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能力社会  作者: コイナス?
1章 憎しみの世界
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1話 始まりの日

(プロローグ)

 そこは地獄のような場所だった。ほとんどの建物は壊れ、多くの死体が転がっていた。かろうじで残っていた建物も炎に包まれていた。かつて、それは都市だった場所。だが、そんな面影は全くなかった。


 そんな中、たった一人地獄を歩く幼い少女がいた。その少女以外に生きている人はいない。たった一人の少女はこの地獄を見つめながら笑った。その笑いはどこか悲しさを感じさせるようなものだった。多くの死体の一つに少女と同じ年くらいの少年の死体があった……。



(1話 始まりの日)

 建物中に朝のアラームが鳴り響いた。まだ朝4時だ。一斉にいくつもの牢屋のような鍵のかかった部屋に入っている奴隷たちは起きた。奴隷たちは百人以上いた。その中の一人、黒髪の少年はほかの奴隷たちより早く起きていた。少年の名は、キル・コープス。だが本名ではない。同室の奴隷シンプル・ワークがキルに話しかけた。


シンプル「早いな、キル。ぎりぎりまで寝とかないと仕事できないぞ。」

キル「また、あの夢を見ていて起きた。」

シンプル「いつも見ている、死体が転がっている夢か?」

キル「ああ、その大嫌いな地獄のような夢だ。」

シンプル「死体の相手ばっかりの仕事やっているからなぁ。まあ、仕方ないか。この世界で俺たち奴隷は奴らにとってただの道具で仕事するしかないからな。外の世界にいけば少しは変わるのかな?」


 キルの仕事は使い終わった奴隷の死体の片づけだ。それゆえに奴隷仲間からキル・コープス「死体を殺す」と呼ばれている。ほかの奴隷たちも仕事内容によって呼び名が決まる。この世界では、奴隷は人として扱われず当然、人権なんてない。

 この建物はその奴隷たち商品を保存する「奴隷倉庫」。倉庫といって建物の構造は刑務所に近い。売られて外の世界にいくまではこの奴隷倉庫で生活しなければならない。奴隷によって仕事は異なるが、生活している間は重労働をさせられる。二人が話している内に見回りが来た。


見回り「売れ残りの奴隷ども、さっさと起きろ。」


 そして、奴隷一人一人牢屋のような部屋から出され、仕事場に行く。仕事内容は一人一人異なるため、仕事場も異なる。シンプル・ワークも仕事場に行こうとしたとき、


見回り「おい、シンプル今日はこっちだ。」

シンプル「わかりました。」


 シンプルは少し疑問に思いながら見回りに付いて行く。奴隷の仕事内容の変更はよほどのことがないとない。キルは少し心配そうにシンプルを見た。だが、すぐにキルは自分の仕事場に向かった。


 キルの仕事場は外の焼却場。使い終わった奴隷、すなわち死体がそこに山ずみになってあった。キルはその死体を焼却しなければならない。その作業を行うのはキル一人だ。


 一見この奴隷倉庫から脱走できそうな気もするが、建物の周りには壁があり、決められた時間でしか出入りできないようになっている。奴隷が奴隷倉庫から出られるのは、買い取り手が見つかり外の世界で奴隷という名の商品として売られるときである。


キル「今日は十人か。少ないほうだな。」


 ここにかつていた奴隷や他の奴隷倉庫から来た者など様々だ。年もの差も大きい。キルは死体一つ一つを焼却炉に入れる。


 キル「こんな作業もこれで何度目かな。」


 そして、焼却炉から骨を取り出し箱に集める。それとは別に、その中から十本の骨取り出して焼却炉の裏に集める。いままでの骨と思われる骨もそこにあった。それらの骨の先は尖っていた。いや、キルによって尖らされていた。

 キルの全ての仕事が終わったのは、午後十一時頃だった。他の奴隷たちの仕事が終わり、各自の部屋に戻っていった。キルも自分の部屋に戻っていった。部屋には先にシンプルが戻っていた。キルが部屋に戻った後、見回りから質素な食べ物が奴隷たちに配られる。二人は食べながら話始める。


