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能力社会  作者: コイナス?
1章 憎しみの世界
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3話 手段

ディザスターウイルス

15年前(能力世紀元年)、ディザスターウイルス(災いのウイルス)がアメリカから発生した。このウイルスは空気感染で感染力が非常に強い。感染から発症までの潜伏期間が約1週間。それまで症状が全くない。感染から1週間後に突然、脳の細胞が破壊され突然死に至る。

ワクチンがなかった当時は発症を防ぐ方法がなく、感染しないように対策するしかなかった。それでも世界中にウイルスが広まり多くの死者を出した。人類はこのウイルスによって滅ぼされようとしていた。

 そんな時にディザスターウイルスに対するワクチンが完成した。ディザスターワクチン。ウイルスの発症を防ぐワクチン。やがてこのワクチンが世界中で使われ人類は救われたはずだった・・・。

 しかし、そのワクチンのもう一つの効果として超能力が身に付くというものがあった。ワクチンの効果は新たに生まれてくる子供にも現れていた。それにより世界中で犯罪、テロ、内紛、貧困などさまざまな社会問題が起こった。そんな混乱した世界を統一するため世界統一戦が行われた。

 そして、その11年後新たな戦いが始まろうとしていた。



 奴隷倉庫では、奴隷たちは反逆の準備を進めていた。


キル「今から作戦を説明する。一階と二階に分かれて班で行動してもらう。基本、行動の指示は通信機を通して俺が管理室から行う。管理室の機械はここの全体図もあり、イヤホンとマイクで通信機としても使えるからな。奴らに勝つための基本的な戦い方は不意打ちだ。一対一ではこちらが能力差で負ける。そのため相手の情報、居場所の把握が重要となってくる。通信機を使って情報を伝えその情報をもとに俺が指示を出す。」


 キルが他の奴隷たちに作戦の説明をした。キルの作戦は簡単にいうと組織戦。人数は奴隷方が圧倒的に多い。しかし、キルたちは戦いについては素人。それに対して職員側は元軍人がいる。


キル(首輪の機能で各奴隷の位置は把握できるが敵の位置は分らない。もちろん敵の能力も全く不明。しかし人数はあまりいないはず。うまく立ち回ればやれる。)

キル(俺たち奴隷の始末にあいつら職員が警察や軍隊は呼ばないはず。仮に呼んだとしても時間がかかる。)


キル「一班は一階から職員室側に行け。他の班は一階と二階に分かれて待機だ。これからは俺が管理室で指示を通信機で出す。」


 キルは指示を出すと管理室に向かった。管理室に職員が来ていたらこの作戦は失敗となる。そうならないように急いだ。管理室の入口は一つしかない。そこをふさげば入ってはこられない。



 職員室では、ジークが指揮を取りアイルが能力を使って状況把握をしていた。職員室には奴隷倉庫の地図もあり状況の把握は容易だった。


アイル「部屋から出た奴隷は全員で52人。そのうちの五人はこちらに向かってきています。他の者は管理室の近くにいます。ただ、一人だけ管理室の中にいます。」

ジーク(なぜ一人だけ管理室にいる?管理室でできることは爆弾の解除と奴隷の位置の把握くらいしかできないはず。)

ジーク「管理室にいるのは本当に一人だけか?」

アイル「はい。一人だけです。」

ジーク(色々と不自然なことが多すぎる。管理室に一人でいることだけじゃない、こちらに来るのはたったの五人というのもおかしい。そもそも脱走が目的なはずなのになぜ出入り口ではなくこちらに来る?五人は囮ということなのか?駄目だ。情報が少なすぎる。)


 ジークには奴隷たちの目的が分からなかった。アイルも口には出さなかったがこの状況を不自然だと感じていた。


アイル「管理長、どういたしますか?」

ジーク「まずは情報を得ることが必要だ。こちらに向かってきている奴隷五人を捕獲する。」


 ジークは通信機で他の職員に指示を出した。


ジーク『聞こえるか、みんな。こちらに五人の奴隷が向かってきている。これから指示する方法で捕獲して欲しい。捕獲した後、その奴隷から情報を聞き出してほしい。ただし、奴隷の覚醒の危険性もあるため気を付けるように。』


 ジークが発した『覚醒』とは、生命の危機や親しい人の死などを経験すると起こりやすいとされている、能力が強化または追加される現象のこと。どういう原理か今だ不明とされている。身分に関係なく奴隷でも起こりうるとされている。この現象で奴隷から貴族になったものも少なからず存在する。



 一方、一班として行動している五人は不安に思いながら職員室に近づいていた。その班のリーダー的存在のバゲージ・キャリーは自分も不安だったが班員を安心させようとしていた。


バゲージ(俺はこの班の中で一番年上なんだ。しっかりしないと!)

