
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4話 彼女の覚悟

イギリス領の奴隷倉庫にいる奴隷たちは男性が多くの割合を占めている。その理由としては女性の方が買い取り手が多く、売れ残って奴隷倉庫に残る者が少ないからだ。当然これは一例であって逆のところもあったりする。ただ、全ての奴隷倉庫にいえることは脱走が困難なこと。厳重な出入り口、見張りなど脱走などという考えさえ思わせないような作りになっていた。万が一脱走されそうになった場合はたとえ職員に死者が出ようとも阻止しなければならない。もし奴隷が脱走に成功したら奴隷制度の崩壊につながる危険性がある。そのため奴隷倉庫の管理というのは特に大切とされている。


 数少ない女性の奴隷の一人、シークレット・スレイはキルの指示で二班の班員として他の班員と一緒に一階に待機していた。シークレットはキルのことはあまり信用してなかった。


シークレット(あのキル・コープスという男は信用できるのかしら?この奴隷倉庫から出ると言っていたけど本当にできるの?)


(お前だけは知っているはずだ。あの男がどんな存在だったのかを。)


 謎の声がシークレットの頭の中に響く。シークレットは幻聴でも聞いたように思えた。彼女自身、謎が多く幻聴でも不思議とは思わなかった。彼女は奴隷の中でも特殊だった。何度も奴隷として買い取られたが買い手が次々と不審死を遂げていた。どんな能力でもその不審死の謎は明らかにはできなかった。買い手が死亡するたびに彼女は奴隷倉庫に戻されていた。そのため彼女は他の者から謎の奴隷という名で呼ばれていた。


 シークレットの班の班長はキルと通信機で話していた。


班長『キル、お前は捕まった二人をどうやって救うつもりだ?何か策があるのか?』

キル『策はないことはない。ただ、何人かに囮役をやってもらうことになる。通信機は囮役に持たせろ。他の班も聞こえているな?』


 他の班にも囮役を呼びかけた。キルは二人を殺したことは当然告げなかった。


班長「何人か囮役を選出したいが立候補は……いないよな。」


 失敗したら死。そんな囮役を好き好んでする者などいない。そう思っていた。だが、一人名乗りを挙げる人物がいた。


シークレット「私がやるよ、その囮役。」


 その場にいた奴隷たちは驚いた。まさか、囮役を自ら進んで行おうとする者がいるとは誰もが思ってなかった。


シークレット(誰かがやらなければ最終的に職員に追いつめられる。それに貴重な通信機を持たせるということは捨て駒にされる危険性は低いはず。問題は他にも囮役を行う者がいるかということになるけど。)


班長「いいのか?シークレット。」

シークレット「別に構わない。それより通信機を貸して?」


 班長は少し驚きながら通信機を渡す。シークレットは受け取った通信機をすぐさま使う。


シークレット『キル・コープス、聞こえている?私はシークレット・スレイ。私が囮役をやる。能力は一分間のみの肉体強化。他の班で囮役は決まった?』

キル『いいや、まだお前だけだ。一分間だけとはいえ肉体強化か、その能力は使うかもしれん。すぐに使うこともできるのか?』

シークレット『ええ、ただし一日一回きりだけど。』

キル『上等だ。後で作戦を伝える。』


 キルは一度通信を切る。キルはシークレットの能力の使い道を考える。肉体強化、いくら制限があるとはいえこの奴隷倉庫の中にいる奴隷たちの能力ではおそらく最強を誇る能力。これを使わない手はない。


キル「その能力を使うとなると囮役は後一人で十分か。」


 もう一人の囮役をどうするかキルは悩んでいた。


キル(俺は他の奴隷からの信用はないに等しい。だがクリーン、あいつなら・・・。)


 キルはクリーンに連絡を取ろうとする。


キル『クリーン・ルームがいる班の班長、クリーンと通信させろ。』


 すると意外な人物から返事がきた。五班の班長となっていたクリーンからだった。


クリーン『どうした、キル?』

 キル 『お前に囮役を頼みたい。』


 少し間が空く。クリーンが考えているのだろう。他に囮役をやってくれる人物はいない。クリーンが駄目ならシークレット一人に囮をさせることになる。作戦上、不可能ではないが何かあったときの対処がやりにくくなる。


クリーン『一つ聞きたい。お前は、キル・コープスは俺たちのことどう思っている?仲間か?それともただ利用するだけの駒か?』


 クリーンは自分の発した言葉に後で戸惑った。これではまるでキルを疑っている。


クリーン(なぜ俺はキルにこんな質問をしたんだ?俺はキルを信じているはず。いや、違う。信じたいのにどこかキルを疑っている自分がいる。)