キル「今日は仕事内容いつもと違う仕事だったのか?」

シンプル「仕事というか、雇われ先が決まったから雇い主の説明だな。」

キル「説明なんてあるのか?」

シンプル「普通はないが、今回は雇い主が特殊で六歳の子供だからな。」


 この世界は、全ての人が何かしらの超能力通称「能力」を持っている。その能力の優劣によって身分が決まる。キルたちは奴隷だが、奴隷の他に平民と貴族という身分ある。当然、平民と貴族は奴隷より位は上だ。その能力の優劣の審査は七歳になった時に行われる。


キル「六歳だと実質そいつの保護者が雇い主か。」

シンプル「いや、保護者ではなくその子供本人が購入するそうだ。その子供は確定貴族だそうだ。」

キル「確定貴族とは珍しいな。」


 確定貴族とは、審査を受ける以前から貴族クラスの能力を持っており、貴族になることが確定している者のこと。貴族と同じ特権を持っている。


シンプル「明日の朝にはここを出る。今日でお別れだな、キル。」

キル「シンプル、お前には世話になったな。初めて出会ったのは、身分制度が始まって奴隷としてここに連れてこられたときだったな。」


 シンプルとキルは懐かしそうに話す。


シンプル「十年くらい前だな。」

キル「俺は、身分制度が始まる前の記憶がない。あの時は七歳だったしな。憶えている記憶は、ここに連れてこられたときからの記憶だな。」

シンプル「その時、俺は十歳だったな。十歳で奴隷になってここに連れてこられたが、外の世界についてはある程度知っていた。」

キル「俺は外の世界のことをほとんど知らなかった。でも、お前が外の世界を教えてくれた。そのおかげで俺は知ることができた。奴隷だからかなわないかもしれないけど、幸せに生きる夢が持てた。他の奴隷から仲間殺しとして忌み嫌われたり、嫌がらせされたときは俺を助けてくれた。」

シンプル「たいしたことはしてない。ただ、話相手が欲しかっただけさ。」


 シンプルは少し照れくさそうに言う。話している間にシンプルは食べ終えていた。そんなシンプルを見て、キルはまだ半分近く残っていた食事をシンプルにあげようとした。


キル「食べかけだが、あげる。今まで世話になったお礼だ。こんな物じゃ礼にならないかもしれないが。」

シンプル「いいのか? キルは明日も仕事だろ。」

キル「かまわないさ。いつの日か奴隷制度がなくなって、自由になったら今度はまともなお礼をさせてもらうからな。」

シンプル「ありがとうな、こんな物でももらえることは俺たち奴隷にとっては幸せだからな。十年間世話になったな。」

キル「こちらこそ世話になった。」


 キルは涙が出るのをシンプルに見えないように手で顔を隠しながら言った。シンプルはキルから貰った食事をありがたそうに食べた。シンプルが食べ終わり、二人はぼろい毛布を体にかけて睡眠をとろうとしたが、これからのことを考えていたシンプルは寝付けなかった。


シンプル(ここを出るといっても奴隷であることには変わらない。外の世界では奴隷でも雇い主に気に入られれば幸せになることもできる。結局は運だな。優れた能力があればいいが、俺の能力なんて手作業が10分だけ高速でできるだけで役に立たない。だが、キルは昔から能力が使えないといってたな。)


シンプル(もしかしたら、キルは自分じゃ気づいていない優れた能力を持っているかもしれない。キルが優れた能力を持っていたら、この奴隷が奴隷として生きるしかない世界を変えてくれるかもしれない。)


 シンプルはただの妄想だとわかっていても、キルに期待していた。


シンプル(俺にとって明日は運命が決まる時だな。キル、お互い生きていたら今度は外の世界で会おうな。) 



