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05.公爵令嬢ディアナの考察



〈公爵令嬢ディアナ視点〉



「少し一人で考えたいの。人払いをお願いできるかしら」


 そう告げると、メイドたちは快く了承してくれた。今朝、父から告げられた内容を知っている彼女たちは、私を気遣ってくれたのだろう。


 昨夜のパーティーの片付けに多くの者が駆り出されていることもあり、普段は誰かの気配が絶えない賑やかな屋敷も、私の部屋の周辺だけは途端に静まり返った。




 私は自室の机に向かい、紙とペンを取り出した。読んでいた小説の主人公たちは、忘れないうちに前世の知識をメモに残すのが常だったから。


「といっても、ここが何の物語の世界なのか、全然思い出せないのよね……」


 前世の私は日本の女子高校生で、異世界転生ものの物語を読み漁っていた記憶はある。けれど、ディアナという名の公爵令嬢が登場する話は、どれだけ記憶の箱をひっくり返しても心当たりが一つもなかった。


 誰もいないのをいい幸いに、公爵令嬢にあるまじき所作で、机に肘をついて頬杖をついた。


「お父さまのお名前も、第二王子の名前も見覚えがないわ。……アクアリム王国? 国名なんてあらすじで見かけても読み流しちゃうから、覚えてるはずないし。……でも、この展開、すごく身に覚えがあるのよね」


 トントン、と真っ白な紙を指先で叩く。自然と、重いため息が零れた。



 私がまだ読んでいない新作小説の世界なのかもしれない。そう仮定して、今世のディアナが持っている知識をひとまず整理することにした。


「ここはアクアリム王国。私はこの国でもトップクラスの権力を持つ、テトラ公爵家の令嬢。日本のような科学技術はないけれど、生活魔法のおかげで、案外不自由ない暮らしができている、といったところね」


 スラスラと綴られるのは、この国の言語だ。

 日本語で記そうと試みたが、いざペンを動かそうとすると頭に(もや)がかかったようになり、指先が動かない。どうやら意識して翻訳しない限り、私の脳が日本語を拒絶するらしい。


 人気の小説の中には、現代の知識を活かした画期的な手法で文明水準を底上げするような物語もあった。この世界でも、私の前世の知識を組み合わせれば、もっと便利にできるかもしれない。


「日本との違いを書き出して、何か取り入れられるものがないか探してみるのはいいかも」


 八歳のディアナは、既に貴族としての教育を受け始めている。


 けれど、その中身はマナーや立ち振る舞いが中心で、世間一般の知識はまだまだ乏しい。特に庶民がどのような生活を送っているのかは、本や使用人の話から推測するしかなかった。




「第二王子もそうだけど、いわゆる『攻略対象』がどのくらいいるのかも把握しておきたいわね……」


 このとき、私がイメージしたのは、乙女ゲームの世界の悪役令嬢に転生する物語だ。ヒロインが次々と学園の有力貴族たちを虜にし、その婚約者の令嬢を陥れようとする。そんな逆境(ぎゃっきょう)を跳ね除け、見事に新しい幸せを掴み取るストーリー。


 だからこそ、そこには当然、物語を彩るヒロインや名門の令息たちが存在しているはずだ。


「悪役令嬢の兄が攻略対象になっているパターンもよくあるけど……オーガストお兄さまは、学園に通う時期も被らないし、大丈夫かしら」



 定番なのは、宰相の息子である知的な眼鏡キャラや、騎士団長の息子である体育会系の熱血タイプ。


「なかでも王道なのは、第二王子が傲慢な俺様キャラで、周囲を見下しているタイプよね」


 もしそんな男が目の前に現れたら、いよいよここは物語の世界だと断定してしまってもいいはずだ。



 ――間違いないわ、十中八九そうに決まってる。

 だってそれがこの世界の『お約束』だもの。




 この国では基本的に、子供が学園に入学するまでの社交は限定的だ。誕生パーティーなどで親戚や一部の貴族の子どもたちと挨拶を交わす程度。


 そのため、同年代の子どもがどの家にどんな人物として存在しているのか、ほとんど把握できていなかった。


「とはいえ、今のうちから情報収集できることはあるわよね……これは要確認っと」


 通常、婚約が調(ととの)い顔合わせを済ませた後は、手紙での交流が主となる。直接会う機会はそう多くないのが一般的だ。


 しかし私の場合、事情が特殊だった。王族教育のために王宮へ通うので、否応なしに第二王子と顔を合わせる機会が増えることになる。



 第二王子との正式な顔合わせまで、あと二年。




「まだ、時間はたっぷりあるわ」


 幸いなことに、前世から勉強は嫌いではない。


 活字を追うのは大好きだったし、女子高生時代には歴史書や外国語の本にも趣味で目を通していた。この世界の未知なる書物に触れられると思うと、楽しみで仕方がない。


「処刑、追放、一家離散……そんなバッドエンド、絶対にごめんだわ。知識をたくさん身につけて……できることを模索(もさく)する。これに尽きるわね!」



 憧れていた物語の世界。その主役の一人になったことに少しだけ浮き足立ちながらも、真っ白な紙に、私はこの国の言葉で力強く書き記した。


 『打倒、断罪フラグ! 目指せ、円満な婚約破棄!』




ついに訪れた、運命の顔合わせ。


同じ場所、同じ会話。なのに、どうしてこうなった!?

完璧令嬢による、容赦なき「愚かな攻略対象(仮)」への格付けチェック。


次回、「第二王子、第一印象は最悪です」。

噛み合わない二人の、悲劇(喜劇)の幕が上がる!

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