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カフェオレ

深いグリーンのマグカップにさっき煎れたばかりのコーヒーが注がれ差し出される。

私がいつも使っていたやつだ。

洋子さんも愛用のカップを手に私の向かいに座る。

12月31日、午後11時45分。

正月休みを実家で過ごすため東京から5時間かけて田舎の家に着いたのは昨日の事だった。

 

今日は洋子さんの誕生日だった。

贈り物なんて幼稚園の母の日以来した事がなかったが、今年は私も社会人一年目なので彼女の好きなコーヒーと欲しがっていたピアスを選んだ。

私はコーヒーの事はよく分からない上に味にも疎いので、インスタントと豆から煎ったものの違いも分からない程だったが、この香ばしく深い香りの中にいると落ち着いた気分になれるので、仕事の合間に近くのコーヒーショップに通う様になっていた。

洋子さんの注れたブラックを一口飲んでみる。

 

…苦い。

やはりこの味わいはまだ私には分からないらしい。

傍らにあったミルクと角砂糖を二つ入れる。

特に会話もなく、長い沈黙の中で私はストーブに足をかざしてコーヒーをすすった。洋子さんがテレビのスイッチを入れる。

ちょうど年越し番組をやっている所だった。

こちらとは対称的に賑やかに騒ぐ人達を二人でぼうっと眺めた。

洋子さんと二人だけで年を越すのはこれが初めてだ。 

これまでなら年越しだろうと何だろうと一人でさっさと寝てしまっていたのに。

この人がこんな遅い時間まで起きている事自体珍しいのだ。


父が家を出ていってからもう何年になるだろう。

私も妹も都会で一人暮らしをはじめて、この広い家に一人きりになってしまった洋子さんは最近、ラジオやテレビをつける事が増えたと言う。

うるさいのを嫌った彼女が、だ。

窓辺を見るとクリスマスのサンタクロースやトナカイなどの細々とした人形がそのままに並べてあった。

家に帰った時はまず、玄関まわりが派手に飾り付けられているのを見て私は驚いてしまった。

洋子さんはこれまで寂しさを口にした事はただの一度もなかったが、やはりこの年での一人の生活は少なからず寂しいものがあるのだろう。

彼女の少し強情っぱりな性格がそうさせているのだとしたら余計に切ない。

甘くなったコーヒーが胸にしみる。

アイドル達のお祭り騒ぎにつられ笑い声をあげていた洋子さんだったが、ふと静かになったので見てみるとカップを手にしたまま目をつぶっている。

もう眠ってしまったのかもしれない。

 

「今年もお疲れ様」

 

私は心の中でつぶやく。ところで、いくつになったんだっけ?

テレビの向こうでは2007年を迎えるカウントダウンが始まろうとしていた。

まもなく午前0時、もうすぐ新年がやってくる。

 

[完]

 



読んでくださってありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 温かい雰囲気で、読んでいてホッとできる話でした。欲を言えば、カフェオレの情景描写が巧く活かしきれてない様にも感じました。書き手の鋭い感性を感じたので、これからも期待しています。
[一言] ゆったりと気軽に読める作品でしたね。 評価はしようがないというか、評価の対象外ですが、この静かな語りと洋子さんの話がなんだか好きです。 年末を彼女のように過ごすのもアリですね。
[一言] ほのぼのとしていて、良いなぁと思いました。随筆ととらえると、洋子さんと年の移り変わりが対比的に描写されていて、面白かったです。
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