バゲージ「俺たちの班は先行と言っても情報収集ぐらいだから、心配すんな。」

班員 「ありがとう。気が少し楽になったよ。みんなでここを抜け出せるといいね。」

バゲージ(みんな、か。そのためには職員を殺すか脅迫するしかない。果たしてそんなことが俺たちにできるのか?いや、やらなくちゃいけない!大切な仲間のために!)


 バゲージはキルから渡された拳銃と武器として使えそうな骨を確認した。


バゲージ(いざとなったらこれで……。)


 バゲージ達は通路を歩いていた。その少し先は曲がり角になっている。何事もなく順調だった。ここまでは・・・。


 突然、曲がり角から人飛び出してきた。バゲージたちは訳が分らなかった。というよりは認識できなかったという方が正しいかもしれない。飛び出した姿を見たのは一瞬しかなかったからだ。


バゲージ「な!?」


 その一瞬にバゲージたちの視力が奪われた。何が起こっているのか理解できない。とりあえず逃げようとする。しかし、急に視力が奪われたため冷静さを失い、方向も分かりにくくうまく逃げることは厳しかった。班員の内三人は何とか走って逃げれそうだったが、バゲージともう一人の班員はあまりに突然で対処ができなかった。もちろん通信機を使う余地すらない。


 これがジークの作戦だった。曲がり角から飛び出したのは一定の距離にいる相手の視力を一時的に奪う能力者。奴隷の行動、位置を読み待っていた。だが、これだけでは終わらなかった。ジークはもう一人能力者の職員を待ち伏せさせていた。その能力者は対処ができず動けない奴隷に走りながら近づき相手を眠らす能力を使った。少し眠るのに時間が掛かったが能力を使われた奴隷は抵抗することもできなかった。


職員「よし、一人無力化。次!」


 職員は次に標的を変えた。狙われたのはバゲージ。職員はバゲージに襲い掛かろうとした。


班員「やらせない!逃げて、バゲージ、みんな!!」


 前にバゲージと話をしていた班員がみんなを逃がすため目くらましの能力を使う。二人の職員は怯みしばらく動きを止めた。その間にバゲージたち三人は逃げようとする。


バゲージ「お前も一緒に逃げろ!」

班員 「能力使った反動でしばらく動けないから。だから先に行って!僕は大丈夫だから。」

バゲージ「すまない、何もできなくて。後でお前たち二人を助けに来る!そして、みんなでここを出よう!必ず!!」


 バゲージたちは班員の思いを無駄にしないためにも走った!何度もこけそうになりながら感覚だけを頼りにして。


 やっと動けるようになった職員は動けなくなった班員を眠らせた。もう一人の職員は通信機でジークに謝罪と今の状況を伝えた。

職員 『すみません、管理長。五人中三人逃がしてしまいました。二人は眠らせることができました。』

ジーク『よくやってくれた、ありがとう。捕獲した二人を奥の部屋に連れって言ってくれ。色々と聞きたいことがある。他の奴隷が近づいた時は連絡するが、他の職員に対処は任せる。奥の部屋についたらまた連絡を頼む。』

職員 『分かりました。』


 職員は返事をすると一人ずつ担ぎ奥の部屋に移動した。



 何とか逃げ切り視力が回復したバゲージたちは通信機でキルと話をした。


バゲージ『キル!聞こえているか!?』

キル 『ああ、状況はどうなっている?』

バゲージ『職員が待ち伏せしていて班員が二人も連れていかれた。二人を助けるために手を貸して欲しい。』

 キル 『そんなことより職員は能力を使っていたか?待ち伏せはどこでどうされていた?』

バゲージ『そんなことってどういう意味だ!?二人を見捨てるというのか!!』


 キルの言葉にバゲージは怒りを表していた。奴隷たちの通信機の周波数を全て同じにしている。そのため、この会話は他の通信機を持った奴隷たちにも聞こえていた。


 キル 『見捨てるかどうかは状況にもよる。先ほどの質問にさっさと答えろ!』

バゲージ『そんなに知りたいのかよ!?だったら教える代わりに二人を助けろ、必ずだ!』


 バゲージはキルに怒りを抱いていた。そのキルに頼ることしかできない自分自身にも。


キル 『いいだろう。二人を救ってやる!』


 バゲージは目が一定時間見えなくされたことやどういう風に待ち伏せされていたかあの時の状況をバゲージが分かるところまで話した。話を聞いたキルは色々と推測する。


キル(おそらく視力を奪う能力と居場所が分かる能力者がいる。でなければタイミングよく待ち伏せできない。となれば不意打ちするにしても距離があまりない状態だとできない。他の職員もどんな能力か分らない。)


 キルは連れていかれた二人の居場所をモニターで確認する。二人の居場所は少しずつ奥の方へ変わっていた。


キル(二人は職員によって連れて行かれているということか。おそらく能力で動けないようにされている。モニターで居場所が確認できることから首輪ははずされていないはず。ならば、この状況を最大限利用する!)