 朝四時、奴隷たちが起きる時刻になった。いつもの通りアラームが鳴り響く。キルとシンプルは、ほぼ同時に起きた。そして、見回りによって部屋の鍵が解かれキルはいつもの仕事場、シンプルは別の見回りに連れていかれる。


シンプル「これでお別れだな、キル。」

キル「ここを出ても元気でな、シンプル。」


 キルは少し寂しそうにシンプルを見送った。



 シンプルがここ奴隷倉庫を出て三日たった。キルはいつも通り見回りに連れられ仕事場にいく。外の焼却場だ。そこにはいつもと同じく奴隷の死体があった。いや、そこには一体傷だらけの死体があった。


キル(いつもは傷がついた死体などないのだが。珍しいな。)


 キルはその死体を燃やすため運ぼうとした時、死体の顔がはっきりと見えた。それはキルがよく知る者の顔だった。


キル「おい、何かの間違いだろ……。」


 キルは驚きを隠せなかった。シンプルが死体となっていたのだから。それも傷だらけで。 


キル「何でお前がここにこんな姿でいるんだぁぁ!!」


 キルは叫ぶ。キルには理解いや、納得ができなかった。何かのまちがいだと思いたかった。キルは、外の世界に出るということはかならずしも安全ではないことは知っていた。今までここにきた奴隷の死体がその証拠だった。だが、シンプルだけは死なないと考えていた。いや、そう思いたかった。彼だけは例外だと何の根拠もないが、絶対に死なないと。

 だが、現実は非情だ。そこにあるのは、まちがいなくシンプルだった。


キル「許さない! ここの職員も、平民、貴族、俺たちを利用してきた者たち全てを。全員、殺してやる!」


 まるで自分自身にそう言い聞かせるように言った。キルはシンプルの遺体を焼却炉の中にやさしく入れた。


キル「お前の死は、何の意味も持たないものかもしれない。でも、俺はお前が死を無駄にしたくない。シンプルお前だけじゃない、俺が今まで葬ってきた奴隷たちの死も。そのために、それと自分自身のために俺は決めるよ。戦うことを。」


 キルは他の死体も燃やした。その後、いつものように焼却炉から骨を取り出した。そして、以前から用意してあった先の尖った骨数本を服の中に隠した。


 仕事の終了時間になり、部屋に連れ戻すため見回りがきた。


見回り「早く来い、奴隷。」

キル「わかりました。」


 見回りが背を向けたその時だった。キルは隠し持っていた骨を出し、見回りの背中に刺した。それに気づき見回りは後ろにいるキルを見ようとした。


見回り「何のつもりだ! 奴隷ごときが俺たちに逆らうのか!」


 見回りは怒りを露わにしていた。とっさに見回りは内ポケットに入れてある銃を取り出そうとした。だが、キルはそんなこと気にする様子もなく、

 

キル「逆らう? それだけで終わるものか。お前らを皆殺しにするんだよ!!」


 キルは続けて別の骨で見回りの首に付き刺した。その衝撃で、見回りが手にしようとした銃が落ちた。


キル「さっさと死んで、朽ち果てろ! クズの平民が!!」


見回りはうつ伏せになって倒れた。首に刺されたときにはすでに死んでいた。


キル「さっさと死んでくれて助かったぞ。能力使われたらこちらの終わりだからな。」

キル(こいつはすぐ使える能力ではなかったみたいだな。しかし、いつ他の奴らが気づくか分らない。首に付けられた爆弾の解除をしなければ、こいつを殺したことが分かると、爆弾で俺が死ぬしな。問題は爆弾の管理をしている管理室の職員をどうやって始末するかだな。)


 奴隷たちには、反乱防止のために首輪型の爆弾がついている。リアルタイムで奴隷たちの居場所が確認できるようにもなっている。爆弾の管理や奴隷の部屋の鍵などは2階にある管理室と呼ばれるところ管理されている。