 クリーンは先ほどの質問を訂正しようとしたが、


 キル 『ああ、駒だ。俺はシンプル意外の奴隷とはほとんど関わりはなかったしな。』


 それを聞いたクリーンは意外でもない様子だった。


クリーン(駒か……。まぁそうだよな。ただ一緒に戦うだけだからな。そういえばシンプルの奴、最近全然見かけてないな。)


クリーン『こんな時にあれだがシンプルは部屋にいるのか?』

 キル 『……。そうか。俺以外は知らないんだな。シンプルは死んだよ。』


 キルは静かに告げた。キル以外の奴隷はシンプルが奴隷倉庫から出たことすら知らされていなかった。当然、知らないクリーンは驚いた。この会話を通信機を通して聞いていた他の奴隷たちの反応も同様だった。


クリーン『なぜ、死んだ?』

キル 『奴隷として買われて一度ここを出たさ。その三日後に帰ってきたさ、傷だらけの死体となってな。なぜ死んだなんて俺が知りたいよ。俺はシンプルに会うまでこの世界のことなんて何一つ知らなかった。そんな俺にシンプルはいろんなことを教えてくれた。文字の読み書きからパソコンの使い方まで。俺とは違ってとてもいい奴だった。だから、俺はシンプルの仇をとるために、戦うことを決めた。』

クリーン『キルはすごいな。俺にはそんな覚悟ない。俺はただお前についてきただけの臆病者だな。』

キル『すごくも何ともない。俺はただ大事な人が死ななきゃ何も変われなかったクズだ。』


 クリーンはキルの話を聞いて決心した。


クリーン『キル、俺は囮役をやるよ。』

 キル 『ありがとう。さっそくだがクリーンとシークレットは管理室の前に来てくれ。』

シークレット『私も?』


 話なら通信機を使ってできるのになぜ管理室にいかなくてはならないか疑問に思うシークレット。何か考えがあるとも考えられる。


シークレット(他の奴隷に聞かれたらまずい話なのかしら。それともこれも作戦?)


 奴隷倉庫の通信機は周波数さえあっていれば通信が可能なタイプなため、秘匿性が低い。シークレットとクリーンはキルの言う通りに管理室に向かう。キルは管理室にきた二人に役割など作戦に必要なことを説明する。クリーンとシークレットはキルの説明通りの行動を開始した。通信機と同じく囮役は二人のみ。二人しかいないためうまく能力者をおびき寄せられない場合もある。賭けといってもいい。しかし、キルにはこのやり方しか思いつかなかった。殺し合いに確実な方法なんてない。幸い職員側からは仕掛けてこない。先ほどもそうだったがこちらが接近しなければ攻めてこない。


キル(万が一にも備えてやれることはやった。後は奴らをおびき出し一気に決める。あとは他の奴隷への指示か。)


 キルは通信機で全ての班に指示を出す。それは指示というより命令だった。


キル『全班、よく聞け!これから俺たちは反撃に出る。そのためにお前たちにはあることをやってもらう。』


 キルは作戦についてのこと、そのために必要な条件を奴隷たちに教えた。奴隷たちが指示通りに動くとは限らないが、囮役以外のリスクは低いようにしていた。


キル(この作戦が成功すれば奴らの人数はかなり減らせる。俺一人では決してできなかった。クリーンが協力すると言ってくれなければ他の奴隷も協力しなかったかもしれない。意外と捨て駒以外でも役にたつものだな。捨て駒として使うとしても、指揮をする以上絶対に負けられない。)


 キルは、これからの作戦を頭の中で整理した。この作戦で重要なのはタイミングとなる。どこまで職員をおびき寄せるか距離があっても、詰めてもうまくはいかない。キルに責任という名の重圧がかかる。失敗は許されない。


キル「引き返せないし引き返すつもりもない。シンプル待っていろ、必ず奴らを皆殺しにしてやる!」


 シークレットは囮役の一人として準備していたがシークレットの心情は複雑だった。


シークレット(私はまだキル・コープスを信用したわけじゃない。だけど、シンプルの話聞いていたから、私も戦わなくちゃいけない。私は運がよかったから何度も生き残れた。この作戦では生き残れるかな?もし、私が死んでも私の代わりを誰かがやってくれるのかな?おかしな話ね、最初は捨て駒にされないか自分の心配しかしてなかったのに。私は覚悟を決めなきゃ、生き残る覚悟と死ぬ覚悟を!)


 彼女は覚悟を決めた。戦うのに必要な二つの覚悟を。彼女にはもう迷いなんてかった。迷いがあれば戦えないことが彼女には分かっていたから。だから無理にでも覚悟を決めなければならなかった。自分自身にできること、やれることをなすために。それが今生きている、生き残っている者の役目と信じて。


キルが作戦開始を通信機で告げる。


キル『これより作戦を開始する。奴らに教えてやろう!俺たちの戦いを、力を!』


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