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脱出劇

地下牢。

希ちゃんによると俺たちは無事に帰ることができないらしい。

「はい正解! このまま行けばお前たちは一週間でお陀仏だな」

男が姿を見せる。どうやら足音の正体は彼のよう。


「何だお前は? 俺たちを食う気か? 」

焦って余計なこと言う陸。たとえ抑えきれないにしても時と場合があるだろう。

なぜうんと答えられたらお終いのワードを選ぶ。今は普通じゃない。非常時だ。

こんな時は相手を怒らせてはいけない。冷静に冷静に。

褒めて煽てて友好関係を深めてどうにか許してもらうしかない。

だがもう遅いかもしれない。

奴らの狙いが初めから囚人の処刑ならただ無駄なことをしてることになる。


「ははは! 威勢がいいなお前たち? 

それだけ元気ならわざわざ助けに来なくてもよかったか? 」

何とこの男は救世主だったらしい。俺たちを哀れんだ神が遣いし者。

「誰でもいいから助けてよ! 」

アイミは限界を超え泣き出した。


「アイミ…… 頑張れ! 」

「おい騒ぐなって! さすがにこれでは脱出できないぞ」

救世主は意思を示した。

どうやら本気で脱出させてくれるらしい。


「あなたはまさか? 」

「俺のことはどうでもいいから早く脱出するぞ! 」

そう言って手際よく鍵を開ける。


ガチャ!

擦れる音が響き渡り驚くが大丈夫。ここには俺たち以外いない。

地下牢の鍵はテーブルの上に無造作に置かれていた。

本来なら怠るはずはないが外出の際に落としたり盗まれたりすることもあるので。

所定のところに置いてあるのだろう。


「おいお前も! 関心してないで早く来い! 」

アイミと希ちゃんを先に行かせると勝手に陸が。いつの間にか取り残されていた。

さあ俺で最後だ。もう男を信じてついて行くしかない。

彼が異丹治の仲間なら俺たちはまだ安全とは言えない。

ただその場合は脱出させて泳がせ宝の在り処を探る算段だろう。

警戒は怠らないに越したことはない。

もし本当の救世主でも能力が低ければ脱出に失敗し元に戻されることになる。

果たしてこの救世主である協力者は我々を導くのだろうか?

不安は尽きない。ただ人を信用できなくなったら終わり。

とりあえず男の指示通りに動くとしよう。


こうしてついに地下牢を脱出。

男に続いて陸がその後ろをアイミと希ちゃんが追い駆け遅れて俺が。


「なあ上に行ったら捕まらないか? 」

陸は意外にも冷静だ。

「大丈夫。皆何も知らされてないただの使用人だ。

悪さをしてるのは主人の異丹治と世話係の二人だけ。

しかも地下牢の存在は知らされてない。

誰も近づかせてないから怪しいとは話していたが。

誰も異丹治に逆らえない。彼はこの集落では絶対的地位にあるのだから」


「よし一人ずつこの帽子とつなぎを着て歩いて行け!

俯きつつ怪しまれないように。挨拶は忘れるな! 」

男の指示に従いまずは陸が。

「へへへ…… 疲れたぜ」

余計な一言を忘れない。

「ああご苦労様です」

続けて希ちゃんがいつも通り無口に存在感を消して歩いて行く。

誰も話しかけられることなく通り抜けた。


「順調のようだな。よしお前たちは二人でだ。彼女を台車に乗せて通過しろ! 」

どうやら人数が合わないそうだ。だから一人は台車で。

これは念のために男が用意したもの。


ガラガラ

ガラガラ

大きな音を館内に響かせて台車を押していく。

急がずモタモタもせずに通り抜ける。自然に振る舞う。

「あらそれは? 」

「はい。大切な道具でして…… 」

「それは大事にしなければね」

おばさんが笑って通してくれた。

そう悪事が露呈しないように使用人たちには最小限の情報しか与えられてない。

そのおかげで多少怪しまれても通り抜けることができる。

要するにここにいる者はほぼ素人。集落出身の疑うことを知らない良い人たち。


脱出成功!

これで俺たちは抜け出せたがこの後どうする?

とりあえず外に脱出。救世主の帰還を待つ。


「ちょっと! 」

大騒ぎで館内を混乱させた隙に突破しようとする男。

もはや強行突破だ。

さすがに行きと帰りで人数も見た目も違えば怪しまれて当然。

ちょっとした勘違いでは済まないよな。

どうせ異丹治のことだからこの屋敷に金目の物を隠してるの違いない。

それを守るのも彼らの役目。だとすれば目をつけられると当然厄介なことになる。


「うお! すげー! 」

派手な逃走劇に興奮して声を上げてしまう陸。

おっとはしゃぎ過ぎてはまた捕まってしまうぞ。

ここはゆっくり静かに男を待つとしよう。

「うおおお! すげえなあいつ? 」

「うるさいわね! そこで大人しくしてなさいよ! 」

「仕方ないだろ? どうしてもはしゃぎたくなるんだから」

「もう本当にバカ! 」

「何だと! 」

ダメだ。男が戻って来るまで大人しく隠れようとしたが陸とアイミが騒ぎ始めた。


「希ちゃん…… 」

いつもの無口で大人しい希ちゃんに戻ってしまった。

仕方なく俺が宥める。

「でもよ…… 興奮しちまうんだよ」

「分かってるって。だが今は抑えていてくれ」

「うぐぐ…… 何をしやがる! 」

無理矢理手で口を塞ぐ。


本当はこんなことしたくなかった。

しかしこれ以上騒がれたら集落の者に見つかってしまう。

全員が全員悪人とも思えないがここを取り仕切る異丹治の命には従うしかない。

怪しい者がうろついてれば警戒もするし集団で襲い掛かることもあり得る。


               続く

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