 キルは見回りの死体から何か使えるものがないか探す。見回りから拳銃と職員の証明書を取り出す。キルは取り出した拳銃を一発試し撃ちする。


キル(反動がすごいが、これは切り札となるな。この時間帯は管理室までの道のりには他の見回りはいないはずだ。今のうちに管理室を奪うか。)


 キルは見回りの死体を引きずり管理室の前まで来る。管理室の電子ロックを職員の証明書で解除し、扉が開かれる。その開かれた扉の前に管理室から見えるように見回りの死体を倒す。キルは管理室からは見えないように扉の横の壁に隠れる。


キル(俺がまだ生きているということは見回りが死んだことは奴らはまだ分かっていない。おそらく、管理室にいる職員は倒れた見回りを心配し、駆け寄るはずだ。そこを狙って撃てば能力を使う間もなく殺せる。この作戦は管理室にいる職員が一人という場合のみ有効だが、この時間に二人も人員を割くほどの無駄はしてないはずだ。)

キル(チャンスは一度きり。失敗は許されない。)


 キルは管理室にいる職員が見回りに駆け寄る瞬間を待った。だが、足音一つ聞こえない。


キル(何故だ、何故来ない? まさか誰もいないのか。いや、そんなはずはない。)


 キルには状況が理解出来ていなかった、その時だった。


「お前がそこにいるのは分かっているぞ。奴隷のキル・コープス。」


 それは女性の声だった。キルは沈黙を続けるが内心焦っていた。


キル(馬鹿な!? 何故わかった? まさか、俺の行動がばれていたのか。いくら奴隷たちの居場所が把握できるといっても24時間把握しているわけではないはず。)


「何故分かったか、教えてやろう。お前が殺したアルソ・ケイリーがテレパシーの能力を使って教えてくれた。」


キル(あの見回り、余計なことを!)


クリス「隠れてないで出てこい、キル。私の名は、クリスティーナ・マーティン。」


 彼女はキルと同じくらいの年で、髪は青色。身分は平民。


クリス「私は仲間のアルソを殺したお前が憎い。でも、復讐は何も生まない。だから、一騎打ちをお前に申し込む。私が勝てば、お前は私の奴隷とする。お前が勝てば私はお前の奴隷になってやろう。」


クリス(これは私なりのけじめ。この一騎打ちに勝ち、アルソの仇をとる。)


キル「いいだろう。その一騎打ち受けて立とう!」


 キルは隠れることをやめ、管理室に入りクリスの前に立った。クリスは能力を使って2本の剣を作りだした。その1本をキルの近くにくるように投げた。


クリス「その剣を使え。それは人を斬るほどのものではない。どちらかが降参するか剣を手放すまで続ける。いいな?」


 キルは投げられた剣をとり、


キル「ああ、かまわない。」

クリス「それでは、い」


 クリスが言葉を発している最中だった。三回の銃声とともにクリスの体には三発の銃弾が撃ち込まれていた。驚くクリスの視線の先には銃を構えていたキルがいた。キルが拳銃を撃ったのだ。クリスは痛みに耐えきれずその場で倒れる。だが意識はあった。


クリス「卑怯もの!! お前には誇りがないのか!」

キル「俺がまともな一騎打ちなんてするわけないだろう? 誇りなんて初めから俺にはない。それに自分に有利なもので勝敗を決めようだなんてそれこそ卑怯だろ。それで公平なつもりか? 笑わせる。」

クリス「私はお前を絶対に許さない! 約束を破り、人を殺したお前だけは! この人殺し!!」

キル「人殺しで何が悪い!? 俺は人を殺すことに何の抵抗もない。だから、お前も殺せる。」


 キルは先の尖った骨でクリスにとどめをさした。


キル「意外とあっけないものだな。だが、他にも職員がいる。まあ、二人始末したし後もやれるだろう。」


 キルには戦いはがまだ続くことは分かっていた。


キル(今日から始まる。俺の戦いが。戦ってこのふざけた世界を、奴隷制度を破壊する! どんな手段を使っても!!)

 

 俺が生きるために!!

ご覧いただきありがとうございます。

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