ハッタリ
チュウシンコウの謎に迫る者を排除しようとする異丹治。
そんな彼もチュウシンコウがどのようなものか分かっていない。
集落に伝わる秘宝との噂だけ。
とは言えここまで執着するのはきっと独り占めしようとしてるに違いない。
違いはないけれど…… これ以上怒らせては危険だ。
ここは学校でも都会でもない。まともに警察が動くようなところではない。
集落には集落の独自の自治がある。それを代表者が担う。
だから当然立派な人間が選出されるのだがその子や孫まではそうとは限らない。
逆に人間性に問題がある場合が多い。
集落が孤立すればするほどその傾向が見られる。
立派な人間がトップなら何の問題もない。
しかし異丹治のような奴が支配者になれば悲惨な未来となる。
「だったらまったく宝に興味がないとそう言うの? 」
希ちゃんまで参戦。一番理論的で冷静。
俺たちみたいに感情的にならずに交渉できる。
しかし仮にうまく行ってもこの男が信用できないなら意味がないが。
「ないな。当然守るためにそれなりの知識が必要で幼き頃から叩き込まれたもの」
異丹治は父異衛門から受け継いだのだろう。
ではその異衛門は誰から?
いつの間にか宝探しになってしまったがまさかミライと関係があるのか?
はっきり言って俺たち…… 特に俺には興味のないこと。
ミライの行方さえ分かればよく再会するのがこの旅の目的。
アイミはどうかしらないが陸と希ちゃんは納得してくれた。
財宝探しに興味があるはずないだろう?
「では本当にまったく興味がないと? 」
希ちゃんは相手の心を読むかのような真似。
相手に確実にプレッシャーを掛けられてはいるが逆効果になる恐れも。
上手ければ上手いほど俺たちに危機が及ぶことになる。
「ああこの宝は集落を守るためのものであって富むためのものではない」
もっともらしいことを言うが希ちゃんの鋭い視線を避けた。
これは嘘を見破られたくないと言う意識の表れ。
どんな人間でも嘘を吐くのは慣れないもの。
特にここで権力を得てる彼ならそんなことをする必要がなかっただろう。
「本当に本当ですね? 」
「ああ本当だ。だからお前たちを追い払おうと」
「それは変。追い払うなら昨日にでも遅くても朝にはできた。
なのにやらずに閉じ込めた」
希ちゃんが追及すればするほど俺たちの安全が脅かされる。
もういいよと言いたいがもう少しだけ様子を見ることに。
ただこの迷いが命取りになることも。
「どう思おうと関係ない。屁理屈ばかりこねやがって。大人の言うことを聞け!」
焦りから厳しくなる。これはもう追い込まれたな。
形勢はこちらにある。もう勝ったと言っていい。でもそれは対等な交渉な場合だ。
「残念…… 宝探ししてないなら教えなくていいよね? 」
アイミが揺さぶる。まるで知ってるような口ぶりだが…… そんなはずがない。
アイミのことだから知っていれば現場に行ってすぐにでも掘り返していただろう。
「何だと! 何か知ってるのかお前? 」
アイミはハッタリのつもりだろうが逆効果だと思わないのか?
「そうだよな。俺たちたぶん見つけちまったぞ。ははは…… 」
陸まで加わる。馬鹿なんだから。危険過ぎるだろうが。
どこまで挑発する気だよ? どうしたらいい?
何も喋らずに沈黙を保っていれば少なくて九月には出れたのに何てことを?
俺一人だけパニック状態。本来だと希ちゃんが冷静な判断してくれるはずなのに。
なぜか率先して挑発する。
「いいだろう。話してみろ」
異丹治が強制する。
「馬鹿じゃないの? 誰があなたに話す訳? 」
「そうだそうだ。俺たちはとんでもない情報を得てるんだからな」
アイミも陸も止まりそうにない。
「申し訳ない。彼らはただの悪ふざけ。宝に関する知識はないからご安心を」
どうにか釈明するがそれが逆効果だった。
「ほうこの俺様に知られるのがそんなに怖いのか? 」
「だから違う…… 」
「怖いはずないでしょう? あんたなんかより頭は回るんだから」
ハッタリもここまで来ると狂気に。
「もういいんだってお前たち。これ以上刺激するな! 怒らせてどうする? 」
「ははは…… ごまかそうとしてもそうは行かん!
具体的な話は帰って来てからゆっくりしてもらうからな」
異丹治は目を輝かせる。
「ちょっと最後に教えなさいよ! あなたは本当は財宝に興味があるんでしょう?
ひっそり探して独り占めしようとしてる。違うの? 」
背中に向けて訴えかけるアイミ。答えるはずがない……
「だからここの者のために動いてる。
よそ者を惹きつける財宝を急いで掘り起こすのも俺の立派な役割だ。
さあまた夜にでも話すとしようか」
そう言って振り返りもせずに行ってしまった。
しかし頑なな奴だ。財宝目当てなら協力しないこともないのに。
「お前たち! ご主人様に恥をかかせおって。昼飯は抜きだ! 反省しろ。
二度とこのようなことがないようにするんだな! 」
どうせ一日一食だろう? 知ってるんだから。
まずかったかな? 主人の異丹治だけでなく世話係まで怒らせてしまった。
話しかけても反応してくれずにすぐに姿を消した。
こうして俺たちは再び四人になる。
続く