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09.第二王子アレクシスの成長



〈第二王子アレクシス視点〉



 辺境の地に降り立った翌日。


 早朝、騎士たちの威勢のいい掛け声で目が覚めた。カーテンを開けて窓の外を覗くと、中庭でカイルがぶんぶんと腕を振ってこちらを見上げている。



「殿下! 朝の訓練の時間です! 殿下も参加されますよね?」

「……する」


 慣れないベッドで眠ったことも、ここが辺境であることも、一瞬で頭から消し飛んだ。


 道中、カイルに稽古を強いられたときと同じ、あまりに自然な誘い。気付けば俺は着替えを済ませ、中庭へと向かっていた。




 早朝から騎士と共に汗を流し、焼き立てのパンと新鮮な野菜、たっぷりのミルクで朝食を済ます。


 午前はリースと共に座学に励み、昼食後は村に出かけて農作業を手伝う日もあれば、街の露店を眺めたり、屋敷でダンスの練習に励むこともある。




 北の大地といえど、毎日外を走り回っていれば、あっという間に肌は日に焼けた。


 俺の自慢だった王族の象徴(しょうちょう)たる金髪と、野を駆ける者特有の小麦色の肌は、ひどく不釣り合いに見える。

 だが、誰が一番黒くなったかを競い合う男たちに混じるのは、それ以上に楽しく、辺境伯領の一員になれたような気がして、鏡の中の俺は、案外いい面構えをしていた。






 辺境の四季は目まぐるしく移り変わる。



 夏は、突き抜けるような青空と暴力的なまでの陽光の下、泥まみれで農作業を手伝った。


 刺すような日差しだが、風は乾いていて心地いい。汗を流した後に浴びる川の水の冷たさも、王都では知り得なかった感覚だ。

 街は夜遅くまで活気にあふれ、時折レオンが夜の市や湖へ連れ出してくれる日を、俺は子どものように心待ちにして過ごした。



 秋は、厳しい冬を越すための保存食(ほぞんしょく)作りや、盛大な収穫祭に追われた。


 俺も騎士たちと共に狩りへ同行し、獲物の捌き方を教わる。リースが細い腕で淡々と命を捌く横で、俺は情けなくも血の匂いに負けて、無様に嘔吐してしまった。

 誰も俺を笑わなかったが、それが余計に悔しくて、その日以来厨房に押しかけては料理人から小動物の扱いを教わった。



 やがて冬が来ると、辺境は深い雪に閉ざされ、朝の訓練は雪かきに変った。


 獣の心配はほとんどないが、領民に困りごとはないか見回りは欠かせない。そのために、雪の上を歩く専用の靴があることを知った。

 夜、暖炉の薪が()ぜる音を聞きながら、カイルやマルコたちと他愛もない話に興じる。王都よりもはるかに寒いはずなのに、俺の心はずっと温かいままだった。



 気付けばあっという間に雪解けの季節――春が訪れようとしていた。





 辺境での暮らしは、もはや俺にとっての「日常」となった。


 辺境に来たからといって、俺が突然、兄上のような天才に変わったわけではない。驚くような才能に目覚め、何かに秀でたわけでもない。


 けれど、俺は俺のままで、この地に根を張るように、着実に力を蓄えていった。






 そうして三年が経ち、俺が十三歳のとき、辺境伯家長男のマルコが学園へ入学するために王都へ発った。


 貴族の子女は十六歳から三年間、余程の事情がない限りは王都の学園で学ばなければならない。王国の一員としての作法を学び、人脈を作るためだ。


 マルコは時折、手紙で王都の様子を伝えてくれたが、ある時期からその内容のほとんどは共に通学する婚約者への接し方の相談が中心になった。すでに王都を離れて久しい俺に、あろうことか流行りのカフェを聞いてくることさえあった。



 兄上がその一年後に学園へ入学したはずだが、マルコの手紙に兄の名が登場することは一度もなかった。学年も異なるので、関わる機会もないのかもしれない。


 ――本当は、少しだけ様子が気にかかっていた。


 けれど、わざわざこちらから尋ねるのも躊躇(ためら)われ、俺は結局マルコへ、女性が好みそうな場所や母上が愛用していた宝飾店(ほうしょくてん)や美容品店のリストを書き送った。






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