 キルは機械で首輪の爆弾の管理をやり直す。ロックは一度解除したが再びロックをしたり爆弾を起動させることもできる。


キル「これで近くにいる職員最低一人は始末できるな。たかが奴隷二人減るだけで損害は大したことはない。」


 キルは悪魔にも等しい手段をとった。職員に連れて行かれた奴隷二人の爆弾を起爆させたのだ。爆弾は能力で防がれないようにするためと近くにいる他の逃亡者を始末できるように広範囲で強力に作られている。


キル「ふはははは!これで厄介な能力者の職員は死んだ!人間というものは平民だろうと奴隷だろうと能力を使わなければもろくあっけないな。案外あの二人は役に立ったな!」


 高らかに笑うキル。後悔や罪悪感なんて微塵もない。約束なんて全く気にせず同じ奴隷の仲間であろうと平気で殺す。だが、他の奴隷たちは誰一人としてこのことを知る者は今はいなかった。



 爆弾の爆発音で異変に気が付いたジークは職員たちに急いで連絡を取った。


ジーク(何の音かは分らない。だが、ただ事でないことは確かだ。)

ジーク『みんな、無事か?』


 通信機で職員の無事を確かめようとするが二人返事がない。異変を感じ、横で能力を使っていたアイルが驚きながらジークの言葉に返すように言った。


アイル「三人の気配が消えた……。奴隷を捕獲して運び始めはあったのに。」

ジーク「何!?死んだということなのか!?」

アイル「三人は近くにいたはず。なのに気配が消えた。一人は生きているみたいだけど分らない、何がどうなっているのか。」

ジーク「さっきの音がもし爆発の音だとしたら奴隷の爆弾を起爆させたということになる。」

アイル「奴隷の二人は寝ている状態だから起爆はできないはずです。」

ジーク「いいや、もう一人いるだろう。管理室にいる奴隷なら爆弾を起爆できる。とりあえず私は音がしたところへ行く。アイルはここで待っていろ。」


 アイルは少し不服に思いながらうなずいた。ジークは通信機を持って職員室を出て走る。職員の無事を思いながら。


ジーク(アイルは一人は生きていると言っていた。でも爆弾の爆発をくらえばただじゃすまない。頼む!間に合ってくれ!!)


 その場にたどり着いたジークは言葉を失った。そこには死体と呼べるか分らないものが二体あった。肉片と思われるものが周りに散らばっていた。かろうじで半身が残っていた職員と思われる死体もあった。ジークはその光景を見て吐き気がするほどだった。


ジーク「こんなの人の死に方じゃない!私の所為なのか?奴隷を殺さず捕獲することにこだわったから?もう誰も死なさないという考えが甘かったのか?私は一体……どうすればよかった?」


 ジークが後悔しているとかすかに声が聞こえた。重症を負いながら一人の職員は生きていたのだ。ジークは急いで駆け寄る。


ジーク「よかった!お前だけでも無事で。急いで救急車を!」


 ジークは携帯電話を取り出そうとする。だが、それを職員は拒むかのようにジークの手を遮る。


職員 「止めてください。もう俺は持たないです……。」

ジーク「馬鹿なこというな!まだ助かる!」

職員 「死体が近くにあるこの状況じゃ事故にはならない。」

ジーク「何を言っている?」


 職員は力を振り絞りながら続ける。


職員 「奴隷に職員が殺されたことが分かると世間にこのことが広まる。そうなれば世界中の奴隷たちが反旗を翻す。そうなったらこの世界は秩序が、平和が崩壊するかもしれない。俺にも家族がいる。それだけは絶対に避けなければならない。管理長、あなたの決断はまちがってはいない。奴隷の脱走は必ずあなたが食い止めてください!全てが終わったら俺たちの死体は焼いて始末してください。」

ジーク「分かった。お前の思い確かに受け取った!」

職員 「ありがとう、あなたが上司でよかっ……。」


 職員の言葉が途切れ息を引き取った。ジークは涙をこらえながら立ち上がった。


ジーク(お前たちの仇は私がとる!管理長として、一人の人間としても絶対に負けられない!)

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